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2020年02月06日

農と全人教育6~種子法廃止をめぐる議論の本質Ⅰ

種子法廃止をめぐる議論は、今も続いている。

しかし安易に賛成・反対を唱える前に、そもそも種子法は国内農業にどんな影響をもたらしてきたのか、その事実を深く捉え直す必要がある。

種子法成立は1952年(サンフランシスコ講和条約の翌年)。
戦後の食糧難を背景に、疲弊する民衆農家に代わって国家が優良な品種の安定供給を保障する目的で制定された、とされる。

これは、生業だった百姓仕事の一部(種を守り育てる)が、国家に外注された、という側面を持つ。

 

以下、転載(種子法は、ほんとうにいい法律だったのか。 著:宇根 豊)

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■旧・種子法の評価は悩ましい
「種子法廃止で、農家は自家採種ができなくなる」これは、とんでもない誤解だ。では「種子法廃止で、外国資本の民間育種の種子がはびこっていく」とは、可能性はある。しかし、それは大事な視点ではない。(はびこらないために自家採種が必要なのに。)

まず「種子法」とは「主要農作物種子法(2018年4月1日廃止)」のことで、稲と麦と大豆の品種改良、奨励品種の選定、その種子の生産と配布を支えてきた法律で、1952年に制定された。日本だけに通用する法律である。
よく混同される「種苗法」は、1947年に制定され、1978年、そして1998年に改正された。それは「植物の新品種に関する国際条約」の改訂に、国内の種苗法を合わせてきたからである。こちらは国際的なものだ。簡単に言うと、種苗法によって、登録された新品種は、25年(果樹などの永年作物は30年)の育成者権が与えられて保護される。(現在約9000品種)

さて、「種子法」のメリットは、国の義務づけによって、稲・麦・大豆の、A:いい種子を、B:安定して、C:安く百姓に提供してきたことである。そのために国からの補助金が地方交付税に上乗せされてきた。「種子法」はその根拠法である。現在作付けされている稲・麦・大豆の種子のほとんどが、A:主に国と道府県の試験場で育種(品種改良)されたものから都道府県の奨励品種に採用され、B:道府県が原種を採種百姓に配布して、種子を生産し、C:県から農協を通じて販売されてきた。たしかに、百姓が育種した品種や民間業者が育種した新品種は不利だった。(奨励品種に採用されれば問題はないのだが。)
これが、「種子法」をめぐる外からの見方である。国家からの、農水省からの、都道府県からの、農協からの見方である。こういうメリットを見る限り、廃止に反対するのは当然のような気がする。ところが、この法律の恩恵をもっとも受けて来た都道府県や農協は、ほとんど廃止に反対していない。(農水大臣は補助金は減らさないと答弁している)したがって、新たな条例で対応しようとしているところが多い。なぜだろうか。一方反対運動をしているのは、有機農業をやっている百姓やそれを支援している市民に多い。有機農業をやっている百姓は「自家採種」しているのなら、この法律はとはほとんど無縁である。「将来モンサントの種子に支配される」などと言うのも、外からしかみていない。

 

■国や行政に守ってもらうという発想の大切さと危険性
国や行政に守ってもらうことは、国民として、県民として、当然のことであるし、「米・麦・大豆という主要な食糧を安定的に生産するのは国家の責任だ」という言い分もまちがってはいない。しかし、同時に国によって管理されていくこと、知らず知らずに政策によって誘導されていくことにも気づいておかなければならない。

そこで、種子法のデメリットを見つめてみよう。国や行政がなかなか言わないことである。あるいは国や行政には見えない世界のことである。
反A:いい品種とは都道府県が選定する奨励品種ばかりになってしまって、在来種が作付けできなくなった。
反B:自家採種するよりも、種子を購入することがあたりまえになった。都道府県の種子更新率は稲88%、麦92%になっている。30年前は30%が目標とされていたのに。
反C:自家採種するよりも購入する方が安く手に入るようになった。購入した種子で栽培した稲でないと、品種の証明が得られず、(場合によっては検査が受けられず)米の販売が不利にもなる。
こう言っても、有力な反論が待ち受けている。反Aと反Bと反Cこそが、農業の進歩・発展だったのだから、批判する方がおかしい、と言われるだろう。百姓もこの資本主義社会を生き延びていくには、競争に負けてはならない、時流に乗って農業の価値を追求するしかない、そう言っているわけだ。
ここにこそ、最大の難題がある。私たちはいつのまにか、対峙すべき「敵」と同じ思想に染まっている。だから反対運動も足下を見られてしまう。今日は「種子法」を素材にして、現代社会が向かっている暗闇を照らしてみたい。

 

投稿者 noublog : 2020年02月06日 List   

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