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2009年05月06日

アンデスのジャガイモ栽培にみる「伝承農法」

◆ジャガイモの原産地・アンデス
栽培化されたジャガイモは、以下の7種あるそうだ。
S.stenotomum(2x)、S.phureja(2x)、S.Aajanhuiri(2x)
S.juzepczkii(3x)、S.chaucha(3x)、S.tuberosum(4x)、S.curtilobum(5x)
真っ先に栽培化されたものは、「ソラヌム・ステノトーマム種(2倍体)」で、やがて大型イモの「トゥベローサム種(4倍体)」の出現で、この種の栽培がアンデス全域に及び、世界中で栽培利用されるようになる。世界各地で栽培されている様々な品種は、トゥベローサム種の一種に由来する(ex.日本:メイクィーン、男爵)といい、残りの栽培種は、現在も栽培がアンデスに限られている、という。
◆アンアデス:マルカパカの伝承農法
クスコの東側で、アンデスの東斜面に位置するマルカパカ村は、インカ以来の伝統農業を維持している地域らしい。
そこでは、
標高4,000m以上  :放牧(リャマ、アルパカ、ヒツジ)
  3,000~4,200m:ジャガイモ栽培
  3,000m以下  :主としてトウモロコシ栽培
がなされており、耕地はコムニダと呼ばれるインカ以来の伝統をもつ共同体の共同耕地で、ジャガイモ耕地は、低いほうからマワイ、チャウピ・マワイ、プナ、ルキと呼ばれる4つの耕地に分けられている、という。
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 ▲マルカパタの高度差利用耕作(出典:ジャガイモのきた道 P.158)
山本紀夫氏は、この高度差利用の理由を、「収穫の危険を分散する生存戦略」とみている。つまり、中央アンデス高地の気候は変わりやすく農業生産は極めて不安定な要素を孕むので、大きな生産性よりも安定的な生産性を求めたからではないか、とみているのだ。
マルカパタのジャガイモ耕地は、4つの共同耕地のそれぞれに各世帯の耕作する畑がある。だから家族ごとに4つのジャガイモ畑を持つことになる。そして、最も高度の高いルキには、決まって耐寒性に優れ病気に強い「ルキ」という品種が植えられる、という。
しかも、そのルキはアクが強くて煮ただけでは食べられないので、全てチゥーニョ(=有毒成分のソラニンをイモを踏みつけて細胞壁外に脱汁し乾燥化することで無毒化したもの)に加工して保存食とされ、食料不足に備える。
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◆水平方向の耕地分散
4つの共同耕地は、夫々にいずれも5つの耕区に分け、そのうちの1つの耕区だけを使い、残りは休閑している、という。そして、このジャガイモ耕地の休閑は、インカ以来のシステムで今も中央アンデス高地では広く行なわれている、らしい。
その理由として地力の回復のため、と云われていることにも山本氏は異を唱え、ジャガイモの連作障害防止策であることを主張する。ジャガイモは病気に弱い作物で、アンデスではセンチュウの有効な駆除策が休閑であるとされている。その期間の長短はあるものの、中央アンデス高地ではジャガイモの連作はなく、少なくとも4年間は栽培しないという原則が守られている、という。
◆多品種少量栽培という危険分散策
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さらに、マルカパタのジャガイモ共同耕地「プナ」は、高度差に応じた4つの共同耕地での面積の最も大きなブロックだが、そこでは30種にも及ぶ品種が栽培されていた、という。収量に力点を置くなら4倍体の品種に絞りそうなものだが、実際は2倍体のものも5倍体のものも含まれているという。
これらの品種の違いは形態の違いに留まらず、病虫害や気候、環境に対する適応性が違うというから、収穫における危険分散を意図してのことと思わざるを得まい。
◆共栄植物(コンパニオンプランツ)の採用
マルカパタのジャガイモ畑には、イサーニョ(ノウゼンハレン科のイモ類)が混植されているという。それは、センチュウの駆除に効果のある物質が含まれていることが知られるようになってきているから、先人達の観察力の確かさを示す事例といえよう。 原因物質を特定できないまでも、共栄植物(コンパニオンプランツ)を見極めていた、ということだろう。
◆伝統と近代化のはざま
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 ▲インカ王のための畑で耕作する人々(出典:ジャガイモのきた道 P.54)
アンデスの農村のジャガイモの収量は、アメリカの耕地面積当り約40(t/ha)に比べ、数十分の一と極めて低い。それというのも、アンデスでは休閑期間があるため。そんなこともあって、アンデス農民の殆どは伝承農業に満足していない、という。近年の収量は、休閑期間が短くなったり輪作の年数が増えたために、惨めなほどに低くなったという農民が少なくないのだという。
共同体の管理の下に作り上げた様式の伝承農業は自然の摂理に叶っていればこそ、飢餓に至らずにインカ時代の食を支えてきた。にも拘らず、マルカパタのジャガイモ共同耕地も近代農法を取り入れていくのか? 
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 ▲レイズ・フィールドの構造(出典:ジャガイモのきた道 P.36)
或いは、量産はチィチィカカ湖周辺の生産性の高い「盛り土農耕」(レイズド・フィールド=現地語でワルワル)という「伝承農法」にのみまかせるのか? それは彼らが決めていくべき課題だが、気になるところだ。
参考:「ジャガイモのきた道――文明・飢餓・戦争」山本紀夫著
     by びん

投稿者 staff : 2009年05月06日 List   

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