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2014年09月11日

『都市型直売所の可能性を探る』3~生産者を組織化し、本物の野菜をつくるには?~

前回の投稿「2.鮮度の良い野菜とは?」では、お客さんが直売所に一番期待しているところは「野菜の鮮度」で、これを提供するためには、①朝採り・土つき・不揃い野菜、②自然外圧に強い野菜づくり、③在来種の継承など、「生命力の高い、本物の野菜をつくる」ことが重要であることが分かりました。

一方で、現在の一般的な鮮度とは、農薬・肥料で生命力の弱い野菜を、人工的な温湿度管理や遺伝子改良でまかなっているという問題も浮かび上がってきました。

農業という業態は、「安値で儲からない」という不整合な業態であること、価格競争で大量生産競争になっていることから、本当にみんなが必要とする農産物が供給されていないという問題があります。
直売所を起点に「本物の農・食」を供給していき、「野菜の品質向上、農法の追求・開発」に取り組む必要がありますが、そのためには、「生産者が活力を持って取り組み、生産者同士が追求しあう関係づくり」がとても重要です。

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実は、直売所の運営方式は、一般のスーパーなどの小売店とは異なり「直売(委託販売)方式」が大半で、これが生産者のやる気を引き上げるポイントの一つになっているようです。そして、仕組みをさらに発展・高度化させている直売所もあります。

今回の投稿では、農産物の向上⇒生産者の活力向上の仕組みづくりに焦点を当て、その最先端を追っていきたいと思います。

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■Ⅰ.生産者の活力を引き出す、直売所の運営方式「直売(委託販売)方式」
直売所の「直売(委託販売)方式」と、スーパーなどの「仕入(買取)方式」の特徴と違いをみていきましょう。

□直売所の「直売(委託販売)方式」
生産者との追求関係の形成2

直売所で多い「直売(委託販売)方式」は、名前の通り、「生産者が自ら商品計画を立て、値付けし、直接販売(または委託販売)する方法」です。
POS(販売情報管理)システムによって、自分の商品がどのように販売されているのかが分かります。また、野菜に産地や名前が表示されているので、消費者にとってもどこで誰が作ったかが分かり、「顔の見える関係」で野菜の購入ができます。
生産地と販売地が遠距離の場合は、「販売だけを店舗に委託する、委託販売方式」が取られています。

 

□「直売(委託販売)方式」のメリットと課題
httpmillet.lolipop.jpnewsp=910この方式のメリットは、
・中間流通をはさまないので、販売価格が抑えられる
・採ってすぐ配送できるので鮮度の良い野菜が並ぶ
・何より、生産者が経営に参画するので、活力・主体性への求心度が上がり、腕をふるった商品が並ぶ!

一方で、次のような課題もあります。
・生産者は自分の野菜を売り切りたい思いもあるので安さ競争を助長する
・品質の悪い商品が出回ることも多くなる傾向にある
・生産地が限られ、同じ種類の野菜ばかりが並ぶことが多い
画像はこちらからお借りしました。

 

□スーパーなどの「仕入(買取)方式」
スーパーなどで多い「仕入(買取)方式」は、販売店側が主導権を握り、商品計画や仕入数を決定します。各地の大量の農産物を集め、全国の店舗に振り分けを行いますから、商品の品質や基準も厳しく規格が決められています。
「仕入(買取)方式」の課題とメリットは、ほぼ直売方式の反対で、価格が高くなり、保管に時間がかかるので鮮度も低下する傾向にありますが、店舗側で入荷野菜をコントロールし、品質の安定した野菜を並べることが可能です。

 

どちらの方式もいくつかの課題があることが分かります。これは、直売所と生産者個人の関係に留まると、生産者個人の能力や金銭的な問題で、直売所の魅力が限界となります。

販売方式の一番の課題は、このような生産者個々の活力・主体性を引き出すだけでなく、それ以上に、直売所や農業生産のグループとして、組織としてどのような目標・志を持ち、そのためにどのように仕組みを作るのか、そして、生産者全体の活力・能力を生み出す仕組みづくりが特に重要となります。

 

■Ⅱ.生産者を組織化し、追求力を引き出す仕組みづくり
そこで、生産者を組織化し、生産者の活力・追求力を引き上げ、農産物の品質向上・価値向上を実現する最先端の直売所と運営方法をご紹介します。

①生産者同士の経営意識を支えるインフラ
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○「内子フレッシュパークからり」は、「農家の女性による自主的な『塾』から始まり、生産だけでなく、消費者に対し直接マーケティングをする」ことを目標にしています。そこで、農業の情報化によって生産や流通、販売の情報共有を図るため、情報共有システム「からりネット」リンクを整備し、契約農家430件がシステムを活用しています。農家には農業情報端末(FAX・携帯)を、特産物直売所にはPOS(販売時点情報管理)システムを設置し、販売情報や気象情報の共有をおこなっています。農家は販売状況を見ながら、自主的に出荷計画や引取りを行うことができ、「今では1日5回追加出荷する農家も少なくない」との。

②生産者との絆を深める、対面での組織化
○「ファームドゥ」は、「農家の所得向上のため、積極的に地産地消を推進する」ことを目標としています。そこで、ファームドゥの職員の方は、出荷共同組合などに顔を出し、積極的にコミュニケーション・NW化を図りつつ、「生産者説明会」を開催し、今年の戦略や地域の農業の方向性を議論・共有します。さらに、契約農家さんからは、毎年作付計画を出してもらい、地域の農家全体で作付調整を行います。また、年に4~5回、社員研修の一貫として「農作物の物産展見学」を行い、農家さんも参加して見学を行っています。

③生産者の主体性・活力向上→品質向上
○「秋川ファーマーズセンター」は、「生産者の創意と工夫が店を創る」ことを大切にしており、自分がつくった野菜に、自分で値段をつけ、自ら搬入・引き取りを行います。野菜が傷んでいたなど、お客さんからクレームがあった場合は直売所職員が対応し、生産者に伝えられます。
また、作物ごとに農薬、化学肥料の使用回数・使用量などを詳細に記録する「生産履歴管理システム」をつけ、登録生産者は2、3ヶ月に1回、JAに提出することにしています。このシステムを活用することによって、生産履歴記帳を確実に行い、国が定めた残留農薬基準を超えない商品を並べています。下記、リンク
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○「みずほの村」は、「農業生産者自らが再生産できる価格をつけ、安売りより品質で勝負する直売所を立ち上げよう」「農業者は経営者」という理念のもと、「品質競争原理」を導入しています。
1.販売品目への参入は、既存のものより安い値段の禁止 ⇒ 再生産可能な値段付けと品質向上
既に販売されている品目に後から参入する場合、既存のものより安い値段をつけてはならない。
2.権利金、反則金及び報奨金制度 ⇒ 生産者の参画意識の向上と、目標に対する活力向上
毎年、権利金を納め、これを元に最低売上額と売上目標額を設定。未達の場合は反則金を、達成の場合は報奨金を支給。
3.商品管理ペナルティー制度
品質に問題のある商品について、生産者に自主回収を義務付け。店スタッフが気づいて回収した場合、ペナルティーあり。

④組織化による、農法・土壌の向上
○「みずほの村」は、生産者全体の品質向上を図るため、堆肥センターを設立、科学的な視点を取り入れ、土壌分析と施肥設計・圃場の土作りを行っています。土壌分析により、次回作付の必要な肥料成分の過不足を計算し、化学肥料や堆肥で補う場合、何をどれだけ投入すればバランスが取れるのかという、過不足のない適切な施肥設計を行っています。

○「秋川ファーマーズセンター」は、生産者は、昔ながらの「輪作」の方法を継承して、多種類の作物を組み合わせて野菜をつくっています。輪作を行うことで、連作による障害を防ぐことができ、農薬の使用量を減らすことにもつながり、安全・安心の野菜づくりとも結びついています。

○「ファームドゥ」は、野菜のブランド化も行うため、年に1回、農家さんの畑の土壌診断を行い、土づくり計画を立てます。有機肥料などの販売を農家さんに行い、方針に基づいてつくられた野菜は、「ミネラル野菜」として認定シールを貼り、2~3割ほど高値で販売することができ人気を博しています。

参考
秋川ファーマーズセンター(新鮮な生産物とお客さんの活気があふれる「地元の直売所」
「みずほ20年の歩み-農業の新しい時代を切り拓く」(2010年11月 株式会社農業法人みずほ)
農業への活用-「内子フレッシュパークからり」【地域活性化とICT④】
「農協の反発に負けず、零細農家を救う! 「ファームドゥ」創業者の野望」

 

■Ⅲ.直売所の使命は、生産者との追求関係を形成し先導役になること
上記のように、最先端で魅力を生み出しつづける直売所に共通しているのは、大前提として、「農業生産者が食べていける(黒字で経営できる)こと」を大きな目標・志とし、生産者ともその理念を強く共有しています。

そして、それを実現するために農業の技術者集団の力を結集して、それを直売所が先頭に立って技術向上、品質向上に努めていること。さらに、品質が劣る場合は、決して妥協せず、生産者に対して改善・改良を求め、組織としての強い(期待)圧力を作り出しています。

決して、「生産者それぞれで頑張れ」というのではなく、そしてそのために、個別の生産者では解決できない問題も、POSや情報システムを活用し、全員の知識・経験を結集することで、生産者自ら考え解決策を導き出す『追求関係の形成』が何よりも重要と言えるでしょう。

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画像は、こちらからお借りしました。

したがって、直売所の使命としては、

① 経営(黒字化)、品質、地域活性化などの「目標」「志」を強く持つ。生産者たちの社会的目的意識を結集し、同じ意識の生産者で「組織化」する。

② 社会の期待・消費者の意識を深く捉え、「農産物の品質ライン」をつくる。そして、直売所自ら、品質向上の基盤を成す「土壌づくり」や「農法づくり」に取り組む。

③ 生産者同士の「情報共有インフラ」をつくり、成功の共有・妥協しない圧力をつくる。生産者自ら、経営者意識を持ち、品質向上を図ることのできる基盤を整える。

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農業という業態は、「大量生産産業で、安値で儲からない」「生産者と消費者が分断し、想いが伝わらない」など様々な不整合の問題を抱えています。この不整合感を流さず、「経営基盤と経営意識を、生産者にも社会にも浸透することができれば、社会的評価を得られる」ことを最先端直売所は実現しているようにも見えます。

生産者を組織化し追求圧力を生み出し、徹底的に社会の期待に応える。そのためにも、直売所の運営者はこれら生産者の力を結集して、農法などの新しい可能性を切り拓く先導役になることが、直売所に求められる大志・役割と言えるのではないでしょうか。

そして、このような、「追求関係の形成」を基盤として、新しい社会形成へと向かっていくことが、「日本の農業の再生・食の再生」の道程になるのだと思います。

 

この「追求関係の形成」は、なにも生産者同士の関係に留まるわけではなく、生産者と消費者の関係についても同様です。そこで次回は、「お客さんが集まる店づくり=消費者との追求関係の形成」という軸で見ていきます。

投稿者 noublog : 2014年09月11日 List   

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