| メイン |

2014年10月31日

「新しい宅配事業と地域共同体の再生」①宅配事業の現状

◆プロローグ

高度経済成長期以前まで、人々の暮らしの基盤である地域の課題・役割を担ってきたのは、地域に住む人々自身でした。しかし、市場拡大と都市化の進展に伴って、地域の人々同士の繋がりが薄れていき、「困った時はお互い様」「持ちつ持たれつ」といった言葉で表現されてきた隣近所での相互扶助が失われていきました。

現在、かつての地域共同体が担っていた課題・役割を、宅配事業者が代行する動きが盛んになってきています。
例えば、高齢者の安否確認、防犯のための見回り、地域に必要な情報を提供すること、「御用聞き」に代表される需要情報の収集などです。

今後の宅配事業には、従来からの商品や贈答品などを確実・迅速に届けることに加えて、より地域に密着した小まめなサービスを提供し「人と人とを繋ぐ」役割を果たす業態として、地域社会を成立させる上で不可欠な存在になっていくのではないか、と注目が集まっています

そこで、これからしばらくの間、「新しい宅配事業と地域共同体の再生」というテーマで、現代の宅配事業の概況や、その歴史的な推移を踏まえて、今後の宅配事業に求められる役割と可能性を探っていきます。

シリーズ一回目の今回は、現在の宅配(に類する事業を含む)の市場動向と、新しい動きについて紹介していきます。

宅配や移動販売といった地域に密着した業態が伸びている背景には、女性の社会進出で、従来、家庭の中で主婦が担っていた家事、育児等の仕事が溢れ、さらに核家族化、単身世帯の増加により、親世帯とも別居し、溢れた仕事をカバーすることができなくなっていること、また、地域住民同士の繋がりが希薄になっていて、隣近所での自然発生的な相互扶助が機能しにくくなっている等の要因が考えられます。

高齢化が一層進展する中で、赤字の路線バス廃止などで交通の便が悪くなった結果、内閣府 「平成23年版高齢社会白書」によると、いわゆる「買い物難民」が全国に約600万人いると言われ、暮らしに不便を感じる人が多くなっています

こうした社会状況の中で、従来からある宅配の業態に加え、かつて主婦や老人が主に担ってきた家事、育児などを一部代行するサービスなど、新しい業態が活発になってきています

にほんブログ村 ライフスタイルブログへ

◆宅配市場の概況

主要な宅配事業の市場規模は、宅配便3.4兆、食品宅配1.8兆、新聞(販売+広告)1.7兆、郵便1.8兆、合計すると約8.7兆円となっています。各分野の動向を、更に詳しく見ていきます。

 

●より地域に密着したサービスで利用を増やす宅配便

国土交通省「平成25年度宅配便等取扱実績」
***

宅配の推移

2013年度の宅配便取扱個数は、36億3,668万個(推定売上3.4兆円)となり、事業者ごとのシェアを見ると、「宅急便(ヤマト運輸)」46.3%、「飛脚宅配便(佐川急便)」33.9%、「ゆうパック(日本郵便)」11.9%となっており、
この上位3便で92.1%を占めている。シェアトップのヤマト運輸の宅急便の取扱個数は、過去最高の16億6587万個になった。
***

平成20年に一度落ち込んだ宅配便の取り扱い個数は、ここ数年、ネット通販の急激な伸びに後押しされる形で、年率3%~5%の伸びを示しています。

また、近年の新しい動きとして、女性配達員の増加が挙げられます。ネット通販の主な顧客である女性のニーズに応える、また午前中に在宅率が高い高齢者と直接コンタクトを取る目的等から、時間に余裕がある主婦層を中心に、女性配達員を積極的に雇用し始めています。

佐川女子2佐川女子

 

・クロネコ宅急便の小荷物は午前中に届く?ヤマト運輸が女性を積極採用へ
「ヤマト運輸、今後3-4年で女性配達員を5割増採用して2万人規模へ」
「狭い地域を男性ドライバーと女性配達員3名程度で午前中に集中配達する、チーム集配を強化」

・佐川急便とヤマト運輸の女性配達スタッフ採用戦略の違い
ヤマト運輸はチーム集配のコアとして
佐川急便は女性ニーズを満たすため

女性配達員が、より狭い地域を小まめに巡回することで、女性客に安心感を与えることができる、高齢者の様子に変化がないかを観察できるなどの効果も期待されます。

 

●女性の社会進出や、高齢化で多様化するニーズに応える食品宅配

・矢野経済研究所「食品宅配市場に関する調査結果2013」
***

食品宅配の推移
本調査における食品宅配市場とは、①在宅配食サービス、②惣菜宅配サービス、③宅配ピザ、④宅配寿司、⑤外食チェーン・ファストフードの宅配、⑥牛乳宅配、⑦生協の個配サービス、⑧ネットスーパー宅配、⑨コンビニエンスストア宅配、⑩自然派食品宅配を対象とする。但し、いずれの宅配サービスにおいても日用品、雑貨を除く食品群のみを対象とする。

2012年度の食品宅配総市場規模(主要10分野)は前年度比103.9%の1兆8,078億円であった。
高齢人口の増加、女性の社会進出定着による家庭内調理時間の短縮、生活スタイルの多様化による個食化の進行、昨今の国内不況による外食離れ、家庭内調理による食事摂取(内食)志向の強まりなどから、食品宅配市場は拡大基調にある。
***

 

●郵便物が減少する一方で、荷物が増え続ける郵便事業

・総務省 平成25年版『情報通信白書』
***
●平成24年度の引受郵便等物数は、荷物を除き減少傾向
平成24年度における総引受郵便等物数は、223億4,575万通・個となっている。内訳は、内国引受郵便物数188億1,439万通、内国引受荷物数34億8,345万個、国際郵便物数4,790万通となっている(図表4-10-1-4)。
***
郵便物取り扱い個数の推移

・M&A CAPITAL PARTNERS
***
郵便事業株式会社のほぼ独占で、売上高1兆7799億円である。一部市場開放による特定信書便事業(民間開放)の市場規模は、35億円(2008年)。まだまだ、市場開放されていないに等しい市場規模である。
※その後、信書便事業は、43億円(2009年)69億円(2010年)91億円(2011年)と急激な伸びを示している。
***

葉書や封書などの郵便物の取り扱いは年々減少を続けていますが、その一方で、地域に密着した配達網を活かして荷物の取り扱いが増え続けています。

 

●近年復調している牛乳配達

・るいネット『伸びている宅配分野』
***
・この10年ほど牛乳の宅配軒数はずっと伸び続けている。120万軒まで減っていたのが、600万軒までに増加。重いのが億劫な高齢者の増加、働く女性の増加、宅配独自の健康志向商品開発などが、増加の後押しをしている
***

 

●定期購読による販売収入が堅調な新聞
総務省「平成26年版情報通信白書」 によると、平成24年の新聞の市場規模は1兆7,288億円となっています。

nippon.com
***
<減少続く広告収入に対して、堅調な販売収入>
売り上げは、1997年の2兆5294億円をピークに、2011年にはその8割以下に留まっている。
しかし、日本の新聞産業全体の縮小のほとんどは、収入の3割ほどを占める広告収入の減少によるものだ(ちなみに、米国の新聞市場では、広告収入が全体の収入の8割を占める)。他方で、売上収入全体の6割近くを占める販売(大半が定期購読)収入は、微減ではあるものの、堅調だ。2011年の販売収入は、1997年比で9割強を維持している
***
広告収入の大幅な落ち込みに比べ、新聞自体の販売の落ち込みは少なくなっています。また、全国紙と地方紙のシェア分布を見ると、47都道府県中の37都道府県で、地方紙がシェアトップを占めています。これは、地域情報を発信する地方紙への期待が高いことを示しています。
参考:るいネット『全国紙と地方紙のシェア分布』

 

◆様々な業態が伸びている宅配事業

主要な業態のほかにも、商品だけでなく、多様なサービスを宅配する分野が近年伸びてきています。

代行サービス
画像はコチラからお借りしました。

るいネット『伸びている宅配分野』
***
・洗濯代行サービス(バッグ詰め放題2400円で洗濯物を洗って、乾かし、きれいにたたむ。但しアイロンかけなし、集荷から配達まで中1日)が伸びている。最初は男性やお年寄りを想定していたが、客の7割が20~40代の女性。下着に抵抗が薄れてきている

・住友不動産のおそうじ宅配便(依頼主にキッチンやトイレなど掃除箇所を決めてもらい、スタッフ2人が2時間単位で掃除し、1回18900円の料金)は年4万件以上、売上20億円の実績。いったん利用すると便利さが手放せなくなる「中毒性」がある

・お掃除本舗では、お掃除のプレゼントをキャンペーンに使いたいという企業からのオファーが増えてきている。景品利用者の反響は大きい。その後リピートオーダーになだれこむ場合が多い。利用者の7~8割が専業主婦

・演奏家、マジシャン、大道芸人、占い師、似顔絵師など多彩なエンタメ系職人をデリバリーしているのが、グリーンリビング。「手に職」を身につけたのに、営業が上手でない人をイベントやパーティーに派遣し、クライアントの集客に貢献している
***

従来、主婦が担ってきた仕事を代行する、イベントを盛り上げてくれる人材を手配するなど、派遣型の宅配サービスの需要が高まっていると言えます。

●人が集う場を作り出す移動販売、配置販売

また、個別の住宅への配達ではありませんが、似たような業態として、近年注目されているのが、「移動販売」「配置販売」といった、対面でのやり取りを交えた業態です。

農家カフェ移動販売車2
画像はコチラからお借りしました。

●るいネット『都市部で増加・多様化し、注目される移動販売』
***
◆近年の状況
・東京都福祉保健局『食品衛生関係事業報告』によると、東京都の2012年の移動販売車の数は3,203台となっている。増加傾向にあり、1992年の1,344台と比較すると約2.4倍となっている

◆移動販売車の増減の背景
・営業許可を取得している移動販売車も特殊用途自動車として登録している移動販売車も、ともに調理加工が可能な形態が増加している。逆に、調理加工ができない形態は減少傾向にある。この変化の背景には何があるのだろうか。

・一方で、コンビニの増加傾向にもかかわらず加工車がここ10年の間に増加しているのは、モノが不足していた時代から有り余る時代になり、消費者のニーズが多様化してきたからだろう。いまやコンビニはあちこちでみられ、飽和状態となっている。スーパーなどでも、大量生産された商品ばかりが目につく。
どの店に行っても同じような商品を売っていて、つまらないと感じる消費者が出てきた。コンビニなどでは対応できないニーズを満たしてくれる存在を消費者は求めるようになり、その場で調理加工をして販売できる加工車が、その期待に応えるようになった
***

●るいネット『伸びている宅配分野』
***
・「オフィスグリコ」のおやつのデリバリーサービスの価格は100円。富山の置き薬のお菓子版。小腹がすいたときに男性が食べるパターンが目立つ。残業時に人気がある

・外食チェーンの「オフィスほっぺ」は100円均一の焼きそばやコロッケ入りの調理パンを届ける。工場地帯で人気
***

健康志向の高まりを受けて、社員の健康維持に気を使う企業が増えている中で、オフィスで新鮮な野菜を食べられる「置き野菜」のサービスも登場しています。

株式会社 KOMPEITO(コンペイトウ)が、都内で展開する「オフィスで野菜」では、オフィスの冷蔵庫にハンディサイズの野菜パックを置き、社員各自が野菜を購入するか、会社が野菜を社員に提供するかを選ぶことができます。社長自ら社員一人一人に野菜を配って、コミュニケーションのきっかけ作りに役立てる会社もあるようです。

 

◆まとめ

ここまで見てきたように、高齢化や女性の社会進出によって、多様なニーズが発生しており、今後の宅配に期待されるのは、より人々の暮らしや地域に密着した小まめなサービスを提供する業態と言えます。

宅配便や食品宅配事業は、買い物難民の増加やネット販売の発達などにより、これまで以上に需要が急拡大しており、これを支える基盤として、更なる物流網や宅配網のインフラ整備、輸送や配達を担う人材の確保と体制作りが求められています。そうした状況の中で、顧客がより迅速に安心して利用できるように、宅配便の女性配達員が増員されています。

また、派遣型の代行サービスのように、暮らし全般に渡る商品、サービスの提供によって、顧客との接点を拡大し、顧客のニーズを広く深く捉えようとする業態が増えてきています。

移動販売や配置販売には、便利で手軽に利用できるのは勿論のこと、売り手と買い手とが集う場をつくる、つまり、商品を介して対面でのやり取りを生み出す機能があることが、注目すべきポイントだと思います。消費者側からすれば、利用する事を通じて、販売員や周囲の人々とのコミュニケーションを生み出す商品が増えていると言えます。

また、古くから地域に根ざした宅配網を持っている郵便、新聞、牛乳の配達も、人々の暮らしへの密着度が高く、今後の地域の人々を繋ぐ新しい事業に発展する可能性を秘めた、注目するべき事業ではないでしょうか。

 

次回は、宅配事業の源流を、歴史を遡って見ていこうと思います。

投稿者 daiken : 2014年10月31日 List   

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://blog.new-agriculture.com/blog/2014/10/2791.html/trackback

コメントしてください