【日本の漁業はどこに向かうのか】シリーズ2~「自然と共生する漁業」により成長する世界の漁業、世界と日本の漁業の違い |
メイン
2022年12月10日
【「食べる」と「健康」その本質に迫る】その2~「土壌動物」から見えてくること~
プロローグより
植物に必要な「土」は、微生物によって作り出されたこと、そして、その微生物が作った物質の循環サイクルに、植物が入り込むことにより、循環を加速させ、共存することが可能になったことがわかりました。
植物と微生物の共生関係は解明されましたが、動物や人間と微生物・植物との共生関係がどうなっているのか?はさらなる追求ポイント。
植物は、光合成で生成した有機物を滲出物として土中に放出する
微生物は、岩石を分解して植物の生育に必要なミネラルを生成する
植物と土中微生物のタッグによるこの循環サイクルによって、岩と砂の世界だった地球の陸地が緑豊かな大地に変わっていったのです。
写真はJAXAから
では、光合成を行わない動物は、この循環サイクルにどう絡んでいるのでしょうか?あるいは無関係なのでしょうか?今回は、「土壌動物」というあまり聞きなれない名前を持つ生き物から考えてみたいと思います。
記事中の引用文は下記から頂きました
『土壌の生成と土壌動物』(金子信博)
土壌動物って何?
小さなものは単細胞の原生生物や線虫類から、ダニなどの節足動物、ミミズ、ムカデ、大きいものはモグラまで、土中に生息する様々な動物。こうしてならべると、どちらかというと気持ち悪がられることが多い生き物たちですが、植物が育つ土にとっては大事な存在です。
人工的に土壌動物を排除し土壌微生物に有機物を分解させる系と,それに土壌動物を加える系を作って比較すると,土壌動物のいる系の方で分解速度が速くなり,植物の成長もよくなる。
彼らは、植物が水から陸に進出して間もなく、私たちの祖先である両生類に先だって上陸した最初の動物だった可能性が高そうです。
動物の生活が陸上で可能となるのは, オルドビス紀になって地表を微生物やシアノバクテリアのマット, 地衣類, コケ植物などが覆うようになってからであろう. 陸上への進出は, 原生動物や線虫などのように水界にも豊富に生息し, 体の小さい動物にとっては比較的容易だったであろう. すなわち, 彼らにとって多孔質の土壌に含まれる水膜はそのまま水中と同じ環境を提供してくれる.
※オルドビス紀:およそ4.9~4.6億年前の古生代前期。海中ではオウムガイや三葉虫が栄えた。
これら土壌動物の土の中での機能・役割とはどのようなものでしょか。
身近な土壌動物の代表格「ミミズ」
土壌生物の中で、私たちになじみの深いものの1つが、ミミズ。「ミミズがいる土はいい土」などとよく言われますが、実際には何をしているのでしょうか。
写真はWikipediaから
こちら等からまとめると、
・土を食べて出た糞が、水持ち、水はけが良い「団粒構造」をつくる
・ミミズの通り道で通気性が確保され、土壌微生物が活性化する
・体内の石灰腺から炭酸カルシウムを分泌し、土壌のpHを安定させる
など。動物と微生物と植物の関係を表す事例の一つです。ちなみにミミズが多すぎるのも富栄養すぎて土としてはよろしくないのだとか。
細菌との共生者「シロアリ」
木造家屋をダメにしてしまう害虫のシロアリですが、固い材木をものともせず分解するシロアリの働きは、植物の分解と土壌づくりに大きく役立っています。しかし、その強力な消化能力の大部分は、セルロース分解酵素を持つ腸内の原生動物と細菌が担っています。
アリ塚とシロアリ。写真はWikipediaから
シロアリは共同生活をして繊毛虫を消化管に共生させ, セルロースをきわめて効率的に分解して利用することに成功した.共同生活は世代を超えて有益な繊毛虫を維持するのに必要であり, 高度な社会性の原動力となったのだろう.
シロアリが群れで社会生活をしている理由の一つは、腸内の微生物を受け継いでいくことなのですね。
生物は自分のためだけに「食べる」のか?
ミミズもシロアリも、土壌中の微生物と密接な関わりをもって生きており、それが植物の生育環境に寄与していることが分かります。『土壌の生成と土壌動物』では次のようにまとめられています。
おそらく土壌動物は消化管の複雑化 (シロアリ) と長大化 (ミミズ) により微生物の活動が盛んになる環境を提供することにより,あるいは消化管に分泌する粘液の形でCNバランスを調整したり, 水分条件を整え微生物と腐植を十分混合したりすることにより, 分解を再び盛んにしているのだろう.
※CNバランス:作物の生育に重要な土の炭素(C)と窒素(N)の比率のこと
さらに、土壌動物は、土を食べ、排出することを通じて、自力では動きにくい土壌の微生物たちを移動させる機能を果たしているとも。
こうして見ると、土壌生物たち、あるいは動物の「食べる」行為は、自分たちが成長したり繁殖するだけでなく、周囲の生物の生存環境を変化させる意味を持っているように見えます。
シロアリの事例で思い出したのがウシ。ウシは4つの胃の中に大量のセルロース分解細菌を住まわせ、草を消化し、排泄物として大地に戻します。そこだけ取り出してみると、やっていることは土壌動物のシロアリと全く同じといえないでしょうか。
ここまで土壌動物を見てきて、微生物と植物と動物の関係について新たな疑問が生じてきました。
・光合成をしない動物(従属栄養生物)はいつ、どのように誕生したのか?
・進化の過程で、どんどん捕食者(食べる者)が登場するのはなぜか?
・哺乳類などの大型動物と細菌ネットワークとの関わりは?
引き続き、この辺りを深堀りしてみたいと思います。
投稿者 tana-sun : 2022年12月10日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2022/12/6682.html/trackback