- 新しい「農」のかたち - http://blog.new-agriculture.com/blog -

【日本の漁業はどこに向かうのか】シリーズ4~最先端の養殖技術を生み出したかつての日本、民間企業の技術開発によって養殖技術を発展させたノルウェー

[1]

※画像はこちら [2]からお借りしました。

世界の漁業生産量は1960年に3000万トンだったのに対して2016年には21,000万トンと、約50年もの間で3.5倍にまで拡大しています。
漁業による漁獲量は1980年以降ほぼ横ばいの状況であるのに対して、世界における漁業生産量を押し上げているのは、「養殖における生産量の大幅な増加」であり、その割合は世界の漁業生産量の半分以上を占めるほど増加してきました。

近年の水産業における生産量の増加はほとんどが養殖業の発展によるものであり、世界の漁業先進国と呼ばれるノルウェーなどは養殖業を発展させることで世界でも有数の漁業生産国となっています。

世界、日本の漁業構造を捉える上で、養殖の歴史、状況を押さえることが大切になります。
今回は日本における養殖発展の歴史と課題、日本と世界の養殖業の違いを見ていきたいと思います。

◆養殖業の興り

[3]

※画像はこちら [4]からお借りしました。

日本の養殖のはじまりは江戸時代ののり養殖からはじまっています。
大正頃に小型漁船の機械化が進んだことで全国的に技術の普及が進み、全国的にのりやカキ、真珠の養殖が盛んに行われるようになりました。
食用魚の養殖は香川県が発祥と言われており、野網和三郎氏とその子息がブリの養殖技術を昭和5年に確立されました。

[5]

※画像はこちら [6]からお借りしました。

日本における養殖研究、技術開発が盛んに行われるようになったのは、戦後の食糧難の時代です。
和歌山をはじめとして、全国的に全国の漁獲量が大幅に減少したため、近畿大学初代総長である世耕弘一が「海をひとつのいけす」と捉え、「海の畑」をつくろうと考えます。
「小割式養殖」と呼ばれる現代でも主流となっている世界の養殖技術を日本の研究者が生み出すなど、当時の日本では養殖の最先端の技術を開発していました。

 

◆日本の養殖の現状

[7]
※画像はこちら [8]からお借りしました。

現代の日本における養殖魚で多いのは、ブリとマダイです。
養殖魚の漁労支出(コスト)は餌代と種苗代が全体の7割を占めており、魚価の低迷と、餌の原料となる魚粉価格の高騰により、ブリは赤字経営を余儀なくされている状況となっています。

養殖漁業は、ここ数十年で地域によっては養殖を行う漁師が半分になっている地域も出てきています

[9]

※画像はこちら [10]からお借りしました。

また、日本では「天然信仰」と呼ばれる「天然の魚はおいしい、養殖はおいしくない」という思考が見られます。
これは島国ゆえに、常に良質な魚が獲れる環境にあったため、天然の魚が重視され、養殖魚は軽視されてしまう傾向にあります。
そのため、養殖魚はコストがかかるのに対して、養殖魚の販売価格は上がりにくい構造にあるのが日本の特徴です。

また、「持続的養殖生産確保法」に基づき養殖生産量を従来の水準から5%以上減らす取組等により、漁場の環境負荷を軽減し、養殖漁場の改善に計画的に取り組む養殖業者を対象として、漁業共済制度を活用した資源管理・収入安定対策を実施しています。
世界が民間企業を入れることで養殖業の競争圧力を高めているのに対して、日本は補助金によって養殖業を保護している状況にあります。

コストの高騰、天然信仰、補助金も保護による圧力の緩和により、日本の養殖業は技術発展がされにくい状況にあります。

 

◆ノルウェーにおける養殖技術の発展

[11]

※画像はこちら [12]からお借りしました。

世界でも高い養殖技術を確立しているのは、生で食べられるアトランティックサーモンを開発したノルウェーです。
同国は、民間資本と技術の誘導政策により、養殖技術を大きく発展を遂げています。

1980年代後半に実施した「LENKA計画」といわれる養殖振興策において、「ノルウェーの養殖振興に資す技術開発をする民間企業を政府は支援する」すると宣言。
「政府は責任を持ってその普及、販売を支援する」とし、「支援対象は国籍問わず」と付け加えたことにより、世界中から最先端の養殖技術を周知することに成功しました。

[13]

※画像はこちら [14]からお借りしました。

ペットフードのような栄養価を計算した固形飼料、センサーで魚の食欲や健康を監視する自動給餌管理システム、抗生物質に依存せず魚の病気を予防する水産ワクチンなど、様々な技術を開発し、実践してきました。
まら、目に見えない海の中の魚を監視し、制御、管理する一連の海洋科学技術の集積が世界を凌駕するノルウェー養殖の国際競争力の原動力になっています。

技術の発展と同時にノルウェーは「生で食べられるサーモン」のように高付加価値を付けることで、魚価を引き上げ、採算性も確保しています。

[15]

※画像はこちら [12]からお借りしました。

ノルウェーは国が主導した民間の技術力生かして技術開発を進める動きにより、世界でも有数の漁業大国に上り詰めました。
日本の養殖は世界と比較すると、技術発展に遅れをとっています。

 

◆これからの漁業を考えていくうえで

[16]
※画像はこちら [17]からお借りしました。

養殖魚は消費者に安定した値段で一定量を供給できるため、持続可能な漁業として世界でも注目されています。

一方で養殖は人口種苗で生産できる魚種は限られており、天然種苗は自然の稚魚を捕獲するため、結果的に水産資源の減少に繋がっていまいます。
また、限られた範囲で養殖を行うため、飼料や魚の糞が水質を汚染してしまうという課題もあります。

水産資源を維持しながら漁業を行っていくには、養殖技術の発展とともに、「自然と共生する漁業」の確立も不可欠になります。
世界では国が主導して水産資源の維持が行われていますが、前回の記事でも紹介した通り、日本では各集落に水産資源の維持管理が任されているため、広域的な戦略が必要になる水産資源の維持管理は進んでいません。

[18]

※画像はこちら [19]からお借りしました。

また同時に日本における「儲からない漁業の構造」を解決していく必要があります。
最近では、回転寿司の大手「くら寿司」が全国の漁協と提携し、養殖漁師を組織化することで日本の漁業を盛り上げていこうとする動きも見られます。

次回は、日本における漁業の先端事例を見ながら、これからの漁業の可能性を考えていきたいと思います。

 

【参考サイト】
・日本における海水魚養殖の来歴と現状 [20]
・養殖研究の歴史 [21]
・日本の漁業 [22]
・養殖業の持続的発展 [23]
・世界の養殖の歴史知っておきたい養殖業のいま [24]
・日本を影で支える「養殖漁業」を徹底解説! [25]
・海から開ける「水の文明」~未来の食を担う養殖~ [26]
・世界の漁業・養殖業生産 [2]
・エサの変遷とこれからの養殖 [27]
・魚類養殖における環境問題と対応の現状  [28]
・養殖生産をめぐる課題 [29]
・「代わり」じゃない養殖魚 世界で高まる存在感 [30]
・山口浩シェフが考える「クラフトフィッシュ」の進むべき道 [31]
・「グローバルからローカルへ」が支える、魚食の持続可能性|SDGsと衣食住 [32]

[33] [34] [35]