農をめぐる、世界の闘い5~フランスの農相が挑む認識闘争 |
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2019年07月25日
農をめぐる、世界の闘い6~盟主ロシアの決意Ⅰ.GMO徹底排除
今やアメリカに代わって世界の盟主となったロシア。
農をめぐる世界的な認識闘争の局面においても、同国の存在感は他を圧倒します。
遺伝子組み換え食品(GMO)の徹底排除。
ロシア全土に広がる肥沃な大地を活かした自国農業の再生。
…その先に見据えるのは、”農”の枠を越えた国家戦略。
「自国民の胃袋は、決して他者に握らせない」
底流に流れる民族自決の精神が、この断固たる決意と実行力を支えているように思います。
まずは、”GMO徹底排除”の実情からお伝えしていきます。
以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)
■GM食品輸入、全面停止
2012年10月2日。ロシアはGMコーンの輸入をいきなり禁止する。この背景にはジル=エリック・セラリーニ教授が同年9月に発表した研究がある。モンサントの給餌実験は90日間にすぎないが、ラットの寿命はもっと長い。教授が2年間続けて食べさせたところ乳がんや肝腎障害が生じ、メスの70%、オスの50%が死んだ。ロシア政府はこの研究結果を大真面目に受け止め、予防措置の見地から直ちに輸入を全面停止した。
2012年8月22日にWTOに加盟して以降、ロシアは遺伝子組み換え食品を輸入してきた。けれども、そのコンプライアンスを遵守しつつも輸入しないことは可能だとして、2014年3月27日にプーチンはこう述べた。
「WTOの義務に反しないようきちんと仕事をこなす必要はあるが、なによりもロシア人民を遺伝子組み換え食品の消費から保護するための法的手段や措置を講じなければならない」
2016年1月9日には「GM食品および西側の医薬品産業からロシア人民を守ることを命じる大統領令」を出す。遺伝子組み換え食品やジャンク・ファストフード、ワクチン等によって利潤を生む西側のビジネスモデルを憂え、プーチンはこう述べたという。
「我々は生物種として、肉体や脳を上昇軌道に乗せて健康的に発展させ続けるか、あるいは、西側諸国の模範に倣い、本来ならば危険で中毒性のあるドラッグとして分類されるべき遺伝子組み換え食品、医薬品、ワクチン、ファストフード等を意図的に摂取することで我が人民を毒殺するかの選択を迫られている。我々はこれと戦わなければならない。肉体的・精神的に病んだ人民を生み出すことを我々は望んではいない」
■国内から締め出されるGM食品
2016年6月24日にはロシア連邦議会も領域内における遺伝子組み換え作物の栽培と生産を禁止する法律を可決する。あわせて、遺伝子組み換え食品を輸入した場合の罰則法も設けた。
遺伝子組み換え植物または動物を用いて生産された食品を禁止し、操作された遺伝子の環境への拡散を防ぎ、そうした拡散が生じた場合の結果を緩和するため、遺伝子組み換え食品と関連するすべての活動を監視する手段を強化し、規制法の可決に伴い、種子生産法と環境保護法も改正された。再生産ができない。あるいは、トランスゲノム由来のものを含め、遺伝子組み換えに由来するいかなる種子の使用も「遺伝子工学的な方法を用いてその遺伝子プログラムが換えられた動物の再生」の禁止も加えられた。
遺伝子組み換え食品と関連した活動を監視する担当機関の連邦や地元当局には、禁止令の違反者に罰金を科す権利が設けられ、輸入品および輸入業者にも新たな登録条件や手順が設けられた。
要するに、研究用途を除いて、遺伝子組み換え食品は一切栽培されないこととなった。
遺伝子組み換え食品を含む製品の輸入も完全に規制されたわけではなく、研究用に必要とする組織は輸入できた。ただその際にも遺伝子組み換え食品輸入業者として政府に登録することが求められた。
また、「消費者権利保護法」によって輸入食品に0.9%の遺伝子組み換え食品が含まれていればその表示が義務付けられてきたが、表示義務に反したものを罰する新たな条項を含む法律に2015年1月にプーチンが署名したことで、規則違反に対する罰金が2015年に増額され、連邦技術規則・計量庁は、あいまいであったり食品の内容物表示で意味不明な表示に対して罰金を科せることとなった。
公式統計によれば、こうした規制によって、遺伝子組み換え食品を含む登録食品は57だけとなり、遺伝子組み換え食品のシェア率も過去10年で12%から0.01%まで低下する。米国では、規制すべき政府がモンサントと癒着しているために、遺伝子組み換え食品か、そうでないかの表示義務化を100万人が署名で求めても無視される。けれども、ロシアは表示をはるかに超えた規制をすでに行っている。
■決意を世界に発信
ロシア科学アカデミーは、管理された状態においては遺伝子組み換え作物の生産禁止を部分的に緩和するよう議会側に要請していたが、この要望を議会は却下する。2014年10月に大衆意見リサーチ・センターが実施した調査によれば、82%以上の国民が遺伝子組み換え食品はどんな量であれ人間の健康に害があると考えているとの結果が出た。遺伝子組み換え食品に対する政府のスタンスは、こうした一般市民の声を反映しているように思える。こうした空気を背景に、2014年にメドヴェージェフ首相も「もし、米国人が遺伝子組み換え農産物を食べたいのであれば、どうぞお食べください。我々は、そうする必要はない。我々には、有機農産物を生産するための十分なスペースや機会がある」と述べている。
アルカジー・ドヴォルコーヴィチ副首相も2015年6月にサンクトペテルブルクで開催された国際経済フォーラムでこう発表する。
「ロシアは異なる道を選んだ。我々は、食料生産においてこうしたテクノロジーを使用しないとの決断を下した。この決断の結果として、ロシアの農産物は世界で最もクリーンなもののひとつとなった」。
同年に京都で開催された第12回科学技術と人類の未来に関する国際フォーラムでも副首相は「世界を養うために遺伝子組み換えを使う必要はない」と述べている。
ニコライ・フヨドロフ農業大臣も「ロシアは遺伝子組み換え食品フリーの国のままでなければならない。政府はその人民を毒殺したりしない」と同じ趣旨を語っている。
投稿者 noublog : 2019年07月25日 TweetList
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