2020年01月02日
人と里山1/2
明けましておめでとうございます。本日は、新年ということで、少し長くなりますが、里山についてクローズします。
※里山(さとやま)とは、集落、人里に隣接した結果、人間の影響を受けた生態系が存在する山をいう。
里山では、人が生きていく糧を農業にゆだねます。作物を作るために大地を改良し、水を引き、作物の成長を促進する環境を形成するのです。
では、里山を現在から過去を振り返ると・・・・そこには、人が今後生き延びていくための非常に重要な糸口が隠されています。都合二回に分けて、配信します。
Seneca21st【リンク】 からの転載です。では・・・
転載開始
(1)里山の崩壊と環境保全
いったい「里山」って何なのだろう。
辞書を紐解くと、里山は「人里近くにある生活に結びついた山」すなわち「山」、山里は「山間の集落や家屋」すなわち「里」を意味する。しかし、現在の「里山」の意味は、山、田んぼや畑などの農地、集落など、「山」と「里」を含んだもっと広い範囲のものになっているのではないだろうか。里山という言葉の広義解釈には滋賀県大津市在住、昆虫写真家の今森光彦氏の滋賀県での里山撮影活動の影響が大きい。
よく見る里山の写真集などの映像の中には「棚田」の風景がある。
映像で見る「棚田」の風景は確かに美しい。
しかしそれは、そこで生活している人々にとってはよい印象はない。棚田での農業は非効率的で、手間がかかるし、儲からない。地域の人々は先祖代々からの棚田の農地を維持管理して生活することだけで精一杯で棚田を美しいなどと思う余裕すらないのである。集落の多くの若者は生まれ故郷の棚田のある里山生活を捨て、都会へと働きに出てしまう。また、棚田がある集落へ嫁ぎたいという女性も少ないのも事実である。このような社会的背景を受けて全国の棚田は徐々に耕作放棄地へと変化しつつある。
「棚田」が美しいと感じる人は、残念ながら実際にそこで生活していない都会の人が多く、主人公とそれを取り巻くエキストラの間には大きな考えの隔たりがあるのだ。
しかし、今、エキストラたちが起こした里山ブームが新しい農業改革を起こそうとしている。消費者からより安全、安心な農産物生産が求められ、全国の里山の「棚田」などで子供達や消費者による「田んぼの生きもの調査」が実施されるようになり、農地とその周辺の環境保全の大切さが全国規模で浮き彫りになってきた。すなわち、農地やその周辺の環境保全的維持管理は農業だけの単一の問題ではなく、もっと広い問題として捉えられるようになったのである。
そういう国民の意識変革を受け、政府は平成19年から始まった経営所得安定対策の中の農業施策で「農地・水・環境保全向上対策」という新しい農業環境対策施策の柱を打ち出した。この施策は、従来のような直接的な農業生産に対して支援するのではなく、水路の管理や景観形成、田んぼや水路などその周辺の生物多様性を守るための維持活動や省農薬・省化学肥料栽培を行う環境対策など、地域ぐるみでの間接的な農地保持、農地周辺の環境改善を含め、安全、安心な農作物生産に対して支援を行おうというものである。
時代は大きく変わった!
ここで触れておかなければならいことは、環境への配慮への農業施策を打ち出したパイオニア的地方自治体は滋賀県、琵琶湖を抱える滋賀県、近江の国であるということである。滋賀県は平成13年から環境こだわり農産物認定制度を策定し、平成15年には環境こだわり条例の制定、平成16年からは環境こだわり栽培農家への直接支払い(交付金)制度を設定した。環境こだわり農産物の認定は、国よりも早く省農薬、省化学肥料栽培の他、琵琶湖周辺環境配慮への取り組みも義務づけるという本県の独自措置の農業施策を実施してきた。平成21年度の環境こだわり農産物の栽培面積は12、000ha、全国トップの取り組み面積である。これら環境こだわり農業の推進は琵琶湖を中心とした淡海(おうみ)文化を育んできた滋賀県だからこそ全国のトップバッターとしてなし得た偉業ではないだろうか。
(2)日本の高度経済成長と生活様式の変化
終戦後、とにかく日本人は目先の利益を求めた。 人々は蟻のごとく必死に働いた。
その甲斐あって、日本は1960年代に入り高度経済成長期に突入できた。日本人の生活は短期間でとても豊かになった。食糧も豊富になり、食糧不足で餓死する人もほとんどいなくなった。また、科学技術が進歩して効率化が進み、人々は汗水を流して働く機会や時間は極端に短くなった。ぼくたちの生活様式も大きく変わった!
さらに1985~89年にかけて土地と株の異常高騰が発生し、日本の経済バブルが絶頂期に入る。人々は更なる経営向上のため、目先の利益を重視せざるを得ず、自然環境破壊など考える余裕すらなかったのである。
1990年代に入り、そのバブル経済が崩壊した。
最初のしわ寄せは一握りの企業や資産家だけであったが、景気は回復せず、バブル崩壊が他人ごとであった一般の企業、多くの一般国民にまで徐々に波及していった。さらに不景気が続き、人々はようやくバブル崩壊の意味を、身をもって感じてきた。全国的に企業倒産、リストラが頻繁に起こるようになり、人々は高度経済成長期のころの阿波踊り様の裕福な生活から苦しい生活へ突き落とされた。
そのころ、人々はようやく地球温暖化現象による異変、里山、奥山の取り巻く環境と生き物の変化に気づき始めた。
バブル絶頂期、山林を伐採してそこに農薬漬けで単一の芝が張られているゴルフ場が大自然だと勘違いして会員制のゴルフ場でプレーしていた金持ちのゴルファーたちは、ゴルフ場開発が自然破壊の産物だと少しずつ気が付き始め、少し罪悪感を感じながらプレーするようになった。
また、近年、マツ枯れやナラ枯れ現象にびっくりしたり、サル、シカ、イノシシなどの野生動物が森から里へ頻繁に下りてくるようになり、人々は高度経済成長期の副産物として森が悲鳴を上げていることにようやく気づき始めたのである。
(3)森の生物多様性とホモ・サピエンスの誕生
生物種の多様化に拍車をかけることができたのは、現在からおよそ1億4千万年前、白亜紀初期に被子植物が出現したことから始まる。花弁を持つことが許された被子植物の出現により、植物や動物はそれ自身の種の急速的な多様化が始まった。そして、森では太古から生と死の循環が繰り返され、森と水の秩序がうまく保たれ、豊かな自然を基にして、それぞれの種が支え合って長年かけてかけ森の生物多様性に満ちた生態系が築き上げられてきた。その地球上の生物多様性が実現できたお陰でぼくたちヒト、ホモ・サピエンス、ぼくたち人は20万年前に誕生した。
豊かな森は人々へ真の意味の恩恵を与える。ユーラシア大陸では古代文明が豊かな森で生まれ、それをつなぐ文明の回廊があった。古代文明と豊かな森には密接な関係があるのだ。文明回廊は温帯の広葉樹の森でつながっており、そこには多様な生物が生息し、豊かな森には自然の浄化能力、回復力、治癒力があった。ぼくたち人類は、これら森の恩恵を受けながら森にとけ込んで1種の動物として生息してきた。やがて、人は森にとけ込む以上に個体数を増加させ、今のサル、シカなどの野生動物のように平地に移動し、それからも大規模な森林伐採を続けた。
島国である日本でも人口が激増し、人が利用するための空間として里山を形成した。原始の森では動植物の間には途方もない年月をかけて複雑な多種多様な共生関係が築き上げてきたが、人が自然を開拓して創り上げた人工的自然である里山では、人が管理することによって初めてその地域の生物多様性の共生関係が維持できるのだ。
日本の経済成長期が始まって以後、人の生活様式が変わって里山の雑木林、人工林、農作物などの経済的価値が低下した。次第に人々と里山との関わりが薄れ、人は里山を管理しなくなった。今、全国で昔の里山構造が崩壊しつつある。
次回に続く。
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2020年01月01日
農と全人教育1~エディブル・スクールヤード
新年、明けましておめでとうございます。
本年も、さまざまな切り口から、「農」の可能性を追求していきます。
…「農」が持つ多様な可能性が顕在化してきている一方、例えば担い手不足の問題はますます厳しくなっている。
一産業の再生という枠や、生産者・消費者という立場の違いを越え、より広い視座から直視していくことが、農の再生につながる。
農を通じての学びが、次代の農をつくる。その意味で教育の現場にも、かかる期待は大きい。
以下、『食べられる校庭?!「エディブル・スクールヤード」って何?』より引用
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2019年12月26日
土の探求16~環境保全型農業の三原則
土壌の健康を中心に据えた農業革命⇒環境保全型農業。
この農業体系を構成する三つの原理は、いずれも慣行農法の知識を覆す。
そして重要なのは、実現のためには三つの原理を全て採用すること。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
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2019年12月19日
土の探求15~土が文明を左右する
数々の文明興亡史は、土を酷使してきた歴史。
数千年に渡り、私たちは土を酷使し、それを省みることなく生活してきた。
今起きている土壌浸食と土壌肥沃度の低下という双子の問題は、その必然といえる。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
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2019年12月17日
生態系の”あいだ”を回復・構築する「協生農法」とは? 2/2
前回からの続きです。
近代農業の究極の形になっていく可能性を秘めていますが、今回は、この近代農業の全く反対を行く農業のお話です。
その名も「協生農法」です。この試みは、スマート農法とは悉く逆ベクトルに存在する農法。
◆生態系の複雑さを単純化しすぎてしまった現代の農業
数十億年かけて発展してきた土壌や密接に関連し相互依存している生物たちのネットワークはとても複雑なものだ。そして、人類はその自然界の複雑な仕組みから様々な恩恵を受けながら生きてきた(”生態系サービス”とも呼ばれる)。
だが、食料の確保のため人間が注目したのは、必要とする植物を単体で効率よく育てる技術だった。これを生理的最適化という。
生産性だけに焦点を当てて耕作を行い、農業が大規模・単一作物に傾倒していくことで、多くの土地が開拓され、そこにあった生態系が切り開かれていった。たとえ経営や水の問題で耕作が打ち切られても、元々存在していた生態系が破壊されているために、そこの生態系は回復・再生できない。その結果、砂漠化は進み、生物多様性は低下していく。
近代農業という概念とその技術は、人間至上の規模と効率を追求する中で、その仕組みを過度に単純化し、その複雑性をあまりに軽視してきたのかもしれない、と福田氏は語る。
前回はここまでです。
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それでは、転載開始します。【リンク】
◆生態系の「あいだ」を回復する協生農法
では、どうすれば生態系の複雑さと向き合い、なおかつ効率よく食料を生産できるのだろうか。そのヒントになるのが、今回のテーマでもある協生農法だ。
協生農法は、長い地球の歴史のなかで起きてきたような、自然界のプロセスとその中で生まれた生態系の基盤となる要素を科学的に解析し、再現することからはじまる。
子ども達へのワークショップでもあったように、まずは宇宙からの光があり、水が生まれ、そこに酸素が加わる。陸地の土壌にはまず赤土が生成され、そこにコケ、そしてシダが繁茂する。それから木を分解する菌によってできた腐葉土、それによって形成された黒土の層、そしてやっとその上に草が生える・・・といった具合だ。
また、植物が育つ上で必須となる窒素、リン酸、カリウムの三要素が勝手に循環するシステムを創り出せば肥料や農薬を使う必要がなくなる。そのために、協生農法の実験ではまず果樹を植える。これは、菌の合成や土の湿度保全機能に加えて、やってくる鳥の糞から土のリン酸が補われるという効果があるからだ。葉っぱにはカリウムが豊富に含まれているため、落葉樹だとなお好ましい。
他にも、複数の植物を混植することで害虫を防いだりする効果も研究中で、コンピューターシミュレーションを用いて新たな組み合わせが分析されている。
このように、自然界の要素一つ一つの機能や相互関係を生態学的に精査し、従来の農業の営みによって抜けてしまっていた「あいだ」を人工的に創り出し、植物単体ではなく群としての生態を最適化してのが協生農法だ。基盤は人の手によってつくるものの、そのあとは自然と循環していくことからも、福田さんはこれを農法というよりも「生態系回復技術」と表現した方が適切なのではないかと考えているという。
◆宇宙戦艦ヤマトの真っ赤な地球が原点
最後に福田さんは自分の活動の原点について話をしてくれた。
それは子どもの頃、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」に出てくる真っ赤な地球を見たときだった。初めて地球滅亡について考えたという。それ以来、「地球を破滅から救う」という壮大なミッションにどこか惹かれていた福田さんは、よく「僕のヤマトは今どこを飛んでいるのでしょうか!」と言って先輩に鬱陶しがられたそうだ(会場笑)。
そうした中で、出会ったのが協生農法だった。
協生農法は、多様な植物を複雑に混植するため、今まで地球上に存在しなかった組み合わせが起き、新たな生態系が生まれる可能性もある。そのため、協生農法はしばしば「拡張生態系」と呼ばれることもあるそうだ。一方では、生態系に手を入れる行為であるこの手法が現在の環境にとって「破壊的」であるという意見もあるし、協生農法自体、生態系や生産性にとって良いことか、新たな生態系が生まれるかどうかもまだ明確にはわからないそうだ。
まさに地球と人類の未来の転換点に挑戦しようとする活動といっても過言ではない。福田さんの優しく静かな言葉の節々に感じる力強さの奥には、きっと幼少期の原風景が残り続けているのだろう。
◆編集後記:わからないものをそのまま受け入れ、自然の流れに身をまかせる生き方
そもそも、農業の世界は不確定要素が多い。土の中など私たちの目に見えない環境や自然災害といった制御不能の現象にその営みが大きく左右されるからだ。それは、今も昔も変わらないだろう。
だが、有史以来、1万年以上に渡る人類の農業の歴史が、いかに自然を制御しコントロールできるかと対峙してきたものとするならば、これからの時代の農業は、人間と自然の関係性を再考し、従来の農法が前提としてしまっていた生産性と環境破壊のトレードオフを乗り越えていく必要があるだろう。
福田さんは、協生農法を実践する中で感じている大切な態度として、「複雑なものを全てわかろうとしない」ことだと語っていた。
ある程度は再現性をサイエンスしつつも、最後は自然の営みに委ねていく協生農法の実践は、結果としてできたものを頂く・楽しむという、「食べる」における大きなマインドセットチェンジを伴っているように感じた。
だとすれば、これは何も農業に関わる人たちだけの話ではない。八百屋さんには行ってみなければ何が置いてあるかわからないが、スーパーに行けばいつでもどんな野菜でも置いてある。そんな暮らしの身近なところに、このテーマはきっとつながっているのかもしれない。
以上転載終了
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◆まとめ
これまで、無農薬や有機栽培といった農法をいくつか紹介してきましたが、今回、協生農業という農法に接し、農業に対する根本的なあり方を考えさせられた。
近代農法は、そもそも自然の一部である野菜や果物を完全にコントロールし、まずは、生産性と効率性といった軸を第一義に掲げる西洋型の農法の枠を出ない。スマート農法もその延長線上にあることは明確だ。
それに対して、今回紹介した「協生農法」は、長い地球の歴史のなかで起きてきたような、自然界のプロセスとその中で生まれた生態系の基盤となる要素を科学的に解析し、再現することからはじまる。
なので、自然を素直に取り入れ、自然との共生を第一義としてきた私達日本人の先人たちの生き方に通じる農法であろう。
この農法によって、自然と人が、お互いに適応という本源的な進化の延長戦に存在しながら、豊かに生き続けていける地球本来の姿に直結していることは確かであろう。
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2019年12月17日
生態系の”あいだ”を回復・構築する「協生農法」とは? 1/2
現在、スマート農法という新しい農法の研究と開発が農林水産省主体で進められています。スマート農法とは、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農法です。
今や、ドローンを使って、空から植えた野菜や果物の個体一つ一つをパソコンの画像にピックアップし、完璧な管理を行えるような開発にも成功しています。高い生産性と省力化を目指した近代農業の究極の形になっていく可能性を秘めていますが、今回は、この近代農業の全く反対を行く農業のお話です。
その名も「協生農法」。この試みは、スマート農法とは悉く逆ベクトルに存在する農法。
それでは、転載開始します。【リンク】
Published by EcologicalMemes on 2019年11月25日
◆協生農法という言葉をきいたことがあるだろうか?
植物をはじめとする生態系を活かした農法で、規模や短期的な効率を重視してきた従来のモノカルチャー(単一農法)が直面してきた、生産性と環境破壊のトレードオフを乗り越えることを目標とした農業への新たなアプローチだ。
近年では、農業が与える環境負荷については広く議論がなされ、有機農法やオーガニック食材などに関心が集まっているが、環境負荷を減らすだけではなく、生態系を「構築」する農法なのだという。
今回は、「協生農法」をテーマにこれからの農や植物との向き合い方を考えるイベント「植物の特性を活かして生態系を構築する「協生農法」~生態学的に最適な状態をつくる露地栽培の在り方~」の様子をレポートする。
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◆植物でも農業でもなく、生態系と向き合う仕事
今回のイベントを主催するのは、株式会社ノースの今井航太郎さん。岩手・遠野で馬と共にある暮らしを模索・実践し続けているクイーンズメドウ・カントリーハウスなどの運営・経営をされている。
ゲストは、一般社団法人シネコカルチャーの福田 桂(ふくだ けい)さん。福田さんは、デザイナーとしても幅広く活動される中、現在は一般社団法人シネコカルチャーで協生農法の社会実装のサポートをされている。
その活動のきっかけは、協生農法の名付け親であるSONY CSL(ソニーコンピューターサイエンス研究所)の船橋氏との出会いだったという。
船橋氏は協生農法の研究を進め、砂漠化が進む西アフリカの内陸国ブルキナファソでは、わずか1年で砂漠から植生を復元するという驚異的な成果をあげたことで知られる。植物でも農業でもなく「生態系」に関与していくことに興味を持ち、福田さんも本格的に関わることとなったそうだ。
福田さんは自ら協生農法の実践を行うと同時に、協生農法を体験してもらうワークショップなどをされている。
とはいえ、地方の広大な土地で行なっているわけではない。例えば、六本木にある屋上庭園が舞台の一つだ。そこは映画館の真上に位置する屋上で、本来は耐震性を高めるための重石が置かれる場所だが、そこを改築し屋上庭園や畑が展開されていた。福田さんの所属する研究チームはそこを間借りし、実験農園を始めることとなる。
そこで7月に子ども向けのワークショップが開かれた。
前半は農園の経営シミュレーション。そこでは、モノカルチャー(単作)農法だと環境が劣化してしまうことや、分散投資といって資源を分散することで何か問題が生じたときに作物が全滅するのを防ぐ方法などについて、実践型でわかりやすく説明をする。
後半は、まず紙芝居を使った地球の歴史講座から。植物が必要としている光や水、空気や土がどこから来ているのかを理解する。その後、シネコカルチャーが用意したキット(赤土やコケ、なんと「空気」までもがパッケージされたセット)を使って、「小さな地球」を再現する。自らの手を動かし、自らが住む惑星をつくりあげる子ども達の表情は、福田さんが見せた動画の中でも実に楽しそうだ。
◆光・水・土・空気・植物はどこからきたの?~地球の生態系激動の50億年~
会場中がハーブの心地よい芳香に包まれる中、福田さんはライブクッキングを片手間にこなしながら、ワークショップで子ども達に披露したデジタル版紙芝居を使って地球の歴史についてお話しいただいた。
福田さんの紙芝居は、地球歴史を50冊の本に例える。1冊を1億年とみなし、太陽が形成されてからの約50億年間をわかりやすく可視化したものだ。第1巻で太陽ができ、その後今地球がある辺りの空間にはただ星屑が浮かんでいるだけだった。やがて4巻辺りにそれらが集まり、衝突して地球の本が形成される・・・といった具合だ。
その後何冊かにかけて、地球の表面が冷え、海が形成され、また火山の噴火によって陸地ができる。12巻にもなると、海中では細菌のような地球最初の生命が生まれたと言われる。
しかし、その後の約30巻分は断片的にはわかるものの謎のままだ。わかっているのは、陸は動き続け、互いに結合と分離を繰り返すということだ。
そして40巻辺りでドラマが起きた。冷却が進み、地球全体が分厚い氷の層に覆われたのだ(これをスノーボールアースという)。生命にとっては終わり…かと思いきや、地球の内部はまだ熱いため火山噴火が起き、温暖化や二酸化炭素の増加によって海が地球に戻ってくる。
それまで紫外線による過酸化水素の増加などが理由で地上に出ることができなかった生物も、海中の藻類による光合成が生み出した大気中の酸素がオゾン層を生成したことで、陸上へと進出する。最初はコケやシダ類が登り、その後徐々に動物も陸上進出を果たす。
最後の5巻は連載のクライマックス。海が赤くなる時期やまた氷が地球の表面を覆う時期も訪れ、大量絶滅は5回も起きる。隕石の衝突は恐竜の絶滅を引き起こし、地球の生態系は目まぐるしく変容していく。
そして、農業革命や啓蒙時代、また産業革命や技術革命といった私たちの近代の発展は、すべて最終巻の最後の1ページ(1冊を200ページとした場合)の最後の1行に記されている。
◆生態系の複雑さを単純化しすぎてしまった現代の農業
数十億年かけて発展してきた土壌や密接に関連し相互依存している生物たちのネットワークはとても複雑なものだ。そして、人類はその自然界の複雑な仕組みから様々な恩恵を受けながら生きてきた(”生態系サービス”とも呼ばれる)。
だが、食料の確保のため人間が注目したのは、必要とする植物を単体で効率よく育てる技術だった。これを生理的最適化という。
生産性だけに焦点を当てて耕作を行い、農業が大規模・単一作物に傾倒していくことで、多くの土地が開拓され、そこにあった生態系が切り開かれていった。たとえ経営や水の問題で耕作が打ち切られても、元々存在していた生態系が破壊されているために、そこの生態系は回復・再生できない。その結果、砂漠化は進み、生物多様性は低下していく。
近代農業という概念とその技術は、人間至上の規模と効率を追求する中で、その仕組みを過度に単純化し、その複雑性をあまりに軽視してきたのかもしれない、と福田氏は語る。
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次回に続きます。
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2019年12月13日
土の探求14~土壌生物の生業Ⅲ.地下社会の再生
抗生物質が与える、目先の利は大きい。
一方、土壌生物が形成してきた広大な地下社会を、それは破壊してきた。
その流れを逆転させされる可能性を、いくつかの事例は示し始めている。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
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2019年12月05日
土の探求13~土壌生物の生業Ⅱ.”地下経済”のメカニズム
私たちの足下=土の中、で繰り広げられる、土壌生物たちの壮大な取引。
その中心にいるのが、微生物だ。
いまだ未知の領域が大きいとされる微生物の世界を解明していくことが、
やはり農の再生においても不可欠の追求テーマになるだろう。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
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2019年12月03日
「世界人口が増え、食料危機が起きる」のウソ-世界中の農業専門家が作り上げたフェイクニュースの実像に迫る-
2050年、世界人口は74億人から96億人に増加し、その時には未曽有の食糧危機がおきると一般的には言われている。
これから紹介する記事は、昨年、キャノングローバル戦略研究所の研究主幹:山下一仁氏【研究分野農業政策・貿易政策】が投稿した記事であるが、これまの常識にメスを入れて、その背後の事実関係に迫る内容となっている。
転載開始【リンク】
尚、本文中のグラフ1~3は割愛します。ご覧になりたい方は、元リンク先に移動願います。
転載開始
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◆農業専門家たちが振りまく「世界的食料危機」
世界各地で開催される農業や食料の国際会議で、決まって言われることがある。
2050年には世界の人口は現在の74億人から96億人に約3割増加する。さらに経済発展で一人あたりのGDPが増加し、都市化も進展するので、穀物をエサとして生産される肉や乳製品など畜産物への需要が高まる。これは穀物の需要を大きく増加させる。総じてみると、世界の食料生産を60%程度増加しなければならない――というものだ。
このような見解を広めたのはFAO(国連食糧農業機関)であるが、日本の農林水産省も同じような見通しを公表している。日本だけでなく世界中の専門家たちが同じようなことを言うので、私もそうなのかなと思っていた。
今年オランダで開かれた会議で、このような意見を紹介した大学教授に、素朴な疑問をぶつけてみた。
「あなたは、発表の中で世界の人口が今後35年間で74億人から96億人へ22億人増加すると言ったが、過去35年間に人口はそれを上回る30億人も増加している。過去に対応できたことが、なぜ今後もできないのか?さらに、2050年に突然人口が爆発するのではない。人口が段階的に増えていって食料危機が起きるのであれば、穀物価格も今から徐々に上昇を続けているはずである。ところが、穀物の実質価格は過去1世紀半ずっと低下している。これをどう説明するのか?」
彼は答えられなかった。答えられないはずである。これは、FAOや農林水産省など世界中の農業関係者によって作り上げられたフェイクニュースなのだ。
◆食料危機と価格高騰は「短期的」に起きる
食料危機が起こるとどうなるのか?
日本で起きた大きな食料危機は1918年の米騒動と終戦後の食糧難だ。共通しているのは、米や食料品価格の高騰である。供給が需要を満たさないので、価格が上昇した。輸出の急増、生産の大幅減少という一時的、突発的な事由による出来事であった。
世界で起きた食料危機としては、1973年、2008年の穀物価格高騰が挙げられる。これも、世界の穀物生産の減少やソ連の大量穀物買い付け、アメリカの政策変更によるトウモロコシからのエタノール生産の増加という一時的な事由によるものであった。
これらの食料危機は、いつもは穀物や食料品の価格が低いのに、天候不順などの何らかの突発的な理由で需給のバランスが崩れ、価格が急騰するというものである。これは、槍のように突出することから、”price pike”(pikeは「槍」の意味)と呼ばれている。
◆農業専門家が叫ぶのは「恒常的」な食料危機
これに対して、2050年にかけて生じると言われる食料危機は、恒常的に供給が需要の増加に追い付かないという構造的な理由から、価格が上昇していくというものである。これまでの食料危機が一時的、一過性のものであったことに比べると、恒常的なものである。
2008年には、米の輸入が減少したフィリピンでは、配給を受けるために多くの人が行列を作った。このような事態が、毎年続くというわけだ。
このとき、穀物や食料品の価格は一時だけ高くなるpikeではなく、恒常的に高くなる。この説が本当なら、人口や所得の増加は2050年に突然起こるのではなく徐々に増えていくのだから、穀物や食料品の価格は2050年の高い水準に向けて、今から上昇しているはずである。
ところが、事実は逆だ。
下のグラフ1は、アメリカ農務省作成による、物価修正をした、トウモロコシ(Corn)、小麦(Wheat)、大豆(Soybeans)の過去約100年間の国際価格の推移である(トウモロコシの価格が1.5倍になったとしても、一般的な物価水準が2倍になっていれば、トウモロコシの実質的な価格はむしろ下がっている。物価修正というのは、インフレやデフレという要素を除いて実質的な価格を見ようというものである)。一時的なpikeはあるものの、これらの価格が傾向的に下がっていることは間違いない。この間の人口の増加は4倍を超える。これこそ人口爆発と呼んでよいのに、恒常的な食料危機は起きていない。
次のグラフ2は、トウモロコシ、米、小麦について、1960年を100とした国際価格(物価修正をした実質価格)の推移である。1985年ころから2005年ころの20年間は1960年の半分くらいの価格水準であり、それ以降も1960年を上回るのは例外的な年だけである。穀物価格は長期に低位安定していると判断すべきであろう。長期的に起こると言われる食料危機の匂いすら感じない。
◆人口は2.4倍、穀物生産は3.4倍
理由は簡単である。食料供給の増加が人口や所得による需要の増加を上回っているからである。
次のグラフ3は、1961年の数値を100とした世界の人口、米・小麦の生産量の推移である。人口は2.4倍だが、米、小麦とも穀物生産は3.4倍である。このような穀物生産の増加が、穀物価格が低位にある理由である。
食料危機を煽る人たちは、世界の農地面積の増加が期待できない中で、単位面積当たりの収量の増加が鈍化しているので、農地面積に単位面積当たりの収量を乗じた世界の穀物生産の伸びも期待できないと主張してきた。
しかし、上のグラフからは、そのような傾向は見当たらないし、それが本当であれば、穀物価格にすでに反映されているはずであるが、そうではない。むしろ、ICTやAI、バイオテクノロジーなどによって、単位面積当たりの収量はこれまで以上に増加する可能性がある。
さらに、世界には、ブラジルなど農地面積の大幅な増加を期待できる地域がある。日本の農地は450万ヘクタールに過ぎないのに、ブラジルではセラードと言われるサバンナ地域(アマゾンではない)だけで1億ヘクタールほどの利用可能な農地があるという。
2008年川島博之・東大准教授がこのような見解を発表した時、いくら農地があってもそこから港湾などへの輸送インフラが整備されなければ、食料供給は増えないのではないかと考えていたが、近年ブラジルではインフラが急速に整備されてきている。
◆食料危機説の本音
食料危機が起きる可能性は少ないのに、なぜFAOや農林水産省などは食料危機を煽るのだろうか?
食料危機で最も利益を得るのは農家である。餓死者も出た戦後の食糧難時代、農家はヤミ市場に農作物を売って大きな利益を得た。飢えに苦しんだ都市生活者は農家の庭先に出かけて、高飛車な態度をとる農家から、貴重な着物と交換に食料を貰い受けた。着るものが箪笥からだんだんタケノコの皮を剥ぐようになくなっていくことから、”タケノコ生活”と呼ばれた。インフレで減価する円よりも農産物の方が、はるかに購買力があるという不思議な時代だった。
農家にとっては一時の繁栄だったが、この時の農家の対応を今も根に持っている人は少なくない。食い物の恨みは消えない。ちなみに、輸入がないので、このときの食料自給率は100%である(今は38%)。
これからも分るように、食料危機への対応や食料安全保障は本来、消費者が主張することであって、農家や農業界が主張することではない。これらの目的のために食料の安定供給という義務を課されるのは農家である。終戦時のように、増産や政府への供出という不利益処分を強制されるかもしれない。
食料危機の際には政府によって最も不利益な扱いを受けるはずの農業界が、最も声高に食料危機への対応を求める。このような不思議なことがなぜ起きるのだろうか?
理由は単純である。日本の農業界だけでなく、FAOに代表される世界の農業界にとって、食料危機を叫べば、生産を増やすべきだということになり、農業保護を目的とした彼らの組織への予算の増加が期待できるからだ。
農業界とは、国際機関、農林水産省などの国の組織、大学農学部などの試験研究機関、農業団体だけではない。農業経済学者、農業や食料問題の専門家と称する人たちも、こぞって食料危機を唱え、マスコミもこれに便乗する。食料危機は起きないという記事は売れないが、起きるという記事は売れる。不安を駆り立てられ、真偽を判断する材料を持たない一般の人たちは、これらの”専門家”を信じるしかない。
こうして作り上げられたのが、2050年食料危機説である。
◆まして日本では起きない食料危機
なお、農業界の主張通り、万が一世界に食料危機が発生し、穀物価格が高騰したとしても、日本では食料危機は生じない。
世界の穀物価格が3~4倍に高騰し、途上国の多くの人が食料配給の長い列に並んだ2008年、我が国の食料品の消費者物価指数は2.6%上昇しただけだった。飲食料品の最終消費額に占める農水産物の割合は15%、うち穀物を含めた輸入農水産物は2%に過ぎないからである。
このとき食料危機を感じた日本人はいないはずだ。穀物価格高騰という食料危機が発生しても、フィリピンのような国では食料危機が生じるが、所得水準、経済力の高い日本では、痛痒を感じることなく輸入を継続できる。国際市場で日本が”買い負ける”という報道を見かけることもあるが、一部の特殊な高級食材で買えないことが起きたとしても、よほど日本の経済力が低下しない限り、穀物などのコモディティーを買えなくなるようなことは起きない。
日本に起こる食料危機とは、軍事的な紛争等によりシーレーンが破壊され、外国の船が怖くて日本に近づけないような時である。東日本大震災で生じたように、食料への経済(金銭)的なアクセスではなく、物理的なアクセスが途絶するケースである。
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以上転載終了
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2019年11月28日
土の探求12~土壌生物の生業Ⅰ.遺物のリサイクル
自然農法、有機農業、循環型農業。。。
様々な呼び名があれど、問いの本質は、土の秘めたる力をいかに再生させるか。
そのためにはまず、土に生きる生命たちの生業を解明していく必要がある。
いよいよ本編の主役、微生物の登場。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
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