【シリーズ】日本の農業政策から、今後の農を考える 2.日本の農業政策を探る |
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2013年04月20日
【シリーズ】生態系の循環を活かした持続可能な農業の実現に向けて(2)~何故、土作りが重要か?
美味しい野菜作り、安心安全な農作物の栽培において、もっとも大事なことは何ですか?という問いかけに対し、「土作り」と答える農業生産者は多いと思います。不耕起栽培の可能性を探るに当っては、そのもっとも重要と思われる土作りにどのような影響があるのかが、ポイントのひとつになってきます。
土は、私たち人間や動植物の足元を支える大地となり、農作物が作られる農地となります。しかしそれは、我々人類をはじめとした、地上に住むものからの一方向からの見方に過ぎません。生態系全体や物質循環という広い視点で捉えたときに、土がどんな役割を果たしているのか、それを明らかにしたうえで、土作りの重要性を考えていきたいと思います。
■土は物質循環のカナメ
地上では、動植物の死骸や排泄物は、有機物として土に戻っていきます。土に戻された有機物は、分解され植物の栄養源となります。植物は、これらの有機物由来の栄養分を土から吸収し、一方で空気中の炭酸ガスを光合成によってエネルギーに変えながら成長します。
この植物を草食動物が食べ⇒草食動物を肉食動物が食べ⇒それぞれの動植物の排泄物や遺体が土に戻るという物質循環のサイクルが、自然界で連綿と続いているのです。このような生命の流れや物質の循環に、土がまさに要(カナメ)としての役割を果たしているのです。
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■土(土壌)は、どのように形成されるのか?
では、そもそもこのような土は、いったい何から出来ているのでしょうか?地球とほぼ同じ頃に宇宙に現れた月は、何十億年経った今でも、出来た頃のままの岩石の状態でとどまり、そこには我々が地球上で見るような土は存在していません。地球上の土はどのように作られてきたのか、順番に見ていきます。
(1)岩石から砂へ
地球上の岩石は、今から数億年~数百万年前に出来たと推測されています。この岩石のうち、地表に出ている部分は、太陽の熱、水や風の影響を受けて風化し、長い年月をかけて、小石と砂の混在物へと変化していきます。
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(2)砂から粘土へ
岩石の風化で出来た小石や砂は、水に溶けた炭酸ガスからなる炭酸イオンによって少しずつ溶かされていきます。小石や砂の成分の中でも溶けにくい元素は、一旦は水に溶けても、すぐに結合して沈殿していしまいます。そして沈殿の中で、ゆっくりと結晶が作られていきます。この結晶が結合して層となり、それらが結合して「粘土」が形成されます。また、火山の噴火によって火口から噴出する火山灰も、粘土の材料となります。
このように形成された砂や粘土などの性質が、土の物理的な性質のベースとなります。
(3)生物による腐植や団粒の形成
しかし、粘土が出来るだけでは、まだ「土」とは言えません。そこに生物の働きかけがあって、「腐植」が加わり、「団粒」が形成されて、はじめて「土」は完成するのです。
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森林で枯れ葉が地面に落ちると、地面に住むヤスデ、ダンゴムシ、トビムシ、ササラダニなどの虫類がこれをエサにします。これら大小の虫類は、落ち葉を細かく噛み砕き、消化してフンとして排泄します。このフンを色々な微生物が、栄養源として利用します。しかし、微生物が食べ残した一部は、低分子の有機物(たとえばリグニン)を経て重合し、粘土と結合して複雑な高分子の有機物へと変化します。これが「腐植」です。
粘土と重合した腐植は、お互いに強く結びついて、粘土を貼り合せる糊のような役目をします。こうして、粘土・腐植の集合体が発達して、「団粒」が形成されていきます。団粒化の進んだ土は、水や空気の通りがよく、柔らかくて水持ちがよく、植物の生育にとって好適な条件となります。自然の山林では、このような団粒構造の土が基盤となって、豊かな生態系が形成されているのです。
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土が出来上がるまでには、材料となる岩石と、空気と水、そして生物の営みが無くてはならないのですね。では、その土中生物たちの様子は、どうなっているのでしょうか?
■土は生きている~生態系としての土壌
「土は生きている」という言葉があります。土の中には、さまざまな種類の土壌微生物が数え切れないほど多く住んでいて、ほんの一つまみの畑の土1グラムの中には、数千万から数億固体の微生物が生息していると言われます。この土に住む微生物は、細菌、放線菌、糸状菌、藻類に分類され、数が最も多いのが細菌類で、全体の90%を占めます。その他、土の中にはセンチュウ、ミミズ、クモ、ダニ、ムカデなどの小動物から、モグラ、ネズミなどが住んでおり、地上と同じように複雑な生態系が存在しています。
地上の動植物の排泄物や死骸は、有機物として土に戻されますが、これらの有機物は、まずは土に住む小動物たちのエサとなり小さく砕かれます。次に、土の中の土壌微生物が、砕かれた有機物を分解して、一部は自分たちの養分として消化すると同時に、一部を無機成分として土の中へ放出します。この無機成分が植物の重要な栄養源となっていきます。
例えば、ミミズは土とともにまだ腐食化していない植物の死体を食べ、有機物の混じった肥えた土にして排出します。そうすると次は微生物が、その未消化分を食べ、お互いに助け合って住んでいます。
またミミズは土や腐植物を食べながら進んでいくので、土の隙間を増やし、水はけや空気の通りのよい土にしてくれます。このミミズによって“耕される”土の量は、10アール当り年間38~55トンにもなると言われています。そして、その排出物は、微生物により消化され易くなっているのでさらに腐植化がすすみ、粘質物の排出とともに土の団粒化が促進されていきます。
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■「土作り」の主役は土壌生物たち
さて、あらためて「土作り」に戻って考えてみます。このように、土が出来上がる背景には、地上の動植物と土中の生物たちの営みがありました。私たちが作物を作る農地も、このような生態系や自然の循環の上に成り立っているのです。そのようにして作られた、団粒化が進んだ土は、水や空気の通りがよく、柔らかくて水持ちがよい、植物の生育に好適な条件となります。これが土作りの目指すところと言えそうです。
しかし、それは土壌生物たちの生態系によって作られるものです。従って、「土作り」とは土中の生態系を活性化させていくことであり、土壌生物たちこそが「土作り」の主役なのです。だとすれば、私たち人間の役割は、彼らの活動しやすい環境を整え、守っていくこと、その手助けをしていくことなのだと気付かされます。持続可能な農業を考える上で、土中の自然環境や生態系を守る、壊さないということが、何よりも重要になってくるように思います。
我々は、土作りと称して有機質資材を投入し、それを農地に鋤き込みます。しかし、耕起によって、土壌の団粒構造はどうなる?土中の生態系は?・・・色んな疑問が湧いてきます 🙄
この辺りから、不耕起栽培の可能性について、追求していきたいと思います。
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●参考図書
「図解 土壌の基礎知識」
「土と人のきずな」
「生きている土壌」
「土のはたらき」
投稿者 komayu : 2013年04月20日 TweetList
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