2007年12月29日
2007年12月29日
多様な農業技術と生物多様性
こんにちは。北川です。
環境の再生と、生物多様性の観点から、水田本来の機能と必要性、再生の取り組みについて考えています。
現在、農業は環境負荷の大要因として取上げられる事が多いのですが、それは、効率追求⇒経済的価値を第一義と思い込んでいる大規模単一栽培の方向に乗ってから起きてきた現象でもあります。
ある作物を、効率よく作り、市場に供給する方法として、投入と回収のサイクルで農産物を作るのが、単一栽培の特徴です。だから、不確定要素としての、「虫」や「鳥」。「草」は排除対象にしかなりませんし、排除のために投入物を必要とします。投入物(肥料・薬・資材)は工業に頼り、お金をモノサシにして計算する対象ですし、販売価格と同様に農産物を市場の鎖に繋ぐ要因になっています。
それは、現代の循環型と言われる農法でも、有機農法でも、単一栽培である限り、同様で、単に工業由来か否かの違いでしかありません。
その上、この農法は、対象作物が限定されるので、対象作物の知識は洗練されるものの、自然や環境に対する認識は退化しがちです。近年、昔の農法が注目される理由は、ここにあると思います。
「会津農書」という貞享元年(1684年)会津幕内村の佐瀬与次右衛門が表した農書があります。3巻からなり、上巻は稲作、中巻は畑作、下巻は農家生活全般(農具等も含む)です。
一部を引用紹介します。
田冬水
<原文> 山里田共に惣而田へハ冬水掛けてよし。何れの川も何れの江堀にも、川ごミ有もの也。取わけ町尻、村尻、其外汚を水の掛処ハ冬水懸てよし。其上路辺より雨降に惣水流れ入てよし。水口三ヶ一程の所へハ、江を立て、尻土へ計懸へし。水口の所ハ田植て懸る故に冬ハ除てよし。卑泥ハ春水掛ても不苦、陸田ハ春水を干べし。遅くほしてハ鮮田に成りて悪し。 <現代語訳>田へ冬水をかけること 山田、里田ともにどの田へも冬に水をかけてよい。どんな川にも水路にも、川泥がまじっているからである。とりわけ町や村の排水、そのほか、くぼ地にたまった水をかけるとよい。水口から三分の一ほどのところまで水路を掘り、水尻のほうへだけ流しこむ。水口のところは田植えをしてからかけるので、冬はかけなくてよい。卑泥田は、春になっても水をかけておいてよい。乾田は春になったら水を干す。あまり遅く干したのでは、塊返しした土が乾かず、生田になってよくない。
【文献1】『日本農書全集第十九巻 会津農書 会津農書附録』原著者:佐瀬与次右衛門(1684年)、校注・執筆:庄子吉之助、長谷川吉次、佐々木長生、小山卓、農山漁村文化協会、1982年8月25日発行
『会津歌農書 幕内農業記』(pp.109-110)
(八五)田冬水 附春水
<原文>冬水をかけよ岡田へごみたまり 土もくさりて能事そかし冬のうち居村の堀のかゝる田ハ 汚水ましハり猶によろしきあら田にも冬水かけよ土はやく くさり本田の性と成へき元よりもひとろむきにハ冬水を かけ流しけりごみためるとて春の水かけしその田の稲草ハ そたちきをへと実入かひなし
上巻の稲作の記述です。
「水田再生」(鷲谷いづみ著―家の光協会出版)の解説を紹介します。
(引用)
上巻では、土を九種、水田を八種に分類しています。
土と田んぼの多様性を認識した上で、多様な管理の方法を提案している極めて実践的で、多様性を意識した農書です。水稲単収の記述からは、上の上田は実に480kgという当時としては驚くべき高収量をあげていた事がわかります。当時は、会津の水田は大きく陸田と卑泥田に2分され、本農書によれば、卑泥田は、収穫後でも水田に水を注ぐためにできるとされています。卑泥田は乾田に比べて有機肥料の肥効が小さく、多量に施用すれば有害とし、このような水田では有機肥料を多用しないように勧めています。これは今日の常識と変わりません。また、卑泥田は秋にうなっておけば鍬目より日も通り、どの土塊の間にも川ごみが溜まり田が肥えてよいとして秋耕起を勧めています。つまり、乾田では秋耕起をすれば土地がやせるので、春耕起を行い、また湿田では秋耕起をすれば地力が出ないので秋耕起するといった慣行は、近年まで宮城県を中心に続いていたようです。卑泥田で深耕すれば養分が深く入ってしまい、肥効が遅れることが指摘されています。
そしてなおわれわれが今日当面している地力の問題の多くが、この時代すでに的確に対処されていた事は驚くべきことですし、これは、生物多様性の概念と農業技術の統一が現実的である事を示唆する深い概念でもあります。三七〇年も前に地力の問題を取上げ、特に土壌の科学的特性に着目して、農業技術の実践を行い、しかもそれを克明に記載して残した先人が存在したことは、驚嘆するほかはありません。
佐瀬与次右衛門は次の短歌を『会津歌農書』の中に残しています。
草も木ももちたる性のままにしてよく育つるを真土といふ
(引用終わり)
現代では、なんでも乾田化を目指して農地を改良しようとします。農法の単一化が効率的というわけですが、なんか違う気がします。
会津農書では、冬水たんぼの技術を紹介していますが、これは、近年注目されている技術です(別の機会に詳しく紹介したいと思います)。冬水田んぼの技術は、単に作物の育成のためだけでなく、田んぼを取り巻く生態系を創る事によって、生態系サービスを農作物に還元する技術でもあるようです。先だって小松さんの記事にあった「リン」の不足の問題も、水鳥の生息域になることで、補う事ができています。370年前には、明確に認識荒れていた農業技術です。
本当の循環型の農法、継続可能であるということは、生合成物質の連鎖を作ること、生物多様性のなかで生きる方法の追求によらなければならないのではないかと思います。それは、単一栽培の流れとは、相反するようです。
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投稿者 parmalat : 2007年12月29日 Tweet