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【「食べる」と「健康」その本質に迫る】その8 人の腸内細菌はどこから来るのか?~土と人は本来繋がっている

 昨今、腸内細菌の研究はさかんに行われており、人の健康維持に非常に重要な役割を果たしていることが明らかになってきています。単に栄養吸収という観点や消化器系の疾患だけではなく、アレルギーやアトピーといった自己免疫系の疾患や、自閉症やパーキンソン病など中枢神経系の疾患、うつ病などの精神疾患にも影響しているという報告もあります。(脳の健康・病気との深い関わり 腸内細菌と「脳腸相関」とは [1] 

 本シリーズではここまで、動物の腸の起源に立ち戻り、その役割を追求したり(シリーズ2~4)、植物と土中微生物の共生関係(シリーズ5~6)を追求してきました。

 今回は、人・土・微生物がどのように繋がっているのかを見ていきたいと思います。

 前提として、土中細菌にしても腸内細菌にしても、その種類は膨大で、現在人間が認識し、名前を付けているものはごく一部で全体の0.00001%程度とされています。ですので、腸内細菌や土中細菌の数を直接検査して増えた減ったという議論をしたり、一部の細菌を取り出して議論してもあまり意味を持たないと考えられます。そこでここでは、周辺事実から論理を組み立ててみたいと思います。

 

■人は微生物と共生している

改めてですが、人がどれくらい微生物と一緒に生活しているかということを認識させられる事実を抑えておきます。

人体には、 5000種類を超える細菌が存在し、その細胞の数は100兆個以上といわれています。

人体を構成する細胞の数は37兆個程度と言われているので、細菌数は約3倍! 体内に棲む細菌のうち、約9割が腸内に棲みついており、重さは約1キロ~2キロにもなります。 この腸内細菌が、免疫機能と深く関わっているというのが最近解明されつつあり、細菌が人間を構成する存在そのものであるという認識が拡がりつつあります。

腸内フローラ最前線|森下仁丹株式会社

(画像はこちら [2]からお借りしました。)

■腸内細菌はどこから来るのか?

赤ちゃんが胎内にいるときは、無菌状態なんだそうです。その赤ちゃんが生まれてくる際、お母さんの産道で最初の細菌を受け取ると言われています。(生物史から、自然の摂理を読み解く [3]

「赤ちゃん時代は、胃酸が弱いので口から入った細菌が腸まで届くが、生後3年までに胃酸が強くなると、その後、腸内細菌は一生変わらない」という説もあるようです。(おそらく、3歳までに成人に近い腸内細菌叢になることからこのように捉えられているが、実際には日々変化していると思われます)。

 しかしながら、進化の過程を見れば、3歳以降も食べ物であったりあるいは空気中から様々な細菌を腸内に取り込み、元来共生できていなかった細菌と共生を可能にし、消化できなかったものを消化できるようになったり、新たな免疫機能を獲得しながら進化してきたことは明らかです。(参考:沖縄科学技術院大学院大学「進化するために失うもの -哺乳類の進化を腸と細菌の関係から見る- [4]

 現在では、母親や遺伝的要因より、食事要因のほうが、腸内細菌に与える影響が大きいとの見方が有力と考えられています。

 

(参考:書籍『免疫力を高める腸内細菌』佐々木淳 著)

 

 

■「土」は腸内細菌の重要な供給源ではないか?

 このように、後天的に腸内細菌が変化していくことが明らかになってきているのですが、その中でも最も重要な役割を果たしていると考えられるのが「土(土中細菌)」です。『腸と森の「土」を育てる』の著者で医師でもある桐村里紗氏は著書の中で以下のように書いています。

 

まず、食べ物は歯の咀嚼によって粉々になり、唾液や胃液、膵液、腸液などの消化液に含まれる消化酵素で分解されますが、この働きは、大きな有機物である落ち葉や動物のフンや死骸を分解するミミズなどの土壌動物のような役割です。

人の栄養吸収は、主に小腸までに行われ、消化・吸収されなかった分を大腸の腸内細菌に回します。腸内細菌の主な生息場所は、小腸と通り越した大腸で、小腸の1万倍程の高密度で生息しています。

そうして分解されたものが腸内に運ばれると、今度は腸内細菌が発酵させ、その結果としてビタミンやミネラル、アミノ酸、有機酸などの栄養が豊富な腐植土が出来上がります。

そもそも、腸内に暮らす強制金の由来は、私たちの祖先が土壌から取り込んだ細菌なので土づくりが得意なのです。

 

まず注目したいのが、腸内で行われている分解作用を「発酵」と言っている点です。

発酵と腐敗は何が違うか?ということを調べると

発酵=人体にとって都合の良い分解作用

腐敗=人体にとって都合の悪い分解作用

という説明がなされます。(参考:発酵美人 [5]

要するに腸内で行われている微生物の働きと似たような分解作用をしているものを発酵とよんでいるのでしょう。

 

私自身は農業に携わっているのですが、腐敗している土では野菜はうまく育たないとよく言います。根が傷んだり、そもそも発芽しません。つまり、土は本来「発酵」しています。人間の腸と土は、同じような細菌が分解者として働いているのでしょう。

 

さらに、書籍「免疫力を高める腸内さ菌」のなかで著者の佐々木淳氏は「腸内細菌の祖先は土壌細菌である」と書いています。実際に「土と腸それぞれにどんな細菌がどれくらいいるのか?」というのは、天文学的な数の細菌がいますから、調べることはできません。ですが、これは上記の「発酵」ことから考えても整合する見方だと思います。

また、生命の歴史からみても、そもそも人類は細菌ネットワークの世界に細菌になってお邪魔している新参者です。

46億年前に地球が誕生し、10億年ほどたったころに海ができました。生命の誕生は、その海のそこで噴出する400度にも達する熱水噴出孔で産まれた「高熱性メタン菌」です。それからミネラルが溶け出した海は様々な微生物を生み出しました。

そんな微生物の世界に、海藻や、海綿のような生物が産まれ、その内に腸と口を持つ動物が産まれたのでした。

海で生命が繁殖しても、陸上は荒涼とした岩石が拡がっていました。そこに最初に進出したのも細菌類でした。彼らは岩石の表面に住みついて鉱物を分解したり、大気から吸収したものでエネルギーを得ました。そのあと、コケのような植物が進出し、細菌類との共生をはじめます。植物は根から滲出液をだしたり、枯れた身体を細菌のエサとして供給して分化させながら繁殖を促し、そこで「土(鉱物に有機物が混ざったもの)」ができ拡がっていきます。動物が陸上進出して反映できたのは、その細菌と植物のネットワークである「土」が出来上がっていたからです。そして動物が食べて排泄する行為も、そのネットワークの中での共生のために必要な行為なのでしょう。

 

こうしたことを踏まえれば、腸内細菌の祖先は土壌細菌であるということがわかるでしょう。

(画像はこちらからお借りしました。シアノバクテリアが層状に堆積しながら成長してできた、ストロマトライトという岩石)

ちなみに、人類には「土を食べる文化」というものが存在します。

インディアンは疲労回復のために土を食べたそうです。アイヌ民族や、フランスでも土を料理にする文化があります。漢方などの薬として土を食べる文化も、世界中にあるのです。(参考:ウィキペディア [6]

 

さて、人間の腸と細菌と土がいかに繋がっているのかを見てきました。

繋がっているというよりも、人間は人体の中に自分の細胞よりも多い細菌と共生し、それは土中で細菌や植物が共生しているのと同じであること、そもそも腸内菌は土中細菌であることがわかってきました。このように考えると、自己とは何か?というアイデンティティが溶けてなくなり、広大な細菌、菌類、植物と動物のネットワークの一部として身体が拡張しながらも他社と一体となるような感覚をもててきませんか?

次回は、どんなものを食べると体に良いのか?を細菌との共生の切り口から考えてみたいと思います。

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