農を身近に★あぐり通信vol.17:明日から始めよう☆1日1食主義☆ |
メイン
2014年03月18日
シリーズ「自給期待に応える食と医と健康」⑧~食品流通から食の安全を考える
本シリーズが始まったのは昨年の10月ですが、その後、有名なレストランでも産地を偽るなど、相次いで食品偽装の問題が報道されました。社会的にやってはいけないことですが、消費者自身も国産で品質管理がしっかりしたものは、当然それなりの価格でしか市場には出回っていない、と認識すべきだと思います。
本シリーズでは、食材或いは料理に対する信頼感が薄れている現状に対し、人々が健康に暮らしていく上での知恵として、食材や料理について以下のような内容の追求をしてきました。
①<プロローグ>医者への不信感と自給期待
②間違いだらけの食と医~
③味覚と健康はどう繋がっている?
④身体のバランスと酸アルカリの関係
⑤日本人に適した食材と料理を陰陽学から考える!
⑥放射能から体を守る~
⑦心と健康のバランス~
今回は、食品を扱う上でつい見逃してしまいそうな、「食品流通」の問題をシリーズの最後として扱いたいと思います。
1. 流通販売過程での品質はどのように担保されているか?
① 消費期限と賞味期限
下図のように消費期限とは、製造日を含めて概ね5日以内で品質が急速に劣化する食品に表示するもので、弁当、パン、惣菜、生菓子、食肉、製麺などがあります。一方、賞味期限は、定められた方法により保存した場合において、期待されるすべての品質の保持が十分に可能であると認められる期限を示しますが、示された期限を超えた場合であっても、これらの品質が保持されていることもあります。
これら品質保持期限の意味は意外と知られていません。例えば、私たちの食生活と切っても切れない食品の一つ「卵」についてですが、卵は生食用には賞味期限を表示するように食品衛生法で定められています。この賞味期限は「生食可能日」を指しており、ゆで卵や卵焼きのように加熱するものについては、賞味期限を超えても何ら問題ないのです。そうであるにも関わらず、賞味期限が過ぎたら加熱しても食べられないと思っている人が多いのではないでしょうか?さらに、生食用であっても10℃以下で保存すれば1ヶ月以上も食べられる期間が長くなることが知られています(下表)。
「もったいない!!~メーカーやコンビニも模索中です☆~」
>まだ食べられるのに捨てられている食品は、年間800万トンにものぼると言われています。廃棄してしまうと、コストもかかるし、なにより食べられるものを捨ててしまうなんて、もったいない!!
これらの品質保持期限は生産者が設定することになっており、本来どうあるべきかを消費者や流通・小売業や生産者も一体となって考えていけば、無駄な廃棄物は減り、生産性も向上していくのではないかと思います。
② 適温管理と呼吸数量・栄養保持
さらに、もっと考えなければならないのは、期限を正しく表示するかどうかの問題よりも、「おいしく食べることができる状態とは?」を知ることです。
下図のように、品目によって適温が異なるので、生産地からお客様の手元に届くまでの管理はもちろんのこと、青果物は、適温を超えると呼吸数量が急激に増えていくので体力を消耗し、おいしさも失われていきます。特に、ホウレン草やレタスなど葉物にこの傾向が顕著に見られ、加湿することによって鮮度を長持ちさせるなどの工夫も考えていくと良いでしょう!また、味だけではなく、栄養分まで失われていくことが右のグラフを見ればよく分かります。もちろん、こういった変化に強い品種に育てていく生産者側の努力も必要ですが、手元に届くまでの時間及び中間業者が多ければ多いほどコストが掛かる、或いは、鮮度低下のリスクが大きくなっていることを我々は理解しておかなくてはなりません。
③ 食品の安全管理とは、先ずは微生物の特性を知ることから
冒頭に触れたように、食材或いは料理に対する信頼感が薄れている原因として、牛乳メーカーの大規模食中毒事件(2,000年)、国内でのBSE発生(2,001年)、中国製冷凍ホウレン草の残留農薬事件(2,002年)、2,008年には故意に行われた農薬混入事件が発生、さらに事故米の不正流通など、相次いで事件が起こっている社会背景があります。
食の安全性に関するアンケートをとると、農薬や輸入食品、或いは添加物を不安要素としてあげる人が多いのに対し、実際の苦情は、異物混入に次いで多いのが食中毒の問題です。
実際に現れる症状が重いという意味でも、最も重要なのはその原因となっている微生物汚染であることを理解しておく必要があります。
製造現場の衛生管理は食品衛生法によって厳しく管理されていますが、使われている食材そのものの汚染については何ら記載がありません。微生物の繁殖度は流通過程の温度管理や清潔さ迅速さによっても左右され、見落としがちな領域だと認識しておく必要があります。
2. 流通過程で管理すべきことは?
① 流通コスト増が食品不祥事の温床になっている!
下図に示すように、食品業界の売上げに対する物流コスト6%、低温流通にあっては10%と全業種で最も物流コストがかかる業界となっています。しかし、一品一品の売値は最も低い業界でもあり、どの販売業者もどれだけコストを落とすかに躍起になっているのです。また、商品の売れ残りや品質保持期限切れのものは廃棄に回ることになり、この需給管理がうまくいかないと、そのツケを市場や消費者に回す、といったような問題が実際起こっています。今は、食品小売業はコンビニの伸び悩み、スーパーの安値競争とどこも苦しいので、気持ちは分かりますが、問題は供給側と販売側がどのようにタッグを組むかが重要なのです。
正確な売上予測は必要ですが、供給側と売り手が分離している市場では、ここがうまくいきません。需要を掴むのは重要ですが、買い手=需要発という発想だけでは勝てないのも事実です。
② 在庫ゼロを目指す
従来、食品製造業の組織は、生産・販売・物流という独立した部門があり、それぞれの業務の精度が上がらない部分を、在庫というクッションでそのブレを調整してきました。しかし、昨今、社会的に安全・安心さが厳しく問われるようになり、鮮度低下の原因となる在庫を如何に減らすかが競争に勝っていく上で重要になってきています。
この製造から販売まで、「もの」の流れと保管、サービス、および関連する情報を計画、実施、およびコントロールする過程を「ロジスティクス」と呼んでいます。メーカーや流通業、スーパーは、このロジスティクスの精度を上げるために、部門や企業間の連携を図り、正確な需要予測を立て、全体の業務精度を上げていくことに躍起になっています。
3. 食品流通のあるべき姿
① 今後は直売所が主流になる
さて、これまで食品流通の現状や、企業が市場で買っていくために、どのような事が課題であるかを述べてきましたが、先にも述べましたとおり、食品流通業界はデフレ⇒低価格競争⇒淘汰競争過程にあり、根本原因としては、日本の食品廃棄物量は1,940万t、なんと食べ物の40%を捨てているというのが現状です。
従って、既存市場の競争の枠組で生き残る企業は少なく、先行き不透明です。そんな中、人々の健康志向、節約志向、自給志向、農への関心の高まりから来る、産直需要というのが注目されています。地方の直売所は1980年ぐらいから急激に増え、今では約17,000店舗、日本全国のセブンイレブンの店舗数より多く、売上げも一兆円に迫る勢いです。今後は、インショップやマルシェ、アンテナショップ、商店街の空き店舗活用型など、都市型の産直店が既存のスーパーに変わり伸びてくるものと思われます。
② 需要発から供給発へ
しかし、お客様は食品流通に関する不安から、本心は安全・安心・新鮮なものを求めているはずですが、低所得者層が増える中では、やはり目の前の生活費をどうやりくりするか?が課題であり、つい値段の安い食材に目が行ってしまいます。
当ブログでは、以前にも記事を掲載しましたが、
★農における業態革命~ VOI.1 供給発への認識転換⇒技術開発、農家の組織化、販路の開拓の3点セットが基本構造 ~
>◆需要発から供給発への転換◆
>これら5つの成功事例における、現代あるいは近未来にかけての農業経営のポイントは何なのか?を絞り込んでいくと、まず農家にしても消費者にしても、組織化そのものが重要だということがわかります。
>「もはや求めてもいない物的需要をむりやり刺激したところで、活力は衰弱していくばかりである。」必要なのはその現状を突破する「活力再生の切り口」である。そしてその切り口とは、「市場経済の分析軸として固定観念化してしまった需要はどこにあるのかという需要発の発想こそ、可能性探索を妨げる旧観念であり、供給発の発想に切り替えさえすれば答え=可能性は無限に開かれる」という「需要発から供給発へ」の発想の転換であった。http://www.rui.jp/ruinet.html?i=200&c=600&t=6&k=0&m=79426
つまり、消費者が求めているのは、物的価値に代わる類的価値の創出⇒生産者の組織化⇒充足供給(安心・安全・健康への期待に対する技術追求はもちろんのこと、その質や提供の在り方、充足を生み出す相互関係(生産・搬入・対面・物流関係等を含む)の工夫)なのです。
例えば、生産者自身が作るだけでなく、消費者が集まる店頭に出ていって、生産現場での栽培の工夫、どうしてこのような無農薬の野菜をつくろうと思ったのか、味と共に生の声を伝えることによって、消費者の反応は変わるものです。また、この生産者の作ったものなら安心、と思いファンも増えてくるはずです。
ただ、モノを供給するだけでなく、これから食品流通に求められるのは物的価値から類的価値への認識の転換、と日々の実践でこれらをどう実現するか?に掛かっているのです。食品流通の世界は、ややもすると生産者と小売店の狭間でただモノを効率的に新鮮に安く流すことに目が行きがちですが、どれだけ流通に係る人が生産者と消費者を繋ぐ役割、つまりそれらの想いに同化し、ネットワークを形成するかが成功の鍵になってくるものと思われます。
最後ですが、長い間、このシリーズにおつきあい頂いた読者の皆様ありがとうございました。
投稿者 ruinouen : 2014年03月18日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2014/03/1527.html/trackback