土の探求13~土壌生物の生業Ⅱ.”地下経済”のメカニズム |
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2019年12月13日
土の探求14~土壌生物の生業Ⅲ.地下社会の再生
抗生物質が与える、目先の利は大きい。
一方、土壌生物が形成してきた広大な地下社会を、それは破壊してきた。
その流れを逆転させされる可能性を、いくつかの事例は示し始めている。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
■微生物がにぎわう健康な土
細菌から甲虫に至るまで、土壌生物は地下社会を形成し、有機物を分解して、窒素と鉱物由来の元素が豊富な有機副産物と代謝物を生み出している。
土壌生物は植物の自己防衛能力にも影響している。昆虫や草食動物が葉を食べると、ある種の植物は、根圏に棲む微生物が代謝によって作り出した物質を発散する。それから植物は微生物の代謝物を使って草食動物を追い払う。言い換えれば植物は、根滲出液という報酬を受けた微生物に、防虫剤の製造を外部委託しているわけだ。そして根圏が有益な微生物でいっぱいだと、害虫や病原体は、混みあったテーブルに席を見つけるのが難しくなる。
岩が風化する速度は遅く、生物に必須な元素は地表では手に入りにくいので、こうした元素のリサイクルは豊かな生命を育み維持するために欠かせない。地質学的時間を通じて、微生物を介したプロセスは、陸上生態系を循環する構成要素を精製し、蓄積した。土壌生物は生命の環を回すだけでなく、新しい生命に必要な栄養を調達、貯蔵し、土から漏れ出すのを防いでいる。
化学肥料の大量使用は、土壌微生物群集を変え、土壌を酸性にし、有益な微生物に害を与えることがある。作物は肥料から窒素を手に入れることができるが、それまで微生物の働きで利用できるようになっていた元素は、その仕事をする適正な土壌生物がいないと手に入らないかもしれない。必要とする微量栄養素がすべて、化学肥料から無料で手に入ると、植物は高価な滲出液の栓を閉め、根圏に残った微生物が渇望している食糧源を与えなくなる。これは作物を怠惰にし、劣化した農地を窒素肥料に頼らせる。そうなると、成長に必要な主要元素を、植物はある程度手に入れるかもしれないが、健康に必要な無機微量元素をもたらし、害虫と病原体への強固な防衛機構を備えてくれる微生物の協力者を失うことにもなる。
サー・アルバート・ハワードが最初に還元の原則を唱えてから半世紀以上、私たちはついにそれがどう働くかを知った。健康な作物の成長と豊かな収穫の維持に土壌有機物が果たす主な役割には、生物学的な基礎がある。肥沃度は化学と物理だけに関係するものではない。微生物が動かす土壌生態学と栄養循環も重要なのだ。だから標準的な土壌化学試験で肥料を与える必要があるという結果が出た時でも、適正な土壌生物が存在し、数が十分なら、植物の必要とするものを供給できるかもしれない。
合成肥料は農業のステロイド剤のような働きをし、短期的に収穫量を支えるが、その代わり長期的には肥沃度と土の健康が犠牲になることを示す証拠は続々と出てきている。化学肥料と農芸化学は抗生物質のようなものだと考えてみよう。本当に必要な時には神の賜物だ。しかし、それに頼って常用することは愚かなことだ。そしてこれは、言うまでもなく、この数十年間われわれがやってきたことなのだ。
あとになって考えれば、収穫を高めるために犂と化学肥料に依存したことが土壌有機物を枯渇させ、岩石から重要な微量栄養素を引き出して作物に届ける有益な菌類を混乱させたことが分かる。菌根菌を~根絶あるいは栄養獲得に果たす役割を制限することで~排除し、害虫や病原体を抑制する微生物の役割を弱めると、それを化学肥料と農薬で穴埋めしなければならなくなる。
しかし有益な微生物を増やすことで、私たちはこの状況を逆転させることができる。そのための鍵は、土壌有機物を作る農法にあると思われる。餌をやれば微生物はやってくるのだ。土壌有機物を高いレベルに保つ農業慣行は、有益な土壌生物の多様性を維持し、それが今度は農作物の健康を支える。有機物に富む土壌は、病原体を抑制する細菌群集だけでなく、植物に寄生する線虫を抑える有益な土壌線虫を活性化させる。そしてより生産性が高いことが認められている。
この数年、農業会議で講演をすると、生産性の高い土壌を再生する方法を発見した農家に会う。彼らは、現代の技術で旧来の方法を更新して、劣化した農地に生産力を回復させ、生産性の高い農業が土壌を肥沃にし、一方でエネルギーと肥料や農薬の使用量を減らしながら高い収穫量を維持できることを示した。彼らの経験は、現在一般に行われている慣行農業の知識に異議を唱え、土壌の健康を増進する農法が、数千年前から続く傾向を逆転させられることを証明している。
土壌の健康を保つ鍵は、土壌生物の世界に、微生物による無機物と有機物からの栄養の循環とリサイクルにある。ここに良い知らせがある。微生物の寿命が短いということは、土壌に生命と肥沃さを回復させる~そして収益限界にある農地の生産性を高める~ことが可能であるばかりか、想像以上の速度でできるということなのだ。
投稿者 noublog : 2019年12月13日 TweetList
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