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2021年11月11日
植物の種子は、仲間とコミュニケーションを図り、外敵闘争上の優位性を保とうとしている
植物同士がコミュニケーションを取りながら集団として外圧に適応しているのは、前回扱いました。
今回は植物の「種」に注目してみました。調べてみると驚くべきことに、植物の種同士も土のなかでコミュニ―ケーションを取り合い、仲間と一緒に発芽し、「集団」をつくっているようです!
ではその仕組みはどのようになっているのでしょうか?
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植物たちは往々にして「集団」を形成します。これはたまたまその場所に種が固まって落ちたからそんな風に生えているのでしょうか?
どうも違うようです。
植物の種は、種同士でコミュニケーションをとり発芽のタイミングを見計らっています。
それではここからは、「Academist Journal」(https://academist-cf.com/journal/?p=6046)から引用します。
◆ ◆ ◆
1.情報の統合処理とは?
私たちが生きる世界は、情報で溢れています。私たちは、食物を獲得し、外敵から逃れ、配偶者を得て繁栄するために、必要なときに必要な情報を利用する能力を進化させてきました。過酷な環境でも生き残り、子孫を残すためには、さまざまな情報を総合的に考慮して決定を下し、最適にふるまう必要があります。
動物は、複雑に絡み合う複数の情報を考慮(統合処理)し、決定を下す能力をもっています。このような情報統合は、脳などの中枢神経系を介しておこなわれる高度な情報処理機構として、動物に特有のものと考えられてきました。
一方で、発達した中枢神経系をもたない植物においても、近隣の競争相手や土壌養分の存在といった複数の情報を統合処理し、根の成長パターンを変化させることが近年明らかにされてきました。植物は、葉や根などの各組織や細胞で受容したシグナルを、組織間または細胞間で伝達しあうことで各情報を統合するシステムを備えていると考えられています。
2.胚をとりまく生物的環境
ヒトを含む哺乳類は、母親が子宮内で胚を保護し、ある程度成熟してから生み出されます。一方、卵生動物や植物では、胚は卵や種子の状態で外環境へ放出されるため、母親の保護や制御から離れ、捕食や競争などの多種多様なストレスに晒されます。孵化したばかりの子や発芽したばかりの芽生えは、成長段階のなかで最も脆弱な存在であるため、胚は、生き抜くために適切なタイミングを推し量って出てくる必要があると考えられます。このような状況下では、胚は未熟ながらも外環境の複雑な情報を収集し、それに基づいて孵化や発芽のタイミングを決定している可能性があります。
この予測を確かめるため、私たちは身近な雑草であるオオバコを使って検証することにしました。オオバコは、野外で複数の個体が集団を形成して生育しています。ひとつのオオバコの集団のなかには、遺伝的に近い個体や遠い個体が混在している場合があり、それらの個体と長期間関わり合いながら生育しています。同種の競争者に加えて、シロツメクサのような他種の競争者もオオバコの集団を取り巻いています。オオバコの種子は、特別な撹乱が生じない限りその場所に留まり、競争にうち勝たなくては生きていけません。オオバコの種子は、周囲の状況を認識し、自らのふるまいを変えることができるのでしょうか。
3.オオバコの生育環境
私たちは、オオバコの種子が、「同種の種子の遺伝的類似性」と「他種の存在」という2種類の異なる情報に応じて異なる発芽応答を示すのかを検証することで、植物の胚による情報の統合処理の可能性を探ることにしました。
種子はどのように応答するか
(1)異なる情報に対する応答
はじめに、一緒に播種された同種の種子の存在や遺伝的な類似性、または他種の種子の存在というそれぞれの情報に対して、オオバコの種子がどのような発芽応答を示すのかを調べました。同じ親株から採取された“遺伝的類似性の高い同種の種子”と、異なる集団の親株から採取された“遺伝的類似性の低い同種の種子”、そしてオオバコと競争関係にあるシロツメクサの種子を“他種の種子”として扱い、それぞれオオバコの種子と一対一で湿らせた砂を敷いた栽培容器のなかに播種して発芽のタイミングを調べました。
その結果、それぞれの種子と一緒にされた場合でも単独で播種された場合と同じように発芽することがわかりました。オオバコは、同種や他種の存在といったそれぞれの刺激に対しては、特別な発芽応答を示しませんでした。
(2)情報の組み合わせに対する応答
次に、2つの情報が同時に与えられた場合の種子の応答を調べました。ひとつの栽培容器に、遺伝的類似性の高いオオバコの種子、遺伝的類似性の低いオオバコの種子、シロツメクサの種子を、それぞれ組み合わせを変えて2つもしくは3つずつ入れ、観察対象とするオオバコの種子の発芽タイミングがどのように変わるかを調査しました。
すると、遺伝的に近い種子と一緒にシロツメクサの種子を播種された場合のみ、他の場合よりも1日ほど早く発芽することが判明しました。これは、オオバコの種子が同種の遺伝的類似性と他種の存在という異なる2つの情報を統合し、発芽タイミングを変えていることを示しています。
4.近隣の種子に対するオオバコ種子の発芽応答
解析を進めると、さらに興味深いこともわかってきました。一緒に播種された同種の種子間の発芽日のずれ(発芽の同期程度)を調べたところ、他種に遭遇した遺伝的に近い種子同士は、他種に遭遇していない場合に比べてより同期して発芽していたのです。
同期して発芽するためには、相手の発芽タイミングを推し量り、自身の発芽タイミングを合わせるという精緻な発芽タイミングの調節が必要となります。これは、オオバコの種子同士が互いに何らかの情報のやり取り、すなわちコミュニケーションを行っていることを示唆しています。このような現象は“Embryonic communication(胚間コミュニケーション)”と呼ばれ、カメやヘビなど動物の胚が、隣の胚と振動情報をやり取りすることで同期孵化を成し遂げる例などが知られています。オオバコの種子の同期発芽は、植物で胚間コミュニケーションの存在を示唆したはじめての例となりました。
どのようにしてふるまいを決定するのか
種子による周辺状況の把握やコミュニケーションは、どのような手がかり(キュー)を用いて達成されているのでしょうか。種子は、発芽する前に周囲から水分を取り込みます。私たちは、取り込まれた水に含まれる化学物質を種子内部の胚が受容しているのではないかと予想しました。
それぞれの種子を水に浸して抽出液をつくり、オオバコの種子に与えてみました。予想したとおり、近縁の種子とシロツメクサの種子の抽出液を与えた場合にのみ、オオバコの種子は発芽タイミングを早めることがわかりました。加えて、隣の種子との発芽の同期程度を調べたところ、シロツメクサの種子の抽出液を与えた場合のみ、近縁の種子と同期して発芽していました。
◆ ◆ ◆
ここからわかるように、オオバコの種は、生存競争上の外敵に当たるシロツメクサの種に反応し、水分を介して化学物質を取り込むことで反応し、仲間とコミュニケーションを図り、発芽時期を早めて外敵闘争上の優位性を保とうとしているのです。
ここからわかることは大きく3点
1.植物の種は外圧を認識している。
2.その外圧状況を仲間と共有している
3.状況を把握した上で、発芽時期を早めるという統合的判断をしている
ここで更なる疑問もわいてきます。では種はどうやって「発芽時期を早める」という判断をしているのでしょうか?これは情報を集め、統合しなければ出来ません。そのような統合的な判断を「脳」を持たない種は、どのように行っているのでしょうか?
続きは次回以降で扱いたいと思いますので、是非お楽しみに!
投稿者 sue-dai : 2021年11月11日 TweetList
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