2020年02月18日
農業の厄介者「雑草」対策、新常識。雑草が農地に与える影響と新しい使い道について
今回は、雑草についてのお話です。農業は、人間が生きていくために、開発され。た農作物という植物を手をかけて育て、収穫するというもの
対して、雑草は、その農作物の成長を妨げるものとして私たちは認識しています。なので、雑草は極力なくしてしまった方が、収穫高は上昇し、豊かな実りを獲得できると信じてきました。さて、今回はそこに焦点を当てたお話です。
GROWRICCI 日本を農業で元気にするからの転載です。転載開始【リンク】
雑草は、農業の厄介者のひとつと言えます。雑草には「農地で栽培される目的の作物以外の植物」「土地に真っ先に生えてくる植物」などと説明することができますが、近年、雑草に対する見方が変わりつつあります。
■雑草が農地に与える影響とは
雑草は生育旺盛なため、農作物の生育を阻害することが多々あります。その一方で、古くから人の営みに関わってきた植物でもあります。例えば農地によく生えているドクダミやハコベは「薬草」として親しまれてきました。畜産のエサに利用されることもあります。
また、いち植物である雑草は他の植物同様、温度や光などの影響を受けて生育しますが、農地の管理状況にも影響されて育ちます。そのため雑草の種類や生え方で、
・そこがどのような土地、環境なのか
・そこでどのような農業が行われているのか
がわかるとも言われています。
「バロメーター」の役割も担う雑草ですが、農作物の生育を阻害する場合には、そのまま放置するわけにはいきません。農作物以上に土の養分や水分を吸ってしまったり、雑草が生い茂ることで農作物に日が当たらなくなったりするようだと、やはり雑草は「厄介者」になってしまいます。病原菌の温床になることもあるため、除草が必要になる場合も。
■ 近年の雑草対策
近年の雑草対策は、生えてきた雑草を根こそぎ取り除くのではなく、雑草が生えにくい環境に整えることを重視しています。
■定番の雑草対策
雑草が生えてくる理由には、
・水分が豊富である
・土壌のpHが低い
・土壌に残留した窒素成分が多い
・土壌中の微生物が少ない
など、さまざまな理由が挙げられます。
定番の雑草対策には「草むしり」や「除草剤」などが挙げられます。
草むしりは、雑草が繁殖していくのを防ぐために重要な作業です。雑草に花が咲けば、種ができ、また新たな雑草が生えてしまいます。生えた雑草は引っこ抜くのが最優先です(ただし後述しますが、近年では根から引っこ抜くのではなく、根を残して刈り取ることがおすすめされています)。除草剤は雑草だけを枯らせるものです。
ただ、「生えてしまったものを取り除く」こと以上に重要なのが「雑草の生えにくい環境にすること」です。
■「生えにくくする」除草シート
植物が生長するのに必要な「太陽光」を遮断し、雑草を自然に生えなくするシートです。
雑草が生えてほしくないところにシートを敷くだけなので、コストもシート代くらいで済みます。人や土への影響が懸念される除草剤や、操作に慣れる必要がある草刈機に比べ、安全性が高く手間がかからないのも魅力のひとつです。
■「環境を整えるために」雑草は根から抜かない!
雑草を取り除く際、根から引っこ抜くのが定番だったのではないでしょうか。
しかし根には「養分・水分を吸う」役割の他に、「土をやわらかくする」役割があります。根をぐんぐん張ることで、土を掘り進め、土をやわらかくしているのです。
雑草を根から抜くと、根がなくなったことで土が締まり、その固くなった土でも育つことのできる雑草が生え、それを繰り返すうちに草むしりが大変な作業になる・・・という悪循環が起こると言われています。
また、根が光合成によって出す糖分は土の中の微生物のエサとなります。植物が枯れれば、根自体が微生物のエサとなり、分解され、土の栄養になります。土の中に残っていた根が分解されると、そこだけ空洞のようになるため、土がフカフカになる要因にもなります。
雑草の根は、フカフカな土という物理的条件と、土壌中の生物多様性を整えるという生物的条件をもった農作物を育てやすい土を作り上げてくれるのです。
また土の状態が変われば、その状態の土を好む微生物や雑草が増えていきます。フカフカな土を好む雑草は背も低く、根の張りが浅いものが多いといいます。
■雑草が新たなビジネスに!?
根こそぎ取り除くのではなく、生えにくい環境に整えていく雑草対策についてご紹介しました。最後にご紹介するのは、厄介者の雑草を新たなビジネスにしたアイデアについてです。
先に紹介したように、雑草の中には薬草や家畜のエサ、儀式などに使われているものもあります。人の営みに活用されていることを利用して、雑草を収益品目にしてしまった事例があります。
一般社団法人・一志パラサポート協会は、ハウスイチジク栽培の厄介者と化していた雑草のスギナが「漢方」として使われていることに着目。スギナを乾燥させ、玄米と混合したお茶に加工し、「スギナ玄米茶」として販売しています。 【リンク】
農業環境のバロメーターになるだけでなく、収益品目にもなってしまう雑草。雑草に頭を抱えている人は、視点を変えてみるのもいいかもしれません。
■まとめ
動物も植物も自然外圧の中で、適応して生きています。そして、それぞれが、自然の循環の中で役割を持ちながら、他の生物の役に立ったり立てられたりと、彼らが生を受けた理由や存在価値を携えながら、己の生を全うしている存在であると思います。
これまで、雑草は人間にとっては、役に立たない存在と思いこまされてきましたが、こうして今回の記事に対峙すると、彼らの存在が、自然の理にかなったものであり、実は、人にとっても非常に有益なものであるということが分かってきたのです。
新しい農は、こうした人間が、直接育てる農作物のみに焦点を当てるのではなく、その活動する環境の中で、実は、役に立っているモノ、そのモノたちの働きをよく観察しながら、可能性発の存在として、更にお互いに助けたり、助けられたりすることを見つけていく視点も重要でではないかと思います。
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2020年02月13日
農と全人教育7~種子法廃止をめぐる議論の本質Ⅱ
農業の進歩とは、何をもって測られるべきか?
他の産業と同様、いいものを、より早く、より安く、という外圧に晒される中で、農の本質は見失われてきた。
そして旧種子法は、農を近代化の波に巻き込む役割の一端を担ってきたと言える。
種子法廃止の是非を問う議論を越えて、農の本質的な価値を問い直す機会としたい。
以下、転載(種子法は、ほんとうにいい法律だったのか。 著:宇根 豊)
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2020年02月06日
農と全人教育6~種子法廃止をめぐる議論の本質Ⅰ
種子法廃止をめぐる議論は、今も続いている。
しかし安易に賛成・反対を唱える前に、そもそも種子法は国内農業にどんな影響をもたらしてきたのか、その事実を深く捉え直す必要がある。
種子法成立は1952年(サンフランシスコ講和条約の翌年)。
戦後の食糧難を背景に、疲弊する民衆農家に代わって国家が優良な品種の安定供給を保障する目的で制定された、とされる。
これは、生業だった百姓仕事の一部(種を守り育てる)が、国家に外注された、という側面を持つ。
以下、転載(種子法は、ほんとうにいい法律だったのか。 著:宇根 豊)
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2020年01月30日
農と全人教育5~「食料としての価値」からの脱却
明治以来、日本が突き進んできた近代化の歴史は、農業の価値がとことん矮小化されてきた歴史ともいえる。
そして現在、農の多面的価値を追求する、という意識潮流の高まり。
行き過ぎた近代化への危機感を背景に、100年越しの”揺り戻し”が起きている。
以下、転載(農本主義が再発見されたワケ 著:宇根 豊)
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2020年01月28日
地球の循環とは何か? (2/2) 農業を地球の循環の中に存在する生業ととらえていく
前回からの続きです。
最近よく、持続可能な循環型の社会を目指す。ということが言われてきています。そもそも農業も種を撒き、葉、茎が育ち、実がなり、その実を収穫し、次の年にまた種を撒くという循環型の生業です。
平成28年 Seneca21st 話題75(大串 和紀)からの転載です。
転載開始 【リンク】
4.主な循環の例
〈水循環〉
・地球上の氷が解け水になり、水は蒸発して水蒸気になる。水蒸気は大気中で冷やされ、水(雨)や氷(雪)となって地表へ降り注ぐ。
・この過程で、水に溶け込んだいろいろな物質を水と共に循環させている。
・水は、生きものを養う。
・また、水循環を通じて地表の熱エントロピーを大気圏外(宇宙)へ運び、放熱する。
〈大気の循環〉
・太陽光によって温まった空気は膨張し、軽くなり、上昇する。
・一方、上空の空気は大気圏外(宇宙)へ熱を放出し冷たくなって地表へ向かって下降する。
・地球上では緯度により太陽から受け取る熱量が異なり、これが大気の循環にも影響を与える。
・さらに、地球自体が回転していることにより、大気の流れに力を及ぼす。
・この結果、大気に大きな流れ=循環を生じさせる。
・大気の循環は水循環にも影響を及ぼし、地球上の環境にも大きな影響を与え、気候の変化、気象の変化は大気の循環によりもたらされる。
・気候の変化は様々な生物を産み出し、生命や物質の循環にも影響を与える
〈生命の循環〉
・太陽の光と地球上の栄養分(物質)によって生命が育まれる。
・植物が育ち、それを食料として動物が育つ。動物の糞や死骸は微生物が分解して、物質にまで分解する。そして、その分解された物質が再び植物の栄養分として利用されるという大きな循環を形成している。
・また、食物連鎖によるエントロピーの受け渡しを通じて、エントロピーを宇宙へ放出するシステムにも関与している。
・生物の循環は、光合成による二酸化炭素の吸収と酸素の放出を通じて、大気の組成安定にも役立つ。
・この循環には、異なる環境に対応してすべての生命体が関わっており、そのために生物多様性が形成された。
5.地球環境問題の発生
〈人間圏の誕生とその影響〉
松井孝典氏によれば、
・人類は約700万年前、狩猟採取(食物連鎖)を基本とする生物圏の一員として誕生したが、約1万年前、農耕牧畜を発明することで、太陽からの放射エネルギーと地球内部にある熱が駆動力である地球システムの物質・エネルギーの流れに直接関わって生きるようになり、生物圏の中に新たに人間圏というものを生じさせた。
・さらに、産業革命以後、人類が化石燃料を使用することで、地球システムの駆動力を超えて、自らエネルギーを自由にコントロールできるようになった(人類が駆動力を手に入れた)ことから、人間圏が大きく広がり始め地球規模の文明を築くようになった。
・そして人間圏が生物圏から独立した存在と認識できるように、その活動が及ぼす影響が大きくなり、その結果、これまでに地球が長い年月をかけて形造ってきたバランスを崩してしまうようになり、その一つが資源・エネルギー問題、もう一つが地球環境問題として表れている。
〈現在の地球環境問題(エントロピーの観点から)〉
これをエントロピーの観点からみてみよう。
・地球人口の増加とそれに伴う人間の活動により地球のエントロピー(「汚れ」)が増大し、もはや自然の循環機能だけではそのエントロピーを地球外に排出することが不可能になった。
・産業革命以降の工業化の進展は、様々な地下資源を掘り起こし人間の活動に役立つ様々な製品を生み出したが、一方で、自然界の微生物等が処理できない様々な廃棄物を人工的に作り出し増加させた。
・また、石油文明は地下に眠っていた炭素をCO2という形で大気中にばら撒き、エントロピーを増大させた。(既存の循環システムでは処理できない量)
・微生物等の生態サイクルが処理できる廃棄物の量であれば、地球のエントロピーを一定に保つことができる。しかし、処理できない廃棄物や、処理できてもその能力を超える廃棄物の量であれば、地球にエントロピーが蓄積され、地球は汚れによって汚染されることになる。
地球誕生以来、地球の環境は大きく変化している。現在の「汚れ」も、長い年月を経れば、あるいは地球自身の力によって浄化することが可能になるかもしれない。しかし、そのためにはそれを担う生物の進化等に莫大な時間が必要となろう。
~中略~
6.人類社会を持続的なものとするために
〈人間が、種として存続していくために〉
人間が持続的に地球上で存続していくためには、地球の生命と物質の循環を基本としたシステムの中に、その行動の範囲を納めなければならない。
具体的には、大気圏、地圏、水圏、生物圏のそれぞれの存在と相互関係を崩さないように行動する。
例えば、地圏に存在する化石エネルギー等には頼らない、生物多様性を保全する、生命の物質の循環の場である開土面、開水面を減少させない等である。
また、これまでに地球上に存在しなかった物質を、人間が新たに地球環境に放出しないことも重要である。
〈農業のあり方とエントロピー〉
一つは、できるだけエントロピーを発生させない農法を採用すること。
二つ目は、この地球上で発生し増加したエントロピーを小さくするために、生命の循環サイクルの輪を大きくすること。
・余分なエントロピーを発生させない農業
経済優先の世の中では非常に対応が困難なことであるが、農業機械に使用する燃料を減らす、化学肥料や農薬の使用量を減らすことなどが、具体的な対応となろう。
常にそのようなことを意識して農業を営むということが大切。
・生命の循環サイクルの輪を太くすること
土壌の持つ栄養分と太陽エネルギーを十二分に活用して生産量を増加させる。また、収穫残瑳や家畜の糞尿等の有機物はできるだけ農地に還元することが大切。
当然、不必要な農薬の使用等は避けるとともに、生物多様性の確保の観点から、農村地域で多くの生き物が生息できるよう配慮することが求められる。
~中略~
7.おわりに
本稿では、地球の環境と平衡状態を保つために、いかに地球が持つ循環の仕組みを保全していくことが大切かを、エントロピーの概念を用いてまとめてみた。
Seneca21Stの主題は「物質と生命の循環」である。
これは、とりもなおさず、地球上に住む我々人類の永続性を願ってのことである。
地球は誕生以来、長い年月をかけて、自らの平衡状態を保つために「物質と生命の循環」の仕組みを構築してきた。地球の一構成員に過ぎない人間が、この地球の仕組みを壊してしまうことは、即、人類の滅亡につながるであろう。
~後略~
以上転載終了
◆まとめ
地球の姿を俯瞰して見ると、これまで人類が形作ってきた生産活動によって、地球には徐々にエントロピー(汚れ)が蓄積され、元々地球自身のもつ「循環」という自浄作用のシステムでは、浄化できないくらいに、汚れは蓄積されていると今回、著者は論じています。
一方、人類という種が生存していくための生産活動とその活動によって発生するエントロピー(汚れ)の浄化がしっかり行われるためには、将来、農業の役割は、非常に重要な位置にあるのではないでしょうか?
何故なら、農業という生産活動の成果そのものが、人類を存続させていく かけがえのない生業であることは至極当然ではありますが、著者が言う、地球の有する「水の循環」「大気の循環」「生物の循環」と農業との関係を照らし合わせると、農業は、これらの循環の中に、非常に直接的で 関わり合いの深い位置にあるからです。
少し乱暴な意見かもしれませんが、これまでの商業的農業と自給的農業という区分けではなく、その生産過程において、「水」、「大気」、「生物」等 の循環システムに積極的に関わっている農業、エントロピー(汚れ)の発生を抑えた農業、更に視点を広げると付随する資材や流通までを含んだ地球に負荷のない農業活動・・・・・地球の元々持っている循環システムの中で農業活動を中心とした生産活動をどのように構築していくか?
その知恵と工夫を取り入れながら新たな農業の形を作り上げていくことが必要になっていくのではないでしょうか?
そして、我々も【新しい「農」のかたち】のブログを とおして、日々追求し続けていきたいと思います。では、次回もお楽しみに
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2020年01月23日
農と全人教育4~地域の自然・風景・山河を守るために
ドイツ人の意識に芽生え始めた、百姓は地域の自然・風景を守るという役割も担っている、という認識。
カネに代えられない課題を担う百姓に国民は感謝し、守り育て続けるために、彼らは野菜を買う。
以下、転載(農本主義が再発見されたワケ 著:宇根 豊)
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2020年01月21日
地球の循環とは何か?(1/2)
最近よく、「持続可能な循環型の社会を目指す」というスローガンを聞きます。
そもそも農業も種を撒き、葉、茎が育ち、実がなり、その実を収穫し、次の年にまた種を撒くという循環型の生業です。
そこで、今日は、少し見方を変えて、「地球の循環とは何か?」そして、現在地球上で起こっている現状の問題点。そして、その中で今後の「農」はあるべき姿を考察した論文の紹介をします。
平成28年「Seneca21st」話題75(大串 和紀)からの転載です。二回に分けて配信します。
大串 和紀 :昭和25年(1950)、佐賀県生まれ。昭和48年(1973)、九州大学農学部農業工学科(農業土木専修)を卒業し農林水産省に入省。農林水産省、国土庁、福島県、徳島県、水資源開発公団で勤務。平成16年(2004)に農林水産省を退職。その後、(財)日本水土総合研究所、(社)農村環境整備センターを経て、平成21年(2009)から(株)竹中土木勤務。農学博士(九州大学)。技術士(農業部門、総合技術監理部門)
転載開始【リンク】
要旨
地球は137億年前に熱い火の塊として誕生した。地球が徐々に冷えてくるのに合わせて、地球の環境をより安定した平衡状態に保てるよう、大気ができ、海ができ、38億年前に生命が誕生した。地球の歴史は「分化」の歴史である。
一方、地球上で生じる自然現象や、太陽からのエネルギーを受け取って営まれる全ての営みもエントロピーの法則から逃れられることはなく、地球上のエントロピーを増大させている。しかし、現在、地球が未だエントロピーの蓄積により壊滅的な影響を受けていないのは、地球の「分化」により生じた「循環」の仕組みによりエントロピーを地球の圏外に放出できるからで、具体的には、生命の営みを通じて物質を循環させ、物エントロピーを熱エントロピーに変換し、大気の循環や水循環と相まってこれを宇宙空間に放出しているからである。
人間が持続的に地球上で存続していくためには、地球の生命と物質の循環を基本としたシステムの中に、その行動の範囲を納めなければならない。具体的には、大気圏、地圏、水圏、生物圏のそれぞれの存在と相互関係を崩さないように行動することが必要である。
1.はじめに
「Seneca21St」の管理者中道宏は、話題3でホーキング博士の次のような質疑を引用している。
宇宙学者ホーキング博士の東京講演における質疑:石原慎太郎『たとえ、地球が明日滅びるとも』から(産経新聞 日本よ 2007.6.4)
・質問 この宇宙全体に地球のような文明を持った星が幾つほどあるのだろうか。
→回答 200万ほど。
・質問 ならば、なぜ我々は実際にそうした星からの来訪者としての宇宙人や宇宙船を見ることがないのか。
→回答 地球のような高度の文明を造り出した星は、そのせいで循環が狂ってしまい極めて不安定な状況をきたし、宇宙全体の時間からすればほとんど瞬間の速度で自滅するからだ。
・質問 瞬間に近い時間とは、地球時間にしてどれほどのものか。
→回答 まあ、100年ほどか 。
ホーキング博士の指摘する“地球の循環の狂い”とはどういうことなのだろうか、地球の歴史とエントロピーの観点から「地球の循環」について考えてみた。
2.地球の成り立ちと地球のシステム
地球は46億年前に誕生したといわれている。最初は熱い火の塊で、それがだんだん冷えて大気ができ、海ができ、38億年前に生命が誕生した。その後生命は分化と進化を続け、現在に至っている。
このような地球の歴史について、地球惑星物理学者の松井孝典氏は「我関わる、ゆえに我あり…地球システム論と文明…」(集英社新書 2012年2月)1)の中で、次のように述べている。
〈地球はシステムである〉
・システムは性質の異なる複数の要素から構成され、その構成要素は結合した全体がシステムである。
・システムの特徴は、構成要素が互いに関係性を持って相互作用を及ぼしていることで、関係性は「駆動力」、すなわちエネルギーによって、物質やエネルギーが流れることで生まれる。
・地球システムの構成要素は、プラズマ圏、大気圏、海、海洋地殻、大陸地殻、上部マントル、下部マントル、外核、内核、それに地球の表層に存在している生物圏。
・地球の駆動力は、太陽からの放射エネルギーと、地球内部にある熱。
・この二つの駆動力によって、物質圏の間で物質やエネルギーの出入りが起こり、それを通じて物質圏同士の関係性が生まれる。
〈地球の歴史は「分化」の歴史である〉
・地球の歴史は、一言でいえば、「分化」の歴史。「分化」とは、均質な状態から異質なものがそれぞれに分かれていくこと。
・地球は生まれたとき、どろどろ に溶けた状態。冷却に伴って、溶けて均質に入り混じっていた状態が変化し、「分化」が始まった。
・地球が長い年月をかけて徐々に冷えてくるにしたがい、地殻、マントル、核という内部構造が形成されていき、地球の表面で大気が生まれ、生物が誕生し、大気の成分に酸素が増え、という分化の道をたどってきた。
・地球上に生物が誕生したのもこの分化の産物で、分化の結果生じたいろいろな“もの=物質圏”は、それぞれがお互いに影響を与えあいながら、それが新たな分化を生み出してきた。
・そして、「地球を構成する要素間で複雑な相互作用が働き、その相互作用によって動的な平衡状態が保たれている」。
なお、「分化」ということに関し、遺伝子・分子生物学者で「生命誌」という概念を提唱している生命誌研究館館長の中村桂子氏は、現在地球上に生息しているすべての生き物は、元をたどれば38億年前に誕生した一つの先祖細胞から分化・進化したもので、ヒトもそれらの生きものの中の一つに過ぎないという。
地球が徐々に冷えてくるのに合わせて、地球の環境をより安定した平衡状態に保てるよう、生き物も、また長い年月をかけて分化・進化してきたといえるだろう。
3.地球の循環とは
物理学者の槌田敦氏は、「エントロピーとエコロジー…「生命」と「生き方」を問う科学…」(ダイヤモンド社 1986年)3)の中で、以下のように述べている。
〈エントロピーとは〉
・エントロピーとは、分かりやすく言えば、「汚れ」、「汚れの量」。
・「エントロピー増大の法則」とは、「汚れ増大の法則」。
・この世界の現象はすべて、物の拡散、熱の拡散、発熱現象の組み合わせで、それぞれの現象において、エントロピー(汚れ=利用価値のないもの)が増大する。
・エントロピーには熱の形をとるもの(熱エントロピー)と物の形をとるもの(物エントロピー)があり、エントロピーは増大する。
〈地球上のエントロピー〉
・地球上で生じる自然現象や、太陽からのエネルギーを受け取って営まれる生命の営みも、この法則から逃れられることはなく、これらの現象や活動を通じて地球上のエントロピーを増大させている。つまり、地球上に多くの汚れが“熱”や“物”の形で放出されている。
・しかし、現在、地球が未だエントロピーの蓄積により壊滅的な影響を受けていないのは、地球にエントロピーを地球の圏外に放出する仕組みが存在するから。
・エントロピーを捨てる方法は、二通りしかない。物にエントロピーをくっつけて捨てるか、熱にくっつけて捨てるか。
・空気は、熱すると膨張し軽くなるという性質がある。その結果、空気の対流、つまり大気循環が発生する。空気は地表から熱を奪って、上昇し、上空で宇宙へ向けて放熱し、今度は冷たくなって重くなるから地表へ逆戻りする。そしてまた地表の熱を奪い上昇する。このようなメカニズムを通じて地球上に生じた熱エントロピーは最終的に地球から宇宙へ捨てられている。
・一方、地球には重力があるから、廃物(物エントロピー)を地球の外へ放り出すことができない。このため物のエントロピー(「汚れ」)は溜まりつづけることになる
・ここで登場するのが、生命の営みによる循環である。
・植物は太陽エネルギーと土からの養分(無機物)により有機物を生産し、成長する(当然、その過程で光合成を行い、熱を対外へ排出する)。動物は植物を餌として摂取し、自らの体を成長させるとともに、体外へ熱を放出する。動物の排泄物、植物や動物の死骸は、微生物により分解され、最終的には土の中に養分として戻るが、分解の過程で熱が発生し、これが大気の中に放出される。つまり、人工的なものが加わらない状態では、生き物に係わるすべての廃棄物は最終的に熱に変換され、その熱は大気の循環を利用して宇宙空間に捨てられることによって地球環境が保たれている。
〈地球環境を保つために不可欠な生命と物質の循環〉
・地球上に生命の存在が保証されるのは、地球上に水循環と生物循環があるから。
・生物循環は地球上のいろいろな活動で発生する余分な物エントロピーを分解し、熱エントロピーに転換する。
・この熱エントロピーは水循環が引き受け、地球上のいろいろな活動で発生する余分の熱エントロピーを宇宙へ捨てている。
・主としてこの二つの循環の存在が、地球上の豊かな活動を持続させている。
〈循環に必要な生物多様性〉
・生物は、単独の種類だけでは生存できない。生物は必ず資源(他の生き物やその廃物等)を取り入れ、廃物と廃熱を捨てることによって生存しているが、単独の種類だけでは、資源が枯渇するか、もしくは廃物または廃熱の汚染を招き、滅びてしまう
・この場合、生物循環ということが大切。
Aという生物の廃物は、Bという生物の資源であって、
そのBの廃物がCの資源となるように循環することによって、A、B、C……という生物種は共生できる。
・ところで、この生物循環も活動、変化だから、もちろんエントロピーを発生する。そのエントロピーは、廃熱または廃物(水蒸気)の形で地表に捨てられる。
このように、地球上での様々な活動から生じるエントロピーを地球外(宇宙)へ放出するために、種々の形をとるエントロピーを最終的に熱に変え、更に宇宙に近いところまで運ぶ仕組みとして生まれたのが「循環」という仕組みであるという。
この「循環」を主として担うのが生き物で、生き物はその誕生から死までの活動の中で、様々な「物質」を体内に取り組み、また、他の生物に提供している。そして多様な生物の相互に関わりを持った作用により「物質」が循環し、エントロピーを熱の形に変え、大気や水の循環とも相まって地球上のエントロピーを地球外へ放出し、地球の営みを安定化させる仕組みを構築している。
地球は冷却と分化の過程で、物質圏の間で物質やエネルギーの出入をうまく行わせ、エントロピーを増大させない仕組みを作り上げてきたのだといえよう。
元々一つの起源から発生した生命が38億年の時間をかけ現在の生物多様性を生み出した理由も、この原理を理解することで納得できるだろう。
次回に続く
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2020年01月16日
農と全人教育3~田植え体験の意味
土づくり、田植え、稲刈り。。。これらの体験を通じて、子どもたちが体感する豊かな世界。
それを一過性の「体験」とせず彼らのこれからの「土台」としていく。
そのために農業従事者、周りの大人たちは、どんな言葉を投げ掛けていくか。
以下、転載(農本主義が再発見されたワケ 著:宇根 豊)
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2020年01月09日
農と全人教育2~農業は、資本主義とは相容れない
農業は、資本主義とは相容れない。
この認識は、日本人が失ってきた自然観、仕事観を取り戻すきっかけになる。
以下、転載(農本主義が再発見されたワケ 著:宇根 豊)
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2020年01月07日
人と里山2/2
前回からの続きです。
里山では、人が生きていく糧を農業にゆだねます。作物を作るために大地を改良し、水を引き、作物の成長を促進する環境を形成するのです。
では、里山を現在から過去を振り返ると・・・・そこには、人が今後生き延びていく非常に重要なヒントが隠されています。
Seneca21st 【リンク】からの転載です。
転載開始
(4)人による里山管理と生物多様性
「里山を人が管理しなくなれば里山は本当の自然に戻れるのでないですか」と言う若者が多い。しかし、自分の居住空間を作るためにこれまで相互に支え合う関係がある生物多様性がうまく成立してきた大自然を犠牲にして人が人工的自然である都市、里山等を創ったことを忘れてはならない。元々個体数が多くなったヒトが自然を大胆に破壊してそこに居住するようになり、そこにオフィス街、住居、公園、道路、農地等の生活的空間、さらに植林等人為的な処理を行って里山をつくった。限られた面積の人工的自然である里山は人に管理されることによって最低限の生物多様性が維持されてきたのだ。
生物は自然状態では早期に優占種が発生してくる。
例えば、人が頻繁に管理している水田畦畔と余り管理しない河川敷とでは植物相が全く異なる。畦畔ではイネ科雑草とクロバー類、ヨモギなど広葉雑草も混在した生物多様性に富んだ場所になり、河川敷はクズなどの広葉雑草やススキなど大型の少数の植物種が優占する。では、なぜ人が管理することによって植物相が変化するのだろうか?
それは人が雑草を刈り払いすることによって、地上に落下または数年前から発芽するチャンスがなく埋没した種子などが雑草刈り払いを行うことによって、刈り払われた植物体や地上に散布されたあるいは土中に少し埋没した種子たちが同時に太陽の恩恵を平等に得ることができ、一斉の芽生えが可能になるからだ。一方、人に管理されない場所はどうだろう。そこはクズ、ススキ、セイタカアワダチソウなど大型植物中心の少数種の優占種がはびこり、その大型植物の優先した発育により日陰になった種子達が発芽不良または成育不良になって死滅する。また、荒れた雑木林や植林を間伐等により適正管理すると、そこには今までそこに見かけなかった多種多様な植物が発生する。中には絶滅したと思われていた希少植物が突如再生する場合がある。これは暗闇で長年埋没していた種子が日光を浴びて息を吹き返したためだ。
このように、もともと人工的自然である里山は、人が管理しなくなるとそれまで支え合う関係を築き上げてきた生物多様性が一気に崩壊してしまう。ぼくたちはこのことを念頭に置いて、先祖代々から受け継がれてきた人工的自然である里山を維持管理していかなければならない。種ヒトの延命のために。
(5)人と里山の付き合い方
琵琶湖の周辺には森林が取り巻いている。山麓には里山が広がり、琵琶湖を周辺の里山で淡海(おうみ)文化が生まれ、育まれた。
里山は人の匂いがする場所、奥山は人の匂いが余りしない場所と言ってよい。
昔、人は生活のため人家に近い里山の木々を利用してきた。集落周辺と隣接する林を切り倒し、畑や田んぼを造った。効率的に利用しやすいようにクヌギ、コナラなどドングリの木を中心とした薪炭林(雑木林)を特別に造成した。人々は雑木林の伐採枝をエネルギー源として薪や炭として利用し、食糧生産として椎茸の原木として利用した。さらにその落ち葉は堆肥として利用した。
間伐など、人が管理することによって雑木林内は明るくなる。人が間伐管理を行えば林内の地表に光が当たり、そこには土中で眠っていた様々な埋没種子が目覚めて多種多様な植物が生える。そうなれば、そこに多種多様な植物を利用する多くの昆虫や動物たちが集まる。このように人が管理された雑木林には、多様な生き物が集まり、人を含めて昼も夜も生き物たちの交流で活気づく。
1960年代以降、科学技術が急速に進歩し、エネルギー源が薪や炭の木質バイオマスから石油、電気、ガスなど化石燃料に切り替えられ、雑木林の利活用は著しく減少した。雑木林の手入れが行き届かず、雑木林の多くは徐々に鬱蒼とした生きものたちの交流が少ない元気のない林になった。
また、当時、国の経済施策でもあった拡大造林事業により木材生産としての林業が盛んとなり、スギやヒノキの経済針葉樹の大々的な植林事業が実施されるようになった。
多種多様な樹木が生えていた豊かな森の多くは単一なスギやヒノキの人工林に一変した。
しかしながら、現在ではせっかく植えられた人工林も、安価な輸入材木の影響で、日本のスギやヒノキ材の経済的価値は下がり、先々代、先代から管理され受け継がれた多くの植林地の多くは管理されなくなってしまった。間伐や枝打ち管理がされていないスギやヒノキの人工林内では、密植されたままで枝打ちもしていないため樹木の天空近くで枝が交差して地表への光を遮断し、その影響でその林内はシダ植物が生える程度の単一な植物相となり、大昔からその地の森林で多種多様な樹木や草花をうまく利用してきた昆虫たちや動物たちの種類や数は著しく減少していった。さらに一定期間管理していないスギやヒノキの材木は、木の太りが不十分になったり、曲がったり、枝打ちをしないと節などが多く入ったものになり、木材としての商品価値も著しく下がってしまっている状態にある。材木価格の低下とそのことも加わり、人々は人工林を管理しなくなるという悪循環がある。
このように、里山の雑木林や植林地では、日本の高度経済成長による人の生活様式の変化や国際経済の影響によって放任状態になり、人の匂いが徐々に薄れていった。
農地も同様な高度経済成長の影響を受ける。
農業地域の若者は都会へ出たり、農業以外の就職をし、後継者がいなくなって耕作放棄地が増大した。農業機械などの農業技術が発展し、農作業時間が短縮され、ほとんど農地にでなくても日曜日百姓で農業ができる時代になった。このように集落、農地ともに人の匂いが薄くなった。
里山は、このように人によって管理されなくなり、まさに今、崩壊しようとしている。
ところで奥山はどうだろう。近江の奥山でも植林などの開発の手が入っていない場所は少なく、滋賀県でも原生林と呼ばれる森は非常に少なくなった。
しかし、滋賀県北西部、朽木の奥山には、樹齢250~350年のブナ、ミズナラ、トチノキなどの原生林、鈴鹿山麓のブナの原生林、そして木之本町の横山岳のブナの原生林では太古の奥山の姿が残っている。
映像でみる原生林も美しいが、現実はそこは昼なお暗く、花も少なく、湿度が高く、森林内は鬱蒼としており、ヤブ蚊、ブユなど衛生害虫やヤマビルが多く、エアコンの生活に慣れてしまった人々にとっては好ましい環境とは言えない。現実的には奥山を好む人は少ないであろう。
人が快適に生活できる場所は奥山ではなく管理された里山である。里山とは人が管理することによって初めて人が心地よく思う不思議な人工的自然空間である。しかし、管理しすぎると自然破壊につながり、それは、将来、人に必ず自然からのしっぺ返しが来る。
里山は、人が管理しすぎても、管理しなくても生物多様性が維持できない不思議な空間である。
その中間、いかに自然をうまく残し、壊しながら人が快適だと思う人工的自然環境「里山」を維持管理して人と自然との共生を図っていくか、そのバランスが難しいと京都大学名誉教授、滋賀県立大学名誉学長の日高敏隆先生はいう。
人、ぼくたち子孫が快適に地球上に長く生き延びるためのその答えは昔の里山構造から学ぶことができる。昔の里山構造には人と自然とがうまく付き合っていくためのロジックが隠されており、昔の里山構造は、個体数が増えすぎた人と自然との正しい付き合い方をぼくたちに教えてくれる。
以上転載終了
◆まとめ
人は、生きていくために本来農地を耕し、里山という環境を形成してきた。そこでは、自然をうまく残し、壊しながら、自然と共生を図っていく姿があった。
やりすぎず、やらなすぎず・・・本来、人は自然の一部であり、絶妙のバランスの上に自然環境に同化するという非常に長けた生き方が、真価である。といっても良いのではないか?
そして、この世界を成立させる人の意識は、日ごろから「自然への感謝と畏怖を忘れない」ということに繋がるのではないか?
新しい「農」のかたち;どのような かたち であれ、まずは、この意識を持ち続けていくことが、極めて大切であると憶う。
posted by noublog at : 2020年01月07日 | コメント (0件) | トラックバック (0) TweetList