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2013年08月27日

【シリーズ】生態系の循環を活かした持続可能な農業の実現に向けて(7) ~「持続可能な農業とは」

【不耕起栽培への転換】
「~何故土作りが重要か?」では、土壌生物たちこそが「土作り」の主役であり、持続可能な農業を考える上で、土中の自然環境や生態系を守る・壊さない、ということが、何よりも重要であることが判りました。また、畑作や水田作の事例紹介でも見たように、省力化や環境保全という観点からも、不耕起栽培に対する可能性が感じられました。

図はこちらから
今回は、シリーズのまとめとして、不耕起栽培への転換を具体的に考えてみたいと思います。しかし、不耕起栽培へ転換するには、いくつかの壁がありそうです。
前章の最後にもあったように、まず「地力を回復させるにはどうすればいいか?」を入口に、不耕起栽培への転換を考えていきます。

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【地力の再生=団粒構造の土を作る】
団粒化が進んだ土は、水や空気の通りがよく、柔らかくて水持ちがよい、植物の生育に好適な条件となります。
「何故土作りが重要か?」で述べたように、植物の生育に適した地力のある土とは、団粒構造の土のことです。従って、地力を再生させるということは、団粒構造の土を作る、ということに他なりません。では、団粒構造の土を作るには、どうすればいいのでしょうか?
自然の山林の土がそうであるように、有機物があれば、それを土中生物たちが分解し、団粒構造の土が作られていきます。しかし、農地でそれを再現しようとすれば、とても長い年月が掛かってしまいます。
そこで、まず自然の状態の土はどうなっているのか、その仕組みを調べ、それが理解できれば、私たちが少し手を加えて手助けをしてやることで、その時間が短縮できるように思います。
~自然の土は上から作られる~
自然の山林では、落葉や枯れ枝、動物や虫の死骸などの有機物は、地表に堆積し、それを地表付近の小動物や糸状菌などの菌類が噛み砕いたり、分解したりします。その分解過程で生成された有機物を、その下に住んでいる細菌たちが分解していく、というように、自然界の土は「上から」作られていきます。

(落葉が堆積していく自然の山林)写真はこちらから

(落葉の下は、既に分解されています)写真はこちらから
この自然の仕組み(土中生物のはたらき)を効率よく栽培に取り入れ、近年注目されているのが「炭素循環農法」です。自然の山林での分解過程を再現し、C/N比(炭素率)40以上の高炭素資材を農地に投入し、表層から5cm程度かきまぜます。特に有効なのがキノコの廃菌床で、これを入れ続けることで、数ヶ月でフカフカの土に変わると言われています。
「月刊 現代農業>2009年10月号」
「炭素循環農法の概要」
【有機物マルチの活用】
このように自然の土の(上から作られる)状態を再現する方法として、「有機物マルチ」の活用が考えられます。前回の記事で扱いましたが、「農業は雑草との闘いである」という点からも、雑草抑制と有機物の投入の役割を兼ね備えた「有機物マルチ」は有効です。

マルチとは「根を覆う」という意味で、作物の生育中に、根を守るために有機物を表面施用し土を覆うことをいう。有機物は基本的に生のままでよい。大別すると、雑草草生やグラウンドカバープランツ、薄上秀男氏の提案する「菜っぱマルチ」などは、「生きた有機物」によるマルチ。そして、敷ワラや堆肥、落ち葉、モミガラや刈草、米ヌカや茶ガラ、コーヒーカス……などの様々な有機質素材を運び込んでマルチする方法は「死んだ有機物」によるマルチ。
一般に普及しているポリエチレンやビニールのマルチは、草を抑えたり、地温を調節したり、水分を保持したりする効果があるのに対し、有機物マルチはこれらの効果に加えて微生物やミミズなど小動物まで元気にしてしまうのが大きな特徴。
有機物と土との接触面では、じわじわと「土ごと発酵」が起こって、いつの間にか土がフカフカになり、土中のミネラルも作物に吸われやすい形に変わる。有機物マルチに生えたカビが空中を飛んだり、土着天敵のすみかになったり、空中の湿度を調節してくれたりもするので、病害虫がふえにくい空間にもなる。
「月刊現代農業>2004 年10 月号」


(畝の上に有機物が敷き詰められています)写真はこちらから

(糸状菌がはびこり、発酵・分解が進んでいます)写真はこちらから
この有機物マルチを活用し、初めのうちは、次の作付時に表層(10cm程度)だけ耕耘して有機物の分解を助けてやることを繰り返しながら、徐々に耕耘回数を減らし、不耕起へ転換していくことが現実的でしょう。使用する有機物は、堆肥はもちろん、わら、籾殻、剪定枝など、なんでもいいようです。
【持続可能な農業とは】
いかがでしょうか。不耕起栽培への転換が、現実的なものになってきましたね。
もう少し具体的にイメージしてみると、長年耕作を続けてきた農地では、トラクターなどの機械の踏圧による、固い「耕盤」が形成されているため、場合によっては「天地返し」などによって、耕盤を破壊してやる必要があります。
(※参照:「耕運の長短を知る」
ところが、しばらく耕作されていない耕作放棄地の土壌は、自然の山林の土に近い状態に戻っているのです。従って、長年耕作を続けてきた農地に比べれば、はるかに簡単に不耕起栽培に転換することが可能です。
このシリーズでは、「化石燃料や農薬・肥料に依存する食糧生産は持続不能である」との問題意識から、「生態系の循環を活かした持続可能な農業の実現」をテーマに、不耕起栽培の可能性を追求してきました。
これまで見てきたように、不耕起栽培はトラクターなどの大型機械を必要としません。また、有機物マルチの活用により土中の生態系が活性化し、化学肥料や農薬を減らしていくことが可能です。しかも地域資源を有効利用できるので、経費の削減にもつながります。このように、石油資源に頼らない持続可能な農法として、不耕起栽培には大きな可能性が感じられます。
(※参照:「畑作における不耕起栽培の事例」

ここであらためて、持続可能な農業について考えてみます。持続可能な農業とは、環境保全資源の循環などを実現していくための農法ということはもちろんですが、それだけではなく、担い手が育っていくということも、忘れてはならない重要な視点であるように思います。
先に述べたように、不耕起栽培には、耕作放棄地の有効利用というメリットがあることが判りました。さらに不耕起栽培の技術は、新規就農者や企業の農業参入を促進し、それが農業の担い手育成にもつながっていくと期待できます。
このように、生態系を守るという点でも、担い手育成という点でも、不耕起栽培には、持続可能な農業としての可能性が大いにあると言えるのではないでしょうか。
このシリーズは、これで終了です。この次は、不耕起栽培の「実践編」がお届けできることを、楽しみにしていて下さい!最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
【シリーズ】生態系の循環を活かした持続可能な農業の実現に向けて
バック・ナンバー
(1)プロローグ
(2)何故、土作りが重要か?
(3)不耕起栽培の可能性 耕運の長短を知る
(4)畑作における不耕起栽培の事例
(5)水田作における不耕起栽培
(6)雑草とどう付き合うか?
(7)持続可能な農業とは

投稿者 komayu : 2013年08月27日 List   

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