「美味しい」を越える食材とは【本当に求めている食材 学士会館 取締役総料理長 大坂 勝】 |
メイン
2019年08月01日
農をめぐる、世界の闘い7~盟主ロシアの決意Ⅱ.情報戦を制す
遺伝子組み換え食品を国内から徹底的に締め出したロシア政府ですが、最初からそうしようとしたわけではありません。
国内外で繰り広げられてきた認識闘争・事実追求の渦中に、自らも身を投じた中で為されたもの。
そして事実追求を阻むのは、バイオ化学企業、マスコミ、学者たち。
以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)
■GMO排除を後押しした事実追求
もっとも、政府側も最初から遺伝子組み換え食品をすべて規制しようとしてきたわけではない。バイオテクノロジー政策を所管する農業省は、世界の後塵を拝しないよう2012年には「BIO2020」を策定し、農業バイテクを最重点課題としてきたし、遺伝子組み換え食品の安全性を規制する技術規則・計量庁のゲンナジー・オニシチェンコ長官は遺伝子組み換え技術に前向きな見解を示していた。さらに、WTOの加盟条件の一部として遺伝子組み換え種子の輸入・作付けを認め、2013年9月にはドミトリー・メドヴェージェフ首相が遺伝子組み換え作物の生産や販売を認める法令第839号に署名していた。同法が発効する2014年7月1日以降には遺伝子組み換え作物の栽培が可能となっていたのだ。
けれども、2014年4月に「この法令発効を3年先延ばしする」との発表がなされる。こうして遺伝子組み換え食品の栽培を事実上、凍結したうえで、前述した規制法の策定に着手する。安全確認に必要な適切なインフラが不十分だというのが延期理由だったが、環境NGOが政府や議会、メディアに働きかけ連邦最高裁にも訴えていたことが大きい。ロシアでは、著名な女性ジャーナリスト、エレナ・シャロイキニ氏が早くから反遺伝子組み換え食品運動の中心を担ってきた。2004年にはいち早く、NGO全国遺伝子安全協会を設立し、セラリーニ教授の研究が発表される以前から遺伝子組み換え食品の研究を行い、ラットの死亡率の増加や生育不全、妊娠率の低下等のリスクがあることを確認してきた。ロシア科学アカデミーとも連携し、2010年には野生のハムスターで繁殖率が低下することも見出す。
法案を準備した議会の多数派「統一ロシア」のキリル・セイドヴィ委員も、何百人もが健康を損なう可能性がある遺伝子組み換え食品を輸入する企業の行動は犯罪行為で、故意に輸入することで多くの人民の健康が害されたならば、その行為はテロリストに与えられる刑罰に相当すると主張する。たかが遺伝子組み換え食品の輸入をテロ呼ばわりするとはあまりに過激に思えるが、シャロイキニ氏は、遺伝子組み換えが遺伝子兵器として使われることを警告した2004年のベルギーでのNATO委員会の声明や、米国でのバイオ兵器プログラム開発と化学企業との癒着に関してのイリノイ大学のフランシス・ボイル教授の指摘から、こう述べている。
「ワクチン製造ではウイルスを必要とすることから、それはバイオ兵器プログラムのコインの裏側です。致死的なウイルスを遺伝子組み換えすれば、ある特定の遺伝情報のキャリアの免疫だけを機能させなくする超兵器が得られます。モンサントやバイエルなど西側の軍産複合体とのつながりがどうして過去のものだと信じられましょうか」
「食べ物はすべての生きとし生ける者のエネルギー源で、その安全性は、持続可能な発展と同じく、健康や幸せへの鍵です。取り返しがつかない結果を防ぐためには、それが幅広く作付けられる前に、遺伝子組み換え作物やそれと関連した農業の完全な安全性を担保しなければなりません。身内の健康のことを考えれば、どうしてお金が優先できましょうか。ロシアには広大な領土があります。遺伝子組み換え食品を必要としません。きれいで汚染されないように市場を統制できる可能性が私たちにはあるのです」
■情報戦の背後にある利権構造
世界中の反遺伝子組み換え食品団体はロシアの動きを歓迎した。米国の反遺伝子組み換え食品団体、ナチュラル・ソサエティのクリスティーナ・サリヒ氏はこう述べる。
「プーチンが行うすべてに同意することはできない。けれども、少なくとも、私たちの大統領が米国内においてはやらないことをする気はある。遺伝子組み換え食品を国内に入れないことで、その身内を遺伝子組み換え食品から保護している。テロ行為と遺伝子組み換え食品とを同等視するロシア議員の見解は明快で、我が国もある程度は模倣しなければならない。おまけに、この法案では、遺伝子組み換え食品の悪影響に関する情報を歪めたり隠蔽する企業も重く罰せられる。もし、この法律を米国で可決すれば、遺伝子組み換え食品が与える健康や環境破壊の証拠を隠蔽するための働きかけをしてきたモンサントはその罰金で破産してしまうだろう」
ロシアが資金提供するニュース・メディア、ロシア・トゥデイやスプートニクはいずれも米国内で多くの視聴者を持つが、ジェフリー・スミス氏のような反遺伝子組み換え食品活動家を番組に招いて遺伝子組み換え食品の危険性を報道している。
米国のメディア全てを合わせた以上にロシア・トゥデイとスプートニクが「遺伝子組み換え食品」を報じているのは不自然ではないか。これは市民の反遺伝子組み換え食品感情を掻き立て、遺伝子組み換え食品を駒にして米国社会を分裂させようとするロシアの策謀に違いない。ネットで検索すれば、アイオワ州立大学の【ショーン・ドリウス准教授】の警告が数多くヒットする。さもありなん。KGB出身のプーチンのことだ。いかにもやりそうではないか。そう思われるかもしれない。けれども、反遺伝子組み換え食品団体、【サスティナブル・パルス】のヘンリー・ローランズ代表は、ロシアのメディアが遺伝子組み換え食品を報じるかどうかはさておき、それ以上に、消費者側の関心や反発がこれだけ高まっているにも関わらず、米国のメディアが遺伝子組み換え食品の話題をほとんど取り上げないことの方が問題だと指摘する。代表によれば、遺伝子組み換え食品はロシアだけでなく30か国以上で禁じられている。ロシアは、米国バイオ企業からの圧力に屈することなく、こうした国と同じように予防原則を厳守しているにすぎない。そして、こう続ける。
「悲しいことに、アイオワ州立大学の研究者は、遺伝子組み換え食品産業やその支持者からずっと大金を受領してきた経歴があることが暴露されています。つまり、こと遺伝子組み換え食品の話題に関しては、米国メディアよりもロシアのメディアに多くの自由があるのです。消費者の健康を大切にするロシア政府のスタンスが間違っているとすれば、ロシアがすることは全てが反米的だと考える罠にはまってしまうのです」
投稿者 noublog : 2019年08月01日 TweetList
トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2019/08/4069.html/trackback