土の探求2~人類最悪の発明、「犂」 |
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2019年10月03日
土の探求3~肥沃な土壌のカギを握る「表土」
肥沃な土壌のカギを握る、「表土」。
自然が数センチの肥沃な表土を作るのにかかる時間は数百年。
人類はそれを全て数十年で壊す方向に進んでいる。
肥沃な表土を再生させる突破口は、「有機物」の追求と、「自然と”共に”働く」心のありよう。
以下、転載(土・牛・微生物 著:デイビット・モントゴメリー)
■表土の破壊
回復力があり、生産性が高く、永続的な農業を生み出すには実際に何が必要かを私は考え始めた。単純ですべての農場に当てはまる解答があるとは思えなかった。そしてその解答は、有機農業にすればいいというものでもないことは分かっていた。ほとんどとは言わないが多くの有機農家は、雑草を抑え種まきの準備をするために土地を耕している。社会が注目すべき基本的な疑問は、どうすればあらゆるタイプの農家が犂を手放し、作物を植えたあとと収穫したあと~何度も繰り返し~土壌をよりよく保つことができるかだ。
そしていずれにしても変化は起きる~また、すでに起きている。読者が子供の頃から今まで育った場所で、どれほどの土地が開発されたか考えてみよう。果樹園であれ畑であれ、平地であれ丘陵であれ、豊かな農地がはぎ取られて、新興住宅地やショッピングモールにされるのを私たちはみな見てきた。1980年代、大学を出たての新米地質学者だった私は、サンフランシスコ湾岸地区の地盤調査会社で地盤検査技師として働いていた。当時肥沃な農地だったところを現在のシリコンバレーにするのに、請負業者が最初にやることは表土を取り除くことだと、私はすぐに知った。軟らかい肥沃な土壌は、あまり基礎の支えにならない。上に建物を建てれば沈下する。だから工業団地を造りたければ、表土はどけなければならない。工事が行われるたびに、豊かな黒土がトラックに積み込まれて埋め立て用に運び去られるのを、私は見た。そこには今後数十年、いかなる作物も育つことがない。そしてこの先、今世紀のどこかで頭打ちになるまで、世界の人口は増え続けるのだ。
過去の社会に起きたことを学び、農地の大規模な破壊を見た私は、人類が将来、食物を供給できるのか、真剣に疑うようになった。なにしろ自然が数センチの肥沃な表土を作るには数百年かかり、我々はうかつにも、それを全て数十年で壊す方向に進んでいるのだ。これは明らかにハッピーエンドにならない物語に思えた。私の妻が庭造りをしようと決意するまでは。
■チョコレート色の土
私が教授としての終身雇用資格を得た直後、妻のアンと私はシアトル北部に家を買った。中庭は荒れ果て、100年前からの芝生の下は生命のない泥で、ミミズは一匹もいなかった。しかしそこはアンが夢見た庭のスペースであり、私たちは白紙の状態から始めるための中庭破壊計画を乗り切った。それから新しい花壇の土壌改良に使うマルチ(乾燥や浸食、雑草の発生を防ぐため、土壌の表面を被覆する資材。マルチング)と堆肥を作るため、アンがありとあらゆる有機物を家に運んでくるのに、私は辛抱強く耐えた。あとで考えてようやく分かったのだが、我が家の庭の花壇は農場のミニチュア版だった。数年後、結果が見え始めた。土の色がカーキ色からチョコレート色になるにつれて、ミミズ、ヤスデ、クモ、甲虫などの生命が地中からわくように現れた。花粉媒介昆虫や鳥が続いて姿を見せた。生命の叫びが私たちの足元から現れ、地上に広がり、私たちの庭と世界を見る目を変えた。
有機物を使って肥沃な土を作る実証済みのやり方を私たちは再発見した。それは自然と「共に」働くという忘れかけた道へと、私たちを導くものだった。非常に驚いたことに、古代社会を崩壊させた土壌の劣化の逆転が、まさに自宅の裏庭で進んでいたのだ。そしてそれは思った以上に急速に起きていた。都市部にある我が家の土壌が変わっていくのをこの目で見た私は、土壌生物が土壌肥沃度を高めるための要であるだけでなく、それを使えば土壌を自然が行うよりもっと速く回復させられることを確信した。これは私が大学で学んだことと違っていた。大学では、土壌化学と土壌物理学が土壌肥沃度を決定し、自然が土壌を作る速度は氷河の歩みだと教わっていた。
アンと私が図らずも我が家の土壌に生命を回復させることになるはるか昔、オランダでは堤防を築いて海から切り離し、計画的に海岸の砂を肥沃なことで知られる黒土へと変え始めていた。その土は今もヨーロッパで最高級の農地の一角をなしている。その秘密は何か?有機物を畑に戻すことだ。
そしてオランダの工夫よりはるか以前、アマゾンのインディオは、有機廃棄物とかまどから出た炭を埋めて、肥沃な黒土【テラ・プレタ】を作り、もともとやせた土の環境にある村のまわりに肥沃な表土の区画を生み出した。アンデス山地では、インカ族が段々畑を築き、それは何百年も耕作された今なお、自然の丘の斜面よりも肥沃な土を留めている。インカの技法はなじみのもの~有機物を畑に戻すというものだ。アジア一帯では、畜糞と「下肥」(人糞)を畑に戻す昔ながらのやり方が、同じ原理に従っている。こうした社会はいずれも、土作りを重視する農業慣行を通じて、肥沃な土壌を作り維持した。
自分自身の経験と、このような歴史を知ったことから、自然が肥沃な土壌を作るよりはるかに速く土壌有機物を、ひいては土壌肥沃度を人間が増加させることができると私は知った。
しかし我々の農業政策はそれを妨げ、農家にまさにその足元にある道具を使わせまいとしているのだ。
投稿者 noublog : 2019年10月03日 TweetList
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