『農業と政治シリーズ』7回 農協は必要か否か? |
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2022年02月02日
『農業と政治』シリーズ8:柳田國男が見た日本の農業
【『農業と政治』シリーズ7:農協は必要か否か?】を経て、同シリーズは今回より新たなテーマに入ります。
主人公は、柳田國男。
日本民俗学の創始者と呼ばれる彼が、明治時代、農政改革を志し活動していたという事実を皆さんはご存知でしょうか。
農商務省(現在の農林水産省と経済産業省の前身)の在籍期間はわずか2年(1900-1902)ながら、その後も全国各地を回って農政についての講演や視察を行い、1910年には講演録をまとめた「時代ト農政」を刊行。
百年前に書かれたその内容は、現在進行形の課題として未だ抜本的な解決策を見出せていない、国内農業衰退の本質にも迫るものです。
初回となる今回は、彼が農政改革を志す起点となった「(明治時代)当時の日本農業・農家の現実」をご紹介していきます。
●米を食べられない農家
戦前において農村や農家は貧しかった。地主階級が農村を支配していた。地主制の下で、小作人は、収穫した米の半分を地主に小作料として納めさせられ、しかも、小作人の経営規模は、三反百姓とか五反百姓と呼ばれるように、1ヘクタールにも満たない小さな規模だった。
当時の米の面積当たり収量は、今の半分程度の反当り300キログラムだった。五反百姓だと小作料(米の物納)を除くと手元に残る米は、750キログラムに過ぎない。そこから五反分の生産に必要な肥料代などを引かなければならない。
江戸期では入会の山林原野からの刈草や人糞などが肥料として使用された。江戸という町は、周辺の農村との間で、農産物の供給を受けるとともに、人糞を提供するという、循環的かつ持続的な経済社会を形成していたのである。
ところが、1894年の日清戦争後、中国大陸から輸入された大豆粕が肥料として使われるようになり、さらには1910年頃から硫安など速効性のある化学肥料が使用されるようになると、米の収穫量を増加させるために、より効果が上がる肥料を購入するようになった。
経済が発展する中で、子供への教育など人並みの生活を送ろうとすれば、自ずと選ばざるを得ない手段であろう。農家は肥料の自給を止め、次第に購入肥料への依存度を高めていったのである。
ここで当時の農家の家計を考えてみる。手元に残った750キログラムの米から肥料代などのコストを差し引くと、残りは約550キログラム。これは、当時としては最小限の家族である夫婦2人、子供2人の米消費を賄うことができるだけの量になる。これでは子供が一人増えるだけで食べていけなくなる。事実、当時の農家には4~5人の子供がいるのが普通であった。肥料代などのコストが高くなっても悲惨なことになる。
しかも、人は米を食べるだけでは暮らしていけない。特に明治以降、農村に商品経済が浸透するにつれ、日用品でも市場から購入しなければならないものが多くなった。さらに、義務教育の普及は地域住民の負担を高めた。1890年頃には50%を切っていた義務教育の就学率も1900年頃には90%程度となった。就学奨励は国からの財政援助なしで行われたため、学校の建設や職員の給与などの維持、運営、管理にかかる費用が増加し、これを捻出するために、地域住民による公租公課の負担は一層高まっていった。
五反百姓の小作人では、米を食べていると、おかず、教育費、衣料、光熱費、医療費、公租公課などは到底支出できない。子供を小学校に通わせることもできないのである。彼らはどうやって生きていたのであろうか?
実は、明治から昭和の初期にかけて、かなりの農家は米を食べていなかったのである。多くの農家は米を売って肥料代や生活費を捻出し、自分たちは麦やアワ、ヒエといった雑穀に大根などの野菜を加えて増量した雑炊を食べていた。農家にとって、米はめったに食べられない高級品であり、明治時代の農民は、ハレの日以外、米を食べていなかった。
農家が自分で作っている米を食べられないのである。彼らは死に際において、枕元で米粒が入った竹の筒を鳴らしてもらい、その音を聞きながら、来世では米を食べられるようにと願いながら、死出の旅に発って行ったのだという。
引用元:「いま蘇る柳田國男の農政改革」(著:山下一仁)
…柳田國男が志した農政改革は、上記現実の直視から始まっています。
「何故に農民は貧なりや」
(なぜ農民はこんなにも貧しくなってしまったのか)
彼は、自ら立てたこの問いに対する追求をもって、現在も続く国内農業衰退の本質にもつながる問題点をあぶりだし、時の権力者たちと論戦を繰り広げていきます。
百年経った今、改めて注目され始めた柳田國男の農政論を、次回以降も掘り下げていきたいと思います。
投稿者 negi : 2022年02月02日 TweetList
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