2019年9月10日

2019年09月10日

廃棄していた「摘果みかん」を「宝」に変える

今日のお話は、これまで、食されることなく破棄されていた みかん と安価な茶を融合させてできた「みかん発酵茶」の開発のお話です。

市場経済の元では、規格外のもの、形の悪いもの、虫のついたもの等商品としてマーケットに乗らない野菜や果物は、いくら食することが可能であっても全て破棄します。2008年市場に出回らない規格外野菜は400万トン(流通野菜1000万トン)【リンク

これまで廃棄されていた「摘果みかん」をどうにか食するようにはできないものか?長崎で開発された全く新しい取り組みリポートです。

では転載開始【リンク

長崎県立大など「みかん発酵茶」開発、機能性表示目指す  2018.09.28   文=佐々木 節

長崎県立大学シーボルト校や長崎県農林技術開発センターなどを中心とする研究グループは、「みかん発酵茶」と呼ばれるまったく新しいタイプの飲み物の開発を数年前から本格化させている。これは従来廃棄されていた「摘果みかん」と、「一番茶」に比べ香味が劣る安価な「三番茶葉」を利用して作る発酵茶の一種で、「血流改善」など健康の維持や増進に貢献する多くの機能性が期待されている。「食と健康」に対する人々の関心が高まるなか、健康食品としての新たな需要の掘り起こしが見込まれ、地域創生の起爆剤としても期待されるみかん発酵茶について、研究開発の中心的役割を果たしてきた長崎県立大学教授 田中一成さんと、長崎県農林技術開発センター主任研究員 宮田裕次さんの2人に話を聞いた。

長崎県中央部の大村湾南岸を町域とする長与町は高度成長期以降、隣接する長崎市のベッドタウンとして都市化が進んだが、もともとは自然豊かな農業地域。丘陵地で育てられているみかんが名産品として有名だ。このため、町のほぼ中心部に位置するJR長与駅の外観も地元の特産の「みかん」をイメージして作られており、駅前東口には長与町のイメージキャラクター「ミックン」の像がこの町を訪れた人々を迎えている。

今回、みかん発酵茶の開発物語を聞くために、長与駅から徒歩15分ほどの場所にある「みかん発酵茶」の研究拠点の一つ、長崎県立大学シーボルト校に同大学教授の田中一成さんと長崎県農林技術開発センター主任研究員の宮田裕次さんを訪ねた。

◆捨てられていた「摘果みかん」と価格の安い「三番茶葉」を活かす

長崎県立大学や長崎県農林技術開発センターなどのグループは、数年前から地元の農家がみかん育成の過程で間引きしている摘果みかんを使った発酵茶の研究を進めてきた。地元農家への技術普及を図るために実証研究も進めている。地元のJA全農ながさきも協力機関として支援した。

「多すぎる実を取り除く摘果は、良質なみかんを栽培するには欠かせない作業の一つ。しかし、これまで摘果みかんは利用されずに廃棄されていました。ところが、この摘果みかんにはヘスペリジンという有効成分が非常に高い濃度で含まれているのです。これを『何とか活用できないだろうか』と考えたのが開発のそもそものきっかけでした」

研究開発の契機について、まず宮田さんはこのように話してくれた。

ただしポリフェノールの一種であるヘスペリジンは水に大変溶けにくく、そのまま飲料にすると沈殿してしまうため見栄えも良くなかった。一方、酵素処理によりブドウ糖を付加して水に溶けやすい「糖転移ヘスペリジン」を作ることは可能であり、実際に食品原料メーカーが製造している。だが、その製造には非常に多くの手間と多額のコストがかかってしまう。こうした問題を解決するために考案されたのが、摘果みかんと茶生葉を揉捻(じゅうねん)機(=本来は一般の製茶工程で茶葉を揉み込むための機械)で強く揉み込む独自の製法である。

「製茶農家が茶葉を揉み込むために所有している揉捻機を使い、お茶と摘果みかんを3:1の割合で20分間強く揉み込むと、自然発酵が起こり、ヘスペリジンがお茶の成分であるカテキンなどと結合して水に溶けやすくなるのです。そして、水溶性が高くなると、生体内への吸収も良くなり、飲料としてより多くの機能性が期待できます。健康志向の消費者にアピールできるとともに、長崎県内の農家の支援にもなる」と、この製法を開発した宮田さんは語る。

ちなみに揉捻機は、製茶農家や茶を出荷する農協が必ず持っている機械なので、みかん発酵茶を生産するために新たな設備投資をする必要はまったくない。そのうえ従来は廃棄していた摘果みかんと、一番茶に比べ香味が劣ることから価格の安い三番茶葉が原料として有効活用できるのだから、農家には非常に大きなメリットとなる。開発グループは、農家がみかん発酵茶を製造するための「マニュアル」を作成した。

◆ヘスペリジンだけでなく、カテキンや紅茶ポリフェノールも豊富

みかん発酵茶がもつ機能性のうち、最も注目されるのは摘果みかんのヘスペリジンによる血流改善作用である。「人は血管とともに老いる」と言われるように、血管の硬化は心筋梗塞や脳卒中、高血圧や腎機能低下といったさまざまな疾病をもたらす。一方、血流が良くなればこうした疾病を予防できるだけでなく、日常の冷え性や肩こりの解消などにもつながる。このほかみかん発酵茶の機能性という点では、もうひとつの原料、茶葉に由来する効果も見逃せないと田中さんは言う。

「みかん発酵茶の製造に用いる三番茶は、新茶(一番茶)や二番茶に比べると値段が安いこともあり、長崎県内では出荷されることがほとんどありませんでした。ところが、その成分を調べてみると、暑さの厳しい7月から8月にかけて収穫される三番茶には、苦み成分でもあるカテキンが非常に多く含まれています。そのカテキンは揉捻機にかけると発酵作用でもう一つの有効成分である紅茶ポリフェノールへと変化していきますが、揉み込み時間を20分程度に限定すれば、もともとあったカテキンも十分に残りますので、これらが血圧を下げたり、中性脂肪を減らしたりというさまざまな効果をもたらしてくれるのです」

◆「機能性表示食品」の届出によって商品の魅力を広くアピール

こうしたみかん発酵茶の機能性を広くアピールするため、研究開発と並行して目指しているのが「機能性表示食品」の届出である。

ご存じの方も多いだろうが、機能性表示食品はアベノミクスの規制緩和政策の一環として2015年4月に導入された制度で、それ以前は食品の機能をアピールできるのは「特定保健用食品(トクホ)」や「栄養機能食品(主にサプリメント)」に限られていた。このうち1991年に定められたトクホ制度では、最終製品を用いた臨床試験で、有効性や安全性を国の審査において立証しなければないため、その取得には多大な時間や費用が必要だった。一方、新たにスタートした機能性表示食品制度では、原則的に消費者庁への届出だけですむようになっているため、健康食品を手がける企業とっては、科学的根拠に基づいた食品の機能や効能を比較的手軽にアピールできるメリットが生まれた。

この制度を所管する消費者庁食品表示企画課の久保陽子さんによると、2018年9月現在、機能性表示食品の届出を受理したのは1374件にのぼり、そのうち最も多いのは加工食品、次いでサプリメント、生鮮食品の順になっているという。また、商品パッケージに具体的な健康効果を表示することによって、その販売実績を大幅に向上させた企業も決して少なくない。たとえば、カゴメ経営企画室広報グループの北川和正さんによると、「消費者庁への届出により2017年10月から“血圧が高めの方に”との機能性表示を行った『カゴメ野菜ジュース』の2018年1~6月の販売金額は、前年同期(2017年1~6月)と比べて約70%増となった」という。機能性表示食品の2018年の市場規模は、前年比15.1%増の1975億円になるとマーケット調査会社の富士経済は予測している。

◆農家の所得を向上させ、地域創生につなげる

2014年から本格化したみかん発酵茶の共同研究は、すでに商品化に向けた最終段階に入りつつあると宮田さんは語ってくれた。

「みかん発酵茶の商品化については、平成29年度(2017年度)から31年度(2019年度)の3年間、農研機構(国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構)の経営体強化プロジェクトに認定されています。このプロジェクト中では、地元の農家の所得を2割向上させるほか、試験終了後1年以内に機能性表示食品の届出をすることになっています。つまりは研究開発で終わることなく、事業化することを見据えているのです」

事業化に向けて、長崎県農林技術開発センターなどの指導によって農家には一次加工品であるみかん発酵茶の製法を習得してもらっている。並行して「みかん発酵茶」の効果を長崎県立大学教授の田中さんらが実証して論文にする。一方、この経営体強化プロジェクトには一次加工品の流通を担当する企業と製品の生産・販売を担う健康食品メーカーも参画しており、新商品の開発も具体的なものとなっている。そして、こうした商品化へ向けた一連のプロセスの中で重要な役割を果たすのが、商品の魅力を消費者へとアピールする機能性の表示なのである。

「現在、われわれが行っているのは血流改善をテーマにしたヒトでの実証実験です。これにより実際の商品化に際しては、冷え症の改善、肩こり改善、疲労回復といった消費者にもわかりやすい機能を表示できるようにしたいと思っています」と田中さんは語る。

宮田さんによると、製品化への具体的な流れとしては、2019年に機能性表示食品の届出をすませ、翌2020年には新商品の発売にまで漕ぎ着ける予定だという。

気になるのはみかん発酵茶の味だが、さわやかな紅茶の香りがすばらしく、人間の感覚を用いて製品の品質を判定する「官能試験」においても高い評価を得ている。これまでに「五島つばき茶(椿の葉+茶葉による発酵茶)」、「ワンダーリーフ(ビワの葉+茶葉による発酵茶)」という長崎県の特産品を用いた発酵茶で人気商品を生み出してきた田中さんと宮田さんの2人も、口を揃えて「苦みの強い三番茶から飲みやすく、ものすごくおいしい発酵茶を生み出すことができた」と太鼓判を押す。

そして、機能性表示食品の届出が受理されれば消費者へのアピール度もさらに高くなるだけに、新商品の登場には大きな期待と注目が寄せられている。長崎県の農業の活性化にもつながる新たな発酵茶の発売が待ち遠しい。

以上転載終了

◆まとめ

手塩にかけて育てた野菜や果物が、流通せずに捨てられているという現実。いくら「農業は素晴らしい」と声を大きくしても、「収穫」と「破棄」が瞬時に表裏一体となる矛盾。そういう意味では、今回紹介した試みは知恵と発想力から可能になった産物だと思います。

市場経済が続く限りは、根本的な解決には至りませんが、こうした知恵と発想力によって農家は救われ、本当の意味で新たな農業の活性化・地域創生に繋がっていくのではないかと思います。

日本には、「もったいない」「始末の料理」等、素材を最後までいただくという素晴らしい文化があります。農家が育てた野菜や果物を使い切るという知恵や方法が、今後もいたるところで芽生え、登場してくれば、本当の意味で「新しい農」としての未来が見えてくるのではないでしょうか?それでは、次回もお楽しみに!

投稿者 noublog : 2019年09月10日