「農」再生の実現基盤ってなに?~5章-2 農をめぐる新しい試みの成功事例~共同体そのものを地域資源を活用し、再生してゆく集団(無茶々園)~ |
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2010年12月30日
充足基調と当事者意識がより強まったこの一年
今年も、残り僅かとなり、一年を振り返る話題が、あちこちで交わされています。
農の世界も、TPP問題、口蹄疫、猛暑・異常気象etc.マスコミや世間で騒がれた出来事は数多くあり、それぞれが無視できない大きなものでもありましたが、農に携わる現場の者としては、もっと底流の意識潮流の変化が、今後の農の可能性を考える上でも重要だと感じた一年でした。
そんな一年を振り返り、また、来年も農を盛り上げて行こう、応援しよう
という方は、
ぽちっとよろしくお願いします。
今年は、一言で表せば「充足基調と当事者意識が強まった一年」
というのが実感です。
類農園では、今年も50人近くのインターン生を受け入れました。そんな農や食に関心を持つ若者の間では、田舎暮らしや、狭い意味での農業ではなくて、社会の中での役割としての農(地域活性化や社会貢献としての農)や、食の現場を知って、一緒に考えたい、勉強したいという当事者意識が、はっきりと高まってきました。応募書類のなかで、研修で望むものの選択枝の中でトップに挙げた人が多かったのが、
「経営者との意見交換」、そして、農作業に加えて、「商談や出荷、販売への同行」です。つまりは、現場は、どう考えて、周りとどう関わっているのかを知りたい、そして、自分はどう関わって行ったら良いのかを掴みたいということです。
そして、実際に体験して、生産者はもちろん、関わる人全てが、充足できるように課題を捉えて、共有して行くことの重要性を感じ取って行きました。
インターン生の代表的な感想を、
研修生ブログ「毎日が一年生」より抜粋します。
http://ruinouen.blog53.fc2.com/blog-date-20100913-4.html
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「充足のとき、ありがとう」 (大学生 男子)
稲刈りイベントがありました。
家族で自然に入り、体をつかってまさしく「体感」することは
いいことだと改めて感じました。
参加者のみなさんは、帰り道、言いようのない爽快感があったのでは。
私も一スタッフとして参加させていただき、
多くの人と何かをつくることができた充実感がありました。
事務所に戻り、イベントの簡単な反省会があったのですが、
みなさんが、
「参加したみんなが充足を得られるにはどうすべきか」
を考えておられました。
充足ということばは三重農場で初めて知ったのですが、
充足を目標に事を行うことは大切なことだと教えられました。
1週間では、農業の厳しさはわからないと思いますが、
私にとって、この時間はまさしく充足の時間でした。
こんなに愛しい場所になるとは思いませんでした。
さようなら!また会いましょう!
でっかい男になるぞ~~!
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次に、生産者として、お付き合いのある小売業界とそのお客さんの話。
現在、スーパー小売業界は、特に、地方では、地場の中小ストアと、全国規模のメガストアとのガチンコ対決が繰り広げらています。
そんな中、類農園では、地元で早くから、地域密着路線で、基盤を作って来られたスーパーさんと協働し、お客さんとの交流・体験企画として「稲刈り体験」を実施しました。このスーパーは、地元の小学校の遠足行事の日程を把握し、遠足のおやつセットを企画したり、田植え時期の農家向けお昼の弁当企画をしたり、年間60件に及ぶ幼稚園、保育園でのもちつき大会を実施したりと、「ここまでされたら、ファンになっちゃいますよ。」と言いたくなるような取り組みをされています。クレーム対応等も早く、「好感度&高感度スーパー」というキャッチフレーズ通りです。
さらに、最近では、インショップ型の本格的な地元生産者の直売コーナーを立ち上げ、これが集客の目玉となっています。そして、これが、「イチローがキャッチボールできる位の至近距離に出店するなんていくらなんでも…」と社長さんが憤慨されたメガストアの攻勢も跳ね返し、売り上げを維持されているようです。
今までも、いも掘り体験や乳搾り体験なども行われていましたが、どちらかと言うと、家族連れで、特に、お子さんが楽しく遊ぶという色彩が濃かったのです。が、今回の稲刈り体験は、直売コーナーの生産者組織の行事として、農の現場を知ろう、食べ物を作る大変さを体験しようということで、むしろ、勉強、体験系の志向でした。
募集定員家族20組に対して、3日間で、予想を超えて100家族以上の応募がありました。
当日、参加されたご家族とお話してみると、
「こんなイベントでないと、子供を自然の中へ連れ出して鍛える機会がないので、楽しみにしてました。」
「自分は、小さい頃、家の農業の手伝いをしていたが、会社勤めをするようになって、今の子供には、どうやってお米ができているか、ご飯になるのかも見せられていないので、今日は、教えに来た。」
などなど、お子さんが元気なのは、当然としても、親御さんが、みなさん熱心なのには驚きました。これも、単なる消費者から食の当事者へ脱皮しようという表れでもあり、また、これを軸に、生産者、小売、消費者がつながって充足の場を作って行くことが、期待されることでもあります。
ここ数年、直売所の数も増えてしましたが、今、繁盛するところと、衰退するところが、はっきりと明暗分かれてきています。
その差は、品質、品揃えももちろん大切ですが、作り手、売り手、場の提供者を含めて、課題共有、充足場を如何に作ってゆけるかが分かれ目ではないでしょうか。
さらに、政策との絡みでは、今年、「戸別所得補償政策」という、云わば、ばらまき政策が実施され、、約40%の生産調整を条件に、各農家へお金が渡されることになりました。地域によって、対応は、大きく異なるでしょうが、当地は、コメの有名銘柄産地ではなく、コメが、そこそこの価格で売れるわけではないので、
「生産調整するくらいなら、全圃場水稲を作付して、おいしいと喜んでくれる人に、直接買ってもらったほうが良い。」ということで、補償金よりも、食べる人との充足関係を求める兼業農家の方がほとんどでした。みんなの意識と制度とのギャップです。
最後に、もう1つ。
現在の充足基調に乗ってか、対面販売、朝市も増えています。
ところが、対面販売を、何年かやって来られた生産者の方が仰るには、
最近、若い世代、特に、若い主婦層は、ちょっと対面関係が苦手なのか、「売りつけられる。」みたいな警戒心もあって、売り手とのやり取りを楽しむところまでに少しハードルがあって、やりにくくなった、とのこと。これは、売る側の打ち出し方、接し方の工夫が求められるということであり、お客さんの充足したいという気持ちに応えられるかということだと思います。
そこでというわけでもありませんが、最近、ネットに近しい人達を対象として、農園の所在する地域で、地産地消促進のためのSNS(ソーシャルネットワーキングサービス)を始めました。行政が音頭を取って、地元のケーブルテレビ会社が運営するサイトのシステムを拡充して立ち上げ、現在、登録者600名弱。 (携帯からhttp://sns.is-town/で登録、アクセスできます。)
運営方法、発信内容は、手探り状態ですが、特定の生産者や事業者のHP、ブログではなくて、地域の食という共通項でのつながりで、日々、小売業者、生産者、飲食店、旅館、消費者が同じ場で、情報や思いをやり取りして、充足場にしようと試みているところです。
そこでは、商品アピールや食べ方、食べてみての感想、おいしいお店の情報、最近では、食育の中身に関する話題なども、交わされています。農園では、商品のことだけではなく、生産現場の生の様子、日々の気づきなどをできるだけ載せるようにしています。ここから、販売につながったり、対面関係もできたりしています。ここでも、充足場がキーワードになると思います。
そんな中で、先週、とても充足したやり取りがあったので、それを紹介して、今年の最後にします。
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日記:
そして、午後からは、今年がんばってくれた合鴨君達に感謝して、
明日の鍋パーティーの準備をしました。
我々は、動物の命をいただいて生きていますが、それを身を持って、自らの手を使って体験できる機会は、少なくなりました。研修生の1人は、今日、初めて、そんな貴重な体験をし、感じるところもあったみたいです。
これも、食育の1つです。
ありがとうございました。 .
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コメント:
類農園さん、こんばんは。
「命をいただく」、この言葉は、恥ずかしながら、子どもから教えてもらいました。
子どもが、松阪の食肉公社で学習させていただく機会がありました。銃殺される様子も教えていただき、皮を剥いだものも見せていただき、牛肉が嫌いになるのではなく、スーパーへ行くと、この肉はこうして店に並んだよ。品質を調べたり関心が高くなりました。
また、総合学習でお米をつくったり、、野菜を作ったこともあり、お米一粒の大切さを食べながら話してくれ、独り暮らしする今、食材を大切にしています。
22日に帰省し、「忘れた」と突然言い始め、ガスの元栓を閉め忘れたかと思ったら、卵を二個使いきれなかったので、知人にあげるのを忘れたということでした。
食育、命をいただく、すごく大切なのに、四年前に息子を通じて知ったなんて恥ずかしいことです。
類農園さんのところで、命をいただくことを教わった方は幸せですね。
私も、命をいただくということを忘れずに、感謝の気持ちも忘れずにいこうと思っていますが、ついつい毎日の忙しさに忘れがち。
でも、類農園さんの日記を拝読し、命をいただく大切さを忘れたらあかんと自分に言い聞かせました。
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それでは、みなさん、良いお年を!
投稿者 naganobu : 2010年12月30日 TweetList
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