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2023年05月13日

【「食べる」と「健康」その本質に迫る】その9~私たちは、細菌が取り持つ栄養・エネルギー循環の共同体に生きている~

本シリーズでは「食べる」という行為の本質を掴むことが真の「健康」にも繋がると考え、様々な角度から動植物の食の仕組みを追求してきました。

その2 「土壌動物」から見えてくること

その3 生物はいつから「食べる」ことを始めたのか?

その7 植物は微生物との共生によって成長する

その8 人の腸内細菌はどこから来るのか?~土と人は本来繋がっている

この追求の過程で、常に登場してきた生物がいます。それは、「細菌」。
これが意味するものとは・・・・

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生物は、常に祖先たる細菌と共生してきた

すべての生物は、原核細胞である細菌から進化してきました。やがて、原核細胞同志が共生関係を結んで真核細胞が登場しました。私たちの肉体を構成する細胞の中のミトコンドリアは、共生後の細菌の姿と言われています。

細胞1個で生きてきた生物は、やがて集まって群体化、そして多細胞生物に進化しました。最も原始的な多細胞生物の1つであるカイメンは、その体積の40%に共生細菌が棲んでいます。(その4 海綿動物の接触様式)

多細胞生物は、単細胞の時代に光合成能力を獲得した種を祖とするか、獲得しなかった種を祖とするかで、大きく植物界動物界に分かれ、海から陸へ生存域を広げながら、時々の外圧に応じて千差万別に進化してゆきます。

光合成能力を持つ植物は「生産者」「独立栄養生物」と呼ばれ、太陽と水と土という無生物からエネルギーを得て自らの生体を作り、繁殖してゆきます。しかし、その植物もまた、土の中では細菌の助けを得ています。

植物は、光合成で生成した有機物を滲出物として土中に放出する
微生物は、岩石を分解して植物の生育に必要なミネラルを生成する(その2)

ライゾファジー(根食サイクル)では、植物と微生物が共生することで、単一の栄養素だけでなく、様々な種類の栄養素をお互いに補いあっている(中略)植物は単に土壌から栄養を一方的に吸収して成長するのではなく、周囲の微生物とお互いに与えたり、もらったりしながら成長するのが本来の関係性 (その7)

動物は「消費者」「従属栄養生物」と呼ばれ、植物や他の動物を捕食することで栄養源・エネルギー源としています。ここでも、比較的原始的な動物であるミミズや白アリは、消化管内で細菌と共生しながら生きています。

固い材木をものともせず分解するシロアリの働きは、植物の分解と土壌づくりに大きく役立っています。しかし、その強力な消化能力の大部分は、セルロース分解酵素を持つ腸内の原生動物と細菌が担っています。

土壌動物は消化管の複雑化 (シロアリ) と長大化 (ミミズ) により微生物の活動が盛んになる環境を提供する(その2)

それは、単に土壌動物と細菌、植物と細菌がそれぞれ共生するだけではなく、その生息域に棲む植物、動物、細菌類の全体が活性化するような共生関係になっていると思われます。

そして、私たち哺乳類も大量の腸内細菌とともに生きています。


あらゆる生物は、その最も古い祖先である細菌と常に共生しながら進化を続け、現在も生きている
と言っても過言ではないのではないでしょうか。

細菌と動物の共進化

ここに興味深い1つの論文があります。
~ゴリラにはゴリラの乳酸菌? ヒトにはヒトの乳酸菌?~

要約すると、類人猿であるゴリラと私たちヒトは、ともに乳酸菌やビフィズス菌を腸内細菌として共生させていますが、ほぼ共通の種もあれば、ゴリラとヒトで異なる乳酸菌もいるということ。その理由は、類人猿の共通祖先が進化しゴリラとヒトに枝分かれしたのと並行して、直接的にはその食性の変化に対応する形で腸内の細菌も進化したから。

これを「共進化」と呼び、イノシシと家畜化した豚との間にも似たような現象が見られるそうです。

つまり、外圧に適応して生物は様々に進化していますが、それは、共生細菌もセットだということ。現在の共生関係は、その適応の結果形成された動物と共生細菌との共同体なのです。さらに広げると、動物と腸内細菌、さらに動物が食べる植物とその植物と共生する土中細菌も、大きな栄養とエネルギー循環の共同体のグループだと言えそうです。

何を食べれば健康なのか?

こうしてみると、本シリーズのテーマ【「食べる」と「健康」その本質】の切り口に一つが見えてくる気がします。

「腐る」はダメで「枯れる」「発酵する」は体に良いとよく言われますが、どちらも細菌や微生物の働きによる分解作用である点は変わりません。「ダメ」か「良い」かは、単に私たち人間の目線で見た表現に過ぎません。

では実際には何が結果を分けるのか?それは、有機物を分解する細菌たちが、「ヒトを含む共同体の構成員であるか否か」ではないでしょうか。

技術が進化し、食べ物も食材、調理法など様々なバリエーションが登場しましたが、私たちの肉体は大きくは数万年前と変わっていません。

だとすると、それまでに進化の過程で形成した細菌や土や植物の栄養とエネルギー循環の共同体に合致したものが人間(の健康)にとってもふさわしい食となる。有機栽培が良いと言われるのも、その自然の共生関係に近い生産形態だからではないでしょうか。

投稿者 tana-sun : 2023年05月13日 List   

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