2022年10月8日

2022年10月08日

「腸が作る健康の秘訣」第4回 「善玉菌」「悪玉菌」の善悪って何?

前回は、腸内細菌の中でも最も注目されている酪酸菌について、その働きを紹介しました。酪散菌は、いわゆる「善玉菌」と呼ばれているもののひとつで、腸内の環境を整えたり、肥満や糖代謝を改善したり、脳機能の維持まで行うなど、重要な役割を担っています。

ところで、腸内細菌を「善玉菌」「悪玉菌」などと分類されていますが、何が善で何が悪なのでしょうか?

今回は、腸内細菌全体について、その役割やバランスについて見ていきます。

 

善悪では割り切れない腸内細菌

人間の細胞の数は約60兆個と言われていますが、腸内にはそれより多い100兆~1000兆個の細菌が棲みついており、その重さは1㎏から2㎏くらいもあります。腸の表面上に1000種類以上の細菌が群れをなして生息しており、その状態をお花畑に例えて「腸内フローラ」や「腸内細菌叢」と呼ばれています。

腸内細菌は、「善玉菌」「悪玉菌」「日和見菌」に分類されており、善玉菌と悪玉菌の割合は2:1で、善玉菌は全体の20%、悪玉菌は10%、日和見菌は全体の70%を占めています。

善玉菌は腸の中で発酵活動を行いますが、一方の悪玉菌は腐敗活動を行います。日和見菌は、善玉菌が優勢になると発酵活動、悪玉菌が優勢になると腐敗活動を行うといわれています。

悪玉菌は、腐敗活動を行う時に毒素を出し病気の原因となるために「悪」とされていますが、悪玉菌の代表である大腸菌はビタミンB群やビタミンKを作り出し感染症から体を守ったり、自然免疫を高めるのに生命維持にとって必要不可欠な菌なのです。
また、同じく悪玉菌とされているウェルシュ菌は、もともと肉食動物の腸内にたくさん棲んでいる菌で、肉類などのたんぱく質を分解する役割を担っています。

生まれたばかりの赤ちゃんの腸には、悪玉菌は全くおらず善玉菌だけで、母親の産道を通ってくる時や母乳を飲んだり、抱っこされたりとお母さんと触れ合う中で悪玉菌を獲得します。赤ちゃんは、そうすることで生後直後に免疫力を身に付けていきます。*1

 

細菌の多様性によって環境適応してきた

腸内細菌は様々な種類が共生し生態系を作っており、共存しつつ生存競争を繰り広げることで最も適した腸内細菌のパターンを作り出しています。
そのため、動物の種によって大きく違うし、同じ人類でも欧米人、中国人、日本人ではそれぞれ異なります。また、同じ日本人でも食生活の違いによって腸内フローラの構成が異なります。*2

 被験者8人の腸内フローラの構成(クリックすると大きく表示されます。)


 出典:善玉菌、悪玉菌の正体は? 腸内フローラの真実

特に人類の場合は、食事内容の影響を速やかに日単位で受けており、動物性の食事では胆汁耐性の細菌が増加し、植物性多糖類を代謝する細菌群が減少します。これは肉食性哺乳類と草食性哺乳類の違いを鋭敏に繁栄しており、短期間(日単位)での腸内細菌叢やその代謝活動が切り替わるという事実は、人類の進化と密接に関わっていると考えられます。

人類の長い進化の過程で、動物性食品は必ずしも安定的に手に入るものではないのに対して、植物性食品は比較的安定的に手に入れられます。したがって、このような食事の切り替えに適応すべく細菌叢の柔軟な変換の能力につながっている可能性があります。また、細菌、真菌、そしてウイルスをも含む食品由来の微生物がそのまま腸内の微生物として検出される事例が多く確認されており、腸の中の細菌叢は私たちが食べる食品とともにやってくる微生物によって、短期間で大きな影響を受けています。*3

 

発酵と腐敗の違い

悪玉菌が「悪」とされるのは腐敗時に毒素を算出し、病気の原因となるからですが、実は発酵と腐敗には、物理的・化学的な明確な違いは存在しません。いずれも、食品がおかれた環境や食品成分に適した微生物が増殖して食品成分を分解することで生じる現象なのです。

腐敗と発酵の区別は、人の価値観に基づいて、微生物作用のうち人間生活に有用な場合を発酵、有害な場合を腐敗と呼んでいるにすぎず、臭いの強いくさややふなずしなども、微生物の有用性が認められるのであれば発酵食品と呼ばれます。極端な話、納豆はそれが好きな人にとっては発酵食品に分類されますが、嫌いな外国人にとっては腐敗品に過ぎないのです。*4

腐敗が起こるような食べ物は、腐敗を起こすような菌が沢山いないと分解できないのであり、発酵するような食べ物は発酵を起こすような菌が沢山いないと分解できません。
菌は必要なところに存在し、生命現象を営んでいるに過ぎないのであり、そこには良いも悪いもありません。

「善」と「悪」に分けたのは、キリスト教に影響を受けた西洋科学の思考法に起因しており、善悪の価値判断で分類しようとするから、どちらにも当てはまらない7割が「日和見」に分類されています。事実は、すべての菌が何がしかの役割を担っており、それらのすべてが影響し共存することで生命が維持されているのです。

しいて言えば、肉食動物も含め、肉類をおなかいっぱい食べられる環境にある生物は現代人しかおらず、腐敗によって生じる毒素を処理しきれないほど食べるということは自然の摂理=生物原理に反しているのであり、そういうことが「悪」なのでしょう。

腸内細菌は、消化や免疫機能の働きを担っているだけではなく、心身の状態をもコントロールしています。次回は、腸と心身のネットワーク関係について見ていきます。

 

参考したサイト
*1.腸内環境・フローラについて http://www.daiko-dental.com/daiko-note/all/consideration/979.html
*2.日本人の腸内細菌、その特徴はなに? 米国や中国となぜ違う? https://www.asahi.com/relife/article/14339144
*3.腸内細菌や皮膚細菌の種類が多様なことは健康にいいことだ http://www.mac.or.jp/mail/170801/01.shtml
*4.腐敗と発酵、腐敗と食中毒はどう違うのか? http://www.mac.or.jp/mail/100701/02.shtml

投稿者 matusige : 2022年10月08日