「主食って何?栽培の歴史から食を見る」第3回~栽培から農耕へ~そこには自然観の変化があった。 |
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2022年12月22日
【不耕栽培の可能性】エピソード1~”耕す→不耕”への転換の歴史。世界・日本での普及状況は?~
■『耕す→不耕』への意識転換は『土の力』を蘇らせるため
プロローグで紹介した「不耕→耕す」へ変化していった歴史。 今日、その逆である『耕す→不耕』へと世の中の意識が転換していったのは、なぜでしょうか?
そのヒントは『土』にあります!
写真は、こちらからお借りしました。
農業はその土地や水、気候の力などを借りて作物を育てます。 しかしその力を借りるばかりで作物を育て続ければ、土地は痩せていき、作物が育てられない環境を作り出してしまいます。 また、効率よく作物を育てるために化学肥料や農薬などを使用することがありますが、これは土地を汚染し、生態系を壊してしまいます。
人口増加に伴い、欲しい野菜・穀物を大量生産し続けたこと、また耕すと同時に農薬などの化学物質を多用し続けたことで、『土の力』が失われてしまいました。 これによって過去40年間で、世界の農地の3分の1(約4億3000万ヘクタール)が失われたとされています。
そこで、国連食糧農業機関(FAO)が、劣化した生態系や土壌を再生し、食料生産を改善する『環境保全型農業※1』を提唱しました。
環境保全型農業には様々な栽培方法が存在しますが、その一つに『耕さない栽培=不耕起栽培※2』があります!
こうした経緯を経て、『不耕起栽培』の普及に至っています。
※1:『環境保全型農業』とは、化学肥料や農薬の使用を抑え、作物を栽培していない期間にカバークロップ(緑肥)作物を植え、環境と調和した持続可能な農業生産を行うことです。
※2:ちなみに日本語で「不耕起栽培」という言葉が誕生したのは、比較的新しく、愛媛県在住の福岡正信さんが作った造語です。その後、この言葉が農業で使われる公用語となりました。
■不耕起栽培は世界中で実践されている!?
世界では不耕起栽培が活発に行われています。
アメリカでは大面積での農業をするために、飛行機で種を撒くような大規模な不耕起栽培をしているところや、中国では免耕栽培と称して進めている地域もあり、指導機関が試験をしています。
海外でこれら不耕起栽培が普及した背景は、全て『土の力』の復活を目的としているわけではありません。むしろ重機を使わない・耕運を行わないことによる『生産コスト削減』を目的に普及していったのです。
実際に、国連食糧農業機関(FAO)が推奨する保全型農業には、化学肥料や農薬の使用を容認しています。そうした例も含めて世界の総農地面積の12.5%に拡大している状況です。例えば、土を耕さない代わりに”農薬+農薬に強い遺伝子組み換え作物”を組み合わせることで、耕さずとも生産性を維持する取り組みもあります。
写真は、こちらからお借りしました。
■日本での不耕栽培の普及は?
では日本での不耕起栽培の状況はどうでしょうか? 日本の各地の農業試験場でも、イネやダイズの不耕起栽培の取り組みは行われています。
しかし普及率としては、日本はわずか259ヘクタール=日本全体の農地の1万分の1以下です!!
日本では海外と違い、遺伝子組み換え作物の禁止や食に対する安全性への意識が高いため、科学技術を使えません。また、モンスーン気候のため7~8月の雑草の繁殖が著しく、雑草の処理が手間となります。そのため、日本では「農業=耕す」が当たり前という意識になっています。
まさに『自然と一体となった栽培』であり、それゆえ普及が難しい状態です。
このブログでは、この『自然と一体となった栽培』を『不耕栽培』とよびます。
写真は、こちらからお借りしました。
■日本での不耕栽培の壁は?
日本での不耕栽培の壁は、 ・雑草の繁茂による除草労力や除草コストの増大 ・害虫・動物による収穫量減少 ・粘土質土壌における土壌の課題
雑草や害虫・動物を壁と捉えると、多大な労力や手間がかかり大変な印象を抱いてしまいますが、 それでも自然の摂理を追求し、自然を活かしたマルチやカバークロップ等、様々な工夫を行いながら、共生して行っている農家さんも増えてきています。
次回からは、不耕栽培を通じた活動や実践されている農家さんの声を紹介していきます!
投稿者 kanba : 2022年12月22日 TweetList
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