2022年2月22日
2022年02月22日
『農業と政治』シリーズ11 日本農業の真価は「森林」と「水田」にある
山下一仁氏の「日本農業は世界に勝てる」の著書からの紹介です。既にるいネットに2投稿入れていますので3作目です。
参考に下記も読んでみて下さい。
日本の農業の特徴(1)日本の農業は水田、それを支える水資源、さらに支える高い農業技術。ベースには世界に稀に見る肥沃度の高い土
日本の農業の特徴(2) 水資源が豊富というのは農業に最適であるという証
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東アジアの「水田」は「土壌流出」「地下水枯渇」「塩害」「連鎖障害」などの問題をきわめて上手に解決してきた。
水田は水の働きによって森林からの養分を導入するとともに、病原菌や塩分を洗い流すことによって、窒素などの地下水への流亡、連鎖障害、塩害を防ぐ。つまり、「水に流し」てきたのである。中国の長江流域では7000年もの間、米作農業が連鎖障害もなく毎年継続てきたのもこのためである。連鎖障害がないことは、畑地とは異なる水田の大きな特徴である。水田では、繰り返し米を作れるのである。また、水田は雨水を溜め表土を水で覆うことによって、雨や風による土壌流出を防ぐ。日本の米作農業は、水資源を増加させる農業である。アメリカ農業と異なり、日本農業の地下水利用は1%にすぎない。
これとは逆のことが行われたのがエジプトのアスワンダムである。アスワンダムは貯水によって工業化を進めると共に、広大な砂漠を灌漑することを目的とした。しかし、ダムの完成により、洪水が防止された一方で、ナイルの賜物と言われた腐植土は下流に流れること無くダムに沈殿し、洪水によって流されていた塩分も表土に留まることになってしまった。同じく洪水が押し流してくれていた、カタツムリが灌漑水路で繁殖し、それを宿主とする寄生虫病の一種である住血吸虫病が人々の間に蔓延することになった。これはいわば「水に流す」ことを忘れた失敗だ。中国でも三峡ダムの開発によって、充血吸病が拡大している。
こうしてみれば、水田による米作こそ、世界最高の「持続的農業」であることが理解されよう。その水田が日本の農地の半分以上を占めることは、日本の農業が他の国の農業と比べ、はるかに持続性が高いことを示している。
日本やモンスーン・アジアで稲作が栄えたのも「水」と関係がある。モンスーンアジアでは、稲作が行われる夏季に降水量が集中する。ヨーロッパでは夏の降水量は稲作を行うには足りないが、年間平均して雨が降るので雨水を利用した畑作などが中心となった。しかも連作障害があるため、作目と耕作地をローテーションする「三輔式農業」が行われた。
しかし、ヨーロッパの人もできれば稲作を行いたかったはずである。日本では1粒の小麦は45倍にしかならないのに1粒の米は125倍になる。1粒からの生産力という点では小麦をはるかにしのぐ。しかも、連作障害がないので毎年米を作ることができる。モンスーン・アジア地域が世界の14%の面積にもかかわらず、世界人口の約6割を養っているのは米の力である。
アメリカやヨーロッパでは窒素肥料投入による地下水汚染が大きな問題となっている。人間を含む動物が土壌中の硝酸菌によって変換された硝酸態窒素を大量に摂取すると、血液中のヘモグロビンを酸化して酸素欠乏症、チアノーゼを引き起こす可能性がある。EUではヘモグロビンの酸化により、血液が酸素を運べなくなって生後6ヶ月位の乳児が死亡するというブルーベビー現象が生じている。しかし、同じように農業を行っても、地下水中の硝酸態窒素の濃度の上昇の度合いは水田では小さい。水田が窒素肥料中のアンモニアを分解して、窒素ガスとして大気中に放出するからである。
日本の年間降水量は1700ミリで世界平均の2倍、世界第3位の多さである。しかし、このままでは雨水は流れてしまうだけで利用できない。特に日本の地形は急峻である。水を蓄えて供給してくれるのが「森林」と「水田」なのである。雨は山の木と土に蓄えられてゆっくりと川へ流れ、また雨水や川水が水田に溜まった水もゆっくりと下流へ流れる。この作用によって水は蒸発すること無く利用できることになり、平均流出量は1070ミリで世界平均の4倍、世界第2位、取水量は300ミリで世界平均の6倍、世界第一位となっている。
日本の農業は、アメリカなどの新大陸の農業と異なるだけではない。ヨーロッパの畑作農業は地域社会の維持、景観の形成に貢献していると言われるが、アジアの水田農業はそれに加え、湛水機能によって自然災害の防止、水資源の涵養などの一段と高い公益性を有している。また土壌流出や塩類集積もなく、環境にもやさしい農業である。
投稿者 tano : 2022年02月22日 Tweet