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2022年12月15日

「主食って何?栽培の歴史から食を見る」第2回~贈り物のための“栽培”

前回の「なぜ”主食”は主食となったのか?」の追求では、「お米や麦が政治的作物であった」、すなわち国民の管理・徴税に有利だったからということでした。

今回は、そもそも栽培は人類史においてどのように始まったのか、その起源に焦点を当てて追求してみます!

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いつ、どのような環境で、栽培は始まったのか?

食料の生産が独自に始まった地域(画像はこちらより引用させていただきました)

コーヒーやオリーブなど、食べ物以外のものが栽培されていたというのが、注目ポイントですね。

栽培開始の年代はおよそ以下で、その後周辺地域へと伝播していったことが分かっています。
10500年前:チグリス・ユーフラテスで小麦、オリーブ、飼育
9500年前:中国、インドシナでキビ、米
9000年前:ニューギニアでバナナ、サトウキビ
7000年前:サハラ周辺、エチオピアでモロコシ、コーヒー

栽培の開始はこれまで、寒冷化による食料不足から、人類が必要に迫られて栽培化に取り組んだという説が有力でした。しかし、近年の研究成果から異なる説も浮上しています。

福井県・水月湖の底に毎年一枚ずつ堆積する特殊な地層「年縞(ねんこう)」の分析から、紀元前16,000年頃から紀元前8,000年頃までの気候変動を、およそ10年刻みで詳細に復元することができ、それによりますと人類の植物の栽培化は気候が単に温暖になった紀元前13,000年頃には始まらず、温暖な気候がさらに安定化する紀元前12,000年頃に始まったそうです。

気候の変動(画像はこちらから引用させていただきました)

栽培開始直前の人類の状況は?

では、温暖化が安定してきた時期、人類の状況はどのようなものだったでしょうか。

温暖化が14,000年前と12,000年前の2段階で進んだこともあり、人口もまた2段階で増えていったと考えられます。人口上昇は通常、生存確率×死亡率低下×出生数の上昇によってもたらされます。

洞窟から人類は出たのは地域によって様々ですが、概ね18,000年前から10,000年前の間に洞窟から地上へ出て行きました。洞窟時代から弓矢、火の発明により、動物と対等になった人類は昼間長時間外を出歩く事が可能になり、その間に太陽光を浴びて免疫力が上昇。ビタミンDの上昇からカルシウム、リンを体内で生成できるようになり骨を強化し、肉体の強化が可能になります。同時に妊娠もしやすくなり、出産も安全になっていったことでしょう。

そこに温暖化によって植物が多く生えるようになり、それを食べることで多様な食生活が可能になり腸内細菌の改善も併せて食の領域が広がっていきます。また、土器の発明により、煮炊きでき毒や灰汁を取り、それまで食べられなかったものが口に入れられるようになりました。

この太陽光の取り込み―多様な食―調理の変化でそれまでの寿命も出生率も上がり、結果として人口が増えていきます。

つい栽培が始まったから人口が増えたと考えがちですが、当時の状況からは、むしろ逆であったと思われます。人類は栽培開始前に、人口増というこれまで経験したことのない外圧状況にさらされていたのです。

 

栽培は、食べるためではなく“贈る”ため?!

栽培が温暖化により比較的豊かになった時期に開始されたことは、栽培された食物からもうかがい知ることができます。

コーヒーやオリーブは、当時の状況を鑑みても「生活に必要なものだったのか?」と言われれば、そうとは言えないのではないでしょうか。また東アジアでは、好んでモチ性をもったイネやモロコシの種が選抜され栽培されてきたことも分かっています。腹持ちの良さもあったかもしれませんが、モチモチした食感を好んだようです。モチはその後、ハレの日に好んで食されたり、オリーブは神聖な食べ物とされていたり、薬として使われたりすることなどから、日常というよりは非日常の特別な物だった可能性があるのです。

また栽培が始まっても、当時の人類の食性は、野生種8割、栽培種2割くらいで、すべて栽培種になったわけではありませんでした。これは、栽培種が主食として栽培されたわけではない可能性を示唆しています。

同類同士の緊張圧力が高まった時に、人類は自らの貴重品を相手に贈与することで、その緊張を緩和させてきました。それは現代でもお中元やお歳暮といった贈り物文化として残っています。人口増から集団が近接して緊張を緩和する贈与の必要が発生し、より珍しいもの、美味しいものを相手に届けたい、そういう想いから栽培を始めたのではないでしょうか?

栽培と聞くと、食べるため、収量を増やすために始めたでだろうと考えがちですが、質(よりおいしいもの、より喜ばれるもの)への追求のたまものとして登場したようです。

次は、栽培・農業への移行にみる「人類の自然観の変化」に注目して追求したいと思います!

参考サイト
オリーブと歴史
「人類の農耕の起源は気候が安定してから」福井県・水月湖の堆積物から解明
遺伝学から見たモチ性穀類の起源:モチの文化誌とモチの遺伝子
「贈与」に何を学ぶべきか!~7.贈与の意義とは・・・

 

投稿者 tanimitu : 2022年12月15日 List   

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