2008年8月7日

2008年08月07日

WTO インド・中国はなぜ米国と対立するのか

今回のWTO交渉決裂は、中国とインドの強硬姿勢によりアメリカと対立したから、と報じられています。
いつもアメリカの言いなりである日本。そのアメリカを含めてどの国も協力してくれない孤立状態の中、
結果としての「決裂」に救われた。救いの神は中国とインドということになります。
そこで、強行姿勢を貫いたインドと中国の状況を知る上で、下記の記事が参考になりそうなので紹介します。(正国)
  ~引用始め~

WTO多角的貿易交渉が決裂した真相
インド・中国はなぜ米国と対立するのか2008年8月7日 木曜日
米国時間2008年7月30日更新 「WTO: Why India and China Said No to U.S.」
 中国とインドが同じ立場に立つのは珍しい。巨大な人口を抱え、高い経済成長率を誇っている点で両国は似通っているが、片や共産党の一党支配、片や統制力の弱い連立政権と政治体制は大きく異なる。対米外交の考え方も違う。中国は長年、インドと対立するパキスタンを支援してきた。インドは中国の製造業の力を羨望のまなざしで見つめ、中国はIT(情報技術)産業でインドの成功を模範にしたいと考えている。
 だが、今回決裂した世界貿易機関(WTO)の多角的通商交渉(ドーハ・ラウンド)で、両国の立場は一致していた。世界共通の貿易自由化ルールづくりを目指すドーハ・ラウンドの閣僚会合は7月29日、農業補助金を巡る対立から、決裂という不名誉な形で協議が中断した。
 米国は、交渉決裂はインドと中国の強硬姿勢のせいだと両国を非難。ほかの国も両国に苦言を呈している。日本の町村信孝官房長官は7月30日の記者会見で、インドと中国は「自国の利益を重視するあまりに世界経済全体のことをどこまで考えてくれたのか、疑問なしとはしない。世界経済全体に占める役割の大きさをしっかり自覚してほしい」と批判した。
■農村部の社会不安を恐れるインドと中国
 各国からの批判は耳に痛いかもしれないが、インドも中国も外圧に屈する様子はない。両国は製造業やアウトソーシング産業への海外からの需要のおかげで高い成長率を維持している。それと同時に、両国政府は困窮する国内農村部にも配慮する必要がある。米国をはじめ諸外国からの輸入農産品との競争にさらされて、何億人もの農民が苦境に陥っているのだ。
 中国はここ数年間、農村部の窮状を緩和する方策を模索してきた。中国沿岸部の各省が経済成長で潤う中で、約5億人が住む農村部は発展から取り残されている(BusinessWeek.comの記事を参照:2007年2月16日「China’s Widening Income Gap」)。米国のアグリビジネス(企業的農業)と張り合うには、「中国の家族経営農家はあまりに脆弱だ」と、北京大学国際政治経済研究センター主任(所長)の王勇(ワン・ヨン)准教授は言う。
 また中国は自国の農業生産だけでは国内需要を賄えないのも事実だ。中国農業省の統計によれば、中国人の主食の1つである大豆の輸入額は昨年、前年比53%増の115億ドルに急増。2007年の農産品輸入総額は410億ドルと、前年比で28%増加した。
 胡錦濤国家主席や温家宝首相は農村開発促進の必要性を折に触れて主張してきた。中国政府は減税など、農家の負担を軽減する措置を講じているが、都市部との格差は縮まらず、中国指導部は危機感を強めている。
 「中国政府は農家から厳しく突き上げられている」と王准教授は言う。
■インドでは農業補助金は票集めの手段
 インド政府にとって農家からの圧力は中国政府以上に深刻な問題だ。中国政府が憂慮するのは農村部における社会不安の潜在的な可能性だが、インド政府は農民の反乱という現実の脅威に立ち向かわなくてはならない。
 インド東部と中部の農村部を拠点とする左派反政府武装組織ナクサライト(インド共産党毛沢東主義派)は、貧しい農民を組織に引き入れようと狙っているのだ(BusinessWeek.comの記事を参照:2008年5月7日「In India, Death to Global Business」)。

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 インド政府が農村部の不満を気にするのには別の理由もある。議院内閣制をとり、連立政権下にあるインドにおいて、農業補助金は今も票集めの重要な手段になっている。1兆ドルに迫るインドのGDP(国内総生産)で農業の占める割合は5分の1に満たないものの、人口の70%近くが農村部に住み、国民の大半が農業関連の仕事で収入を得ている。
 「もしインドの農業部門を壊滅させるような合意をしたら、その政権の政治生命は絶たれるだろう」。1970年代にインドのいわゆる「緑の革命(農業改革)」を主導し、現在は全インド農民委員会を率いるM・S・スワミナタン氏は言う。「ただでさえ、インドでは農業が軽視されてきた。約7億人が影響を受ける重大な問題だというのに」。
 インドでは過去10年間、ほとんどの発展部門で、市場開放を促進し産業を活性化する改革が行われてきた。その結果、農業以外の部門の経済成長率は8~10%の高水準を達成したが、農業部門だけは成長から取り残されてきた。
 中国に次いで世界2位の綿花生産国であるインドの綿花農家の例を見てみよう。政府による価格調整という形の補助金を減らされたことで、綿花農家は既に大打撃を受けている。インド中部の綿花農家は国際競争に勝てず、この10年で債務をさらに増やした。
 政府の試算によれば、借金苦で自殺した農民は16万人以上。この事態を受け、インド政府は農家の救済策として、150億ドル(約1兆6000億円)相当の債務免除を今年度予算に盛り込むと発表した。
■態度が強硬である原因の1つはインフレ
 インドが農業保護の姿勢を強硬に貫く理由の1つには、インドを直撃する食糧価格の高騰もある。主要穀物や豆類の価格はここ3年間で25%上昇した。
 マドラス開発研究所の農業専門家カルカデ・ナガラジ氏は、何らかの形で農業部門の安定を保つことが、年率11%近いインフレ率を抑制するカギだとし、高インフレは現政権を脅かすだけでなく、何十年もの間にわずかながら増えてきたインド貧困層の収入や改善されつつある栄養状態を無に帰してしまうと指摘している。
 「WTOの自由化策がインドの農家に及ぼす影響と、世界の経済状況を切り離して考えることはできない。世界的な金融危機の影響で、莫大な資金が商品市場に流入し、商品バブルを招いている。こうした状況下で農業分野を開放すれば、農家は一時的に利益を得られるかもしれない。だが、それは長続きしないだろう」(ナガラジ氏)
 自国の農村部問題に悩む中国とインドの政治家は、農業補助金を支出している米国など先進諸国に厳しい目を向けている。欧米諸国と日本は、「自国のことは棚に上げて、自国より弱い国に農業保護措置を廃止するよう要求している。これはダブルスタンダードだ」と、中国人民大学(北京)国際関係学院の時殷弘(シ・インホン)教授は言う。
■インドと中国が譲歩する可能性は低い
 だが、先進国側が新興国の状況を理解していないように、中国とインドも、先進諸国が自国の農業にもっと犠牲を強いることができると見誤っている。
 時教授は、「新興国は先進国の抱える問題の難しさをきちんと理解していない。先進国には、妥協する余裕がまだまだあると思っているのだ」と語る。
 米国経済の減速、信用収縮、原油や鉄鋼、食料の価格高騰などで世界経済が打撃を受ける中、どちらの側の国も思い切った行動には出たがらない、と時教授は言う。であればなおさら、この貿易論争でインドと中国が引き下がる可能性は低い。
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投稿者 totokaka : 2008年08月07日