江戸時代の農民が「教育熱心」だった理由 ~そして教育ママが誕生した経緯 |
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2019年08月22日
農をめぐる、世界の闘い10~砂漠化する先進国の食事
あらゆる生産活動が、市場拡大の下に組み込まれていった。
その代償を最も払わされてきたのは、「食」ではないか。
豊かさ追求の影で、貧しくなるばかりの「食」の実態。
以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)
■砂漠化する先進国の食事
ヘブライ大学の【ユヴァル・ノア・ハラリ教授】は、著作『サピエンス全史』(2016年/河出書房新社)で「人間の歴史、性質、心理を理解するには、狩猟採集民のことを知らなければならない。農耕や家畜を飼育し始めたのは一万年にすぎず、狩猟採集民であった時間とを比較すれば、ほんの一瞬にすぎない。ヒトの脳や心はいまだに狩猟採集生活に適応している」と書く。なぜ、身体に悪く肥満と直結するアイスクリームを食べたくなるのかがここからわかる。三万年前の狩猟採集生活では甘いものといえば熟れた果物くらいしかなく、希少な果物は他の獣の胃に入る前に食べられるだけ食べることが理にかなっていたからだ。
現代の食事ガイドラインでは、カロリーの60%を炭水化物、残りの20%ずつを脂質とタンパク質から得ることが推奨されているが、狩猟採集時代は、木の実や魚を中心にカロリーの75%が脂質、20%がタンパク質から得られ、炭水化物は5%以下であったとされる。その炭水化物も食物繊維が多く、現代の清涼飲料水のように瞬時に血糖値を上げるものはなかった。現在の狩猟採集民もほとんど糖質を取らない食生活をしており、炭水化物を分解したブドウ糖からではなく、脂質の代謝産物である【ケトン体】からエネルギーを得ている。もともと人間はケトン体を動力源に生きるようにデザインされている。イギリスの人間栄養学の代表的なテキスト『ヒューマン・ニュートリション』が、次のように述べるのはそのためだ。
「人類の消化管は炭水化物を日常的に摂取するのに適応していない。とりわけ、精製された炭水化物による血糖値の急激な上昇やインスリンの分泌が様々な病気の元凶となっている」。
人体の成分比率をみてもタンパク質が46%、脂質が43%、ミネラルが11%で、糖質は1%にすぎない。このことからも、現代の食がどれほどアンバランスであるかがわかる。高タンパク質、高脂肪、低糖質の食事の方が健康上は望ましい。
【キング・コーン~世界を作る魔法の一粒】(2007年)という米国の映画をご存じだろうか。大学を卒業したばかりの二人の若者がトウモロコシの一大産地アイオワ州で畑を借りて遺伝子組み換えコーンを栽培することから始まるドキュメンタリーで、モノカルチャー、大規模畜産、肥満等の問題が遺伝子組み換えコーンを軸にあぶり出されていく。
総合地球環境研究所のスティーブン・マックグリービー准教授は、「Food Security」、いわゆる「食料安全保障」ではいかに量を確保するのかに重点が置かれているが、それと並んで「Food Desert(食べ物の砂漠)」、すなわち、食べ物の質の劣化も深刻化していると指摘する。
「大手食品会社が製造するスナックやソフトドリンク。カロリーだけしかない食品が普及しています。これを『エンプティ・カロリーズ』と言います」
ミネラルやビタミンをろくに含まない食品だらけになっている悲惨な現状は『キング・コーン』で描かれる通りで、故郷の友人や親戚はみな肥満だと嘆く。映画では自分たちが栽培した遺伝子組み換えコーンを口にほおばるなり「なんだこれは、まずくて食えない」と吐き出す。見栄えは立派でも食用ではなく家畜飼料用や異性化糖として加工されるためのものだからだ。
「本来のトウモロコシにはタンパク質がたくさん入っていたが、デンプンだけが多くなるように品種改良された。これを原料に甘味料がつくられているが、カロリーが高いだけで代謝機能にも悪い影響を与える」とハーバード大学のウォルター・フィレット教授が発言する。さらに衝撃的なのは生産農家がこう発言するシーンだろう。
「我々は質が高いトウモロコシを作っているのではない。今、アメリカの農家が作っているのは世界最低のクズなんだ」
学生は農家に問いかける。
「ご自身のトウモロコシを食べますか」
「いいや。私はトウモロコシを食料だと意識して作っているんじゃないんだ。出荷して金が入ればそれでいいんだよ」
投稿者 noublog : 2019年08月22日 TweetList
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