2019年12月17日
2019年12月17日
生態系の”あいだ”を回復・構築する「協生農法」とは? 2/2
前回からの続きです。
近代農業の究極の形になっていく可能性を秘めていますが、今回は、この近代農業の全く反対を行く農業のお話です。
その名も「協生農法」です。この試みは、スマート農法とは悉く逆ベクトルに存在する農法。
◆生態系の複雑さを単純化しすぎてしまった現代の農業
数十億年かけて発展してきた土壌や密接に関連し相互依存している生物たちのネットワークはとても複雑なものだ。そして、人類はその自然界の複雑な仕組みから様々な恩恵を受けながら生きてきた(”生態系サービス”とも呼ばれる)。
だが、食料の確保のため人間が注目したのは、必要とする植物を単体で効率よく育てる技術だった。これを生理的最適化という。
生産性だけに焦点を当てて耕作を行い、農業が大規模・単一作物に傾倒していくことで、多くの土地が開拓され、そこにあった生態系が切り開かれていった。たとえ経営や水の問題で耕作が打ち切られても、元々存在していた生態系が破壊されているために、そこの生態系は回復・再生できない。その結果、砂漠化は進み、生物多様性は低下していく。
近代農業という概念とその技術は、人間至上の規模と効率を追求する中で、その仕組みを過度に単純化し、その複雑性をあまりに軽視してきたのかもしれない、と福田氏は語る。
前回はここまでです。
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それでは、転載開始します。【リンク】
◆生態系の「あいだ」を回復する協生農法
では、どうすれば生態系の複雑さと向き合い、なおかつ効率よく食料を生産できるのだろうか。そのヒントになるのが、今回のテーマでもある協生農法だ。
協生農法は、長い地球の歴史のなかで起きてきたような、自然界のプロセスとその中で生まれた生態系の基盤となる要素を科学的に解析し、再現することからはじまる。
子ども達へのワークショップでもあったように、まずは宇宙からの光があり、水が生まれ、そこに酸素が加わる。陸地の土壌にはまず赤土が生成され、そこにコケ、そしてシダが繁茂する。それから木を分解する菌によってできた腐葉土、それによって形成された黒土の層、そしてやっとその上に草が生える・・・といった具合だ。
また、植物が育つ上で必須となる窒素、リン酸、カリウムの三要素が勝手に循環するシステムを創り出せば肥料や農薬を使う必要がなくなる。そのために、協生農法の実験ではまず果樹を植える。これは、菌の合成や土の湿度保全機能に加えて、やってくる鳥の糞から土のリン酸が補われるという効果があるからだ。葉っぱにはカリウムが豊富に含まれているため、落葉樹だとなお好ましい。
他にも、複数の植物を混植することで害虫を防いだりする効果も研究中で、コンピューターシミュレーションを用いて新たな組み合わせが分析されている。
このように、自然界の要素一つ一つの機能や相互関係を生態学的に精査し、従来の農業の営みによって抜けてしまっていた「あいだ」を人工的に創り出し、植物単体ではなく群としての生態を最適化してのが協生農法だ。基盤は人の手によってつくるものの、そのあとは自然と循環していくことからも、福田さんはこれを農法というよりも「生態系回復技術」と表現した方が適切なのではないかと考えているという。
◆宇宙戦艦ヤマトの真っ赤な地球が原点
最後に福田さんは自分の活動の原点について話をしてくれた。
それは子どもの頃、アニメ「宇宙戦艦ヤマト」に出てくる真っ赤な地球を見たときだった。初めて地球滅亡について考えたという。それ以来、「地球を破滅から救う」という壮大なミッションにどこか惹かれていた福田さんは、よく「僕のヤマトは今どこを飛んでいるのでしょうか!」と言って先輩に鬱陶しがられたそうだ(会場笑)。
そうした中で、出会ったのが協生農法だった。
協生農法は、多様な植物を複雑に混植するため、今まで地球上に存在しなかった組み合わせが起き、新たな生態系が生まれる可能性もある。そのため、協生農法はしばしば「拡張生態系」と呼ばれることもあるそうだ。一方では、生態系に手を入れる行為であるこの手法が現在の環境にとって「破壊的」であるという意見もあるし、協生農法自体、生態系や生産性にとって良いことか、新たな生態系が生まれるかどうかもまだ明確にはわからないそうだ。
まさに地球と人類の未来の転換点に挑戦しようとする活動といっても過言ではない。福田さんの優しく静かな言葉の節々に感じる力強さの奥には、きっと幼少期の原風景が残り続けているのだろう。
◆編集後記:わからないものをそのまま受け入れ、自然の流れに身をまかせる生き方
そもそも、農業の世界は不確定要素が多い。土の中など私たちの目に見えない環境や自然災害といった制御不能の現象にその営みが大きく左右されるからだ。それは、今も昔も変わらないだろう。
だが、有史以来、1万年以上に渡る人類の農業の歴史が、いかに自然を制御しコントロールできるかと対峙してきたものとするならば、これからの時代の農業は、人間と自然の関係性を再考し、従来の農法が前提としてしまっていた生産性と環境破壊のトレードオフを乗り越えていく必要があるだろう。
福田さんは、協生農法を実践する中で感じている大切な態度として、「複雑なものを全てわかろうとしない」ことだと語っていた。
ある程度は再現性をサイエンスしつつも、最後は自然の営みに委ねていく協生農法の実践は、結果としてできたものを頂く・楽しむという、「食べる」における大きなマインドセットチェンジを伴っているように感じた。
だとすれば、これは何も農業に関わる人たちだけの話ではない。八百屋さんには行ってみなければ何が置いてあるかわからないが、スーパーに行けばいつでもどんな野菜でも置いてある。そんな暮らしの身近なところに、このテーマはきっとつながっているのかもしれない。
以上転載終了
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◆まとめ
これまで、無農薬や有機栽培といった農法をいくつか紹介してきましたが、今回、協生農業という農法に接し、農業に対する根本的なあり方を考えさせられた。
近代農法は、そもそも自然の一部である野菜や果物を完全にコントロールし、まずは、生産性と効率性といった軸を第一義に掲げる西洋型の農法の枠を出ない。スマート農法もその延長線上にあることは明確だ。
それに対して、今回紹介した「協生農法」は、長い地球の歴史のなかで起きてきたような、自然界のプロセスとその中で生まれた生態系の基盤となる要素を科学的に解析し、再現することからはじまる。
なので、自然を素直に取り入れ、自然との共生を第一義としてきた私達日本人の先人たちの生き方に通じる農法であろう。
この農法によって、自然と人が、お互いに適応という本源的な進化の延長戦に存在しながら、豊かに生き続けていける地球本来の姿に直結していることは確かであろう。
投稿者 noublog : 2019年12月17日 Tweet
2019年12月17日
生態系の”あいだ”を回復・構築する「協生農法」とは? 1/2
現在、スマート農法という新しい農法の研究と開発が農林水産省主体で進められています。スマート農法とは、ロボット技術やICTを活用して超省力・高品質生産を実現する新たな農法です。
今や、ドローンを使って、空から植えた野菜や果物の個体一つ一つをパソコンの画像にピックアップし、完璧な管理を行えるような開発にも成功しています。高い生産性と省力化を目指した近代農業の究極の形になっていく可能性を秘めていますが、今回は、この近代農業の全く反対を行く農業のお話です。
その名も「協生農法」。この試みは、スマート農法とは悉く逆ベクトルに存在する農法。
それでは、転載開始します。【リンク】
Published by EcologicalMemes on 2019年11月25日
◆協生農法という言葉をきいたことがあるだろうか?
植物をはじめとする生態系を活かした農法で、規模や短期的な効率を重視してきた従来のモノカルチャー(単一農法)が直面してきた、生産性と環境破壊のトレードオフを乗り越えることを目標とした農業への新たなアプローチだ。
近年では、農業が与える環境負荷については広く議論がなされ、有機農法やオーガニック食材などに関心が集まっているが、環境負荷を減らすだけではなく、生態系を「構築」する農法なのだという。
今回は、「協生農法」をテーマにこれからの農や植物との向き合い方を考えるイベント「植物の特性を活かして生態系を構築する「協生農法」~生態学的に最適な状態をつくる露地栽培の在り方~」の様子をレポートする。
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◆植物でも農業でもなく、生態系と向き合う仕事
今回のイベントを主催するのは、株式会社ノースの今井航太郎さん。岩手・遠野で馬と共にある暮らしを模索・実践し続けているクイーンズメドウ・カントリーハウスなどの運営・経営をされている。
ゲストは、一般社団法人シネコカルチャーの福田 桂(ふくだ けい)さん。福田さんは、デザイナーとしても幅広く活動される中、現在は一般社団法人シネコカルチャーで協生農法の社会実装のサポートをされている。
その活動のきっかけは、協生農法の名付け親であるSONY CSL(ソニーコンピューターサイエンス研究所)の船橋氏との出会いだったという。
船橋氏は協生農法の研究を進め、砂漠化が進む西アフリカの内陸国ブルキナファソでは、わずか1年で砂漠から植生を復元するという驚異的な成果をあげたことで知られる。植物でも農業でもなく「生態系」に関与していくことに興味を持ち、福田さんも本格的に関わることとなったそうだ。
福田さんは自ら協生農法の実践を行うと同時に、協生農法を体験してもらうワークショップなどをされている。
とはいえ、地方の広大な土地で行なっているわけではない。例えば、六本木にある屋上庭園が舞台の一つだ。そこは映画館の真上に位置する屋上で、本来は耐震性を高めるための重石が置かれる場所だが、そこを改築し屋上庭園や畑が展開されていた。福田さんの所属する研究チームはそこを間借りし、実験農園を始めることとなる。
そこで7月に子ども向けのワークショップが開かれた。
前半は農園の経営シミュレーション。そこでは、モノカルチャー(単作)農法だと環境が劣化してしまうことや、分散投資といって資源を分散することで何か問題が生じたときに作物が全滅するのを防ぐ方法などについて、実践型でわかりやすく説明をする。
後半は、まず紙芝居を使った地球の歴史講座から。植物が必要としている光や水、空気や土がどこから来ているのかを理解する。その後、シネコカルチャーが用意したキット(赤土やコケ、なんと「空気」までもがパッケージされたセット)を使って、「小さな地球」を再現する。自らの手を動かし、自らが住む惑星をつくりあげる子ども達の表情は、福田さんが見せた動画の中でも実に楽しそうだ。
◆光・水・土・空気・植物はどこからきたの?~地球の生態系激動の50億年~
会場中がハーブの心地よい芳香に包まれる中、福田さんはライブクッキングを片手間にこなしながら、ワークショップで子ども達に披露したデジタル版紙芝居を使って地球の歴史についてお話しいただいた。
福田さんの紙芝居は、地球歴史を50冊の本に例える。1冊を1億年とみなし、太陽が形成されてからの約50億年間をわかりやすく可視化したものだ。第1巻で太陽ができ、その後今地球がある辺りの空間にはただ星屑が浮かんでいるだけだった。やがて4巻辺りにそれらが集まり、衝突して地球の本が形成される・・・といった具合だ。
その後何冊かにかけて、地球の表面が冷え、海が形成され、また火山の噴火によって陸地ができる。12巻にもなると、海中では細菌のような地球最初の生命が生まれたと言われる。
しかし、その後の約30巻分は断片的にはわかるものの謎のままだ。わかっているのは、陸は動き続け、互いに結合と分離を繰り返すということだ。
そして40巻辺りでドラマが起きた。冷却が進み、地球全体が分厚い氷の層に覆われたのだ(これをスノーボールアースという)。生命にとっては終わり…かと思いきや、地球の内部はまだ熱いため火山噴火が起き、温暖化や二酸化炭素の増加によって海が地球に戻ってくる。
それまで紫外線による過酸化水素の増加などが理由で地上に出ることができなかった生物も、海中の藻類による光合成が生み出した大気中の酸素がオゾン層を生成したことで、陸上へと進出する。最初はコケやシダ類が登り、その後徐々に動物も陸上進出を果たす。
最後の5巻は連載のクライマックス。海が赤くなる時期やまた氷が地球の表面を覆う時期も訪れ、大量絶滅は5回も起きる。隕石の衝突は恐竜の絶滅を引き起こし、地球の生態系は目まぐるしく変容していく。
そして、農業革命や啓蒙時代、また産業革命や技術革命といった私たちの近代の発展は、すべて最終巻の最後の1ページ(1冊を200ページとした場合)の最後の1行に記されている。
◆生態系の複雑さを単純化しすぎてしまった現代の農業
数十億年かけて発展してきた土壌や密接に関連し相互依存している生物たちのネットワークはとても複雑なものだ。そして、人類はその自然界の複雑な仕組みから様々な恩恵を受けながら生きてきた(”生態系サービス”とも呼ばれる)。
だが、食料の確保のため人間が注目したのは、必要とする植物を単体で効率よく育てる技術だった。これを生理的最適化という。
生産性だけに焦点を当てて耕作を行い、農業が大規模・単一作物に傾倒していくことで、多くの土地が開拓され、そこにあった生態系が切り開かれていった。たとえ経営や水の問題で耕作が打ち切られても、元々存在していた生態系が破壊されているために、そこの生態系は回復・再生できない。その結果、砂漠化は進み、生物多様性は低下していく。
近代農業という概念とその技術は、人間至上の規模と効率を追求する中で、その仕組みを過度に単純化し、その複雑性をあまりに軽視してきたのかもしれない、と福田氏は語る。
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次回に続きます。
投稿者 noublog : 2019年12月17日 Tweet