食と日本人の知恵シリーズvol.5~貝原益軒『養生訓』に学ぶ |
メイン
2013年05月05日
タネから次代の農業を考える3.各地で芽生えるタネの輪
こんにちは 😀
これまで見てきたように、固定種の可能性とは、
自家採種という技術的問題だけにとどまらず、
種を一部の支配者の手から、みんなの手に取り戻して、
循環型、持続型の社会を再構築して行く課題であると言えそうです
たねの交換会をはじめ、その可能性の萌芽は、
都市部を中心にあちらこちら、さまざまなスタイルで現れ始めています
今回は、小規模ながら確実に増えてきている多様な「種を囲む営み」の中から、
特に注目したい事例を2つご紹介させていただきます
こちらからお借りしました
種をテーマに集う
東京の国分寺市にある“café Slow”というコミュニティカフェ
この、誰でも足を運ぶことのできる広く開かれた空間で、
2013年2月17日、在来種にスポットをあてたイベントが行われました
その名も たねと食のおいしい祭
こちらからお借りしました
HPを覗くと、“種にちなんだマルシェ”や“種を大切に考える飲食ブース”他にも“映画上映”“親子で楽しめる種のワークショップ”など、楽しそうな企画が盛り沢山 カラフルなポスターからは、“難しいこと苦手!”という人でも気軽に参加できる雰囲気が感じられます
そして、開催趣旨を読むと、一時の流行、というわけでもなさそうです
café slowのHPより引用
在来種がもつ多様性の魅力、伝統文化、そして「多様であること」そのものが持つ掛けがえのない価値に光を当てることで、食と種の寡占化・画一化の流れに代替する「多様な種を守る文化」の潮流を草の根から育ててゆく、その皮切りとなるイベントと位置づけます。
また本イベントは、それ自体が単独のイベントではなく、運営メンバーがそれぞれ関わり定期的に開催されている「土と平和の祭典」「東京朝市アースデイマーケット」、そしてその両者と連携して農家と消費者がつながる場を提供している「週末農風ツアー」といった既に定着し影響力を持つコンテンツとミッションを共有し連続性を重視しています。
より多くの人に在来種や伝統食文化の魅力に触れてもらうこと、その作り手・届け手と直にふれあう機会を提供することで、それぞれの切り口から関心を持ってもらう契機となることを目指します。
そして参加者同士の出会い、ゲストや運営メンバーの持つコンテンツとのつながりもより強く確かなムーブメントを育ててゆくための一翼を担うものと確信しています。
“種”を扱ったイベントは規模の差こそあれ、各地で開催されています
これは、人々の求めているものが、一時的な解脱充足からもっと本源的な充足へと転換していることの現れなのではないでしょうか 気軽に参加できる間口の広いイベントが、“食”や“農”への期待の高まりを、より本質的な“種”というテーマへ導いてくれるきっかけとなりそうです
種のことも教えてくれる八百屋さん
“たねと食のおいしい祭”のマルシェに出店し、講師としても招かれたWARMERWARMER代表の高橋さん
「自家採種・固定種・在来種」を守り、知識を語りつなげる活動をしていて、すでに種を囲むコミュニティーの中では、 種を守る野菜やさん として名の通っているキーマン的人物です
契機となる311東日本大震災以前は、自然食品の会社に勤務しており、農家へ有機JASの普及をしていたことも 栽培の際に数種類の農薬使用が認められていたり、農産物の形が不自然に揃っている日本の有機JASの基準に、疑問を持ったそうです 種の規定にもなんだか違和感が
インタビューより引用
種を殺菌したり、殺虫剤を付着させたり、掛け合わせたり、人がいじって作りだした種を使って育てた野菜をオーガニックとは、海外では絶対に認められない。でも日本の有機JAS認証は種については規定が海外とは違う。(有機JAS規定第4条)
だからもちろん有機JASマークの野菜も、このサカタさんかタキイさんの種を使って野菜をつくってるんです。
高橋さんは、311を機に会社を退社し、国内の有機農業をとりまく生産者や加工業者、団体生産者をつなげて、被災地の有機農業者の支援にいち早く着手します そのなかでも、人々の意識を種にむけたい と思える出来事があったそうです
インタビューより引用
種の大切さを広めなきゃと決めたもうひとつの大きなきっかけがあります。
原発事故後、福島県浪江町の在来種野菜をつくっていた農家さんから電話をもらったんです。彼は原発事故で親から代々受け継いだ種を失ってしまった。それで東電に抗議に行ったら、対応した東電の担当者が笑ったというんです。たかが種と言われたと。
それを聞いたときに、その人は種というものの大切さを知らないから笑ったのだと思ったんですね。だから、種について、もっと多くの人に知ってもらえる活動を始めようと思ったんです。
彼が立ち上げた団体、WAMERWAMERはとても興味深いプロジェクトをしています
その名も、 旅する八百屋
この八百屋は固定の店を構えていません マルシェはもちろん、レストランやカフェ、雑貨屋さんの店先など、東京都内のいろんなところへ移動し、在来固定種の農産物を対面で販売しています
WAMERWAMERのHP
こちらからお借りしました
吉祥寺経済新聞より引用
私たちは八百屋として、野菜が作られた背景や物語をはじめ、お客さんが体に取り込むその瞬間まで、野菜が生きていて個々に種を持つ命ある存在であることを知ってほしいと思っている。『生命力のある野菜を頂いている』という意識を持っているだけで、土との距離が近くなり、四季折々の私たちの暮らしが豊かになる。そのライフスタイルまで語り継ぐことが、私たちの目指す八百屋
こちらよりお借りしました
一見、ごく普通の産直の野菜販売ですが、訪れてみると奥深さを体感できるようです
訪問者のブログより
「旅する八百屋」は、日本古来より受け継ぐ「在来種の野菜」を守るために発足し、消費地でその重要性を伝え、体験してもらい、野菜を届けることを使命としているそうです。
在来種とは本来の植物としての野菜の種。日本ではどんどんと減ってきてしまっているのです
「その土地に合った作物を育てれば、本当は農薬なんてつかわなくても野菜は作れるんだよ。」
「在来種の野菜は人口的な調整していない分、味にばらつきがあるし、日持ちもしないので農協にはまったく評価されていない。でも土のエネルギーと生命力にあふれているから、食べてみれば人間の身体は絶対に反応するから」と、タカハシさん。
野菜のプロフェッショナルのお話は、情熱に溢れていて、人間と自然界の生命の話にまで通ずるようなもので、東京の自由が丘にいることをすっかり忘れて、どこか遠い田舎町で手料理をご馳走になりながら農家さんの話を聞いたかのような錯覚におちいりました。
なるほど。だから「旅する八百屋」なのね。
旅する八百屋を媒体として、作り手の想いと姿勢が伝わり、
買い手も“どこか田舎町で”“農家さんの話を聞いたかのような”充足感を味わっています
高橋さんの“食べる側も農のことをもっとよく知ったら、より豊かな生活ができますよ”
という想いと姿勢に触れることで、買い手はただ消費するだけではなく、
生産過程の延長線上にある食を意識できるのではないでしょうか
今回は2つの事例をみましたが、その他にも興味深い事例はたくさんあります
種を囲む人々の営みに共通していえるのは、市場経済の発達とともに私たちが失ってきたものを、取り戻す可能性に満ち溢れているのではないか、ということです
“農産物”や“種”は、商品として通用し流通しているけれど、それを作る過程や、生産者と消費者との関係のなかでは、必ずしも商品の合理性が貫かれてはいません (この場合、商品の合理性とは、商品をいかに低コストで速く作るか、いかに短時間でたくさん売るか、という市場経済の軸となっている性質のことを示します。)
お金を通してやりとりされているけれど、その面だけではみることができないものが、消費者と生産者をつないでいるのです
消費者と生産者をつないでいるもの
・作り手、主催者の想いを感じること
・農をとりまく状況を知ること
・自然の摂理に触れること
・世代や地域を超えた普遍的なテーマへ向かう共同者となること 😮
これらが、空腹を満たすための単なる物的売買ではなく、充足できる、心を満たす場をつくりあげているのではないでしょうか
こちらからお借りしました
“安い”“いつでも手に入る”“調理しやすい”などの市場経済によって増長されてきた価値観ではない判断軸をもつ人々が増えていること また、形ばかりの健康志向や安全志向ではなく、“種”という本質的なものへ人々の関心が集まりつつあること
これは、私たちの求める豊かさの質がより本源的なものへと転換してきていることを現しているといえるでしょう
また、種について考えていくと、個別の“農家”という枠を取り払って、地域全体、社会全体で考えていく本質的なテーマであることに気づかされます この、個別の“農家”という枠を取り払って考えていくことが、固定種の可能性なのですが・・・
これは次回、詳しく扱おうと思います お楽しみに
投稿者 staff : 2013年05月05日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2013/05/1417.html/trackback