農をめぐる、世界の闘い13~先端を行くラテンアメリカⅢ.給食改革の根底に流れる志 |
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2019年09月19日
土の探求1~土を顧みない社会
目先の利益に傾倒するあまり、自然の摂理に反する生産行為が続けられてきた近代農業。
その代償として失われてきたものの一つに、「肥沃な土壌」があります。
近代農業がもたらした数々の弊害が明るみになってきている今、
次世代につながる農業生産、その基盤となる、豊かな土壌の再生に求められるものはなにか。
”足下に広がる小宇宙”とも言われる、未だ謎多き「土」の探求。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
■土を顧みない社会
世界に食糧を与え、汚染を減らし、大気から炭素を取り除き、生物多様性を守り、農家の収入を増やす比較的簡単で費用効果の高い方法があると、私が言ったら読者はどう思うだろう?これが本当なら、世界中の政府が大慌てで採用するに違いない。まあ、あるにはあるのだが、採用されてはいない。少なくとも今のところは。
なぜか? この解決策は、一世紀にわたる伝統的な知識と企業の利権に異議を唱え、何よりも地味な資源ー足元の土ーに対する考え方と扱い方の根本的な転換を要求するからだ。
しかし良いニュースに触れる前に、私たちが今いる場所と、そこへ至った道のりを見てみよう。それは明るい話ではない。私たちはすでに、少なくとも世界の耕作地の三分の一を劣化させてしまった。三分の一だ。そしてめったに耳にすることはないが、農地の劣化は世界的紛争、人口爆発、気候変動、淡水の供給量減少と同じく文明に大きな脅威を突きつける。
2015年、国連食糧農業機関は全世界の科学者集団が作成した報告書を公表した、それは、土壌の劣化により世界の作物生産能力は毎年約0.5%低下していると試算していた。どう計算しても、このような傾向が長く続けば、必ずや重大な結果を引き起こす。それどころか、私たちはすでに外国企業が、開発途上国の農地を買い占めているところを見ている。現地住民の食糧を栽培するためではなく、自国向けに輸出するために。ナイジェリア、ソマリア、シリアのような干ばつと紛争に悩まされる地域では、食糧不足がすでに暴力に油を注いでいるので、このようなやり方は世界の安定にとって好ましいものではないだろう。
古典的な元素である土(土壌)、空気(気候)、火(エネルギー)、水の中で、一番最初のものは常に見過ごされ、あるいは公共の言説や政策において関心を持たれない。それでも肥沃な土壌は究極の戦略資源として考えられるかもしれない。石油のように代わりのものはなく、海水から淡水を蒸留するようにして作ることもできず、空気のようにフィルターできれいにすることもできないからだ。そして足元にあるものの価値を十分に認識していないから、私たちは昔からの過ちを世界的規模で繰り返す危険を冒すのだ。
ローマ帝国からマヤ、イースター島に至るまで、偉大な文明が次から次へと表土を荒廃させた上に困窮し、やがて滅亡していった。しかし土壌劣化が人間社会に人間社会に及ぼす影響は、単なる歴史のエピソードではない。これらかつて繁栄した社会が直面した問題に、われわれもまた直面しているのだ。
そしてすぐに手を打たなければ、各地で祖先が経験したような恐ろしい状況に、私たちは世界規模で陥るだろう。肥沃な土壌はさらに少なくなるのに、将来さらに数十億人多くの人口をどうすれば養えるだろう?
水資源の減少や森林の喪失のような他の環境問題とは違い、土壌肥沃度の低下は比較的気づかないうちに進行した。きわめてゆっくりと起きるので、話題になることはめったにない。そこが難しいところだ。西洋文明が原因で今では疲弊してしまったかつての楽園は、もっとも意識されることのない歴史の教訓の一つ、土を顧みない社会は長続きしないことをまざまざと示す。もはや他に行き場がない以上、過去の過ちを繰り返すわけにはいかない。長期的な農業に適した土地のほとんど全部を、私たちは既に耕し、開発し、あるいは荒廃させ放棄してしまったのだ。
世界中で拡大する農家の活動が、旧来のやり方を転換し始め、土地に生命と健康を回復させている。しかしこの活動については、あまり聞こえてこない。商品を売り込むわけではないので、彼らの説明は、旧来の関係者によるものとは違っている。このような活動は勢いを増している。そのやり方を採用した農家は時間と費用を節約でき、多くは収穫を増やすからだ。こうしたやり方は、南北ダコタ州の巨大農場からアフリカの零細農場まで、農家の技術的レベルや規模の大小を問わず役立つ。そして、もし世界中で十分に実行されれば、それは文明が抱えるもっとも古い問題の一つを解決できるかもしれないのだ。
投稿者 noublog : 2019年09月19日 TweetList
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