2022年10月13日

2022年10月13日

「腸が作る健康の秘訣」第5回 腸が外圧を捉え、脳がどうするを考える

腸と微生物の関係について色々と見てきました。

腸はその腸壁に様々な微生物を配備して栄養を取り込んだり、悪影響を与える病原菌を防御しているとも言えますが、もっと元から考えると腸は外界と繋がる皮膚機能でもあり外界を捉える外圧看取機能でもあるということです。よく腸は第2の脳とも言われますが、改めて腸内環境の視点から脳と腸の関係を見ていきたいと思います。

腸が健全だと脳も健全であるという考え方もありますし、腸が直接に外圧を捉えるので脳が素直にその信号を受けて対応するというのもあります。つまり、主従の関係で言えば外圧に対しては腸が主で脳が従になるのです。また、腸が感じた外圧を軽く考えたり、捨象したりすると脳は病気になり神経障害や悩みや鬱に繋がるのです。今回の記事で明らかにしたいのは腸が脳も身体も健全に保つという事です。

いつものように桐村里紗著の「腸と森の「土」を育てる」より紹介していきます。

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最近「腸脳相関」という言葉をよく聞きます。腸と脳は、自律神経やホルモン分泌、生理活性物質などを通じて、24時間365日、そして毎瞬時、私達が気が付かないうちに、互いにコミュニケーションをしていることが明らかになっています。腸内細菌業―腸―脳軸とも呼ばれます。これはもはや独立した2つの臓器ではなく1つのネットワークだと考えられます。さらに「ネイチャー」に発表された最近の研究では、腸内環境の情報を集積・統合して脳に伝えるには、肝臓が重要なインフォメーションセンターの役割を果たしていることも分かっています。つまり、腸内細菌業―腸―肝―脳相関というわけです。そもそも脳と全身の組織や臓器、細胞の1つ1つは、全体でネットワークを形成していましから、どの部分も全体性の中で重要な役割を果たしているのです。

脳から腸への影響から見ていきましょう。脳から腸へのルートの1つ目は自律神経です。
「自律神経」というのは生命維持にとって最重要なシステムの一つです。その環境において「自己」を最適化し、活かすためのシステムです。内蔵を含む全身を支配していて、胃腸の働きをコントロールするので極めて重要です。自律神経は覚醒時や活動時には「交感神経」が優位になり、リラックスしている時には「副交換神経」が優位になるというものです。胃腸はリラックスモードの時に機能して、ストレスがかかって交感神経モードになると動きが抑制されます。
交感神経の危機回避モードでは胃腸の動きは抑制されますから、食欲がなくなり便秘傾向になります。これが一般論としての自律神経による回避モードです。こじれていない人は少々このモードになっても寝たり気分転換をすれば、もとに戻ることができます。
しかし、人の危機回避モードはこれだけではないのです。ストレスが慢性化し、トラウマレベルまでにこじれた人の場合です。すれが「凍りつきモード」でフリーズしてしまう状態です。副交感神経による危機回避です。現在、意欲を失った若者や燃え尽き症候群が増加し、過敏性腸症候群や副腎疲労などの機能性身体症候群や発達障害、様々な心の病気が蔓延していますが、これらはまさに、ストレスを通り越し、自律神経のトラウマ的反応による現象と考えられています。怒るでもなく悲しむでもなく、防衛反応として解離が起きるので心を麻痺させて何も感じないようにすることで自分を守ります。

脳から腸への第2のルートは内分泌系です。
ストレスがかかると脳の視床下部から分泌されるホルモンが下垂体を刺激、下垂体から分泌されるホルモンが副腎を刺激、そして副腎からストレスホルモンであるコルチゾールや闘争ホルモンでアドレナリンが分泌され、身体は内分泌的にもストレスモードに切り替わります。実は腸内細菌は、これらのホルモンや自律神経の動きを過敏に感知します。そのため腸内細菌業のバランスにも変化が起きます。多くの場合、感染症や病気は、外からやってくる病原性微生物ではなく、普段共生している微生物がアンバランスになった環境の中で増え過ぎることによって起きるのです。しかし腸内細菌の健全な多様性が維持されていればこれを防ぐことができます。

腸のネットワーク↓(クリックすると拡大します)

最後に、腸から脳へのルートについて見ていきます。
このルートはこれまでと違って、感情や人格、意思決定、自己意識などに関連しています。日本は古来より腹に関連した表現があります。「腹が立つ」「腸が煮えくり返る」「腹の虫がおさまらない」などの感情表現、「腹に据える」「腹を決める」は意思決定の表現。これらは全て腸内細菌業―腸―脳軸に関連しています。
腸内環境が荒れると心も荒れて感情に波風が立つ。胃腸が弱い人は優柔不断で決断力がないとも言われます。「腹を決める」ことができないと仕事面でも成功しません。
英語では「直感」の事をgut Feelingといいますが、Gutは腸の事なので腸の感覚なのです。
腸を整え、内蔵感覚を研ぎ澄ますことは、健康だけでなく、直感や心、そして確かな自己の中心性を養うことにも繋がるのです。

腸はじつは最大の面積を持つ感覚器官です。また腸は常に外界と接している場所なので外からの刺激をリアルタイムでインプットする必要があります。腸にはびっしりと神経が張り巡らされています。入力、出力端子をあわせて「腸管神経系」と呼ばれるこれらの神経系の細胞は、4億個から6億個と脊髄の神経細胞の総数に匹敵するとされています。そのため、内臓感覚としての胃腸の動きや腸内細菌業の状態は膨大な情報として常に脳の中枢コンピューターに入力されているのです。全く無視できません。

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よくストレスがかかると胃腸が痛むと言われていますが、逆もしかりです。腸内環境が健全であればストレスも外圧として認識し、脳にきちんとインプットできる。外圧が来れば気力(交感神経)が働き、活力が生まれる。こういう循環になっているのではないかと思います。

ストレス=悪と考えるのは現代社会の風潮で、外圧をしっかりと外識機能である腸で捉え、脳でどうするを考える。それが外の世界の捉え方の基本のようにも思います。

著者はこのようにも書いています。

個人の心身をいくら最適化してもまだ局所でしかなく、外的環境と再接続することでようやく、全体性へのアプローチが可能になる。最も身近な外的環境は腸内環境で、食を通じて地球環境と接続している。

腸を最適化する=(健康な状態)にはどうするか?それを次の記事で追求していきたいと思います。

投稿者 tano : 2022年10月13日  

2022年10月13日

24節気シリーズ5~大自然の巡りの一部になることで健康になる!

前回までの記事で、日本人は、太陰暦を使って月の動きと同調し、また農業や節句などの行事では24節気を用いて、太陽の動きと同調しながら、その大きなエネルギーと一体で暮らしてきたことがわかりました。人間も大自然や宇宙の一部であり、同じ構造と捉えていたのだと思います。

そのような世界観に同化してうえで、改めて日本人は、24節気をどのように暮らしに取り入れてきたのかを見て行きたいと思います。

今回の記事から3回にわたって、

 

⚫︎大自然の巡りに身体を寄り添わせて体調を整える

⚫︎季節の巡りを楽しむ暮らしや行事

⚫︎自然の摂理に沿った農事

 

の3つの観点から掘り下げます。

1回目の今回は、「大自然の巡りに身体を寄り添わせて体調を整える」について見ていきます。

 

■「健康」の捉え方

 

東洋医学の古典医学書「黄帝内経」は、中国でつくられましたが、日本にも伝わり、現在国宝としても大切に保管されている、医学の指南書です。

その「黄帝内経」には、“人間は自然の気を受けて生きているので、季節の働きに合わせた生活を送ることが大切”と書かれており、各季節の養生法が説かれています。その内容を簡単に紹介してくれている書籍から引用しますと、以下のようになります。

春は発陳といい、冬の間隠れていたものすべてが、芽をだし活動的になり始める時です。心身ともにのびのびと活動的な気持ちで動くことが良く、この春の気に逆らって静かに沈んだ状態でいると病んでしまいます。

夏は蕃秀といい、草木が成長し、万物が茂り、花咲き乱れ、陽気が最高潮に達する時期です。暑くてお体を動かして発汗するようにしましょう。もし陽気を発散しないと体内に熱がこもって病気になってしまいます。

秋は容平といい、万物が実を結ぶ時です。すべてが引き締まり収納される時期で、陽気も体内深くに収納されます。あれもこれもと手を広げ過ぎると陽気を発散して体が弱り、冬に体調を崩します。

冬は平蔵といい、万物が静かに消極的になる時です。決して発散せず、心身ともに活動は控えましょう。発汗したり、酒を飲んで一時的に陽気を多くすると、反動で体を壊します。

村上百代「二十四節気に合わせ心と体を美しく整える」より引用

古来、中国や日本では、宇宙のサイクルから、気の流れや万物の流れを感じ取っていたのでしょう。

その流れに身体を委ね、逆らうことなく過ごすことが、健康法の基本的考え方として捉えられていたようです。

 

■旬のものを食べるということ

 

「上医は未だ病まざるものの病を治し、中医は病まんとするものの病を治し、下医は既に病みたる病を治す」という言葉があります。病は、未だ病まざるものの病=「未病」のうちに整えるというのが、基本的な考え方だったようです。そこで、重視されるのが、「食養生」の考え方。

「食養生」では、旬の食材を食べることで、それぞれの季節に体調を合わせていく意味があります。

いくつか例を紹介します。

・春の山菜

 春は、万物が芽吹き、活動的になります。陽気になり、胃腸も活発になり疲れやすくなります。

 また冬の間に溜まった老廃物を取り除く必要があります。

 山菜の苦みは、余分な熱・気を取り除き、肝の働きを助け、解毒する作用があるとされています。

・夏のうり類

 夏は、万物が活発に活動している時期で、人間も新陳代謝が活発になります。熱や湿気をきちんと八させずに、こもらせてしまうと体調を崩します。きゅうりやスイカなどのうり類は、余分な熱を取り除き、水分を巡らせ代謝させる働きがあります。

・秋の芋やかぼちゃ、果物

 秋は、陽気が減り、陰気が増えていきます。夏に発散した気

力を補い、冬に備えてエネルギーを蓄える時期。乾燥しやすいこの時期には、潤いを補うことも大切。

イモ類やかぼちゃ、果物には、湿を補う効果があります。気や湿を蓄えていく体に変化していきます。

「秋茄子は嫁に食わすな」。一般には、「秋にできるナスは味がよく、もったいないから嫁に食べさせるな」という意味で使われることが多いようです。しかし、本来は「ナスはからだを冷やすので大事な嫁に食べさせるな」という意味が込められていました。

・冬の根菜類

 万物が休眠し、春に備えてエネルギーを蓄えていく時期。にんじんなどの根菜類は、体を温め腎の働きを助け、エネルギーを蓄えます。また、ネギ類、しょうがも体を温めます。

 

 

季節の野菜には、単にミネラルやビタミンといった栄養素だけではなく、その季節の自然界の気や生命力のようなものも一緒に取り入れるという意味合いを捉えていたのではないでしょうか。

人間も大自然や宇宙の一部であり、その自然の巡りや、エネルギーの巡りによって身体も変化していく。自然と身体を調和させてこそ、体調が整っていき、楽しく暮らすことができる。食養生の考え方には、そんな意識を感じます。

 

 

次回のは、季節の巡りを感じながら暮らしを楽しんできた日本の文化に焦点を当ててみます。

 

【参考文献】

「二十四節気に合わせ心と体を美しく整える」 著:村上百代

「薬膳・漢方検定公式テキスト」 監修:薬日本堂

「創健社:健康にやさしい7つの提案」https://sokensha.co.jp/about/think/season/

投稿者 o-yasu : 2022年10月13日  

2022年10月13日

【これからの林業を考える】シリーズ5~明治・大正の「スピード林業」が、現在の産業衰退の大きな原因

■明治維新から戦前までの林業

明治維新になった途端に西洋の文化が流れ込み、高層建築物の足場や杭、電柱、鉄道の枕木、貨物の梱包などで木材の需要は急増し、幕府の締め付けもなくなった全国の森林で大量伐採が横行し、日本の森林は再び荒廃の危機にさらされました。

明治政府は明治30年(1897年)に「森林法」を制定して森林の伐採を規制しました。さらに、無立木状態の荒廃地に関しては、明治32年(1899年)から大正10年(1921年)までの「国有林野特別経営事業」にて国有林野を払い下げた費用で、植栽を積極的に行って森林整備に努めました。また公有林においては、大正9年(1920年)年からの「公有林野官行造林事業」において、政府が市町村と分収林契約を結ぶ事によって森林整備を実施しました。

森林法はドイツの森林整備を参考にし、林業の近代化が進展しました。その後、第一次世界大戦、日清戦争、日露戦争などの戦争などで木材の需要がさらに拡大しましたが、その近代的林業が土台となり、全盛期を迎えることになりました。

その一方で、当ブログでは、この明治・大正の近代的林業が、現在の林業の衰退を招いていることにもなっていると分析します。そこで今回の投稿では、現代の原因となっているポイントを整理し、今後の突破すべき課題を明らかにしたいと思います。

(さらに…)

投稿者 hasi-hir : 2022年10月13日