『食糧問題』シリーズ:イントロ~世界で食糧問題が起こる構造に迫り、持続的な安定供給できる生産・流通の仕組みを探る |
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2021年12月16日
【世界の食と農】第1回 アメリカ~世界一効率的な農業は、世界一不安定な農業になった~
世界の食と農シリーズ第一回目は、日本とも政治的つながりが強いアメリカにいついて追求していきます。
アメリカの農業生産額は、中国、インドに続き世界第3位。更に農産物・食料品の輸出額については世界1位。世界有数の農業大国としてもその名は有名です。
日本もアメリカから多くの農作物や食品を輸入しており、「アメリカからのトウモロコシが途絶えれば日本の家畜は1日も持たない」と言われるほど、食料依存しています。
なぜアメリカ農業はこんなに強いのか?調査する中で見えてきたポイントを紹介します。
①広大な農地と機械化
アメリカ農業の柱はトウモロコシと大豆。2017年のデータによると、それぞれの作付面積は日本国土に匹敵するほどの広さ。トウモロコシと大豆はもともと気温の高い中南米の作物ですが、最近では品種改良が進み、ある程度どんな地域でも育てることができます。
センター・ピポット潅水というものをご存じでしょうか?半径1㎞もあるような巨大な自走式散水管に化学肥料入りの汲み上げた水を高圧をかけて注入し、散布するという潅水方法です。アメリカの農地ではこのような機械が一般的に使われています。
「広大な農地」と「機械化」によってとことん効率化された農業。単位面積当たりの収穫量はいずれも世界最大となっています。
しかし、大量の肥料によって周囲の川や湖は過多栄養となり汚染され、強引な灌水によって農地は地中から塩を噴かせるアルカリ土壌に変わります。このような農業による環境汚染がアメリカでは度々問題になっているのが実情のようです。
画像はこちらからお借りしました。
②遺伝子組み換え作物
上記の「効率化」に更に拍車をかけたのが「遺伝子組み換え作物(GM作物)」です。遺伝子組み換え作物とは品種改良技術の1つで、作物の性質を変え、栄養価を高めたり乾燥に強くしたりすることがアピールされています。アメリカではバイオ化学メーカーである(現在は買収されていますが)モンサント社が、同社開発の強力な除草剤にも耐えうる作物として売り出されたのがきっかけとなり、効率重視の農業界に瞬く間に広まりました。今ではアメリカ産のトウモロコシ、大豆の9割がGM作物となっています。
小麦や米など人の主食になる作物に関しては「消費者に受け入れられないだろう」という見解で、「主に家畜の餌や衣料、燃料になるトウモロコシや大豆に限定されている」という記事を見かけましたが、その家畜だって食料になりますし、アメリカ産トウモロコシや大豆の加工品は私たちの食卓に日常的に並びますよね。何だか目眩ましされているような気がしますが、このような巧妙な企業戦略もあり、GM作物は今や私たちにとって身近なものになっています。
③多重に掛けられる補助金と安さに流れる消費者
ではなぜアメリカの作物はこんなに需要があるのか。その理由の1つが「安さ」です。
肉類など顕著ですが、日本で売られているアメリカ産の作物は一般的に安い傾向にあります。①で述べたように最大限の効率でつくられる作物はそもそも単価が低い、ということもありますが、もう1つアメリカ作物には多様・多額の輸出補助金が掛けられていることが挙げられます。(こちらの記事に詳しく説明されています。)
補助金を多重に掛け、気候によって生産量が乱れても安定した価格で輸出することができる。これが、アメリカ政府が長らく他国に対して行ってきた貿易戦略です。
しかし一方、消費者である私たちも「安さ」に流れ、自国作物の生産量を落とし、歪な経済体系をつくってきた当事者とも言えます…。この歪みを正すのは困難ですが、今、有機栽培やオーガニック志向という新しい潮流も生まれつつあります。そんな新しい潮流の可能性も探っていきたいと思います。
画像はこちらからお借りしました。
以上のことから、アメリカ大規模農業の実態が見えてきました。
効率を重視し、生産量を限界まで引き延ばしてきたアメリカ農業は、その裏で環境破壊と歪な経済対策に悩まされ、今や世界一不安定な農業をしていると言えるかもしれません。しかし効率を重視し、自然の摂理を無視する傾向はどの先進国も共通であり、近代から現代までの農業の在り方をどの国でも根本から見直す必要がありそうです。
投稿者 ideta : 2021年12月16日 TweetList
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