| メイン |

2011年12月03日

農から始まる日本の再生シリーズ5.~先人に学ぶ食の有り様<雑穀編>~それは、共同体の命綱~

先人に学ぶシリーズ。今回は、保存食編・白米編に続いて雑穀編です。
今や日本人にとっては「白米」が文化的にも、生産力的にも主食になっています。TPPの問題でも首相が「お米だけは守る」といっているように、現在の食料自給率(カロリーベース)が39%の日本でも、お米だけは国内自給が達成されています。
けれども一方で、近年。世界各地で地震・大雨を始めとする自然災害や経済的混乱などが頻発しています。そして、そのどれもが日本とは無縁ではありません。食料が海外から輸入されなくなる可能性や、自然災害や原発問題などによる生産力の低下など、今後のリスクを考えると日本人が守るのは本当に白米だけでよいのでしょうか?
  
☆今回は先人の食の在り方を、「雑穀」から学んでいきたいと思います。
%E3%81%AD%E3%81%93%E3%81%98%E3%82%83%E3%82%89%E3%81%97.jpg
アワの野生種「ねこじゃらし」(食べられるそうですよ♪)
近年、健康ブーム・自然食ブームの中で、改めて「雑穀」が見直されつつあります。しかしそれ以上に、稲作中心の日本において、「雑穀」が二千年以上も作られ続けてきたのには知られざる理由がありました。
それは、「雑穀」と呼ぶにはおこがましい程の、あまりにも大切な、大切な役割だったのです
 
つづきが気になる方はポちっとお願いします☆
↓  ↓  ↓

にほんブログ村 ライフスタイルブログへ


 

1 そもそも雑穀って何?
 
そもそも雑穀とは、白米以外のアワ、キビ、ヒエなど、イネ科の穀物の総称を指します(豆類を含むことも)。古くから「五穀豊穣」という言葉があるように、日本人の先祖は米以外にも多くの雑穀を栽培し、食してきました。

雑穀のいろいろ(クリックで拡大します♪)
~雑穀の特徴~

● 収量は種類によっては米の50%と少ないが、常に安定した収穫が得られる。
● 害虫にも比較的強く、土壌や気候条件などが不良な土地にもよく生育する。
● 長期間の保存に耐える作物である。
● 粉にしたり、挽き割ったり、穀粒のまま調理する、また地酒造りの原料など、多様な利用法が確立されている。
● 高い栄養価と機能性を有し、様々な地域で疲労回復や薬用・脚気治癒にも利用される。
● 種類によってはモチ性とウルチ性がある
● 農耕儀礼やハレの習慣に餅や地酒として、雑穀独自の食味と風味が楽しまれてきた。
 
★平安貴族が白米食のため脚気に悩まされ、農民や庶民は雑穀・玄米を食していたため脚気にはならなかったという話が残っていますが、雑穀は栄養学的にもビタミンや食物繊維・ミネラルが豊富で、現代でも近年増加傾向にある食物アレルギーに有用な食材として、注目されはじめています。
 
 
 
2 共同体の命綱 ~共同体の非常食として作られ続けてきた雑穀
 
実は昭和初期まで農民・庶民の間では、雑穀の生産と消費は積極的に続けられてきました。なぜならば、雑穀生産には村落共同体にとっての大切な期待と役割があったからです。
 
それは、集団が自然外圧に適応するための「命綱」としての位置づけです。
 
%E9%9B%91%E7%A9%80%E6%89%8B.jpg
村落共同体にとって最も恐れる集団の危機は「飢饉」です。稲作はおコメの大量生産が可能ですが、おコメは天候不順や冷害・自然災害の影響を受けやすく、収穫量が年によって大きく変動しやすい作物でもあるのです。
 
それに対して雑穀は、収量は少ないが自然外圧に強く多様であり、常に安定した収穫が得られる作物なのです。つまり、どんなに不作の年があっても、共同体の民が飢えないようにと、常に一定の割合で作られ続けていた命綱=非常食が雑穀だったのです。そのため雑穀は「飢餓食」と呼ばれて長い間大切にされてきたのです。
 
そもそも「イネ」という言葉は、今でこそお米を指しますが、古代語では「命の根源」を意味する穀物の総称でした。そしてその粒は「アワ」と呼ばれ「生命力、調和、女」をあらわしていたそうです。
 
このように稲作が生産の中心になって以降も、常に雑穀は集団の備えとして、日本中の村落共同体で作られ続け、文化として継承され、消費され続けてきたのです。
翻って現在。食材が日本中に溢れ、何を食べるのかさえ迷ってしまう程の日常です。しかし、日本の将来リスクを考えれば、経済破局による輸入停止や、多発する自然災害や原発問題など、「もしも」の飢饉が起こりうる可能性は、わたしたち日本人にとっても間違いなく現在進行形であり、決して昔話ではないのです。
 
★稲作が農業生産の中心となり、お米が主食になっていったにも拘らず雑穀が作られ続けてきたのは、集団にとっての「もしもの時に備える」為だったのですね。雑穀生産とは、「今」」だけではなく、共同体集団の将来の危機や充足をも見据えた「先人たちの知恵」だったと言えるのではないでしょうか。
 
 
 
3 雑穀生産の現状と課題 ~つくられない理由・市場原理の壁
 
このように集団の備えとして、栄養源として、二千年以上も日本で作られ続け食べられてきた雑穀ですが、戦後の食に対する価値観・食習慣の変化と共に、急激に食される機会が減ってきています。ここ100年間で日本における雑穀の栽培面積はなんと、1000分の1以下に激減しています。

★雑穀の現状は、まさに「風前のともし火」です
 
 
雑穀が作られなくなった理由は大きく二つあります。
 
① 手間がかかる作物である
手間がかかる理由は、

・除草手間が多く、粒が小さいため脱穀・餞別が難しい
雑穀の収量は米の半分程度。コメにくらべて倍の農地面積と、基本的に畑作物なので除草に大変手間がかかります。また、粒が小さくて他種が混ざりやすく、商品として市場流通させるための選別が難しいのです。
・雑穀生産用の機械化が進んでいない
雑穀用の機械化があまり進んでおらず。作業時間が多くなることが挙げられます。日本最大の雑穀生産地は岩手県で、特にヒエの生産に力を入れています。岩手県がヒエに力を入れるのは、水に強いためコメ同様の栽培が可能で、コメ用の機械の多くが少しの改造で流用できるからです。
・合法的に使える農薬がない
2002年7月、全国で「ダイホルタン」という農薬が無登録で使用される違法農薬事件が発生して、使ってよいとされる作物以外に農薬を使うことが禁止されました。雑穀は自然外圧にはつよい作物ですが、イネ科の作物なので病害虫もコメとほぼ同様のものが発生します。そのため昔ならコメ用の農薬を使えば防除はできました。しかし現在では、雑穀に米用農薬の適用外使用は農薬取締法に引っかかってしまうのです。

 
② 儲からない
儲からない理由は、

・戦後自由化による海外輸入の増加により安価な雑穀が日本に入ってきた
 
 
食材としての需要が減少した上に、上述のように手間がかかる為、価格競争では人件費の面で国内品は太刀打ちできません。(現在日本で流通している雑穀の90%以上は飼料用として輸入されているものですが、国内需要が高まれば食用穀物も全面輸入される可能性が高いのです。)

 
この2つが問題となるのは、市場に流通させる、市場で商売として成り立たせる必要から生まれます。言い換えれば、「市場原理に乗っているから」雑穀は作られなくなってきたのだと言えるでしょう。
市場原理よる農への影響は、雑穀に限らず、全ての農産物に及んでいます。食糧自給率の低さという問題は、仮に各国から輸出規制がかかった場合、即食糧不足をもたらす状況にあります。その場合、国家をあげて食糧自給に取り組むことになりますが、当然作るためにはタネもいるし、技術力も不可欠です。
これも、雑穀に限った話ではないですが、例えば現在わずかに残っている国内の生産が途絶えたとき、私たちは、これまでの雑穀生産における先人の知恵や技術と同時に、最も大切な「雑穀のタネ」そのものをも失うことになるのです。(リンク)
 
★ですから食糧自給率の問題を考える際には、「ではタネはどうなのか?」「農薬はどうなのか?」「肥料はどうなのか?」といった視点が、必ず不可欠になります。
 
 
4 雑穀の可能性 ~ 今できることは先人や自然の摂理への感謝と学び
 
ここまでの「雑穀」を通した食のあり様をまとめると
★日本では2000年~戦後まで雑穀が生産されており、日常の主要な食料としてだけではなく、自然災害などの食糧危機に備えた「非常食」の役割を担っていた。

★しかし戦後以降、農業に市場原理が介入するにつれ「手間がかかる」「儲からない」との理由から雑穀生産が激減した。

 
現在、経済破局・原発による放射線問題や、深刻な自然災害被害の多発等を考えると、今後は「非常事態のための食料確保」が日本にとって非常に重要な課題になると言えます。

 

 
そのためにも今回、歴史を遡って明らかになった通り『食糧危機に備えた雑穀の自給生産』の具体的普及方針を、私たちは考える時期にきているのではないでしょうか。
 
雑穀に限って言えば、幸いなことに現在でも岩手県などの一部の地域で栽培されています。直ちに日本の農業全体で雑穀の生産・増産体制にシフトすることは、現実的には難しいかもしれません。けれどもこれらの状況に対して備えるならば、今の私たちにできることはあります。
 
まず、タネの確保や技術の習得です。雑穀協会や岩手県などの雑穀生産農家に学ぶこと。それ以外にも・兼業農家による試験的雑穀生産や、耕作放棄地の有効利用、肥料・農薬を減らして多収穫を実現するSRI農法の習得などが考えられます。そしてなによりも、わが国には2000年近くも雑穀と共存してきたという長い歴史があるのですから。
 
今こそ、そうした先人たちに感謝し、先人たちが作り上げてきた技術、そして自然の摂理に学ぶことが、現代の私たちには求められているのではないでしょうか
今後も「農から始まる日本の再生シリーズ」をお楽しみに♪
  
【参考及び画像をお借りしたサイト様】
日本雑穀協会
種のことを知ろう
古代米種籾販売
ねこじゃらし画像ガラスエッチング職人の休息
 
【これまで追求した記事はこちら】
農から始まる日本の再生シリーズ プロローグ1~再生の実現基盤を歴史に学ぶ~
農から始まる日本の再生シリーズ プロローグ2~農がもつ他面的機能が日本を再生していく~
農から始まる日本の再生シリーズ3~先人に学ぶ食の有り様<保存食編>~
農から始まる日本の再生シリーズ4.~先人に学ぶ食の有り様<お米編>~

投稿者 kasahara : 2011年12月03日 List   

トラックバック

コメントしてください