【コラム】タネの多様性を守り続ける、ミャンマーの草の根ネットワーク |
メイン
2022年05月21日
「稼ぐ農」シリーズ8:稼ぐって何?
稼ぐ農シリーズも8回目になります。
今回はこのシリーズのタイトルにもなっている「稼ぐ」について扱っていきます。
農業に限らず人々は生産活動をする際に成否のものさしにするのが「稼ぐ」という結果です。
いくらよい仕事をしても稼げなかったら評価されていない、必要とされていないとイコールなのです。或いはこういう考え方もあります。稼ぐのは単に努力と結果だけではない。普通にやっていればそう稼げない。競争に勝ち抜き、凌ぎを削り、知恵と工夫を重ねていく。その先にようやく少し稼げる。そういう稼ぐ為の同類の戦いを勝ち抜く事が稼ぐっていうこと。
工業生産の発想を使えば何時間でいくら生産したか、生産効率をどう上げるかというものもあるし、市場経済の発想を使えばいくらの原価で付加価値である利益をどう上げたか。経費をどう抑えるか、人件費をどう抑えるかというのも稼ぐためのポイントになります。逆に言えば農業においてこの工業生産、市場経済の論理がそのまま繋がるのかというのが興味深いというか追求ポイントになると思うのです。
農業は工業生産とは違い自然が相手です。天候や雨、台風の程度によっては全く生産があがらない場合も少なくない。虫や菌や動物といった外敵要因も作付けに大きく影響する。さらに味や形を均質で市場化するには多くの手間を擁します。豊作の時は価格がさがり、貧作の時は作物が出荷できない。さらにいくら機械化が進んだとしても、多くの作業は人の手に委ねられます。百姓に代表されるように様々な技術を駆使し、伝えられないような能力も必要とします。農業を数年間やり続けてやっと1人前になれる。そういう高熟練を求めるのも農業です。
そう考えると、農業は儲かるはずがないという諦観にも繋がるのです。
――――――――――――――――――――――――――――――――――
さて、その上で敢えて稼ぐ農って何?どうやって稼ぐのかについてリサーチしてきました。
いくつか稼いでいる事例や稼げそうな方法論も紹介してきました。それらを全部試してみる、実践することが稼ぐ農に繋がるのでは・・・という思いで振り返ってみます。また、それらの最後にやっぱり稼ぐってなんだろうを提起していきたい。全部やることが稼ぐって事ではないという思いもあります。
「農業の新しいカタチを創る」をビジョンに掲げるサラダボウルだ。「新しいカタチを創ると言っても、何か特別なことをしたということではありません。他の業界で当たり前に行われていることを、ただ農業にも取り入れてきただけです。なぜつくるのか、こだわりはなにかといったコンセプト、また、どのように伝え、届けるのかという生産者自らの創意工夫が「価値」として消費者に支持される。
代表の田中氏は、元々は銀行員、その後は外資系生命保険会社に勤務。
異業種で培ってきた経営感覚が、農業の現場でも活きている。
『稼ぐ農』シリーズ2~現場の緻密な追求と評価こそ「稼ぐ農」の基盤になる~
サラダボウルの取り組みで目を引くのが「カイゼン」という活動です。
これは、生産効率を上げるため、各スタッフが主体で現場での作業や体制の改善ポイントを追求するという取り組み。
上層部ではなく、現場のスタッフが主体となって考える。マネージャーはその提案の課題を挙げ、またスタッフはブラッシュアップする。
「現場における細やかな追求と評価が組織を高める」という強い意志を感じます。
『稼ぐ農』シリーズ3~「1本5000円のレンコンがバカ売れする理由」から観る稼ぐ力
「新企画の商品によって、つくられる最終商品は、新しい社会のありようそのもの」であり「社会の需要が潜在している商品をつくろうというのではなく、新企画商品を受容する社会そのものもセットで形つくろう」といっています。
僕たちが本当に作らなければならないのは売りやすい商品ではなく農家が心を込めて大切に育てた作物を、本当に大切に扱ってもらえるような社会なのではないでしょうか」僕は農家は何よりも生産者としての矜持(きんじ)を見失ってはいけないと思っています。
そのような熱意は、最終的な消費者にも伝わるものなのです。結果的にそのような商品や食材が売れることになる。「どうやったら売れるか」は確かに大事ですが、「商品力を高めること」は、それよりももっと大事なのです。
『稼ぐ農』シリーズ6~自分たちでつくって、運んで、売る。が創りだす価値
生産・流通・販売、これらを一体のものとして展開してこそ、農業経営の可能性は大きく拓かれる。それを類農園は現実の経営活動をもって実証しようとしています。地域が抱える課題もそこから生まれる期待も、当事者として受けとめ経営の志としていく。
なんであれお客様からの生の声は、生産者にとって大きな活力源になります。「次はもっと良いものを」という生産者の意欲の高まりは、店頭に並ぶ商品の質をさらに高め、売場はより魅力的なものになっていきます。類農園は自ら生産と販売の両方を担うことで、日頃から生産者と消費者双方に正面から向き合い続けています。
『稼ぐ農』シリーズ7~集団化したリンゴ農家、産業を変革する新しい農のカタチ
「リンゴ作りのプロ集団」となるべく日々追求している農業法人~企業で農業に取り組んでいる「株式会社株式会社RED APPLE」
日本では「りんご栽培は手がかかるほど良いものが出来る」という考え方をする農家さんが主流で、「りんご作りは職人の技」のように語られることも多いです。私たちは、栽培ノウハウを提供しコンサルティングするという立ち位置で関わっていますが、彼らとの関わりをきっかけに、私たち自身の畑でも高密植栽培のみならず、世界の最先端のりんご栽培手法を学び、資材を取り入れて栽培にチャレンジしています。
日本におけるりんご産業を守るのだという視点に立ち、取り組んでいます。この業界は今後大きく変わっていく必要があります。社員それぞれが自分の意志をもち、みんなで進んでいく。そんな組織に徐々になってきていると実感しています。―――――――――――――――――――――――――――――――
これらの記事は農業による稼ぐっていうヒントを与えてくれています。
改めて稼ぐってなんだろう?を問うてみます。まだ、最終回でないのでたたき台です。
まず稼ぐっていうのは以下のイメージです。
・農業専業で他の業態と同等以上に利益を上げる。
・それを実現するために集団で勝つ。
・生産、流通、販売を一連に自前で開拓しそれぞれの部門からのフィードバックを生産現場に反映させる。
・自らの集団だけでなく周囲の農業集団、さらに地域全体に必要な存在になる。
・農協を通さない。自前の流通網を作る。
・技術を高度化する。現場は常にカイゼンを試みる。
・集団の成員が生き生き働ける環境を作る。
・生産者としての矜持(きんじ)、熱意を持ちそれを消費者に伝える。
・消費者が求めるものを作るだけに留まらず、新しい商品を受容する社会を作る。
・自集団だけでなく、農業業界全体を変える志を持ちネットワークを作る。
これらを確実に実践していく事が稼ぐっていう事の中身ではないかと思います。またそれには企業として農業を取り組み、使い使われるという雇用、労働者の発想から自ら組織を担い、育てていく経営者の発想が求められます。稼げない農業を企業で取り組み成功していくというのはそれらの実験でもあり、挑戦なのではないかと思います。
挑戦の先に成功があれば一つの「新しい農業のかたち」として後に続く事もできるでしょう。
投稿者 tano : 2022年05月21日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2022/05/5786.html/trackback