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2022年11月21日
映画「百姓の百の声」を観て
11月20日大阪の十三の第7芸術劇場というミニシアターで100人少々を集めての映画「百姓の百の声」を見てきました。今回の記事は記憶の新しいうちにその感想とそこで語られた現役百姓の生の声をレポートしたいと思います。
この映画は梨田昌平さんいう映画監督が作られた。監督は58歳。ずっとこういう映画を撮りたかったと語られていた。農業をポジティブでもなく悲観的でもなく、淡々とお百姓さんの映像と言葉を並べて、みた人に感じてもらう、そういう映画にしたいと。そしてその題材のお百姓さんは農文協という農業を専門に100年以上の歴史を持つ出版社を通して3年間にわたって全国を歩き、たくさんの方々との会話と取材の中から生み出されていった。
今回紹介されたお百姓さんはわずか20人ほどだが、全国100万人いる百姓がそれぞれに自らの考えや物語をもっておられるという。
では今回の映画から印象に残ったフレーズでつないでいきたい。ホームページ
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最初は薄井勝利さんで稲の第一人者。
徹底した自然の観察の中から独自の農法を生み出している。6種類のバケツにいろんな条件を与え、稲の生育を研究し、最もその土地、土、水にあった稲を見つけ出す。常に現場主義。「栄養分が過剰になったら病気が来る。倒れる。それを過剰にならないように、自分の観察力で維持していく。そこなんですね、一番大事なのは」「人も植物も一緒」
「百姓は自然と人間の接点なんです。」
2番目は若梅健司さん
トマトの第一人者。農業を始めるときに持った「3つの信念」が核心をついている。
- 己の職業を道楽と思え
- 記録を取る事
- たえず、新しい技術に挑戦すること
「道楽って言葉が大好きなんですよ。本当に好きなことをやっているから、失敗しても不平不満は出ないし、誰のせいにもしない。なんでもすきでやらなぁ」
百姓宣言が国連で2018年定義された
「母なる地球と調和する小さな農家」
また百姓の定義はこう言われている
「100種類の仕事をする人、なんでもできる人、なんでも自分の力でやろうとする人」
横田農場を経営する横田修一さん
20人からなる組織で大規模に農業を経営している。ただ、毎年周辺の農家が後継ぎがなく管理できなくなった田畑を受け入れ今や甲子園球場123個分の農地を管理している。
百姓という言葉、僕は好きですね。機械が壊れれば直すし、大工仕事もやる。土木仕事もやるし、作物の事もわかっている。植物のことも生物のこともわかるような知識も必要だと思いますしー。みんながそれぞれ自分の持ち場で考え、連携して仕事をしていますから、「こっちが足りないから」「こっちがこういう作業をしているから、おれはこういう作業をしようかな」とかみんながそれぞれ自律的に動いている。
―――今どきの言葉で言えば「自律分散型」の組織。そういうものって昔から稲作では「結」って形があったんじゃないか。農業は計画通りすすむものではないし、人の能力もそれぞれだし。
また横田農場の栽培法が面白い。管理する面積が毎年どんどん増えていくが人を増やすわけにいかない。面積が増えて人を増やせばどんどん収益率は悪くなる。メガファーム政策なんて国は言うがそう容易いものではない。少ない人数で大面積を耕作するにはどうするかを考えた。「作期分散」という農法を編み出した。早く実る米、から中間、遅いのを14種類に分けて3月から6月まで分けて田植えしていく。収穫も少しずつずらす。それをパッチワークのように分けて植え付ける。そうすることで作業が集中しないので少ない人数で広い面積を耕作できる。
また耕運機や田植え機は1台で回す。増やせば故障も増えるしメンテナンスもコストがかかる。操作する人も多く必要になる。
この横田修一さんのお父さんの卓士さんは言う。
息子に農業を継いでもらったが、農業を継げなどは言わなかった。女房と結婚した時に「絶対に田んぼのことは子供のまえでつらいって言うんじゃない」って決めたんです。「楽しいことだけを言いなさい」って。「田んぼでメダカをとった」とか「オタマジャクシをとった」とか「今日はとんぼが羽化して一斉に飛び立った」とか楽しい話ばかりを聞かせたよ。「子どもは後で騙されたと言われましたけどね(笑)」
でも修一さんはそうやって、本当に楽しそうに農業をやっておられる。
――――次は海外農業との話――――
きゅうり農家の山口仁司さん
オランダから10年前にデーター農法が伝わった。しかし山口さんがしたのは、昔ながらの「作物の心をよみとる」とデーター技術を組み合わせ、世界で類をみない栽培技術を確立。
山口さんは2年間の研修で一人前のきゅうり農家に育てる研修育成もしている。
理由は、きゅうり農家を減らさないこと。農家が減ればきゅうりの価格は上がるが、同時に誰もきゅうりを食べなくなる。短期的な利益は長期的な利益にあらず。百姓は知っている。
発酵技術を活用したコメ農家の斉藤忠弘さん
減反政策で農協に米を出すのをあきらめ、自らの販路を開拓。その時に米ぬかが残った。
「土ごと発酵」という新しい農法がその時に始まった。
「科学肥料っていうのは効果が一過性なんですよ。そして土壌に対するプラス面はあまりないんです。その点、米ぬかは土壌のー――人間でいうと細胞と結合して有機質化するんですよ。じわっと効いてくるんです。肥料として使うとね」
同じく発酵技術を農薬につかった野菜の苗をそだてている高橋博さん。
米ぬかとヨーグルト、納豆菌を混ぜてそれを農薬代わりにビニールハウスの苗に散布する。そうするとその中で発酵しカビがでない。「えひめAI」と呼ばれるこの環境は安価ですぐ作れて、健康にもよい。継続して使えば温室の中にその環境が定常的に生み出される。理想的な無農薬だ。
山菜名人の細川勇喜さん 74歳
自然薯やタラの芽などの山菜を人工栽培する技術を開発し、惜しみなく回りに伝えてきた。
「自分にしかない技術は100以上ある。発明とか発見とか。いっぱいあんのよ。いっぱい持ってるからふたつやみっつ公表しても別に。まぁ新しいことをやるべし、やってまだ出きっかもわかんない。これが最後と思ってもまたどこかで新しい発見があるかもしれない。別な作物であと40年くらい生きようと思っている。10年後だな、発見すれば10年後にまた会いましょう。」
開けても暮れても発見、発明。ただどこかの大企業と違って百姓の知は「よい知恵や技術を共有し互いに高めあっていく」そんな知のあり方が伝統になっている。
最後はビニールハウスでのトマト作りで何度もTVに出演した清友健二さん
「虫」がテーマに。
ビニールハウスでの栽培の敵は天敵の虫。いくら駆除しても完全に駆除ができない。何度もハウスの中の栽培が失敗し苦渋をなめてきた。清友さんは害虫の駆除に虫を使った。害虫を食べてくれるタバコカスミカメという虫をセットで育てると完全に駆除することができることを発見した。化学肥料に頼らない完全な無農薬での農法が可能になったという。
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百姓の百の声を聞いた。見た。鑑賞後はなんとも爽やかな元気を与えられる映画だった。
想像以上、予想をはるかに超えた映画で、決して見せよう、感じさせようとせずに淡々とそれでいて全編エネルギーを感じさせる強さをもらった。直ぐにでも仕事につかえそうな話や言葉もたくさんあった。
「己の仕事を道楽と思え」
「たえず、新しい技術に挑戦すること」の言葉の重さ
「百姓という言葉、僕は好きですね。機械が壊れれば直すし、大工仕事もやる。土木仕事もやるし、作物の事もわかっている。植物のことも生物のこともわかるような知識も必要だと思います」
「土ごと発酵―人間でいうと細胞と結合して有機質化するんですよ。じわっと効いてくるんです。」
「百姓は自然と人間の接点なんです」
百姓がなんでも自分でできるのは、自然の摂理に学び、発見し、追求しているからだと思います。百姓が最初から何でも見えているわけではない。見えないものを見る力を徐々に獲得していくことが百姓力なんですよ。と・・・
この映画、もっと多くの人に観てもらいたい。また観たい。そう思える映画でした。
まだしばらく大阪で上映されています、ぜひ十三の第7芸術劇場に足を運んでみて下さい。
投稿者 tano : 2022年11月21日 TweetList
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