2009年1月24日
2009年01月24日
本の紹介「水田再生」
三重のクマです。
農閑期の今、うちの農場でも、色々な農業の経営や技術の勉強をしています。
そのうちで、出会った「水田再生」(鷲谷いづみ編 家の光協発行)という本を紹介します。
重要な環境アイテムとしての水田を、生物多様性の視点から環境への影響と生産性について見直し、持続可能な自然と人間の営み(農)のあり方を模索する試みを紹介した本です。
以下本文から、抜粋します。
<生物多様性と農業>
失われる原風景
緑陰濃い山を背景に水田が広がる風景、それは日本に住む私たちにとっては、もっともふつうの風景ともいえるでしょう。
地形が変化に富み、初夏から秋にかけて雨量の多い日本列島では、水はけの良い場所には森林が発達する一方で、水はけの悪い場所では湖沼や湿地になります。そのため、人間による土地利用がなされる前には、山地、低地を問わず水辺と樹林が組み合われた環境が見られました。それに適応した生き物が両生類とトンボ類なのです。(日本の古名「秋津島」はトンボの国の意)
もともと湿地の植物であるイネを半人工の湿地ともいうべき水田で育てることで、これら生物の生息の条件は、むしろ拡大されたと考えられます。水田が湿地としての性格を残したことでに加え、農業や生活のための植物資源や水資源を確保するために、樹林、草原、ため池、水路などが水田のまわりに配された環境モザイクともいえる複合生態系がつくられると生物にとって多様な生息場所が提供されました。
かつて、川と水田は水路でつながっており、淡水魚は水田を産卵の場として川や湖との間を行き来していました。水田は川の氾濫原の湿地の代替の生息地としての役割を果たしてきたのです。
大きな水鳥、サギ、コウノトリ、トキが水田に舞い降りて餌をついばみ、サシバやオオタカが空を舞っていました。
水田には、捕らえればおかずにもなる生き物もたくさんいました。
今はどうでしょうか。遠目にはそれほど変わらない水田の景色が広がる地域もあります。けれども、風景の中のあちこちに人工物が目立ち、水辺はコンクリートで固められていることが少なくありません。土の畦があっても、外来牧草(や侵略的外来植物)で被われています。生き物の気配は全体として希薄です。それどころか、あれほど身近にふつうにみられた生き物が著しく減少して、絶滅が危惧されるまでになっています。
ここ数十年の間に水田とそれをめぐる生態系はあまりにも大きく変化したのです。
水田そのものを消失させる開発、耕作の放棄による植生遷移の進行、圃場整備による乾田化、用水路のパイプライン化と排水路のコンクリート三面張り化、農薬の田投入など農業の近代化と関連した環境変化によって、1000年以上も前から里地で人と共存してきた多様な生き物の生息のための条件が、短期間のうちに失われました。
ここ数十年の間に起こった変化は、経済成長最優先の価値観が農の領域にも広く染み渡り、水田とそこでの営みが大きく変わったことによるものです。
生物多様性とは何か
生物多様性条約(1992年「地球サミット」で採択)では、「生命に現れているあらゆる多様性」と定義されています。それは、「種の多様性」「種内の多様性」「生態系の多様性」の3つの階層においてとらえられるとも記されています。
「種内の多様性」は、遺伝子の多様性と表現されることもあり、品種や野生生物の変種や地域個体群の多様性に加えて、それらの中の個体や株の個性に見られるような多様性も意味しています。野生生物は、遺伝的な多様性があってはじめて集団としての安定的な維持が可能です。
なぜ生物多様性を守るのか
より直接的な理由は、生活と生産に欠くことの出来ない「生態系サービス」を生み出す源泉である生物多様性を保全する必要があるということです。自然の恵みともいうべき自然の生態系が提供するさまざまな財やサービスを生み出すのは、生物多様性、すなわち多様な生物の連係プレーです。
<「生態系サービス」のタイプと具体例>
・ 持続的サービス 栄養循環/土壌形成・土壌保持/一次生産/ハビタットの提供
・ 供給的サービス 食糧/繊維/遺伝子資源/生物化学品、自然薬品、医薬品/淡水
・ 調節的サービス 大気の質の制御/機構の制御/水の制御/土壌浸食の制御/水質浄化と廃水処理/疾病の制御/害虫の制御/花粉媒介/自然災害の制御
・ 文化的サービス 精神的・宗教的な価値/審美的な価値/レクリエーション、エコツーリズム
・
生態系に含まれる種が多様であることは、それによって多様な機能が発揮されるだけでなく、生態系の安定性を保証します。よく似た働きをする種が何種も含まれていれば、例え1種が絶滅しても、それらの種が担う働きは維持されるからです。
まず、人間の営みを含めた環境にとって、生物多様性が大切であるかから本書は展開しています。そして、かつて、日本には生物多様性を守り、生態系サービスを効率よく利用して、自然との共存を計ってきた農業があったことを示しています。その農業は、グローバル化と、近代化・効率化のなみにのまれて、急速に失われてきました。ところが、今とこれからを見据えたとき、環境と生産活動の持続可能性の観点から、生態系サービスから受ける生産が、もっとも効率の良い生産サイクルとなることが指摘されています。近代化以前の農では、そのことを経験から知っていましたが、改めて再生の試みの研究のなかで、科学的に証明されてきています。
本書は、このあと生物多様性の再生の試みの事例と研究を、水田を中心に紹介していきます。(つづく)
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投稿者 parmalat : 2009年01月24日 Tweet