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2014年09月25日

農を身近に★あぐり通信vol.32:「有機野菜」の思わぬ落とし穴。それはタネ

 

 

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有機野菜への注目をはじめ、食の安心・安全に対する意識は高まり続けていますが、栽培の大元である”タネ”の問題については、まだまだ広く世間に知られていない事実があるように思います。

今回は、野菜のタネに関するこだわりの必要性を全国の生産者・消費者に訴え、タネにこだわる生産者のネットワークづくりを進めている方について、ご紹介します。

 

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有限会社ナチュラルシードネットワーク 代表 石井吉彦氏

 

「有機野菜」の思わぬ落し穴。それはタネ

自然農法野菜の流通に携っていた石井吉彦さんが、タネに興味を持ったきっかけは、あるアトピー患者との出会いだった。

石井さんの両親は、無農薬無化学肥料による農業を40年間も続けており、そこで育てられた野菜は、多くのアレルギー患者に喜ばれていたという。「ここの野菜だけは食べても大丈夫! アトピーが出ないんですよ」などと喜びの声が多く寄せられる中で、ある時、その小松菜を食べてアトピーが出た、という患者さんが現れた。(おかしい、そんなはずはない) 農法に自信を持っていた石井さんは衝撃を受ける。そして、その理由を探ったところ、違いはどうやらタネにあるらしい、と気づいたのだ。

石井さんの畑では、自家採種、すなわち自分の畑の作物からタネを採り、翌年そのタネをまいて作物をつくる、という作業をずっと続けてきた。ところがその年は、自家採種したタネが足りず、種苗会社からもタネを買ったのだという。アレルギーのでた小松菜のタネが、その買ってきたタネだったのだ。試しに、自家採種のタネから育てた小松菜を同じ人に食べさせたところ、今度はアトピーの症状が出ることはなかった。このことで、石井さんはタネの重要性に開眼したのだった。

 

■自家採種を拒む”F1”のタネ

タネの重要性に気づいた石井さんは、さらにタネを研究すべく、大手商社に有機農産物担当顧問として入りこみ、現代の種子産業の内幕をつぶさに見聞した。

現代ではほとんどの農家が、種苗会社からタネを購入する。現代農業で使われるタネのほとんどは“F1”(Filial 1=1代交配種)と呼ばれるもので、異なる品種のものを掛け合わせてできる。1代目はきれいに揃った品質のものが収穫できるが、2代目になると、品質に大きなばらつきが生じ、売り物にならなくなる。そのため、種苗会社の思惑通り、農家は毎年、タネを購入せざるを得ない。
さらに問題なのは、種苗会社がタネを取る畑では必ずしも有機栽培が行われているわけではないことだ。農薬や化学肥料を使って育てられた野菜からタネが採取され、更に種子消毒まで受ける。有機JAS表示を付けて市場に出回っている野菜でも、タネにはほとんど、こうしたF1のタネが使われてきた。いくら有機農法で育てても、タネが化学物質に汚染されていたのでは、本当の意味で「安心・安全」な野菜とはいえない。

また、最近のバイオテクノロジー技術は非常に優れたもので、あらゆる条件をタネにインプットすることができるという。糖度や、ビタミン、ミネラルの含有度を高くしたり、低くしたりも自由自在。使う農薬、肥料の種類などもあらかじめ、タネにインプットしておき、その条件どおりの農薬と化学肥料さえ使ってやれば、予定通りに収穫できる。
このことを逆に考えると、もともと農薬と化学肥料を使うことを前提としているF1の種を、いくら無農薬無化学肥料で育てようとしても、うまくいくはずがないことがわかる。

 

■自家採種が生み出す、大地の風土に根ざした野菜

また、種苗会社の畑のほとんどが国外にあることも問題だ。「国産」の野菜でも、タネは輸入物。万が一何かの事情で輸入が出来なくなれば、野菜の供給はほとんど完全にストップする。食糧確保の面から考えて、これは非常に危険な状況だ。

そもそも、日本の土地に適した野菜のタネは、日本で取れると考えるのが自然だろう。5年、10年と、同じ土地で自家採種を続けると、その土地の条件に適した遺伝子が残り、次第に丈夫で、しかもおいしい作物ができるようになっていく。土壌や気候風土と切り離して作物を考えること自体がおかしいのだ。環境に適したタネは、やせた土地ならやせた土地に既に適応しているため、農薬も化学肥料もなしに丈夫に育つ。そんなタネを使ってこそ、有機農法はうまくいくのだ。

そう確信した石井さんは、それぞれの風土の中で自然なタネを育み、そこから育てた野菜を流通させよう、と思い立つ。そして多くの農家に呼びかけて、できるだけ自然なタネをまき、そこから自家採種を繰り返そう、と勧め始めたのだ。そうした自然なタネ=在来種の普及に、現在、石井さんは全力を挙げている。

 

■在来種の健康パワー

寒い土地では寒さに耐えるエネルギーを持った野菜が育ち、それを食べる人間の体を寒さに適応させてくれる。だから、違う気候風土で育ったものを持ってきても、それは真の意味でその土地の人に適した食べ物とは言えない。在来種野菜のように、日本の土地に適した野菜こそが、日本人の体にも適しているのである。

また、タネから化学物質フリーだから、化学物質過敏症、アトピー性皮膚炎など、アレルギー体質の人でも安心して食べられる。約40人のアトピー患者らに継続的に在来種野菜を食べてもらったところ、アトピーの症状の大幅な改善が認められただけでなく、気性も穏やかになった、子供の基礎体温が上がったなど、予想以上の結果が確認された。

昨今すっかりポピュラーになった花粉症患者は、今、日本人の3人に1人。10年後には、化学物質過敏症が、現在の花粉症と同じくらいポピュラーな病気になるとの予測もある。重度の化学物質過敏症になってしまったら、もうF1のタネを使った野菜は食べられない。食べられるのは、在来種野菜しかなくなるのだ。

 

■味もパワフル、在来種野菜

石井さんの畑では、化学肥料だけでなく一切の肥料を入れていないので、余分なアクがなく、まろやかな味わい野菜ができる。畑で採れた長ネギは、その場で生でかじってもほんのりとした甘みがあり、「ねぎ刺し」として食べられるほど。在来種はそれぞれの土地に適応しているので、畑ごとにそれぞれの味わいがある。しかし、どこの畑であれ、その土地、その気候の中で淘汰されてきたナチュラルシード野菜は、たくましいエネルギーと生命力に満ち、味にも力強さがある。

 

■在来種を育てる苦労

在来種の普及は、しかしそう簡単なことではない。在来種野菜は、人間の思い通りに育たず、その生育は全て天候次第。しかも、ほとんど芽を出さない年が、3年目、5年目、7年目くらいに、周期的にやってくる。そうなったら次の年は、近所の自家採種している人にタネを分けてもらうしかない。10年を超えると安定し、味も良くなり、収量も増えて、慣行栽培の2倍以上、通常の有機栽培の3~5倍以上の収量を誇る畑もある。

しかし、そうした安定状態に至るまでの苦労、リスクが非常に大きいため、なかなか普及しないという現状がある。しかも、昔からその地方で育てられていた作物のタネを保存しているのは、今や老人だけ。そうした世代の老人は現在、次々と亡くなりつつあり、それとともに貴重なタネも消えていく。(早くしないと間に合わない)石井さんは焦燥感にかられながら、必死の思いで農家を説得し続ける。少しでも多くの農家が、日本全国で在来種を育んでくれることを願って。

 

『LOHAS EYES』より引用

 

 

消費者である私たち自身も、もっと自ら積極的に学び、上記のような事実を掴んでいくことが、食の安心・安全をめぐる問題を解決していく上で重要な役割になってくるのではないかと思います。

 

 

 

 

投稿者 noublog : 2014年09月25日 List   

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