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2019年08月29日

農作業でストレス軽減 アグリヒーリングが新ビジネスを創出

農業が、ストレスを低減するという実証実験が行われています。今日は、大学と企業と農家が一体となり、「アグリヒーリング」という園芸療法で、現代人の心理負担の緩和によるストレス軽減効果の定量・数値化(可視化)の取り組み、その具体的な効果について紹介します。更に体験農園を通じて会社の福利厚生などに活用していくという新ビジネスへの可能性についても取り上げたいと思います。 

転載開始【リンク】     2019.06.28  文=平林理恵

ビジネスシーンで精神的な不調を訴える人が増える中、農作業を通じて回復を目指す取組みが広がっている。順天堂大学とNTTコミュニケーションズが実施した実証実験では、農作業の前後でストレスホルモンを計測、半数以上で効果が確認できたという。体験農園での農作業を企業の福利厚生などに活用しようという動きもある。体験農園の事業化によって、農業者にも新たなビジネスチャンスが見えてきた。

週末のガーデニングや庭いじりが、疲れた心身のリフレッシュにつながると感じている人は少なくないだろう。また、医療や福祉の現場でも、精神疾患の改善やリハビリテーションなどを目的に園芸作業を行う「園芸療法」が積極的に導入されている。 植物や土に触れることで、人は癒される。にもかかわらず、これまではそれを示す数値的なエビデンスがなく、その効果は漠然としていた。

そんな中、順天堂大学とNTTコミュニケーションズ(以下NTTコム)は、2018年、農作業を行うことでストレス軽減を実現する「アグリヒーリング」の効果を社会実装する実証を開始した。

この実証実験が今、農業に新たな価値とビジネスチャンスを与えるものとして、また、ストレスを自分でコントロールする手法の創出につながるものとして大きな注目を集めている。

◆唾液を調べて、ストレス状況を可視化

順天堂大学は、以前から唾液の成分を調べることで、脳内から分泌しているホルモンの量を量り、その増減によってストレスを検出するという極めて高度で特殊な技術を持っていた。これに着目し、園芸療法の効果測定とこのホルモン計測技術を組み合わせられないか――と提案したのが、順天堂大学大学院医学研究科の千葉吉史研究員だ。

~中略~

「2016年から、農作業の前と後で唾液の中のホルモンがどう変わるかという実験を行い、300例近くのデータをこれまでに取りましたが、ほぼ全ての事例でストレスが下がっています」と千葉氏は説明する。

ストレスの減少については、ストレスを受けたときに脳内から分泌されるコルチゾールやクロモグラニンを計測した。ともに農作業の後、低下が見られたが、とくに顕著だったのは長期的なストレスを受けたときに分泌されるコルチゾールだ。「農作業はストレスをしっかり下げ、その下がった状態がある程度維持されると言えます」(千葉氏)

農作業ならではの特徴として挙げられるのは、「幸せホルモン」とも呼ばれるオキシトシンの変動だという。 たとえば、ヒーリングミュージックを聞いた場合でも、一般的にはコルチゾール値が低下して、ストレスは下がる。しかしながら、オキシトシン値も下がるため、ボーとした状態になるものの、充実感や満足感は得られない。

一方、うれしいことがあると、オキシトシン値は上がるが、これに伴ってコルチゾール値も上がってしまう。つまり、幸福なときは気持ちが高ぶっているため、ストレスも高くなるというわけだ。

「ところが適度な農作業で土や植物に触れると、コルチゾール値が減少すると同時に、幸せホルモン・オキシトシンが分泌される。幸せに包まれながら心穏やか。こんな傾向を示すのは、私たちが調べた中では農作業だけです。おそらく農作業の後は、恋人と手をつないでいるときと同じような状態なのではないでしょうか」(千葉氏) 

◆「農業」ではなく「農作業」に着目

順天堂大学が企業やJAなどと協働で実施してきたこれらの実験は、各地の体験型農園や市民農園などを会場に行われた。集まった参加者たちは、草取りや水やり、収穫などの軽農作業を1時間程度体験し、その前後で唾液を採取する。つまり、この実証実験は「農業」そのものにスポットを当てたものではなく、「農作業」―短時間土に触れる体験―に着目したものなのだ。

「市民農園を長期で借りて、日常的に農作業を行っている人は、そもそも初期のストレス値が低いので、1時間の体験で一気にストレスが下がることはありません。一方、初心者や月1、2回程度の利用者の場合は、作業の前後でストレス値が一気に下がります。このように短期的な効果が狙えるということは、たとえば企業が福利厚生の一環として農園と契約するといった利用のされ方が広がる可能性があります」(千葉氏) 

◆体験農業が農家の新たな収入源に

果樹や洋蘭栽培のスコレー(岡山市)は、2017年にこの実証実験に協力した。洋蘭の仕立て作業やアレンジメントの前後で参加者の唾液を採取して分析したところ、「コルチゾール値が約半分まで減少」(千葉氏)、参加者からは「楽しい体験だった」と評判も上々だったという。

スコレーの大内巌社長は、「実証データがとれることの意義は非常に大きい」と力を込めた。「農閑期の体験希望者の受け入れを事業化すれば、農家にとっては新しい収入源になります。そのためには、データを元に体験プログラムを作り、お客さんに効果を提示する必要がある。実証データは欠かせません」

ちなみに、スコレーでは、来年からブドウの木のオーナー制度をスタートさせるべく、現在準備中だ。「企業にオーナーになっていただき、福利厚生に役立ててもらう。ブドウを育てる、収穫する、食べる、ジュースを作る……。体験しながらゆっくり過ごせる場所とサービスを提供していきたいですね」と大内社長。すでにいくつかの企業が興味を示しているという。実は、実証実験の狙いもそこにある。

「これからは、人口が減り、国内の『食べる』需要は縮小していくばかり。どうあがいてもこの市場だけで勝負するのは限界です。ここは大きくパラダイムをチェンジして、農地を活用して消費者にストレスをケアするサービスを提供し、そこから対価を得るということを考えていかなくてはなりません」(千葉氏)

実証実験によりエビデンスがとれたことで、このようなサービスの売り込みはエビデンスがないときよりもずっとやりやすくなるはずだ「企業と提携して農閑期に定期的にアグリセラピーの人を受け入れる、棚田セラピーなどの形で滞在型のストレス解消ビジネスを展開する、定年起業した人が農業を行う選択肢にもなりそうです」と千葉氏は指摘する。

◆NTTコムの参画で 実証実験は新たな段階へ

そして、2018年、NTTコムが参画したことで、この実証実験は新たな段階へと入った。 すでにこれまでの実証実験を通して、園芸療法によるストレス軽減効果は実証され、可視化されていたものの、実は大きな問題が残っていたのだ。それは唾液を採取するという実験方法そのものの問題だった。

「まず、唾液採取キットが非常に高価であったこと。次に、そのキットを使ってストレスを測定できるのは医療従事者だけという制約があったこと。さらに、ある程度の量の唾液を採取しなくてはならず、人によってはそれに抵抗を感じる場合もあったこと。そして、唾液の出にくい高齢者から十分な量の唾液を採取することが難しい場合も多かったこと。医科学的な効果を証明することはできましたが、このままでは学校や会社などで活用されにくいと考えられました」(千葉氏)

一方、NTTコムは、同社の専門領域であるICTを通して農業分野でなにか社会貢献ができないかとかねてから模索していたという。 「昨今のようなストレス社会において、ストレスを自分でコントロールする手法や軽減する環境の創出は大切な課題です。当社の、着るだけで心拍変動や心電位などの生体情報を継続的にモニタリングできるウェアラブル生体センサー「hitoe(R) 以下hitoe」を、なんとかそのために生かせないかと探る中で千葉先生に出会いました」と、NTTコミュニケーションズ ソリューションサービス部の赤堀英明担当部長は説明する。

この出会いが、順天堂大学とNTTコムを結びつけた。そして、唾液でストレスを図るのではなく、hitoeとデータ流通プラットフォームを活用して、アグリヒーリングのストレス軽減効果を可視化するシステムの開発へとつながったのである。

~以下後略~

以上転載終了

◆まとめ

適度な農作業で土や植物に触れると、幸せに包まれながら心穏やかになることが、立証されてきました。そして、このような傾向を示すのは、現在、農作業だけであることも、実験データから分かってきています。

農作業は、人間の持つ感覚機能を呼び覚まし、生物本来の姿に回帰できていくという意味では、人間が生きていく上でかかせない活動といえるでしょう。

地方では、喜多方市【リンク】のように、すでに学校の教育現場で、農業が科目として採用されてきています。

近い将来、農業が、人々の心の再生の大きな、幹になっていくのではないでしょうか? では、次回もお楽しみに

投稿者 noublog : 2019年08月29日 List   

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