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2014年09月19日

『都市型直売所の可能性を探る』4~消費者に「本物の価値」を届ける先端事例~

伊都菜彩賑わい

賑わう「伊都菜彩」 画像はコチラからお借りしました  

前回の記事では、農産物の品質向上と、「生産者同士の追求関係(組織化)」の先進事例についてみてきました。共通していることとしては「志を持ち、それを実現するための品質ラインと情報共有インフラを整え、互いに追求する前進感をつくりだしている」こと、そして、直売所がこれを先導していく役割も重要になっている、というお話を書きました。

今回の記事では、「生産者と消費者を繋ぐ情報発信のあり方」についてみていきたいと思います。

「農業生産者が食べていける(黒字経営できる)こと」を実現している直売所は、抜群の集客力を誇ります。その第一条件として、対面販売とイベントを通じて活気のある場を作り出していることが挙げられます。

売上日本一とも言われる、年間35億円を売り上げる福岡県糸島市の「伊都菜彩」では、生産者がお客さんに野菜の食べ方、料理の仕方を丁寧に教える光景が頻繁に見られ、つい買って自分で調理してみたくなるし、同じような野菜でも、「種まきの時期が違う」「有機肥料のやり方が違う」「間引きの仕方が違う」「収穫の時期が違う」と、こと細かに教えてくれます。それを若い主婦が熱心に聞いて買って行く姿がよく見られます。

こうした、商品を購入するだけの場を超えた、生産者や販売員とお客さんとのやり取りが生み出す活気が人を呼び寄せ、そこで得られる充足感に惹かれて、直売所のリピーターになる人が多いと言います。

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農業生産者が住む地方は、高齢化や人口減少による産業衰退により、地域社会の基盤が失われる危機に直面しています。一方、大多数の消費者は都市に住んでいるため、単に農産物を消費しているだけでは、こうした状況を十分に共有することができていません。

持続的に「安全・安心な作物」が提供される状態を実現するには、「生産者・消費者双方の顔の見える関係」を構築することが必要不可欠になります。
そのためには、「生産者の方たちの想い」「農産物の追求した中身」、そして「そもそも何のために活動しているの?」といった情報を、消費者や広く社会に伝えていくことが重要です。

その中でも、自分たちの実現像を明確にし、広く社会へ発信し事業を成立させている先進事例をご紹介したいと思います。

 

◆高知県・馬路村の産業振興と情報発信

●背景と志:人口減少の村を存続させる

高知県馬路村は、高知市内から車で約2時間の、人口1000人未満の山村です。

かつて村の主産業だった林業が、安価な輸入材との競争に負け衰退するに従い、山林が面積の75%を占め、交通の便が悪い馬路村からの人口流出と高齢化による人口減少に拍車がかかりました。

こうした逆境に直面した馬路村は、「全国のお客さんに喜んでもらう産業を興し、村に暮らす人々の働く場を創り出し、村を存続させる」という「」のもと、数々のヒット商品を生み出し、消費者の組織化に成功し、地域再生にも繋げています。

ようこそ馬路村へ

                                          画像は、馬路村農協HPよりお借りしました。

●活動内容:地域の資源を活かした産業振興

1970年代に、ある企業から村に工場立地を持ち掛けられましたが、「“条件不利地”の村で企業誘致しても、相手の言いなり。植民地にさせられるだけ」と、外部からの企業進出を断りました。
ここで馬路村が採った決断は、村でもともと作っていた「ゆず」を生かした地域づくりでした。

まず、JA馬路村が、全国の物産展に商品を持って行くなどの地道な活動を続けて、大消費地での販路開拓を成功させ、その一方で、村の全てのゆず農家を取りまとめ、「無農薬・無化学肥料」での栽培を実現。ゆずと蜂蜜を使った清涼飲料「ごっくん馬路村」、ポン酢しょうゆ「ゆずの村」、入浴剤、ゆず胡椒、ゼリー、化粧品に至るまで、毎年新商品を生み出していきました。

その結果、現在では、ゆず加工品で年間34億円を売り上げるようになりました。生産・加工・販売の全てを村内で担う体制を作り上げ、人口942人(平成26年6月30日現在)の約1割に当たる86人をJA馬路村が雇用、念願だった村人の働く場の確保を実現しました。

●更なる高度化:「村丸ごと」の価値をとことん発信

商品を注文すると、高知県馬路村の今を伝える「ゆずの風新聞」が同封されて届きます。新聞は毎月発行し、農業以外にも村民の生活風景を紹介しています。

季節ごとに送付するダイレクトメール(DM)は、封筒のデザインを季節に合わせて変えるほか、商品カタログとレター、返信用封筒、申し込み用紙にもイラストが入っていたり、返信用の封筒にも手描き文字&イラストが入っていて、商品カタログには、馬路村の村民の写真も合わせて掲載。

これが、商品だけでなく村のファンづくりに役立ち、リピーターの確保につながっていきます。

馬路村商品ゆずの風新聞

                    商品の画像は、コチラからお借りしました。「ゆずの風新聞」は馬路村農協HPより。

また、村の子供やお年寄り、山・川などの自然をパンフレットや情報誌で紹介して「馬路村をまるごと売り込む」、つまり、都会の消費者に向け、自然や田舎をテーマにした情報を発信しています。ウェブ上でも、ネット販売をはじめ、村の暮らしを紹介するブログ、有機ゆず栽培の農家紹介、ゆずを使ったレシピ、観光案内などのコンテンツを充実させています。

馬路村の広報物のデザイン&コンセプトは、商品を生産する背景にある、「村の暮らし」という価値をとことん発信する姿勢に貫かれている点で突出しています。

●村を丸ごとブランド化→「交流人口」の増大を実現

「自然豊かな村で暮らす人々が作る、安全・安心なゆず製品」という付加価値をつけた情報発信が、商品個々のファンを村のファンへと繋げ、馬路村を観光で訪れる人は、村の人口の60倍を超える年間6万人を超えています。

村を丸ごとブランド化したことで、「観光で村を訪れる人」や、「村で生産された製品を買ってくれる応援者」といった「交流人口」の増大に繋がっています。’03年に村が募集を開始した「特別村民」は全国5千人を超え、馬路村農協の通信販売の顧客名簿には30万人が名を連ねるまでになっています。

馬路村には2000年以降、累計95人もの人がUターン・Iターンしました。その結果、JA馬路村には、若い人材が目立ちます。職員93人のうち20代、30代が40人を占め、販売力強化や商品開発のため、専門知識を持つ人材の獲得に積極的で、村外、県外からの就職も多くなっています。村の産業が活性化することで雇用の場が確保され、定住人口が拡大しており、人口減少に一定の歯止めをかけることに成功しています。

 


◆オルター:生産者と消費者が一体となって「本物の食」を追求する

●理念・志:『食』を通して、世の中を変えていきたい!

オルターは、1975年に大阪府河内長野市で設立された「ホンモノの食品を求める活用者の会」と、1976年に設立された安全な食べものの共同購入団体「徳島暮らしをよくする会」が前身です。

オルターの代表である西川 栄郎氏は、安全な食べものを共同購入するだけではなく、農薬空中散布中止、薬害告発など、「いのち・自然・くらし」を守る活動に取り組み、講演会やホームページなどで、食品に潜む「怖さ」を訴えています。その危険性を理解し、オルターの考え方に賛同する約9000人が会員(平成26年4月現在)となっています。

「単に安全な食べものをお届けするだけの団体ではないつもりです。矛盾だらけの世の中の様々な問題に対して鋭い提案をしていくことが、私たちの使命であると考えています。誰もが願っている「健康」。オルターは、日本の伝統 食を基本に据え、本当に安全で機能性の高い食材を提供し、病気にならない食生活を提案しています。安全な食といのちを守るために、『食』を見なおし、 『食』を通して世の中の問題を解決していきたい。」

●情報発信:「ほんものの食べもの」を提供するためには、ほんものを知る。

食は“いのち”。本当に安全な食べものの第一条件は、「だれが」 「どこで」「どのように」つくったかがわかること。オルターは、その情報公開を大切にし、日本一の情報を公開し高い安全基準を設けています。

また、 1976年の創業以来培ってきた生産者との関係は、まるで親戚のようなおつきあい。顔の見える関係だからこそ、厳しい安全基準が守られています。「国産」「無農薬」にこだわり、原料段階から製造工程、容器まで安心・安全に徹底した取り組みは、「安全性」「品質」が高いと評価を獲得しています。そして、原料の安全性にとことんこだわるオルターオリジナル開発品など、オルター仕様の安全な食べものは、日本の食を変え始めています。

オルターホームページ
                    
 画像は「安心な食べ物ネットワークオルター」よりお借りしました。

●入会にも、まずは「本当のこと」を知ってもらうことから

オルターに入会するには、オルターのサイトで、まず「勉強用の資料」を請求します。そして、熟読し、このテキストを読み終わったら、勉強用の資料をちゃんと読んでいるかどうかの確認テストがWEB上で行われます。

次に、申込書の一式が届きます。同時に、専任のエルダーさん(近くに住んでいる、オルターを長い間愛用している人)を紹介してもらえるので、その人にコンタクトを取って、2時間程度説明を受けます。そして1-2日後、会員IDが配布され、ネットでの注文ができるようになります。

この他にも、Web上で登録もでき、その場合はe-ラーニングといってネットで勉強して入会する方法、イベントに参加してその場で入会する方法が準備されています。

消費者サイドからすると、かなり手間なようにも見えますが、「消費者が好きなものをなんでも選ぶ」のではなく、「本当に食・健康について考えたい人と信認関係を結ぶ」ため、新しいかたちと言えます。

●マスコミに流されない、本当の事実を発信

毎週、オルター独自の調査にもとづいた「オルター通信」が発行され、有益な情報が発信されています。

また、下記のような「勉強会」が開催されており、テーマ・内容から「社会を守る、そのためにとことん追求する」という強い決意表明をしているようにも感じます。

「いのちを守る適切な備えを!緊急放射能対策勉強会」

原発を推進してきた政府は「直ちに健康に影響はない」という言葉に代表される根拠のない安全宣伝を繰り返し、深刻な現地での適切な避難を行っていません。拡大する汚染で、私達は安全な食べものを次々と失い続けています。

・直ちに影響のないレベルって一体どういう意味?
・レントゲンの放射線程度って本当?
・事故の真相は?これからどうなるの?
・私達はどう行動すればよいの?
・放射能から身を守る術(すべ)は?
・オルターはどう行動するか!

オルターは総力を挙げて、今最も必要な勉強会を開催します。会場との質疑応答も出来る限り充実したいと考えます。

オルターは、「ほんものの食べもの」を提供するのはもちろん、農業・ 水産・畜産・食品加工の研究者や食の専門家が、食に関する医学情報と代替医療情報を公開し、健康、未病、闘病の援助活動をしています。また、今年9月に移転の新社屋の隣には常設健康相談所を開設し、新施設で食育のためのイベントを開催するなど、さらに活動に力を注いでいます。

 

◆成功のポイント

●意識潮流

意識潮流

人々の意識は、世界的な物資の供給過剰を受けて、急速に脱市場・脱物化に向かっています。さらに、脱市場・脱物化の潮流は、自然・健康への収束や、人とのやり取りで得られる共認充足への収束を生み出します。

必然的に、人々が心の奥深くで感じ取っている言葉以前の意識は、「自然ありのまま」の生命力の高い作物や、それを作る生産者を支援して地域再生を実現していくことに価値を見出す、本源価値に転換しています。そうした価値意識は、それを表現する言葉を与えられることで顕在化し、具体的な課題・役割として人々の間に認識されていきます。

●理念・志を共有し、具体化する

馬路村の例では、商品の背景にある自然豊富な村の暮らしや、そこで暮らす村民の有りのままを、言葉や写真・イラストで表現することで、農村で暮らす活力溢れる人々の姿、原料や商品が作られる背景や過程を消費者と共有しています。消費者は商品を購入することを通じて、「村丸ごとのファン」になり、村の商品のリピーターや、村に観光で訪れるという形での支援者、究極的には村に定住して産業の担い手として、「地域再生の当事者」になっていきます。

オルターの事例では、農薬・化学肥料を使用した農産物や、放射能汚染が人体に与える影響の実態を明らかにするとともに、無農薬・無化科学肥料での野菜作り、自然農法を実践する生産者の取り組みを、会報や勉強会を通じて届けています。それによって、生産者と消費者を「本物の食」を追求する仲間として巻き込んでいます。生産者と同じ地平で追求することを通じて、消費者の考え方・価値観を転換させることで、「地域を守る」→「社会を守る」という共認域を拡大しています。

両者の事例から、生産者と消費者相互の「志」を共有し、それを具体化する仕組みを生み出すことで、互いの期待に応え合う中で得られる充足感、そして、「地域再生」や「生命力の高い本物の農・食」といった「得心できる答え(認識)」を結集軸として、生産者と消費者を組織化していると言えます。

次回の記事では、最先端の意識潮流と、地域ネットワークの形成に焦点を当てます。

◆参考:
「安全な食べものネットワークオルター」HP
「オルター」採用情報
「馬路村農協」HP
「東奥Web」雇用 第8部 農業から農産業へ
「DREAM GATE」Vol.1 柚子で売り上げ30億!?観光客も50倍に増えた村!!
「JA-IT研究会」研究会報告(3)報告2 「ごっくん馬路村」のブランドづくりと販売戦略の歩み、今後の展望

投稿者 daiken : 2014年09月19日 List   

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