【農の歴史】第7回 惣村の歴史は農村の歴史~日本独自の村落共同体の原型 |
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2021年10月27日
『農村学校をつくろう!』シリーズ-9~江戸時代に学ぶ:本来集団は殖産一体!その中でこそ人は一人前に育つ!
前回の投稿では、江戸時代の子どもたち自身が集団をつくり、そして、地域をつくる役割を担うことで、一人前の大人に成長する基盤として「子供組」「若者組」を見てきました。
若者組は男性(13~35歳)の共同生活の組織。それに対して、村の娘たち(12歳~)の組織が「娘組」です。江戸時代の村落共同体には、子供~大人まで、村落自治のための組織と役割が複層的にあったんですね。
若者組も子供組も、祭りの運営や火事・地震・津波・風水害・海難事故・急病人の発生等非常事態への対応などは、地域自治で重要な役割を担って、そしてその中で共同体の一員として成長を果たしていったのは、前投稿のとおり。
今回の記事では、女性たちでつくる「娘組」はどんな役割を担っていたのか?そして娘たちはどのように成長していったのか?を追求していきます。
■共同生活と生産活動中で、女同士の団結を深めた→これが村の団結力の基盤
娘組も、実家を離れ、共同で寝食を共にしていました。夕食をすませると娘たちが集合して、縄をなったり、草履を作ったり、苧績み(布に織るために麻を細く裂いてつなぎ合わせて糸にする)や、裁縫などの針仕事を、共同で作業するなど、夜なべ仕事をしました。
この、娘組が、共同作業したり、寝泊りしたりできる宿舎を「娘宿」と言います。
生産活動の一端を担っていたのだと思いますが、ここでの女同士のおしゃべりは、実はかなり重要だったのではないでしょうか。村の中で起こっていることを共有したり、若者組の男の噂(評価)や、女同士の評価などが話題の中心だったのではないでしょうか。ただし、それは陰口や駆け引きなどではなく、あくまで集団として良くなるにはどうする?に貫かれていたと思われます。その中で、村の女同士の関係が強固になり、それが村全体の団結力の基盤になったのだと思います。
■縁組は、実は女同士のおしゃべりの中で決められていたのでは?→生殖という集団としての最重要課題は女が主導した
娘宿は、遊び宿、寝部屋とも称され、性行為や夜這いの指南などを含む、婚姻の媒介機関としての役目を担っていました。
例えば、ムスメアソビといって、同じムラの若者たちが連れ立って娘宿を訪れ、娘たちの仕事を手伝いながら談笑しました。その中で一組のカップルが自他ともに認められると、宿親(宿を提供した家の主人や主婦で、娘をしつけ、娘たちのよき相談係であり、監督者であった)が話をつけて正式な婚姻関係に発達したといいます。
そして、こうしたことは若者が何の規律もなく勝手する放恣では決してなく、仲間同士内の相互規制が働いていたようです。
青森県下北郡東通村尻屋における「若者連中規約」には以下のような記述があります。
- 若者連中は一週間に一回平均なる集合に会合する事。
一、15歳以上の女を以て、「めらし組合」を組織し、これは若者連中に附属し、凡ての行動は若者連中の指揮を受くるものとす、随って保護を受くるものなり。
一、「めらし外泊」は、若者連中の許可なくして出来ざる事。
一、尚連中の若者に非ざれば、肌を接する能わざる事。
一、家族は一切娘そのものには、何も構えもせず、一切若者連中に預け、若者の自由に任せること。
若者組との交流に親や家族は口出しせず、若者たちの自治に任されていたのです。かといって各々の好き勝手やるのではなく、若者たちは自分たちで規律をつくり、あくまで集団を維持するためという視点で決定していたのだとおもいます。
そしてここには、“若者連中の許可なくして出来ざる事”“、“若者連中に預け、若者の自由に任せる”とありますが、実態としては娘組側の、女同時のおしゃべりの中で、縁組がほぼほぼ決められるようなことが多かったのではないかと想像します。村の団結の基盤を作っていたのは女性陣であり、男性陣よりも集団発で物事を判断できただろうし、女性たちの方がおしゃべりのなかで集団内の状況を把握していたので、より的確な判断ができただろうと思います。
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ここまで見てきて非常に重要なのは、村落共同体では、生産活動と同じように生殖活動も重要な集団課題として位置づけられていた(殖産一体)ということです。
現代では、生産活動は職場/生殖活動は家庭と、それぞれを担う集団が分けられてしまっており、それゆえに出生率や子育ての社会問題が噴出していますが、本来は両社が一体の集団内に包括されるべきと考えます。
そしてその同じ集団内で、男(若者組)の役割が、主に生産活動や、有事の際に矢面に立って集団を守る課題に重点が置かれていること。そして女(娘組)の役割として、まず女同士が強固な親和関係を作り同体の団結力の要となっていたこと、そして集団として最も重要な生殖活動を主導することに置かれているということは、注目すべき点です。
これは、人類を含む哺乳類の集団摂理にも通じています。
哺乳類の集団構造④~オスの役割は変異を求めて外へ飛び出すこと
それゆえに男も女も、集団を担う立派な大人に成長していったのでしょう。
生殖と生産が一体の集団の中で、男女がそれぞれに役割をになう・・・現代の常識との乖離もありますが、逆に種にとって最も重要な課題でもあります。
現代に「農村学校」を作るにあたっても、現実的な落としどころを探りながら、可能性を探っていくべきポイントだと思います。
【参考】
青年団の活動で消滅-若者の男女交際の場「娘宿」
「農村・漁村にあった「寝宿」が消滅したのはなぜか」
投稿者 o-yasu : 2021年10月27日 TweetList
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