2010年8月15日
2010年08月15日
「日本は世界5位の農業大国~大嘘だらけの食料自給率~」の書籍紹介(1)
「日本は世界5位の農業大国~大嘘だらけの食料自給率~」(浅川芳浩裕著/講談社刊)を読みました。
前半は、新たな気付きを得て、グイグイ引きずり込まれる力を感じましたが、後半は、心の奥深いところで『澱』のようなものが滞ってしまうように感じたのが、正直な感想です。書籍の中味を紹介しながら、引っかかるものの正体は何か? を考えてみたいと思います。
◆日本は世界5位の農業大国
農水省や政治家やマスコミが、自給率向上を叫ぶ根拠として、「日本は世界最大の海外食料輸入国」で「海外に食料の大半を依存している」といいます。その認識そのものが誤っているとして、浅川氏は、下表の事実を提示しています。
それどころか日本は、農業の国内生産額は826億ドルで、先進国のなかでは米国の1775億ドルに次いで2位。世界全体で見ても、1位:中国、2位:米国、3位:インド、4位:ブラジルに続き第5位の農業大国なのだといいいます。これは、目からウロコでした。
◆食料自給率のカラクリ
例によって、農水省・政治家・マスコミの喧伝する自給率は、「供給熱量総合食料自給率」俗に「熱量ベースとか、カロリー・ベース」という総合自給率です。計算式に沿って確認してみます。
といことになるとのことです。これは、意外と理解できていません。それって、自分だけ?
【自給率を見るときの注意点】を分かりやすく展開しているレポートがあるので抜粋して紹介します。
【ⅰ】必ずしも国産品の国内シェアを意味しない
(★)式からわかるように、分母では輸出分を減じるが、分子では国産品のうちで輸出に回った分を減じていない。このため、「自給」率という名称にもかかわらず、輸出の多い国では100%を超える場合がある。言い換えると、国産品が輸出されている場合には、食料自給率は、「国産品の国内シェア」を意味しない。
【ⅱ】食料不足の指標ではない
食料自給率は、ときに、食料不足の指標と混同される。
分子は「国内生産量」であり、分母は「国内消費仕向量=国内生産量+輸入量-輸出量-在庫の増加量(又は+在庫の減少量)」である。輸入が困難な状況にある国では、分母の数値が分子の数値に近いのであるから、国内生産の多少にかかわらず、自給率は高くなる傾向を示す。
よって、その国が食料不足の状態にあるか否かを知るためには、栄養不足人口の割合(又は国民1人1日あたりの食料供給量・供給熱量)の数値をみる方が適切である。
【ⅲ】消費の変化により数値が変化することもある
食料自給率の計算式の分母の数値は、国民の生命維持と健康な活動に必要な量や熱量又はそれに相当する額ではなく、現実に消費に仕向けられた量・熱量・額である。そのため、経済・社会的な状況や、消費者の好みなどによっても変化する。
つまり、食料自給率の数値は、国内生産量(=計算式の分子)だけでなく、消費の水準や内容(=計算式の分母)によっても変化する。
【ⅳ】輸入途絶後は、国内生産の「量」が重要
有事の際に、最終的に生死にかかわるのは、国内生産の「量」であって、「率」ではない。また、一般論として、こうした状況への対処としては、消費と生産を平常の状態から転換させること(消費水準を下げ、代替品を消費することとして、農業生産を熱量の高い植物性の品目に集中し、増産を図るなど)が考えられるが、生産転換後の食料供給力も、食料自給率の数値からは測れない。これを知るためには、別途、推計が必要となる。
「食料自給率問題」(農林環境課・森田倫子著)より抜粋
http://www.ndl.go.jp/jp/data/publication/issue/0546.pdf
要は、食料問題を「供給熱量総合食料自給率」のみで言及するには無理がある、ましてや、食の安全保障を語るには別の切り口が必要だ、としています。ここで、同じ農水省からのレポートなのに、農水省の「食料自給率キャンペーン」にこの手の説明文が登場しないのは何故か? という疑問が湧いてきます。
参照 図録▽日本及び各国の食糧自給率の推移
投稿者 staff : 2010年08月15日 Tweet