2021年12月16日

2021年12月16日

『農業と政治』シリーズ 第1回  江戸の小農制が良くも悪くも、その後の日本の農業を作った

農業には農家という言葉があるように農業を支えるのは各家族である。
この傾向が始まったのは江戸時代の小農政策にある。

この小農政策こそ農協必要の原点であり、逆に言えば小農である限り、大農と比べて補完する機関である農協は必要不可欠であるとも言える。なぜ日本の農業は小農なのか?生産や産業という観点で普通に考えれば少規模であるほど生産性も悪く高度化しない。それを遂に現在に至るまで小農至上主義と見えるかのように継続している。

これは秀吉の1582年に発足した太閤検地の制度まで遡る
「1582年(天正10年)、太閤検地によって全国の土地、収穫量、年貢量などを定めて記録し、さらに「一地一作人」の原則を定めた。それまでの荘園制では、農民と領主の間に荘官や地頭、守護など、土地に権利を持つ者が幾重にも入りくんでいたのが、秀吉は中間搾取を排除して、その土地の年貢はその土地を耕す農民自身に受け持たせることとした。土地台帳に農民の名を記し、農民の自立心を促して、同時に富の集中をはかった。」

徳川の為政は秀吉のそれを引き継ぐが、小農制にさらに5人組や村といった村落共同体をかけ合わせ小農制度を地域という集団で育てていく。農業を家庭という単位で存続させるには様々な制度が必要だった。諸外国の農業は大地主や国家、大集団という単位が多く、小農制度は主流ではない。我が国はこの小農制度によって農業が育成され勤勉革命と称して江戸時代通じて農業生産が上昇していった。

しかし、江戸の農業は決して豊かではなかった。
耕作面積は確かに江戸初期から晩期まで右肩上がりで倍の面積まで拡大したが、人口の伸びも同様に拡大し、一人あたりの生産高は決して高くなく、小農制による非効率化を品種改良や肥料の技術によって維持してきた時代と見ることができる。
下記のグラフはそれを表している。

■江戸時代の生産効率

■江戸時代の人口推移

 

また江戸時代には度重なる飢饉が襲う。その規模は現在のコロナや東北地震等の災害の比ではなく、江戸時代の人口が江戸後期は全く伸びなかったのは30回に渡る大飢饉による。(飢饉の数では150回を数える)260年間に150回だからほぼ3年に2回程度飢饉がおきていた勘定になる。それほど江戸時代の農と食糧事情は厳しかった。

・亨保(きょうほう)の飢饉
1732年(亨保17年)夏に長雨といなごが大発生したことによって起こり、西日本一帯でお米の収穫量が平年の15%しかなかった。全国で264万人以上の人が飢え、1万人以上の人が餓死したと伝えられている。
・天明(てんめい)の飢饉
1783年(天明3年 )の霜の害によって起こり、数年間続いた。この飢饉によって餓死した人の数は、全国で50万人以上にも及んだと言われている。
・天保(てんぽう)の飢饉
1833年(天保4年)に冷害、洪水、大風雨などが原因となり、1836年(天保7年)頃まで続いた。農村では百姓一揆が続き、都市でも貧しい町人たちが、米屋・質屋を襲う打ちこわしが起きたが、幕府や諸藩にはこれらを完全におさえる力がなかった。これら一連の飢饉で幕府の衰えは、誰の目にもあきらかになった。

江戸晩期に救済の為の先祖株組合が登場したのもこういった貧困の社会外圧を発端としている。

★まとめると

江戸時代の大量開墾の大号令で農業人口の拡大の必要性⇒勤勉性を高めるために小農制度の徹底⇒農業は家族単位に解体。⇒度重なる自然災害⇒貧困農家の多発⇒江戸時代に救済の為の組合が発足。

この小農制という矛盾を明治まで引き継いだ日本帝国は明治時代に帝国農会を発足。帝国農会という文字だけを見ると国家が直接農業を推進するかのように見えるが、その実はどうであったか、農協の歴史を見ていく上で明治から戦前までの流れはもう一つの押さえておくポイントになる。次回の投稿で解明していきます。

投稿者 tano : 2021年12月16日  

2021年12月16日

『食糧問題』シリーズ:アフリカが飢餓に陥る原因は、西洋諸国による「緩やかな略奪の構造」にある

食糧問題を扱う本シリーズ、記念すべき2回目の投稿です。前回は全世界の飢餓マップ=ハンガーマップを見ながら、まだまだ飢餓状態にある国が多くあるという現実をおさえつつ、一方で世界全体の穀物の生産量は、すでに世界の消費量を軽く上回っているという事実も押えました。

ここからわかってくることは、地域によって食料を占有していく国もあれば、食料が手に入らない国もあるということです。

そしてハンガーマップを見ると明らかに「アフリカ大陸」における飢餓状態が酷いことがわかります。

 

 

なぜアフリカは、現代においてここまで飢餓状態にあるのでしょうか?今回はそのあたりに迫っていきたいと思います。

(さらに…)

投稿者 sue-dai : 2021年12月16日  

2021年12月16日

【世界の食と農】第1回 アメリカ~世界一効率的な農業は、世界一不安定な農業になった~

世界の食と農シリーズ第一回目は、日本とも政治的つながりが強いアメリカにいついて追求していきます。

アメリカの農業生産額は、中国、インドに続き世界第3位。更に農産物・食料品の輸出額については世界1位。世界有数の農業大国としてもその名は有名です。
日本もアメリカから多くの農作物や食品を輸入しており、「アメリカからのトウモロコシが途絶えれば日本の家畜は1日も持たない」と言われるほど、食料依存しています。
なぜアメリカ農業はこんなに強いのか?調査する中で見えてきたポイントを紹介します。

①広大な農地と機械化
アメリカ農業の柱はトウモロコシと大豆。2017年のデータによると、それぞれの作付面積は日本国土に匹敵するほどの広さ。トウモロコシと大豆はもともと気温の高い中南米の作物ですが、最近では品種改良が進み、ある程度どんな地域でも育てることができます。
センター・ピポット潅水というものをご存じでしょうか?半径1㎞もあるような巨大な自走式散水管に化学肥料入りの汲み上げた水を高圧をかけて注入し、散布するという潅水方法です。アメリカの農地ではこのような機械が一般的に使われています。
「広大な農地」と「機械化」によってとことん効率化された農業。単位面積当たりの収穫量はいずれも世界最大となっています。
しかし、大量の肥料によって周囲の川や湖は過多栄養となり汚染され、強引な灌水によって農地は地中から塩を噴かせるアルカリ土壌に変わります。このような農業による環境汚染がアメリカでは度々問題になっているのが実情のようです。

画像はこちらからお借りしました。

②遺伝子組み換え作物
上記の「効率化」に更に拍車をかけたのが「遺伝子組み換え作物(GM作物)」です。遺伝子組み換え作物とは品種改良技術の1つで、作物の性質を変え、栄養価を高めたり乾燥に強くしたりすることがアピールされています。アメリカではバイオ化学メーカーである(現在は買収されていますが)モンサント社が、同社開発の強力な除草剤にも耐えうる作物として売り出されたのがきっかけとなり、効率重視の農業界に瞬く間に広まりました。今ではアメリカ産のトウモロコシ、大豆の9割がGM作物となっています。
小麦や米など人の主食になる作物に関しては「消費者に受け入れられないだろう」という見解で、「主に家畜の餌や衣料、燃料になるトウモロコシや大豆に限定されている」という記事を見かけましたが、その家畜だって食料になりますし、アメリカ産トウモロコシや大豆の加工品は私たちの食卓に日常的に並びますよね。何だか目眩ましされているような気がしますが、このような巧妙な企業戦略もあり、GM作物は今や私たちにとって身近なものになっています。

③多重に掛けられる補助金と安さに流れる消費者
ではなぜアメリカの作物はこんなに需要があるのか。その理由の1つが「安さ」です。
肉類など顕著ですが、日本で売られているアメリカ産の作物は一般的に安い傾向にあります。①で述べたように最大限の効率でつくられる作物はそもそも単価が低い、ということもありますが、もう1つアメリカ作物には多様・多額の輸出補助金が掛けられていることが挙げられます。(こちらの記事に詳しく説明されています。)
補助金を多重に掛け、気候によって生産量が乱れても安定した価格で輸出することができる。これが、アメリカ政府が長らく他国に対して行ってきた貿易戦略です。
しかし一方、消費者である私たちも「安さ」に流れ、自国作物の生産量を落とし、歪な経済体系をつくってきた当事者とも言えます…。この歪みを正すのは困難ですが、今、有機栽培やオーガニック志向という新しい潮流も生まれつつあります。そんな新しい潮流の可能性も探っていきたいと思います。

画像はこちらからお借りしました。

以上のことから、アメリカ大規模農業の実態が見えてきました。
効率を重視し、生産量を限界まで引き延ばしてきたアメリカ農業は、その裏で環境破壊と歪な経済対策に悩まされ、今や世界一不安定な農業をしていると言えるかもしれません。しかし効率を重視し、自然の摂理を無視する傾向はどの先進国も共通であり、近代から現代までの農業の在り方をどの国でも根本から見直す必要がありそうです。

投稿者 ideta : 2021年12月16日