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2019年08月08日

農をめぐる、世界の闘い8~盟主ロシアの決意Ⅲ.農業大国への「再挑戦」

世界有数の肥沃な大地を持ちながら、大規模農業に失敗し、輸入食品に依存し続けてきた過去を持つロシア。

【GMO徹底排除】は、国家戦略として世界的な農業大国への変貌を成し遂げるための、重要な布石です。

西側諸国からの経済制裁すら、推進力へと変えていく。

 

以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)

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■2020年の挑戦~有機農業での自給と有機農産物輸出を国家戦略に
プーチンが目指すのはただ遺伝子組み換え食品フリーの健康な食材を国民に提供することだけではない。2015年12月3日のロシア連邦議会ではこう発言した。
「我々は国家目標を定めなければならないと私は思っている。それは、2020年までに国内で生産された食材を国内市場に完全に提供するということだ。我々は、我らが大地から食を得ることができる。しかも、重要なことに我らには水資源もある」
ロシアのような巨大な国で自給を達成するには莫大な食料が必要だ。できるわけがないと考える人もいる。事実、旧ソ連は失敗した。だが、プーチンは違う。宣言時の自給率は60%だったが、自給目標はかなり達成されつつある。それだけではない。プーチンは非GMO農産物・有機農産物の世界最大の輸出国になることを国家目標にするとのビジョンも掲げてみせた。
「これが、とりわけ重要なのだが、ロシアは、西側の生産者たちがはるか以前に生産することを止めてしまった健康的でエコロジー的にクリーンで、高品質な食料の世界最大の供給元になることができる。そして、かかる製品のグローバルな需要は高まり続けているのだ」
2017年11月にベトナムで第25回アジア太平洋経済協力サミット(APEC)が開催される直前にはプーチンは「ロシアは、アジア太平洋地域における有機農産物の主要供給源となるであろう」とのメッセージも発信してみせた。
この発言はプーチンの独りよがりの思いつきではない。遺伝子組み換え食品に対する消費者の意向やそのマイナス面をトータルに分析した後で、非GMO農産物輸出は新たな経済戦略の目玉に据えられている。

よりよい産品をつくりだそうというインセンティブを欠いた生産者と非効率で遅れた巨大な集団農場。多くの人たちは、ロシア農業に対してこんなイメージを抱いている。いまも、旧ソ連時代の負の遺産は一掃されたわけではなく、農業企業KPMGのイアン・プラウドフット代表は旧ソ連の巨大農場は明らかに無駄だったと指摘する。
「圃場ごとに条件が違うのに最高で10万ヘクタールもありました。こうした広大な農地上で規模の経済を活かせるだけの最新技術を備えた機械はロシアにはありません。こうした圃場での収量は低く小麦ではヘクタール当たり2.3トンしかないのです」
けれども、こうした旧モデルはほとんどが転換している。1990年代の民営化時代に、以前の国営農場や集団農場の従業員たちへと農地は分配され、全農地の70%はいま民営化されている。いまの農業は過去のものとは全く違ってきている。米国のアナリストや市場関係者や投資筋は、農業で成功するにはコンピューター化された大型トラクターや農薬等が欠かせないと想定する。最新機材やテクノロジーを欠いていることが、自給を目指すプーチンのネックになっていると指摘する。けれども、ウォール街やアグリビジネスの見解を超えて見る必要がある。トラクターや農薬がなくても有機農業はできるし、有機農業大国となる上で、ロシアの立地条件はもともと恵まれている。南ロシアからシベリア、北東ウクライナ。ドナウ川に沿ったバルカン諸国にまで及ぶ土壌帯。ロシア語で「黒色土」を意味する「チェルノーゼム」は、地球上で最も肥沃で、腐植や養分を豊富に含み、無肥料でも高収量が得られ有機農業を実践するには理想的だからだ。

ソ連崩壊後の1990年代のエリツィンの時代には、店舗に並ぶ食品の40%は輸入品で、国産よりも安いために肉すら輸入されていた。自給率低迷の一因には「メイド・イン・アメリカ」の方が優れているとの認識があることもあった。放し飼いで味も優れた国産鶏よりも工場式で大量生産された家禽類が米国から輸入され、多肉質で美味の国産有機トマトの代わりに、味気のないトマトがスペインやオランダから輸入されていた。スーパーの棚にはネッスル、クラフト、ダノンといった多国籍企業の商品があふれ、ロシア人の多くは自国の豊かな食べ物の味を忘れていた。
けれども、エリツィン時代に理解されていなかったのは、工業型農業の導入以降、米国産の食品の質が劇的に低下していたことだった。中核農業地帯では、化学肥料や農薬の多投や家畜を介して農地に入り込む抗生物質で土壌は劣化し土壌微生物が激減している。トウモロコシやダイズも9割以上が遺伝子組み換えだ。GMO食品は見かけはきれいでも、味気がなく、有機農産物と同じだけの栄養分も鮮度もない。米国のアナリスト自身が、米国産の食品が健康的でおいしいとの神話はもはや壊れ、そこから産出される小麦の品質は低いと主張する。それに対してロシアは違う。冷戦時代にも旧ソ連の化学工業は主に国防需要に振り向けられていたために、米国ほどは化学肥料や農薬による破壊がなされず、残留農薬もなく自然な栄養分も残されている。

 

■西側の経済制裁を契機に自給率が向上
「我らが農業部門はポジティブな事例である。10年前には、まさに食料のほぼ半分を海外から輸入していた。危機的な輸入に依存していた。だが、いま、ロシアは輸出者側のクラブに加わった。農業輸出額はほぼ200億ドルに達した。これは、武器販売の収益の1/4以上、天然ガス輸出からの収益の約1/3だ。我らが農業は、ごく短期間でこの生産的な飛躍をもたらした。その多くは我らが農村住民たちの賜物だ」
このようにプーチンが指摘するとおり、2015年の約140ヶ国に対する農産物輸出総額は200億ドルで、2014年よりも50億ドルも増えた。ロシアの輸出経済の主力部門は、武器と天然ガスであることから、まさに将来的にも非遺伝子組み換え農産物輸出が重要視されていることが分かる。要するに、プーチンは国家自給に向けて強力な舵取りを行い、食料は武器以上に多くの利益を生み出すと主張し、世界最大の有機農産物の供給地にさえすると語り、「食」を素材に米国の遺伝子組み換え巨大農場との潜在的な冷戦の到来を告げてみせている。
遺伝子組み換え食品を禁ずることで「クリーンな食べ物」「遺伝子組み換え食品フリー」「有機」としてロシア産農産物をブランド化していく。この戦略を一番脅威に感じているのは、アイオワ州立大学のキャロリン・ローレンス・ディル教授たちかもしれない。教授はロシアの反遺伝子組み換え食品キャンペーンには経済戦略が伴っているとみなす。米国農業は信頼がおけず、ロシア産の方が「よりエコロジー的でクリーンだ」と描写するための努力だと指摘する。
バイテクでロシアは大きく後れを取っているし、ロシア側もその事実を認めている。反遺伝子組み換え食品にはグローバルな農業市場における米国のバイテク優位を叩く目的があると指摘し、さらにこう分析を続ける。

クリミア半島を併合した後、ロシアは米国から経済制裁を受けている。この国が遺伝子組み換え食品に関して、ある方向へと米国世論を動かそうとしていることに対して警戒しなければならない。
クリミア併合という政治問題が遺伝子組み換え食品禁止と関連しているというのは意外に思えるが、確かにこれは無関係ではない。ロシア軍がクリミアに進行・併合すると、米国、EU、日本は、ロシアに打撃を与えるため経済制裁を科す。クレムリン側もこの報復措置として、2014年8月に米国やEUからの食料輸入を禁ずる。それはロシアの全輸入食品の61%にも及ぶ。当然のことながら農産物価格は高騰し、消費者は苦しめられた。けれども、アレキサンダー・トカチョフ農相はこの経済制裁を前向きに捉えた。
「消費者は、いま、店舗でロシア製の商品を探して満足しています」と農相は言う。スーパーの棚から外国製品が消滅したわけではなかったが、ロシアは伝統的な経済計画に戻ることができ、2020年の自給達成に向けてポジティブな影響があったと主張する。
災い転じて福となす。振り返ってみれば、これは大きな転換点となり、2014年の遺伝子組み換え食品禁止にもつながった。
ブランド品依存から食料安全保障と国内自給達成へ。農業政策の転換の結果、農業生産は飛躍的に増加する。2013年の自給率は64%だったのだが、2015年末には輸入食料が約40%、265億ドルも削減され、2015年の自給率は72%、2016年の第2四半期では78%となっている。皮肉なことに西側の経済制裁はロシアの自給率向上にかえって有利に働いた。

投稿者 noublog : 2019年08月08日 List   

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