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2019年09月05日

農をめぐる、世界の闘い12~先端を行くラテンアメリカⅡ.世界で最も進んだ食のガイドライン

ブラジルが世界に誇る「食のガイドライン」。

それは、「一日当たりの脂肪や繊維の推奨摂取値は…」等という医療・栄養学的な処方箋としてではなく、

滋味豊かな料理を家族や友人たちと分かち合うことの喜びを重視し、それら食べ物と環境とのつながりを直視する。

その価値の塗り重ねが、将来世代の食・農・健康を守っていく。

 

以下、転載(タネと内臓 著:吉田太郎)

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■世界で最も進んだ食のガイドライン
ペルー保健省のエンリケ・ヤコビ副大臣はこう語る。
「ラテンアメリカで我々はまだ料理をしています。我々はこの料理の伝統を愛します。こうした食の伝統を構築するために、おそらく500年、600年がかかったのです。ですが、食品業界はわずか10年でこのすべてを破壊できるのです」
けれども、人々は黙ってはいない。こうした状況への反動から、ラテンアメリカは、世界でも先駆的なフード政策の実験場へと変わってゆく。例えば、米国ではカリフォルニア州のバークレーが2015年にソーダ税を設けた最初の都市となったが、その際に参考とされたのが、2014年にソーダとジャンクフードに対する課税を法制度化したメキシコだった。メキシコだけではない。チリもソーダに課税し、エクアドルは不健康な食品に内容表示を義務づけ、チリとペルーでは不健康な食品の広告を削減する法律を可決した。

【モンテイロ教授】もこうした改革のリーダーの一人だった。ブラジルは憲法に食料への権利を位置づけ、保健省はモンテイロ教授の支援を受けて、既成版をはるかに越える食事ガイドラインを2014年に制定する。健康的な食事を「社会的・環境的に持続可能なフードシステムに由来するもの」と定義し、持続可能な家族農業がモノカルチャー型の機械化大規模農場に置き換えられることを警告したのだ。米国にも「食事ガイドライン」はあるが持続性の扱いについては大きく違う。米国でも原案の段階では肉の消費量を削減する等の様々な提言が専門家からなされたが、食肉産業をはじめとする業界からの強力なロビー活動によって最終的に持続性への懸念が削除されている。

ブラジルの国家食料栄養保障協議会のマリア・エミリア前長官は「アグリビジネスからは間違った解決策が提案されている」と批判し、まともな食べ物を口にできることは人権だと述べる。
「市場主義の支持者たちは、栄養学の立場から食べ物を医療の対象にしようとしています。ですが、ブラジルでは広範な市民たちの声を反映させることで、健康的であたりまえの食べ物に対する食料主権や人権が、公式見解として食料保障や栄養保障に含まれることとなったのです」
マックグリービー准教授が指摘する医療ビジネスパラダイムかまっとうな食かのフード・ウォーズがブラジルでも繰り広げられていることがわかるだろう。さらに、ここで前長官が日本でよく耳にする食料「安全」保障ではなく「食料『栄養』保障」という言葉を使っていることにも留意したい。前長官は、地域ごとに食べ物には違いがあることを重視し、日々の食べ物の選択は生物多様性にも影響を及ぼすと指摘する。そして、食事ガイドラインを「大きな前進」とみなす。

食事ガイドラインは超加工食品が健康や社会や環境にどれほどダメージを及ぼすのかを詳しく説明し、それを避けることを勧める。けれども、モンテイロ教授はこうも言う。
「飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸の違いを理解する必要はありません。私は普通の庶民が栄養分に基づいて何を食べるのかを決めているとは思いません」
食事ガイドラインは、料理を苦役ではなく、家族と友人とが楽しむための時間と枠組みづける。料理をして食事をわかちあうことの喜びを重視し食べ物と環境とのつながりを直視する。これだけでも従来の栄養学の枠組みを越えているのだが、そのうえで、一日当たりの脂肪や繊維の推奨摂取値という内容が乏しい処方箋を書く代わりに、料理を重視する。そして、超加工食品をほとんど食べていない人たちの食習慣からサンプルとなる料理事例を創作した。それは、アマゾンで食されているキャッサバの粉を混ぜた野菜スープやサンパウロ州ではありきたりのスパゲティ、チキンとサラダだ。研究者の一人は「ヘルシーな食事はなじみが薄い料理だとの考えを打ち消したかった」と語る。これがあたりまえの食事になることがポイントだ。ブラジルには「世界で最高の栄養ガイドラインがある」と言われるゆえんはここにある。

ブラジルは2006年に子供たちに対する食品広告を規制し、不健康な食品には警告を求める野心的な政策を法制度化しようと試みたが、2010年に採択されたのは内容を骨抜きにされたバージョンとなった。業界から圧力を受けたためだ。けれども、ラテンアメリカの飲食同盟が結成されると状況は変わる。モンテイロ教授の長年の協力者であるノースカロライナ大学チャペルヒル校の【バリー・ポプキン教授】は「ブラジルのガイドラインは、非常に興味深く、かつ、非常に野心的だ」と述べる。ポプキン教授も世界中で超加工食品の消費が増える中、砂糖飲料に対する課税や規制、子どもをターゲットとした広告に対する規制が必要だと考える。確かに、食事ガイドラインには法的拘束力はない。けれども、それは法的根拠を持つ政策決定の基礎を築く。

 

投稿者 noublog : 2019年09月05日 List   

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