『農村学校をつくろう!』シリーズ-6~農を核とした学びの先端潮流と今後の展望~ |
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2021年10月07日
農から考える自然の摂理~「土の仕組みを探る」:なぜ土は酸性やアルカリ性になるのか
「酸性の土地では作物がうまく育たたない」。
農業ではよく聞く話。たしかに酸性というと生き物に悪いイメージもあるが、植物との関係はどうなっているのか?
実際、土壌の酸性化は、多くの植物にとって歓迎できない事態である。
酸性土壌になると、有害なアルミニウムイオンが溶け出し、植物の根の生育を阻害してしまう。さらに、植物生育に必須なリンが水に溶けにくくなり、根から吸収しにくくなってしまう等の問題がある。
今回はまず、そもそも土はなぜ酸性やアルカリ性になるのか?を考えてみたい。
酸性とは、水の中の水素イオン(H⁺)が多い状態を指す。水の酸性度の指標pHが7以下のものだ。7以上はアルカリ性を表す。
世界的に見ると、降水量の少ない草原や砂漠の土は中性からアルカリ性の特徴を示すが、森林が発達した地域の土は酸性になる。東南アジアの熱帯雨林も日本の温帯林も、その下には酸性の土壌が広がっている。
…木が茂っているのに土地は酸性?
●土壌pH値の鍵を握る「水」
なぜ土は酸性やアルカリ性になるのか?そのカギを握るのが水である。
雨や雪は、蒸発や植物の蒸散によって大気に還り、余った水は土を浸透する。地中を流れた水はやがて川をなし、湖や海へたどり着く。
水の浸透によって土や岩石から溶け出したカルシウムは、二酸化炭素を吸収し、炭酸カルシウムとして沈殿する。炭酸カルシウムとは石灰岩や貝殻の主成分であり、これが、乾燥地の土をアルカリ性にする正体だ。
降水量が増加すると土を浸透する水の量が増加し、炭酸カルシウムは地下水まで流され、洗われた土は中性から弱酸性になる。
雨は酸性物質を含むこともある。有名な酸性雨だ。特に産業革命以降、石炭の燃焼に由来する硫酸や、車の排気ガス由来の硝酸を含んだ酸性雨が降り注いだ。ただ、酸性雨は土を酸性にする一因に過ぎない。
●土壌の酸性化は植物の適応戦略
酸性雨以上に強い力で土を酸性に変えるのが、驚いたことに、生き物たちである。植物は、カリウムイオンやカルシウムイオンなどの陽イオンを多く吸収するために、代わりに水素イオンを根から放出する。その量は森に降り注ぐ酸性雨の10倍以上と言われる。
また微生物は落ち葉を分解すると、その一部を酸性物質(有機酸や炭酸、硝酸)として放出する。ちなみに前回のブログで紹介した植物の祖先「地衣類」もまた、酸性物質を放出して硬い岩石を溶かして養分を得ている。
もちろん酸性物質を中和する生き物もいるが、湿潤な地域ほどこうした「酸性」を巡る生き物たちの応酬を経ながらも少しずつ土は酸性に傾いていく。
自然の森林は、このように土が酸性(→貧栄養化)になる現象はあるものの、生態系全体としては養分が失われにくい仕組みを絶妙なバランスの下で成り立たせていることが見えてくる。
植物は、酸性土壌をさらに酸性に変えるという究極の選択によって栄養分を獲得してきた歴史をもっている。
その意味で、土壌の酸性化=単純な土壌劣化と断じることはできない。植物が与えられた土壌条件を受け入れて生き延びるだけでなく自ら積極的に土を変化させながら適応しようとした結果の産物と捉えた方が良さそうだ。
<参考>
・大地の五億年~せめぎあう土と生き物たち(ヤマケイ新書/著:藤井一至)
投稿者 noublog : 2021年10月07日 TweetList
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