2022年03月11日

【世界の食と農】まとめ~世界の農を巡る覇権争いは、これからどうなる?~

これまで11回にわたり、さまざまな国家の農と食を取り巻く可能性や課題を見てきました。今回の投稿では、ここから見えてきた世界の農を取りまく覇権争いについて考え、これからの時代にどうなっていくのか?を見ていきたいと思います。

『穀物生産量ランキングマップ』

【これまでの投稿】
アメリカ編: 大規模農業と、市民発の新しい萌芽(第1回)(第2回)(第3回
オランダ編: 世界トップレベルの生産力を実現(第4回)(第5回
ロシア編 : 自給自足の実現/脱GMOから新市場へ(第6回)(第7回)(第8回
中国編  : 量から質への転換/農業の機会か(第9回)(第10回
ブラジル編: 南米最大の農業大国が強い種子づくり(第11回

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2022年03月10日

『農業と政治』シリーズ 最終回:日本人のお上意識が農業を農協の意のままにしてきた

農業と政治シリーズは副軸として「農協って何」というテーマで追求していきました。農協から農業に関わる政治を見るという試みでしたが、農協とは共同組合というのは名ばかりで政治と極めて近い位置にあり、時には政治そのものにもなっていきます。つまり、農協の追求では政治(国家の意図)は見えないということで、最終回まで来ました。

最後は農協と対局の柳田國男の思想を参考にさせていただきました。結論は脱農協であり、必要なのは農業の繁栄、さらには後継者の育成にいかに繋がっているかです。最終回はシリーズをダイジェストしてみます。

 『農業と政治』シリーズ、はじめます~農協は、農業・農家・消費者に何をもたらしてきたのか
「農協」の祖:大原幽学(17971858年)
・その代表的なものが【先祖株(せんぞかぶ)組合】の結成。お互いに助け合い、生活を改善していくための村ぐるみの組織で、世界最初の協同組合となった。
組合員に農地の一部を提供してもらい組合の共有財産とし、組合員となった貧農にはその土地を耕作してもらい、そこから上がる利益を積み立て、そのお金を潰れ百姓の復興、組合の運営費、子孫のための積立などに充てていった。
また農業だけではなく日常生活の細部に至るまで規律をつくり、心を指導し村の復興に貢献した。

『農業と政治』シリーズ 第1回  江戸の小農制が良くも悪くも、その後の日本の農業を作った
農業には農家という言葉があるように農業を支えるのは各家族である。
この傾向が始まったのは江戸時代の小農政策にある。江戸時代の大量開墾の大号令で農業人口の拡大の必要性勤勉性を高めるために小農制度の徹底農業は家族単位に解体。度重なる自然災害貧困農家の多発江戸時代に救済の為の組合が発足。

『農業と政治』シリーズ 第2回~急激な近代化圧力を前に捻じれていく農協の原型
一般に農協の前身と言われる「産業組合」が設立された明治時代。当初の設立目的から大きな捻じれを生み出しながら規模を拡大させ、後の農協の原型を作っていくことになります。
しかしこの組織、実態としては地主や富裕階層農家を中心として発足しており、零細な農家は加入していない。農民を救おう、というお題目の下で、その実態は自らの資産を守ろうとする既得権益者たちのための組合だったのではないか、という疑問が残る。

「農業と政治」シリーズ 第3回 戦後の農協を作ったのはGHQではない 日本の政治家だった。
戦後はGHQによる農地改革がGHQの日本支配の3大骨格として教科書などでは記述されるが、他の2つはともかくとして農地改革はどうも事実としてGHQの明確な方針はなく実行部隊は日本人の中に居た。
戦後の農協を考える上でこの時に建てた「経済ベース」と「小作農保護」が基本となっていったのではないか。いずれにせよGHQの政策によって農協が誕生したという事実はなかったという事を固定しておきたい。

 

『農業と政治』シリーズ4:食文化支配という占領政策の下で衰退していく国内農業
戦後の農政改革は、本来であれば、江戸時代から引きずる日本農業の弱点(小農零細経営)を直視し、突破していく機会となり得たのではないか。しかし歴史的事実は、旧体制と、中身なき民主化を押しつけようとするGHQの圧力に屈し、志ある政策の実現は果たされなかった。
こうして、次代を担う、求心力ある農業集団は不在のまま、日本の農業はアメリカ占領政策の下で自ら望んで衰退の道を辿っていく(、そう仕向けられる)ことになります。
そして、このころから、我が国ではコメ消費量の減少が始まり、コメの生産過剰から水田の生産調整へとつながっていくことになる。これはまた、我が国の農業、農政が凋落する始まりでもあった。また食料自給率の低迷が始まるのも、この時期と一致している。

『農業と政治』シリーズ5:1955年から1970年までの農協の変遷
農協はこの時代に合併を繰り返し組織の大型化を成し、その力の基盤として政治力や経済力をつけ、圧力団体としての骨格を形成していく。同時に高度経済成長と足並みを揃え農民は地方から都市へと移動していき農業も地方も空洞化していく。1950年代には人口の3割居た農民はどんどん減少していく。しかし同時に、この時代農協はあらゆる力を備えていく。

最大の基盤は政治の票田である。また国土開発と歩を合わせ農地が宅地に道路に変わっていき、農協も農民も望外の金を得て裕福になっていく。金と権力を備えていった農協の基盤がこの時代に出来上がっていった。
この期間に、時代の空気以上に農業も農協も金に塗れていったように思う。

『農業と政治』シリーズ6:農協の「脱農業」化が、本気の農民たちを苦しめる
農協の「脱農業」化が本気の農民たちを苦しめる
大森農協は東京の農協の縮図である。他の地域ではもう少し農業が生き残ってはいる。しかし、いずれもその向かいつつあるところは大森農協型の「脱農業」農協である。すなわち、ごく一部の真面目に農業を継続している農民を除いては、大部分が事実上、農業を捨てて、地主業ないし不動産賃貸業に転じ、あるいは形ばかりの農業を続けながら、偽装農地のさらなる値上がりを待っているだけの偽装農民という構成になりつつある。そして、農協自体は金融機関に化していき、少数の正組合員とそれに数倍する準組合員という構成になっていく。

『農業と政治シリーズ』7回 農協は必要か否か?
農協の役割は本音では以下のようなことかもしれません。
「全農の役割は組織の維持、拡大、利益の追求にあり、会員数を維持、拡大するために専業農家だけでなく兼業農家含めて保護する役割を果たし、農業という道具を通じて国(=国民)から補助金という収入を得る主体になる」

『農業と政治』シリーズ8:柳田國男が見た日本の農業
柳田國男が志した農政改革は、現実の直視から始まっています。
「何故に農民は貧なりや」
(なぜ農民はこんなにも貧しくなってしまったのか)
彼は、自ら立てたこの問いに対する追求をもって、現在も続く国内農業衰退の本質にもつながる問題点をあぶりだし、時の権力者たちと論戦を繰り広げていきます。

『農業と政治』シリーズ9 農業が衰退するのになぜ農協は発展するのか
つまり、わが国の農協は欧米にも日本にも他に例をみない稀有な組織なのである。それだけではない。問題は、この組織が政治活動まで行っていることだ。欧米にも、農業の利益を代弁する政治団体はある。しかし、これらの団体自体が経済活動を行っているのではない。日本の農協は、政治団体であり、かつ経済活動を行っている。このような組織に政治活動を行わせれば、農業の利益というより、自らの経営活動の利益を実現しようとすることは容易に想像がつく。その手段として使われたのが高米価政策だった。

『農業と政治』シリーズ12:柳田國男の志をこれからの農政に活かす

・次代の農家を育てるための政策とは
1.価格・関税政策は廃止する。減反を廃止して、米価を下げれば、兼業農家は農地を貸し出す。主業農家に限定して直接支払いを行えば、地代負担能力が上がって、農地は主業農家に集積する。
2.今のJA農協から、農業部門を切り離し、地域協同組合とする。必要があれば、自主的に主業農家が農協を作ればよい。
3.フランスやドイツ並みのゾーニング制度を確立し、農地法は廃止する。ゾーニングの中では、農業以外の土地利用は禁止される。

★零細農家、兼業農家を排し、専任が農業を担う中農体制を作る。農協はJAから切り離し、必要に応じて地域共同体として自ら作れば良い。柳田がやりたかった農政はこれではないか?

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これらのシリーズを通じて日本は農業においてはほぼ政治という効力をつかっていない。
ある意味、縄文体質の日本らしいとも言えますが、かといって自らの生きる場を自ら作ろうという方向性に農業自体向かえていない。農協という組織があることでそれを奪っているとも言えますし、そもそも日本人にその大志を産み出す意識がないとも言えます。それが日本人特有の政治と自分たちの生きる場を切り離す悪しき「お上意識」です。

現在、他のシリーズで「世界の農」を見ていっていますが、既にロシアなど自国の食料は自ら守るという体制を構築している国があり、市場経済だけで農をしていない体制は多くあります。一方でオランダ始めとするヨーロッパ圏はスマート農法を推し進め、より市場にマッチした形で農業を勝てる産業として育てていっています。日本では農業=高齢化ですが、世界の農業の体制はむしろ若者が活躍している面が一般的です。

江戸時代の小農育成が日本の農の進む先を決めてしまったのですが、問題はむしろその後の国家(農協)と農業の関係にあります。小農、零細農を保護したため、農協は太り、金融機関に変化、一方で本気で農業をやろうとする人材のやる気を削ぎ、高齢化農に進んでいった。今必要なのは脱農協ですが、単に脱では先がない。つまりいかに農業を稼げる魅力ある仕事にしていけるか、そういう現実的な課題に正面から向き合う必要がでてきています。

次回のシリーズはそこを受け継いで「稼ぐ農」を具体的に追求していきたいと思います。

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2022年03月04日

【世界の食と農】第11回 ブラジル~サバンナ大開拓と強い種子に生き残りを掛けた南米最大の農業国~

今回は、南米の農業大国ブラジルについてみていきたいと思います。
日本から反対側にある南米の国。しかし1908年の笠戸丸移住にはじまる日本人労働者の大移住が有名なように、日本人にとって親しみのある国ですね。


■ブラジル農業の概観
コーヒー豆やタバコなど、嗜好品生産のイメージが強いブラジルですが、実は穀物自給率122%と、穀物生産も非常に盛んな国です。特に大豆の生産量は世界1位、トウモロコシも世界3位となっており、アメリカに並ぶ世界の穀物倉庫となっています。
また、広大な面積を誇り、多様な環境に合わせた農業を行っているのもブラジルの特徴。南米に多い1種生産(モノカルチャー)ではなく、穀物から果物、野菜まで幅広く生産しています。

世界有数の農作物の純輸出国であるブラジルですが、1970年代まで「農業には不向きな国」とされていました。純粋な輸入国であり、大豆の輸出量すら、”0”

そんなブラジルがなぜ、このような大発展を遂げたのでしょうか。


画像はこちらからお借りしました。

■「セラード」大開拓
ブラジルの農業発展に欠かせないのが1970年代にはじまった「セラード」の大開拓です。

セラードとは、ブラジルのサバンナ地帯を指す言葉です。(その広さはなんと日本国土の5.5倍!)セラードの赤い土壌は、強酸性で養分を溶脱し、植物にとって有害なアルミニウムの含有率が高いのが特徴です。そのため、『不毛な地』とされ、『農業はできない』と考えられてきました。

しかし、セラードは今やブラジルの穀物生産を支える大規模農業地帯へと変貌しています。

その皮切りになったのがセラードでも育つ、強い大豆種の開発です。
大豆は大気中の窒素を固定する根粒菌と共生するマメ科作物とされており、大豆を育てることで土壌も改良されていくというメリットがありました。
そのため大豆⇔トウモロコシといったように、他の穀物と輪作することで、一気に生産作物の種類も増えました。

古くから生産してきたゴムや、ポルトガル植民地時代から続くコーヒー豆など、単種生産であったブラジルが多種多様な農作物生産に成功した理由もここにあります。


画像はこちらからお借りしました。


■これからのブラジル農業

ここまでブラジルにおける農業の輝かしい大進化をみてきましたが、反面、いくつかの課題もあります。

まず先述した、セラードに適用するための「強い大豆」。これは所謂、遺伝子組換大豆です。
もともとブラジルは遺伝子組換技術に対し、環境面や健康面、小規模農家への影響から否定的な見解を示していました。
しかしモンサント社の生産コストが安い種子がアルゼンチンから密輸され、最大の対輸出国である中国の大豆需要の高まりも相まって、ついに2005年ブラジル政府は遺伝子組換作物の生産を全面的に合法化しました。

更に、中国の穀物需要に応えるセラードの大開拓と拡張は周囲の森林にまで及び、大豆生産による森林破壊、生態系破壊が指摘されています。

大国の需要や金貸しの思惑によって自国の法や環境を変えざるを得ないという状況は、かつての西洋による植民地化から、形を変えた緩やかな支配が続く状況と言えるかもしれません。

今、ブラジル企業の一部が立ち上がり、これ以上森林破壊をさせない、放牧地活用による新の仕組みづくりや生態系と調和した大豆育成法の研究など、持続的な農業のかたちを追求する例が増えています。(リンク リンク リンク

 

ブラジルが、自国独自の農のかたちを確立していくのは、これからなのかもしれません。

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2022年03月03日

『農業と政治』シリーズ12:柳田國男の志をこれからの農政に活かす

『農業と政治』シリーズ8:柳田國男が見た日本の農業
『農業と政治』シリーズ10:柳田國男が指摘する農業の問題構造

 

明治時代、彼が志した農政改革の中心にあり続けた思考は、「真に支援すべき対象は誰か」ということ。

それは、現在深刻な後継者不足に陥っている日本農業の再生を考える上で大変示唆に富んだものです。

彼の志を汲み取った、これから求められる農政とは。

今回のブログは、次代の農業政策にも踏み込んだ内容でお届けしたいと思います。

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2022年02月25日

【世界の食と農】第10回 中国~市場原理に飲まれる農業、その矛先は「日本」。~

前回の投稿では、中国の農業の実態について押さえていきました。

【世界の食と農】第9回 中国~「量から質へ」舵を切った、農業大国~

国民の20%以上(3億)もの農家が占めているにもかかわらず、その多くが零細な産業に陥ってしまっている中国。そして、これを何とか解決しようと、農家を組織化して、規模拡大によって「量から質へ」の転換を図っていこうとしている試行錯誤について見てきました。

画像は、こちらからお借りしました。

しかし現実的には、改善の見通しが立たない中国が、次の策として進めているのが『企業の農業参入』です。
今回は、この可能性について見ていきたいと思います。

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2022年02月25日

食糧問題シリーズ10(最終回):「自分たちの生きる場は、自分たちで作る」からこそ農業に活力が生まれる

食糧問題シリーズも今回で最終回です。今回はこれまでの復習と、そこから見えてくるこれからの農業の姿を見ていきたいと思います。

まずこの食糧問題シリーズ第1回目(リンク)では、世界の飢餓マップをおさえ、世界全体でみれば、けして食料が足りていないわけではないという事実と、局地的に飢餓が起こる原因は「生産と流通に問題があるのではないか?」という仮説を出しました。

そして第2回目(リンク)食料で国を支配するという、衝撃的な「白人発の市場経済を使った支配構造」を捉えました!

では、この支配構造をけん引しているのはいったい誰なのでしょうか?

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2022年02月22日

『農業と政治』シリーズ11 日本農業の真価は「森林」と「水田」にある

山下一仁氏の「日本農業は世界に勝てる」の著書からの紹介です。既にるいネットに2投稿入れていますので3作目です。

参考に下記も読んでみて下さい。

日本の農業の特徴(1)日本の農業は水田、それを支える水資源、さらに支える高い農業技術。ベースには世界に稀に見る肥沃度の高い土

日本の農業の特徴(2) 水資源が豊富というのは農業に最適であるという証

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東アジアの「水田」は「土壌流出」「地下水枯渇」「塩害」「連鎖障害」などの問題をきわめて上手に解決してきた。
水田は水の働きによって森林からの養分を導入するとともに、病原菌や塩分を洗い流すことによって、窒素などの地下水への流亡、連鎖障害、塩害を防ぐ。つまり、「水に流し」てきたのである。中国の長江流域では7000年もの間、米作農業が連鎖障害もなく毎年継続てきたのもこのためである。連鎖障害がないことは、畑地とは異なる水田の大きな特徴である。水田では、繰り返し米を作れるのである。また、水田は雨水を溜め表土を水で覆うことによって、雨や風による土壌流出を防ぐ。日本の米作農業は、水資源を増加させる農業である。アメリカ農業と異なり、日本農業の地下水利用は1%にすぎない。

これとは逆のことが行われたのがエジプトのアスワンダムである。アスワンダムは貯水によって工業化を進めると共に、広大な砂漠を灌漑することを目的とした。しかし、ダムの完成により、洪水が防止された一方で、ナイルの賜物と言われた腐植土は下流に流れること無くダムに沈殿し、洪水によって流されていた塩分も表土に留まることになってしまった。同じく洪水が押し流してくれていた、カタツムリが灌漑水路で繁殖し、それを宿主とする寄生虫病の一種である住血吸虫病が人々の間に蔓延することになった。これはいわば「水に流す」ことを忘れた失敗だ。中国でも三峡ダムの開発によって、充血吸病が拡大している。

こうしてみれば、水田による米作こそ、世界最高の「持続的農業」であることが理解されよう。その水田が日本の農地の半分以上を占めることは、日本の農業が他の国の農業と比べ、はるかに持続性が高いことを示している。

日本やモンスーン・アジアで稲作が栄えたのも「水」と関係がある。モンスーンアジアでは、稲作が行われる夏季に降水量が集中する。ヨーロッパでは夏の降水量は稲作を行うには足りないが、年間平均して雨が降るので雨水を利用した畑作などが中心となった。しかも連作障害があるため、作目と耕作地をローテーションする「三輔式農業」が行われた。

しかし、ヨーロッパの人もできれば稲作を行いたかったはずである。日本では1粒の小麦は45倍にしかならないのに1粒の米は125倍になる。1粒からの生産力という点では小麦をはるかにしのぐ。しかも、連作障害がないので毎年米を作ることができる。モンスーン・アジア地域が世界の14%の面積にもかかわらず、世界人口の約6割を養っているのは米の力である。

アメリカやヨーロッパでは窒素肥料投入による地下水汚染が大きな問題となっている。人間を含む動物が土壌中の硝酸菌によって変換された硝酸態窒素を大量に摂取すると、血液中のヘモグロビンを酸化して酸素欠乏症、チアノーゼを引き起こす可能性がある。EUではヘモグロビンの酸化により、血液が酸素を運べなくなって生後6ヶ月位の乳児が死亡するというブルーベビー現象が生じている。しかし、同じように農業を行っても、地下水中の硝酸態窒素の濃度の上昇の度合いは水田では小さい。水田が窒素肥料中のアンモニアを分解して、窒素ガスとして大気中に放出するからである。

日本の年間降水量は1700ミリで世界平均の2倍、世界第3位の多さである。しかし、このままでは雨水は流れてしまうだけで利用できない。特に日本の地形は急峻である。水を蓄えて供給してくれるのが「森林」と「水田」なのである。雨は山の木と土に蓄えられてゆっくりと川へ流れ、また雨水や川水が水田に溜まった水もゆっくりと下流へ流れる。この作用によって水は蒸発すること無く利用できることになり、平均流出量は1070ミリで世界平均の4倍、世界第2位、取水量は300ミリで世界平均の6倍、世界第一位となっている。

日本の農業は、アメリカなどの新大陸の農業と異なるだけではない。ヨーロッパの畑作農業は地域社会の維持、景観の形成に貢献していると言われるが、アジアの水田農業はそれに加え、湛水機能によって自然災害の防止、水資源の涵養などの一段と高い公益性を有している。また土壌流出や塩類集積もなく、環境にもやさしい農業である。

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2022年02月17日

食料問題シリーズ9:人と人の繋がりのなかで充たしあう農産物流通~広域エリアで独自物流網を形成する直売所形態

前回の記事では、これからの日本に求められる農業・流通のかたちとして、地産地消に焦点をあて、豊かさが実現した日本において求められるのは、「大量生産、大量消費の食生活」から「人と人の繋がりのなかで充たし合う食生活」であることを提起しました。

今回の記事では、その地産地消のあり方をもう少し掘り下げます。

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2022年02月17日

『農業と政治』シリーズ10:柳田國男が指摘する農業の問題構造

柳田國男が農政を志す起点となったのは、当時の農家が置かれた厳しい生活環境の直視。

『農業と政治』シリーズ8:柳田國男が見た日本の農業

「何故に農民は貧なりや」
(なぜ農民はこんなにも貧しくなってしまったのか)

という問いかけから始まった彼の追求は、厳しい現実を生み出した二つの要因をあぶり出していきます。

…そして問題の本質は、100年経った今も何ら変わっていないのではないか?

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2022年02月17日

【世界の食と農】第9回 中国~「量から質へ」舵を切った、農業大国~

中国は、農業生産量世界第一位という、言わずもがな知られた農業大国です。
しかし、様々な数値を追っていくことで見えてくる、中国農業特有の問題があります。

まず、中国の農村人口は、約9億人。中国全人口の7割以上となっています。その中で農業従事者は約3億3千人。これは日本農業人口の200倍以上、アメリカ農業人口の50倍以上という凄まじい数値です。

しかし、中国で最も多い穀物生産量はアメリカと同等。これは、中国の労働力に対する生産性の低さを物語っています。実際、中国では農家当たりの耕地面積が非常に小さく(日本では120アール/1人に対し中国30アール/人)、機械化が進まないことから生産効率が非常に低いことが指摘されています。

また、生産量の多い穀物ですが、実は低品質・高価格により、国際市場ではなかなか勝ててこなかったのが実情。
そのため年間7,500~9,000万トンが妥当とされる在庫は、一説では25,000万トンまで膨れ上がっていると言います。買付先の無い在庫は、政府によって買い上げる政策等がとられていますが、この莫大な在庫による国の経済圧迫は深刻です。

過剰な農業労働力、狭小な耕地面積、莫大な在庫数…
この背景には自然環境や中国共産主義による制度的な要因がありました。

広大な土地を有している中国ですが、実はそのほとんどで自然環境が厳しく、優良な耕地が少ないのです。それら耕地は全て国家が有し、その「使用権」が農家へほぼ均等に分配されています。国は、希少な耕地の荒廃を防ぐため、あらゆる制度で農家を農村に縛り付けました。今でも都市への移住制限や教育の制限を受ける農家は少なくありません。その結果、少ない耕地と多くの貧しい小農が生まれ、機械化や技術高度化の遅れ、都市と農村との経済格差が大きくなりました。

『農業従事者は多いが、生産効率は低い。生産量は多いが、品質が低い。』つまり、量>>質が、中国農業が抱える大きな問題なのです。

それら課題を解決すべく、中国政府は様々な制度改革に乗り出しています。

まず1998年、生産農産物の品質を高めるための「構造調整対策」を打ち出しました。
その中身は「優良品種への切り替え」「農産物加工の推進による付加価値の向上」「企業による農業の産業化」「農産物のブランディング」など。「特色があり、高品質な農作物」への切り替えがテーマとなっています。

また、2001年、多すぎる農業従事者の離農を目的とした制度改革を実施し、小規模都市に限って農家が移住できる仕組みをつくりました。そして意欲ある農家が集積、大規模化できるような制度改革も促進しています。

政府の力が非常に強い中国。しかし様々な課題から、企業や農家主体の技術向上【量から質へ】舵を切りつつあることが伺えます。
ちなみに中国の農産物対日輸出は全体の1/4を占めるそう。これからどんどん高品質になっていくと予想される大陸の農産物は、日本の経済、私たちの生活にも影響を与えます。

今後も変わりつつある中国の農業に注目していきたいですね。

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