2022年10月29日
2022年10月29日
「腸が作る健康の秘訣」第7回 少食(腹7分)はなぜ健康によいのか?~マクロファージの観点から
人類は200万年の歴史の中で現在のように何でも好きなものを好きなだけ食べられるようになったのはこの100年間にすぎません。生活習慣病などの病気が登場したのはさらにこの30年間。糖尿病、肥満、高コレステロール等、またダイエットやベジタリアンなどが言われだし、つまり先進国で貧困が消滅して初めて食の次元が変わってきました。
そのため、人類の身体は飢えには適応していますが、飽食に適応できていません。言い換えると最も健康的な食(人類の本来の食への適応)とは少食ということになります。因みに様々なダイエット法はありますが、なぜ少食がよいかを明らかにした情報は意外と少ないようです。
今回はこの少食と健康の関係を明らかにしていきます。
まず少食であると有利なことは以下のような事です。
・頭が冴える
・睡眠が深い
・病気にかかりにくい
・ボケない(アルツハイマーの予防になる)
・健康寿命が伸びる
などが一般に言われています。
最近の研究で少食の優位性をマクロファージの観点から解明したものがありますので今回はそれを軸に紹介していきます。
腹七分目とマクロファージ | 医療法人社団 小白川至誠堂病院 (kojirakawa-shiseido-hp.com)から引用しました。
☆マクロファージとはなにか?
>生命の起源はマクロファージです。単細胞から多細胞生物に進化した段階で原始マクロファージが発生したと考えられています。原始マクロファージはその後、各臓器を構成する細胞、免疫細胞である顆粒球、リンパ球等に進化して行きました。マクロファージが貪食機能を上げ細菌や死んだ細胞等、サイズの大きい異物を処理するのが顆粒球、ウィルスやガン等の微少な異物処理能力を高めたのがリンパ球です。人にもマクロファージは存在し、白血球の5%を占める単球から分化します。すなわち造血幹細胞から分化した単球は骨髄で成熟、血流に入り数日後には血管壁を通り抜けて組織内に侵入、マクロファージとなり貪食能を持つようになります。
☆マクロファージとは細胞の一種で、免疫細胞とも呼ばれています。
マクロファージが実際に健康や寿命に寄与している事例を2例紹介します。
>霊長類のアカゲザルを30%カロリー制限群と非制限群に分け20年間観察した報告があります。20年後の生存率はカロリー制限群で80%、非制限群で50%であり制限群で明らかな寿命の延長が見られました。またカロリーを制限したサルでは心血管系、糖尿病、ガン等の発症は有意に低下していました。飢餓状態、又は25%以上のカロリー制限でサーチュイン遺伝子(長寿遺伝子)が活性化することが報告されています。この遺伝子は好気性代謝の工場であるミトコンドリアを増やすだけでなく体内の遺伝子も監視、傷害された遺伝子を修復して老化を抑制しています。しかし腹七分目が体に良い理由にはサーチュイン遺伝子のみでなくマクロファージも関与していると考えられています。
>臨床の現場にいると記憶に残る患者さんがいます。食事に関しては次の二人の患者さんです。一人目は私が当院に勤務した頃、前主治医から引き継いだ超高齢の脳梗塞後遺症の方です。点滴500ml(100カロリー)のみで長く安定していましたが当時の私は、幾らなんでも少なすぎると考え点滴を1000ml(200カロリー)に変更しました。しかし間もなく患者さんは肺炎を併発、亡くなりました。カロリーと水分量を少し増やしただけで何故状態が不安定になったのか?この出来事は私の脳裏に焼き付けられた謎でした。
二人目は最後まで認知症もなく過ごされていた107才の方です。小柄、小食でご家族に囲まれて幸せに過ごされていました。どうしたら最後までボケないで過ごせるのだろうと考え薬をチェックしたところ、服用薬は降圧剤のCa拮抗剤と骨粗鬆症予防のビタミンD3(ビタミンDはマクロファージを活性化)のみでした。
☆この2つの話はマクロファージが健康長寿命に影響していることを示しています。ではなぜ健康になるのか、どういう効果があるのかに移ります。
>マクロファージの役割とはなんでしょうか?マクロファージの活性が高いと異物侵入時、顆粒球、リンパ球が処理する前に、マクロファージ自身が無差別に異物を貪食、処理してしまいます。しかし通常、マクロファージは異物侵入時、貪食した異物の断片を細胞表面に提示、ヘルパーT細胞を介して司令塔の役割を果たします。すなわち粒子が大きいと顆粒球、小さいとリンパ球を誘導し自らも残骸を貪食、体内に侵入した異物を除去します。マクロファージが貪食する対象としては寿命の終えた赤血球・白血球・血小板、細菌、ウィルス、死んだ細胞、ガン細胞、酸化LDL-コレステロール、アミロイドβ蛋白、AGEs等、多種多様です。しかしマクロファージにはもう一つ重要な役割があります。過剰な血液中の栄養処理です。
胃腸から吸収された栄養は血液、リンパ管により細胞に運ばれますが栄養過多では余分な栄養素が血液中に残ります。これを処理するのがマクロファージです。しかしマクロファージが栄養処理に専念すると細菌、ウィルス、ガン等に対する防御機能は低下、感染症、ガンのリスクは増大します。すなわち栄養過剰状態ではマクロファージは防御細胞としての機能を失います。
☆この話は、飽食になるとマクロファージが栄養処理に回るので本来の免疫役割を果たせなくなるという内容です。それが生活習慣病になる理屈でもあるのです。つまりマクロファージを本来の免疫機能として活性化させるために常に腹7分は効果があるのです。
☆このサイトでは以下のようにまとめています。
>マクロファージの防御機能を維持することは健康寿命に重要です。マクロファージの活性が高いと免疫力は高まり風邪もひかない丈夫な体になると言われています。風邪を引いた時は誰でも食欲がなくなりますがマクロファージを免疫に専念させる合目的反応とも考えられます。自然界の動物も体調が悪いときは何も食べずに寝ているだけです。戦後しばらくして旧日本兵がジャングルで見つかった時、健康状態が専門家の予想より良好だったのは飢餓状態、小食でマクロファージが元気だったのが理由の一つかもしれません。
☆さて、マクロファージを活性化できる食べ物って何でしょうか?
少食もありますが、食べ物自体で活性化する方法もあるようです。それがかつて日本食でよく言われたバランスのよい食べ物「まごはやさしい」なのです。まだ医学がない時代です。
これは驚きですね。
※「まごはやさしい」=ま「豆」・ご「ごま」・「は(わ)」わかめ・や(野菜)・さ(魚)・し(しいたけ等キノコ)い(芋)
>マクロファージを元気にするには有酸素運動、笑いのある生活、ストレスを溜め込まないこと、体を冷やさないこと等が重要です。また喫煙、過度の飲酒は活性を低下させます。食事では腹七分目以外、質にも注意が必要です。
リポポリサッカライド(LPS)、ビタミンDはマクロファージを活性化すると言われています。リポポリサッカライドは免疫ビタミンとも言われ玄米、メカブ・コンブ・海苔等の海藻類、シイタケ、ヒラタケ等のきのこ類、ゴマ、クルミ・クルミの種子類、玄米、ホウレンソウ・レンコンの根菜類に含まれています。ビタミンDは乾燥きくらげ、にしん、サンマ、しらす干し、紅鮭等に含まれています。
投稿者 tano : 2022年10月29日 Tweet