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2021年11月04日

農から考える自然の摂理~「土の仕組みを探る」:瀕死の微生物たちが森の生態系を守る

【土壌の生態系を救ったキノコ】の事例にもみられるように、土の仕組みを探る上で、土壌微生物の解明は欠かせない。

彼らはどのような環境下で、何を武器にしながら土の中の生態系に関わり続けているのか。
今回はもう少しその実態に迫ってみたい。

 

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●微生物の持つ酵素の力
栄養分の少ない酸性土壌に適応した植物たちは、限られた栄養条件での光合成能力を競い合う。最小限の資本から最大限の利益を目指す経済活動そのものである。光合成の使命を果たした緑葉ですら、中身の栄養分を枝や幹に回収してから落とす。
土の中の微生物は、植物にとっては”産業廃棄物”ともいえる茶色の落ち葉を分解し、栄養分をかき集める必要がある。

一言で落ち葉といっても、10%ほどの美味しい成分と90%の食べにくい成分からなる。食べにくい90%が、セルロース(多糖類)とリグニン(木質成分)である。いずれも水に溶けないため、そのままでは利用できない。

これらを分解する神通力となるのが、微生物のつくりだす「酵素」である。酵素は触媒となって分解のためのハードルを下げてくれる。微生物は、分解酵素「セルラーゼ」を放出することで、セルロースをグルコース(ブドウ糖)に分解することができる。

私たちヒトは、このセルラーゼをほとんど持たない。私たちが消化できているのは、コメなどに含まれるデンプン(セルロースと同じ多糖類だが、結合様式が異なる)である。だから私たちは落ち葉や紙を消化できないし、もっと言えば野菜の主成分であるセルロースの多くを私たちは消化できていない。

そんなヒトを横目に見つつ、多くの微生物はセルロースを溶かして食べる。大雑把に言えば、自前の酵素で「有機物を消化できている」と断言できる生物は、微生物(細菌、原生動物、カビ、キノコ等)しかいない。

 

●瀕死の微生物たち
ただ、微生物も自由自在に酵素を使えるというわけではない。土壌の仕組みからもたらされる2つの悩みが、彼らの営みにも大きく影響する。

一つ目の悩みは、微生物が酵素を生産できる量に限りがある、ということだ。
酵素はタンパク質なので、材料として炭素と窒素を必要とする。つまり、利用できる炭素と窒素が充分になければ、微生物は酵素をつくることができない。落ち葉には炭素も窒素もあるにはあるのだろうが、摂取しやすい形態ではない。カビやキノコは、落ち葉だけではなく土へも菌糸を張り巡らせて窒素をかき集め、酵素をつくり落ち葉を分解する。そこから獲得した炭素や窒素を体内に集積し、代謝や増殖、酵素の生産に使う。

二つ目の悩みは、「酸性」である。
カルシウムなどの中和成分が少ない酸性土壌は、微生物にとっても生存の危機を作り出す。
微生物は、酵素で溶かし出した栄養分を吸収するために水を吸うが、酸性条件では水素イオンまで体内に入ってきてしまい、放っておくと細胞内の組織がダメージを受けてしまう。防ぐためには細胞膜にある排出ポンプを使って水素イオンをかき出さなければならないが、このポンプを回すには大量のエネルギーが必要になる。本来は繁殖や酵素の生産に使いたいエネルギーを生命の維持に使わなければならない。生物にとっては大損失だが、背に腹は代えられない状況にある。

 

●極限下で保たれる土壌の生態系
森の土の中は栄養分が少なく、かつ酸性条件であり、微生物はいつも瀕死の状態である。単細胞の細菌は少なくなり、ストレスに比較的強いカビやキノコがなんとか生き残る。カビやキノコは、数ヶ月かけてゆっくり世代交代しながら、数年かけて落ち葉を食べ切る。ギリギリで生きていることで、かえって食材の貯蓄(落葉層)の持ちはよい。

この二つの悩み、栄養分の限界と酸性の制限がない場所もある。畑の土だ。ここでは、成長の速い細菌が主役となり、数ヶ月で落ち葉を食べ尽くして死んでしまう。畑の細菌を”キリギリス”タイプと名付けるなら、森のカビやキノコは計画的な”アリ”タイプと見ることもできる。

カビやキノコの働きによって、ゆっくり落ち葉が分解され、植物にも少しずつだが持続的に栄養分が供給される。与えられた土や気候の条件で、森の植物と微生物の間には栄養分と酸性をめぐる仕掛けが働き、結果として、両者はバランスをとりながら付き合っている。

以上、森林では、土が酸性になる現象はあるものの、生態系全体としては養分が失われにくい仕組みが成立しており、その潤滑油となっているのが土中の微生物たちなのだ。

 

<参考>
・大地の五億年~せめぎあう土と生き物たち(ヤマケイ新書/著:藤井一至)

投稿者 negi : 2021年11月04日 List   

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