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2021年12月31日

【世界の食と農】第3回 アメリカ~市民発の「小さな農業」が、アメリカの農のかたちを変えていく~

前回までアメリカ農業の課題と支配構造、それらに立ち向かう民衆の潮流を紹介してきました。

今回は、アメリカで芽生え始めつつある大衆発の農業=小さな農業について、いくつか先端の事例を紹介します。「小さな農業」とは、農産物を生産することの最基底にある、「農そのものが持つ価値」に注目した動きです。その動きが、ある一人の大衆から始まり、その活動やコミュニティが地区単位・街単位へと広がっていくことによって、やがては、地域の活力再生・農業の活力再生にまでつながっています。

ここ最近、コロナ禍を機に、在宅ワークを通じて、より地域とのつながり、仕事の合間を活かした余暇を充実した動きも高まっています。これまで小さかった動きが、より大きな潮流へと変わっていく予感を感じます。

画像は、こちらからお借りしました。

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●ニューヨークの取り組み
アメリカ最大の都市ニューヨークでは、1960年代に深刻化した市の財政危機や市外への人口流出を発端に空き家や空地の増加→ゴミの投げ捨てや麻薬取引の場所が増え、治安の悪化が目立ち始めた。空いた地をどのように活用するかを住民が考え始め、後に「ゲリラ農業者」と呼ばれる人たちが空地に種を巻き始めた。

画像はこちらからお借りしました。

ニューヨークの市政府、特に公園局や植物園などの機関がこの活動に着目し、徐々にゲリラ農園に支援し、空地の農地化が市をあげた取り組みに発展していった。

現在では、コミュニティガーデンの管轄を行う「GreenThumb」と呼ばれる部署が公園局に設立されたり、コミュニティガーデンの支援のほか、市内のグリーンマーケット運営や農業教育を行う「GrowNYC」という非営利団体などの組織が発生したりと、大衆と市が共同してコミュニティガーデンをつくり、都市と農の課題解決に向けて動いている。

 

●シカゴの取り組み

画像は、こちらからお借りました。

北アメリカ最大の都市、シカゴでも治安回復やコミュニティづくりに寄与する都市農業が注目されている。2018年、シカゴで「オグデン農場」という多目的施設がシカゴ植物園と医療機関によって設立された。屋外農場に加え、屋内農場、調理室、冷蔵室、直売所を追加したことで、さまざまな活動が可能だ。

温室アクアポニックスなどの先端技術を導入し、トマトやオクラなどの野菜を栽培。「地域住民の職をつくる」「地域住民の健康をつくる」という意志で、元軍人や犯罪者の雇用、生活習慣病患者への野菜の無料提供などに取り組んでいる。

 

●デトロイトの取り組み

画像は、こちらからお借りしました。(場所は、ブルックリン)

かつて工業都市として栄えたデトロイトでも人口流出と雇用の問題がある。ここでもニューヨークと同じく、都市の治安悪化を懸念した市民グループによって空き家や空地の農地化が1980年代から活性化していった。その後非営利法人による種子の提供栽培指導が行われるようになり、市内各地で農地がつくられる。この動きを市も認め、2013年には住宅地に農地的土地利用を許可する条例を出している。

このような農業を涵養する動きは、市民の意識を少しずつ前向きにしていった。そして、2014年には、市民農園や市場向け農園、家庭菜園や学校の農園など、合わせて1,300か所以上にまで拡大したのだ。そして、市民の共同農園によって600名分以上の農作物を栽培できるようにもなった。

 

以上、アメリカの主要都市における都市農業を見てきましたが、いずれも都市の荒廃や貧困化、健康悪化をくいとめるべく市民が中心となって都市に農地をつくるようになり、非営利団体や行政がそれに着目→組織構築や制度整備にまで至った例が多いようです。
市民発の「小さな農業」が大規模、大量生産のアメリカ農業の形を変えていこうとしています。

投稿者 hasi-hir : 2021年12月31日 List   

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